【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「朝起きたら倒れているプネヴマって、わりと心臓に悪いんだけど」
「ご、ごめんなさい……。いえ、ありがとう……ございます!」
そんな満ち足りたような良い顔で感謝されても……。
そもそも、なんで倒れていたくせに満足そうなんだよ。
「それにしても、夜の海で寝てしまうとか、風邪ひかなくて良かったですね」
「そこは、この海の強みですね。自然のそれと違って温度調整もなんのそのです」
たしかに、なんか少し周辺が暖かいような……?
海の水温自体は変化がないので、中にいる魚たちは平気ってことでいいんだろうか。
まあ、あの魚たちなんか普通より大きかったり、元気だったり、美味しかったりするからな。
プリミラ産の海は、一味違うのだろう。
「人工海フロア自体を、フィオナ様が暖めてくれたんですか?」
「いえ、私というか」
「ボクだね!」
ああ、そういうことか。
たしかにピルカヤなら、フロア一帯の温度を快適なものに変えるのも簡単なのだろう。
俺たちより先に目覚めたピルカヤが、気を利かせてくれたというわけだ。
「ありがとうな。おかげでテラペイアの世話にならずにすんだ」
「まあ、魔王様が抱きしめていたから、体温は低くなっていなかったけどね。ボクは気が利くから」
実際おかげで助かっている。
謙遜はしないけど、その自信に見合っただけの成果を発揮する。
さすがはピルカヤだな。
「だ、抱き合って……あ、思い出したら……魂が」
「プネヴマ!?」
倒れた。なんだというんだ一体。
結局、俺とフィオナ様が世話にならなかったけど、プネヴマは今日もテラペイアのところへ運ばれていった。
「お、レイ様早いっすね。もう太陽作りにきてたっすか」
「ああ、テクニティス。そっか、もうそんな時間か。それじゃあ、ちゃちゃっと作っちゃおう」
今日の分の太陽を作ろうとすると、テクニティスが動きを止める。
何か気になることでもあったか?
「これは……星っすか?」
「ああ、それならフィオナ様が作った」
「さすが魔王様っすね……。自分たちのと違って、作り直しもいらなさそうっす」
「魔王ですから!」
胸を張るフィオナ様。
そんなドヤ顔したって、テクニティスは平伏するだけだと思いますよ。
俺と違って、あなたの元々の部下は、あなたにツッコミなんて入れませんので。
「では、今後の海はこのままってことっすか?」
「いえ、別に太陽を作って良いと思いますよ? 夜になれば、太陽も消えて星空と海になるだけです」
「なるほど。つまり、これからは夜の海も楽しめるようにすると。客が使う方も同じっすか?」
それもありかもしれないな。
今は従業員たち専用の人工海にしか、星空の演出はないけれど、これが向こうにも作られたら、夜間の利用客も増えるかもしれない。
「そうですねえ。では、作っちゃいましょうか」
フィオナ様はそう言うと、少し眉間にしわを寄せて集中する。
ともすれば、機嫌が悪いようにも見えるが、あれで真剣に魔力を操作しているだけなんだろう。
中身を知っている俺としては、単にかわいい姿にしか見えない。
「消えた」
「移動されたみたいっすね」
「それじゃあ、転移温泉の話でも」
「戻りました!」
速っ……。
星空を作るのも一瞬なのか、この魔王様は。
「ん、どうしました? ははん、さては私と離れて寂しかったんですね!」
「いえ、それは別に」
「なんでですか!? 私は寂しかったんですけど!」
「向こうには、まだ誰もいなかったんですか?」
「いえ、オクイがいましたけど、そういう話ではないのです!」
一人だから寂しかったとか、そういう話じゃないのか?
