【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「リグマとプリミラがちゃんと休んでいることは知っているけど、ピルカヤとリピアネムって休日何してんだ?」
特にピルカヤ。典型的な仕事中毒であり、趣味がないのではと心配になる。
リピアネムは……趣味が料理になったら、それはそれで第二のマギレマさんみたいだし、やや危険な兆候だ。
「ボク休みいらないけどねえ」
「おじさん地底魔界を謳歌してるから、ピルカヤが休みのときは連れ回してるぞ」
「ありがとうリグマ。今後もピルカヤを連れ回してやってくれ」
「なんで~!」
ということは、案外四天王もちゃんと休めているみたいで何よりだ。
上が休まないと、下も休みにくいだろうからな。
一番上は常に休み続けているというのに、その次がワーカーホリックでは意味がない。
「ためしに全員休暇にするか」
「え~!?」
「また急に思いつくもんだなあ。だが、今回はおじさんも賛成だ」
「リピアネム様? 何か考えていらっしゃるようですが、懸念でもありましたか?」
「いや、せっかく休みをもらったのであれば、少しやっておくべきことがあってな」
ピルカヤ以外はわりと前向きに休暇を受け入れているようだが、リピアネムには何か考えがあるらしい。
そのまま黙って聞いてみると、どうにも彼女らしい言葉が返ってきた。
「この機会に戦闘訓練はどうだろう?」
「えっ……」
「いいね~。ボク賛成」
「……ヨハンとの戦いの反省ですか?」
「うむ。どうやら、私たちも今までのままではいけないようだ」
突如発生した休暇が、これまた突如消え去った。
そんな思いからか、リグマだけがどこかもの悲しい雰囲気になるも、他の四天王たちはその提案に乗り気でいる。
こうなっては、リグマのことだから折れるんだろうなあ……。
また今度、別の機会にゆっくり休んでもらおう。
「レイ殿が、戦闘用のエリアも作ってくれたからな! 試してみようじゃないか!」
リピアネムが全力を出せるための広々とした空間を用意したが、尻尾を振っている様子を見るに、彼女も喜んでくれていたようだ。
先導するリピアネムと、やる気を見せるプリミラとピルカヤを見て、リグマは諦めたようについていった。
◇
「四天王同士で戦うってことか?」
「まあ、おじさんたちが本気で鍛えるなら、そうするしかないでしょ。魔王様相手にするわけにもいかないし、ダスカロスは別件でそれどころじゃないからな」
つまり、ダスカロスなら戦いについていけると。
それとも、単に戦闘の癖を観察してもらって、指摘してもらいたかったのかな?
「とりあえず、全員不死鳥の羽を一つずつ持っておいてもらって、消費したら一旦中断な」
「心配性だねえ。ボクたちだって、力加減くらいできるよ?」
「リピアネムを見ても、そう言えるか?」
「……ボクたちだって、けっこう強いから生き延びることはできるよ?」
「ピルカヤ!?」
魂喰らいの腕輪をつけているから、さすがに大丈夫だとは思うけどな。
ただ、戦闘中偶然破壊されでもしたら、あのかっこいい姿で大暴れすることになるだろうし。
「それよりも、リピアネム様は剣がありませんが、大丈夫でしょうか?」
そういえばそうだったな。
ヨハンとの戦いの後で、破損してそのままだった。
それも、ヨハンではなく自らの力のせいで。
「む……たしかに、剣がなければ、戦いの癖も何もないな。では、あちらの姿で戦うか。レイ殿、腕輪を預かっておいてくれ」
「あれ……。外せるの? それ」
呪いの装備じゃなかったっけ? いや、デメリットがあるだけで、付け替えは可能なのか?
