【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「ボス。万事うまくいったぜ」
「さすがロペスだ。フィオナ様が、ボーナスと休暇くれるぞ」
「……休暇多すぎやしねえか? しかも、なぜか決まって女王様も休みだし、カジノ大丈夫か?」
「アナンタがなんかうまくやってくれるから、たぶん平気」
カーマルやガナは、各レストランの代表で忙しいし、転生者組もそれぞれ職場があるからな。
魔族以外で任せられそうな手が空いている仲間ということで、アナンタが各現場のピンチヒッターになることは少なくない。
……わりと、嫌そうな顔するし、アナンタにも休みが必要だよな。
「アナンタも、それが終わったら休みが」
「いや、待て。俺が嫌なのはそこじゃない」
「どういうこと?」
てっきり、もっと休みが欲しいという顔だと思っていたのだが、どうやら違うらしい。
だけど、それならば、なんで別の場所で働いてくれと言うたびに、あんな顔するんだろう。
「お前。俺がいないとこれ幸いと、ダンジョンの難易度上げようとするじゃねえかぁ……。俺を休ませるというのなら、レイも休まねえと安心できねえんだよぉ!」
「……じゃあ、アナンタにはロペスが休み中のカジノを頼むとして」
「聞こえてるかぁ!? 俺の言葉、届いているよなぁ!?」
届いているってば……。つまり、労働に不満があるのではなく、俺に不満があるということだろう。
大丈夫。ちゃんとダスカロスとプリミラが、俺を止めてくれるから。
「アナンタの心配は、先送りにするとして」
「するなよなぁ……」
「ロペスがせっかく入手してくれた、映像結晶とやらを上映してみるとするか」
「やった~!」
あれは、やっぱりウサギだからかな。
「イピレティスって、嬉しいと跳ねる?」
「僕は嬉しいときは、興奮します」
ああ、プネヴマみたいな感じか。
なんか血にまみれて興奮しているイピレティスが、想像できてしまった。
同じウサギでも、やっぱり獣人と魔族って違うんだなあ。
「では、席についてくださいっす。自分が、映像結晶の投影準備しますから」
テクニティスの言葉を聞いて、各々が座席へと移動する。
前回も思ったのだが、かなり広めに作ったため、この人数で貸し切り状態なのは、なんだかとても贅沢だな。
「前回は見上げる形になりましたから、今回はちょっと後ろに行きましょうか」
そう言いながら、フィオナ様は俺の腕に抱き着くようにして移動した。
あ、はい。俺はもうフィオナ様の隣が確定なんですね。
別に嫌じゃないですけど、むしろ良いですけど。
「それじゃあ、始めるっすよ~」
テクニティスの宣言通りに、目の前のスクリーンに映像が映し出される。
どことなく幽玄な感じがする音楽とともに、雄大な自然が映し出されたかと思うと、そこから街並みへと映像は変化した。
ここから、どんな物語が始まるんだろうか……。
街並みや人々が映されていくな……。
やっぱり、俺の前世にあった国の昔の姿を彷彿させる。
長い歴史を持っていて、独自の文化を育んできたような国なんだろうか。
特徴的なのは、やっぱり建物と服装だな。
この国だけ東洋風だし、一目で別の国の者だとわかる。
「あ、終わりっすね」
「え、終わり?」
国や町の紹介で終わってしまった……。
なるほど、どうやら俺は勘違いしていたらしい。
ここから、壮大な物語でも描かれるのかと思っていたが、これはそういう創作の映像ではない。
どちらかというと、そのまま国を紹介するだけの教育番組的な代物だったというわけだ。
「思ってたのと違うよ。ロペスくん!」
「お、俺に言われても……」
「どうでした? フィオナ様」
「私は……そうですねえ。嫌いではないですよ? こういう色んな景色を見られるのは、なかなか楽しいですし」
地底魔界にずっと住んでいて、下手に出ることもできなさそうだからなあ……。
そういう意味では、フィオナ様にとってはとてもいい魔法道具だったのかもしれない。
「ですが、たしかに物語が映像になるようでしたら、きっとそれも楽しいですね」
「ですよね!」
「お前! ビッグボスを味方につけようとするのはずるいぞ!」
ロペスの焦った声が聞こえるが、まあそこまで心配しないでくれ。
いくらフィオナ様でも、映画監督をしろだなんて無茶ぶりはしないだろう。
……しないよな? フィオナ様の無茶ぶりって、俺に向けられることが多いから、俺も不安になってきた。
「ロペス。ちなみに、他の映像結晶ってどんな感じなんだ?」
「あ、ああ。悪いが俺には使用方法がわからなくて、俺もどんなものがあるのかわかってないんだ」
「試しに、もういくつか見てみるか。テクニティス~。頼めるか~?」
「はいっす!」
きびきびと動いてくれるテクニティスが、次々と映像結晶をスクリーンに投影してくれる。
しかし、どれも十分程度で終わる短めの映像であり、その中身はやはりテイランの紹介に重点を置いたものだった。
国の紹介。街並みの紹介。文化の紹介。食事や服装、魔法形態の紹介。
なんだか、テイランに詳しくなれそうだな……。
「というか、魔法の紹介って外部に漏れていいのか? もっとこう、秘匿すべき内容かと思っていたんだけど」