まあ、それはいいとして……。
「相変わらず、すごい力ですよねえ」
「ふふん。魔王ですからね」
「星みたいな灯りも作れる……」
「ええ、あれくらいならずっと照らしてくれます」
「真っ暗闇にして、星を道しるべに歩いていったら、落下する部屋とかどうでしょうか?」
「なるほど……。灯りを確保できない侵入者たちは、引っかかりそうですね」
良い案かな。だとしたら、落下先は槍とかマグマに……。
いや、下にクッションみたいなものを敷いた落とし穴にしておいて、
「ほのぼのした話から、流れるように侵入者対策に……。さすが、レイ様と魔王様っす!」
「止めろぉ!!」
やばい。まだ企んでいる段階で、実際に作ってもいないのに、早くもアナンタにバレてしまった。
まったく、油断も隙もないな。
「その会話の流れなら、もっと客寄せ用の施設の話になるんじゃねえのかよぉ……。テクニティスも、止めろよぉ……」
「自分は、技術を求められたらお手伝いするだけっすから」
「これだから精霊はよぉ……」
ああ、わかるよ。頼りになるよな。
「いや……テクニティスに命じるやつが悪い。つまり、レイを何とかしない限り、俺はいつまでも気が休まらない……?」
なんか変な方向に話が流れそうだ。
心配性なアナンタは、たまに考えすぎるきらいにある。
「先に、客寄せ用の施設でも考えねえかぁ?」
「客寄せ用の施設ねえ……。フィオナ様特製のプラネタリウムみたいなの?」
「そういうのだよ! やればできんじゃねえかぁ!」
なるほど、こういうのか。
嬉しそうなアナンタの顔を見ると、どうやら彼が望んでいた方向性も見えてきたかもしれないな。
「え~と、まず広間を用意して、椅子を並べて」
「うんうん」
「天井にはフィオナ様の魔力で星を作ってもらって、灯りはそれだけにする」
「うんうん」
「侵入者用のほうは、そのあとにその星を落として攻撃する」
「バカっ!」
し、侵入者用のほうの話じゃないか……。
温泉だって、海だって、客用と侵入者用で分けたろ?
「なるほど、魔王メテオ……」
「魔王様ぁ……。考え直してくださいってぇ……」
「わ、わかっていますとも、アナンタとプリミラとダスカロスの許可が出てからにしますよ」
超えるべき壁は三人か……。
よし、がんばってプレゼンしよう。
「は、はい!」
「ん? どうした時任」
いつの間にか、ちらほらと人が集まってきていたらしく、その中の一人の時任が手をあげて発言した。
「広くて暗くて座席がたくさんというのなら、映画館みたいなのは作れないでしょうか!?」
「なんだか、すごそうな要求が出てきた……」
「む、無理ですかね。やっぱり」
「ねえねえトキトウちゃん。映画館って何?」
イピレティスが首を傾げて尋ねると、時任は身振り手振りで映画の説明を始めた。
なんか、種族は違えどウサギ同士がわちゃわちゃしてるのは、ある種和む光景だな。
「というわけで、こうぐわーって、感じに映像がですね」
「なるほど~。映像魔法の結晶みたいなものかな?」
「ああ、そういうこと。でも広い場所で視るのは、聞いたことないねえ」
イピレティスの解釈で、ピルカヤたちにも伝わったらしい。
どうやら、この世界にも映像を記録する媒体というか、魔法はあるのか。
となると、まずは映像魔法の結晶とやらの入手も考えないとな。
……そのへんは、なんかロペスに任せたらどうにかしてくれるだろう。きっと。
「フィオナ様は、映像と本どっちがいいですか?」
「私は本派ですが、映像は映像で良いと思いますよ」
フィオナ様も、わりと乗り気か……。
となると、試さないわけにはいかないよな。
また難題だなあ……。
場所自体は、なんなら今のメニューや協力者の組み合わせでいいけれど、映画館かあ……。
「がんばれ~。レイさ~ん!」
「がんばれ~。レイ~!」
時任とフィオナ様が、無邪気に応援しているし、まあ色々とやってみるしかないか……。