ただ、長い間つけていないとさすがにパワーアップはしないみたいだな。
「よし、かかってくるがいい!」
「咆哮やめろよ!? レイの耳がつぶれるからな!」
お~……。直接見るとこんなに迫力があるんだな。
というか、すでにリピアネム対四天王三人になっている。
それほどまでに、本気のリピアネムの実力は何段階も上ということか。
「みんな元気ですね~」
「フィオナ様。珍し……くもないですね。最近は、わりと出歩かれるので」
「ピルカヤが、分体を作っている余裕がないとのことだったので、部屋にいたらさみしく……ええと、たまには外出しようと思いました」
一人でさみしかったんだな。この魔王様。
「たしかに、リピアネムとの戦いってことは、監視のために分体作っている余裕ないですからね。……あれ、地底魔界やダンジョンの監視大丈夫でしょうか?」
「テクニティスとルトラにお願いしているみたいですよ? 分体こそ作れないものの、あの子たちも精霊ですからね。火や水に溶け込むこと自体は可能です」
「へ~……。精霊ってすごいですね」
「自然から発生した存在ですからねえ」
「でも、四天王以上の強さの者が監視していないと、暗影の指輪を装備した侵入者は見逃すんじゃないですか?」
「変身したダスカロスが協力しているので、その点は抜かりないみたいです。四天王はしっかりしていますねえ」
なるほど、ダスカロスの別件ってそれだったのか。
まあ、暗影の指輪を身につけた勇者とか、そう何度も来ることはないだろうけど、用心するに越したことはないよな。
「さて、レイは私のやや後ろで見ていたほうがいいですね」
「すみませんが、そうさせてもらいます」
フィオナ様が半歩前に出てそう言うと、俺は言われた通りに頷いた。
というのも、目の前ではとんでもない光景が繰り広げられつつあるからだ。
巨大な竜になったリピアネム。
ヨハンのときとは違って、行動を妨げるような狭い空間ではないため、彼女は縦横無尽に大暴れする。
咆哮だけは気を遣ってくれているが、風のブレスはその余波だけでも台風を彷彿させる強風となって、俺にまで届きそうだった。
そんなリピアネムに挑むものだから、他の三人も手を抜かずに本気で戦っている。
ピルカヤの極光の炎は、肌を焦がすほどの火力で広い空間を焼き尽くす。
プリミラの潮流は、水でありながらも手足のように動き、リピアネムを拘束しようと荒れ狂い、水しぶきが弾丸のように飛んでくる。
すでに分体たちを統合済みらしいリグマも、リピアネムの姿に変化して風のブレス同士をぶつけて迎撃しようとするも押し負けている。
今は、フィオナ様が魔力のバリアみたいなのを張ってくれているのか、それらの戦いの余波はまるで感じない。
それがかえって現実感を喪失させたようであり、目の前の戦いがまるで迫力のある映画でも見ているかのようだった。
「とりあえず、リピアネムはヨハンのときと同じような戦い方になっていそうだし、別の攻め方を考えてみたらいいんじゃないか?」
「む、いかんな。どうにも慣れている戦い方ばかりを選んで楽をしてしまう」
「リグマも、リピアネムと同じ戦い方になっているってことは、やっぱり行動パターンは同じになっている気がする」
「あ~……。たしかに、変身した後の戦い方が、おじさんの場合真似ばっかりだもんなあ。自分の頭で考えないとな」
「ピルカヤは威力こそ上がっていますが、攻撃が届いていない範囲がありますね。もっとこうぐわ~って、埋め尽くすのはどうですか?」
「は~い」
「プリミラも、せっかくの水なので、洗い流すのと手足のように使うだけでなく、もっと変幻自在に戦いましょう」
「承知しました」
うん。四天王同士でも色々と見えてくるものがあるな。
……やっぱり、ダスカロスもこの場にいてほしかった。
そうすれば、きっともっと改善案を出してくれていたことだろう。
まあ、ひとまずは俺とフィオナ様で気付いた点を指摘していくとするか。
◇
「こ、この世の終わりみたいなことになってる!?」
「お、落ち着きなさい
「そうじゃなかったら、地底魔界どころかこの世界滅ぶんじゃないの?」
なんだよこれは……。
なんかすごい魔力を感じると女王様が言っていたから来てみたら、すでに野次馬だらけだった。
無理もない。先日のヨハンとの戦闘ですら、まだマシだったんだなと思えるほどの光景が、目の前で繰り広げられているんだからな。
「ロペス……」
「おう、どうした。タケミ」
「僕ら、女神に魔王様を倒すよう言われたよね」
「そうだな」
「魔王様どころか、四天王ですらあんなに強いんだけど、無茶苦茶なこと言われてない?」
「与えた力とゲームの知識で、がんばれってことなんだろうなあ……」
「僕たち知識のほうはないんだけど……」
「無茶言ってくれるよなあ。さっさと手を切って正解だったぜ。あの女神」
そもそも、手を切るもなにも、転生させたとき以外何も干渉してこないしな。
ほんと、無茶ぶりを体現したかのような神だったよ。あいつは。
「そ、それよりも! 魔王様はともかく、なんで、レイさんは平然とあの戦いを見ながら意見とか出せるの!?」
「ボスだからなあ……」
「わ、私たちもボスって呼んだほうがいいかなあ!?」
それは、まあ……。そんな小さなことを気にするボスじゃないだろう。
だが、あの光景が全てだ。
世界の終わりかと思えるほどの四天王同士の戦い。
その余波を涼しい顔で防いで、俺たちすら守ってくれるビッグボス。
その隣で、当然のように戦いを見ながら意見を出すボス。
「これがまだ一部にすぎないんだから、魔王軍を倒せなんて無茶にもほどがあるだろ」
ジノのやつ、どうやってこんな相手と戦うつもりだったんだよ……。
臆病だと思われるかもしれないが、俺たちのように、降伏した者たちこそが正解だと思うぞ。
魔王軍の上位の戦いを目の当たりにして、俺は改めてそう感じていた……。