「さすがに、秘匿すべき内容までは公開していないだろうが、基礎の部分くらいであれば問題ないということだろうな」
なるほどなあ……。
地脈かあ……。大地の力を使った魔法。
つまり、ダンジョン魔力に近いイメージか? むしろ、ダンジョン魔力を使うときも大地の力を借りることで……。
大地の力。要するに岩だな。やはり、岩は全てを解決してくれるということか。
「アナンタ。岩魔法ってどう思う?」
「すごい執着だと思う」
……なんか、思ってたような答えが返ってこなかった。
テイランの魔法。俺にはまだ早いということだな。
「う~ん……。それにしても、結局全部ドキュメンタリーといえばいいのか、創作関連の映像じゃなかったな」
ロペスが頭をかきながら申し訳なさそうにするが、まあこれはこれで面白いものだったし悪くはない。
特に魔法関連の映像は、もっと種類があるのなら今後も入手したいくらいだ。
「あたし、食事系は面白かったよ」
「私は全部けっこう好きですね」
「俺は魔法関係は、興味あった」
「そうかい。ということは、今後も仕入れつつも物語がないか聞いてみるかねえ」
意外と好評だったためか、ロペスはほっとしたように今後の仕入れも約束してくれた。
時任がすごく期待しているようだが、最初に仕入れたのがこれだったわけだし、あまり期待しすぎないほうが良いと思うぞ……。
◇
「よう。この前は早速映像結晶を融通してくれてありがとな」
「気に入ってもらえたかしら? まあ……その見返りの宝箱は、残念な結果だったけど」
「悪いが、そればかりは運と魔力だからなあ……。俺には特別な祭りの時以外は、介入できねえんだ」
「となると、私もあの王様みたいに祈りが不足している可能性が……」
……みんな最後はその思考にいきつくのか?
なんなら、ビッグボスもそんなこと言ってたもんなあ。
まあ、こちらの責任を追及されずにすむのは助かるが、それだけの理性があるということだし、油断せず交渉していかないとな。
「ちなみになんだが、物語を映像化して結晶に記録したものってないのかい?」
「……なにそれ。聞いたことないわね。でも、ちょっと面白そうな発想ね」
ああ、やっぱりか……。
ボスも言っていたが、そもそもこっちの世界には本はあっても、テレビ番組や映画みたいなものはないんだろうな。
となると、これからノウハウなしで作られることを期待しても、なかなか厳しい道のりになりそうだな。
「ないなら無理を言っても仕方ない。あんたから譲ってもらった映像結晶もわりと好評だったし、今後とも新しい映像があれば譲ってくれ」
「ええ。どんな種類がいいとか、リクエストはある?」
「う~ん……。食事と服と魔法と風景かな。どれも珍しいからと人気だったぜ」
「テイランの文化は、他とは違うからね」
自分の国を褒められたからか、目の前の女性は得意げに、それでいて上機嫌に笑った。
なるほどな。知られてもいいことだけを映像化しているようだし、そこが受け入れられる分には望むところってわけだ。
てっきり外部との交流を断っているとかかと思ったが、あの映像結晶を見るにそういうわけでもないと。
「ちなみに、勇者様の紹介とかはないのかい? テイランの強みの一つといえば、やっぱり勇者様になると思うんだが」
「さすがに、テンユウ様の情報を易々と外部に流出させないわよ。魔法だって、知られて問題ない部分だけを映像化しているの」
「だよなあ。んじゃ、まあ今後も頼むぜ。映像化されているってことは、気軽に頼んでも問題ない情報ってことだろうからな」
「あら、ずいぶんとあっさりとしているわね。てっきり、今後は魔法の情報をもっとよこせとでも言われると思ったけど」
「それよりは、今はあんたらの国と文化に興味があるってところだな」
俺じゃなくて、魔王軍の面々の話だが。
そう言うと、こちらを疑っていた様子もだいぶやわらいだ。
完全に信用されたわけではないけれど、今の関係を続ける分には問題ないと判断してもらったみたいだな。
さて、肝心の物語の映像化は駄目だったが、そうなると今後それらを入手できる機会はないんだろうなあ……。
そもそも作っていないのなら、手に入れようがない。
「ふむ……話は聞かせてもらった。ならば、俺を主役とした痛快な物語を映像化するのはどうだろうか!」
「ええ……。王が何しようって言うのよ……」
「俺ほどの男であれば、飽きさせることのない物語を届けられるだろう」
「すげえ自信……」
実際に、それだけのことをやってのけそうな王様のせっかくの案だったが、残念ながら実現は無理そうだ。
映像を記録する場合は、テイランに赴かなければならず、物語を記録するのなら、それこそ長期の滞在が必要だろう。
サンセライオの王を、テイランがそれだけ拘束すると、リズワン王の部下たちが殴り込みにくるというのだ。
テイランではなく、リズワン王に……。
その後、テイランに謝罪され、サンセライオはテイランに借りを作ってしまう。
そんな面倒ごとは、テイランとしても望んでいないそうなのだ。
「国同士の問題などと考えなければいいのだがなあ……」
「あんた、王様だろうが」
自由な王様で、サンセライオの部下たちも大変そうだな……。