【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「悪くなかった! 定期的にやりたいものだな」
「二度とやりたかねえよ。なんで、前よりはるかにパワーアップしてんだ。お前は……」
「私たちも強くなったはずですが、リピアネム様だけ何段階か上の存在に……」
「いいな~。ボクも魂喰らいの腕輪つけようかな~」
「そうしたら、普段のような監視ができなくなると思うぞ」
「じゃあ、や~めた」
ピルカヤには悪いが、そう思ってくれて良かった。
普段働きすぎだと注意されるピルカヤだが、それはそれだけ彼の役割が重要であり、何かあった場合に替えがきかないからこそなのだ。
四天王が強くなるのはいいことだが、それで日常の役割がこなせなくなるのは、とても困ってしまう。
むしろ、弱体化して役割を持てるリピアネムがバグっているわけだな。
「しかし、癖をなくして戦うというのは、存外難しいものだな」
「リピアネムさんなんて、特に剣術を鍛えぬいてきているからねえ。綺麗すぎる太刀筋じゃなくて、たまには乱暴なのも混ぜてみたら?」
「なるほど……。剣。やはり剣が欲しい……」
「カールとテクニティスに頼むか」
「リピアネム様のパワーに耐えられる剣は、たぶん無理っす」
「魂喰らいの腕輪で制御しているのに!?」
なんてやつだ……。
もういっそのこと、彼女の鱗を集めて武器でも作ったほうがいいんじゃないか?
そのあたりは、おいおい考えていかないとな。
最悪の場合、この場所でいきなり変身後のリピアネムに戦ってもらえばいいか。
これで戦闘訓練も終わりだ。
そう思いながら、破損した大広間を修復しようとすると、イピレティスに止められた。
「あの~……僕もみなさんと戦ってみたいな~なんて」
よく見ると、頬が赤く染まって上気しているし、息も荒い。
いつもより静かだななんて思っていたが、とどのつまり興奮して喋る余裕もなかったってことのようだ。
そういえば、強い相手との戦いに興奮するやばいやつだったな。こいつ。
「だけど、さすがに四天王は……」
「いや、構わないぞレイ殿。イピレティスのことだから、そろそろ抑えきれないだろうからな」
「あはっ、すみませんね~。リピアネム様。それじゃあ、よろしくお願いしま~す」
「あ、おい」
二人だけで話を決めてしまうと、イピレティスが短刀を持ってリピアネムのほうへと走っていく。
戦闘が終わった時点でドラゴンの姿から人の姿へと戻っていたリピアネムだが、今回は人の姿のままイピレティスを迎え撃つようだ。
とりあえず、不死鳥の羽くらい持ってからにしてほしいが、まあ、危なくなったら俺のを使えばいいか。
◇
スピードには自信がある。
だけど、この方の前では、どうにも心もとない武器でしかない。
現に、翻弄するような動きには一切目もくれず、急所を狙った攻撃はことごとく防がれてしまう。
わかっている。それだけの実力差があることは。加減しながら戦えるほど、僕はこの方より弱いということは。
だから、何とかして不意を突きたい。とっさの反撃であれば、きっと僕を殺そうとしてくれる。
殺したい。殺されたい。命にもっと触れ合いたい。
僕が殺すとき、きっと殺されたほうは、僕のことを強烈なまでに認識してくれる。
僕が殺されるとき、きっと僕はその相手のことを、永遠に感じることができる。
「ああ、素敵……」
この方はこんなに強く、だけど悲しいほどに殺意を向けてくれない。
敵として出会えたら、よかったのかな?
魔王軍に入ったのは間違いだった?
一番敵が多いので、きっと素晴らしい殺し合いの日々が待っていると思っていた。
だけど、敵は一番多いけれど、強者が多いのも魔王軍。
望んだ闘いの日々の中で過ごせるのはいいけれど、本当に殺し合いたいのは味方のほうだった。
「だけど、味方には優しいんですよね~!」
こうして本気で殺そうとしても、怒ることもなく加減された反撃が叩きつけられる。
わかっていますよ? 一部の人たちを除いて、みんなわりと平和主義ですからね?
必要なときにはきっちり殺すけれど、望んで誰かを殺しまわるのは僕くらい。
なので、気持ちが悪い趣味のウサギは、ここでも居場所がなく、なんとな~く過ごしていました。
いつか誰かが殺してくれるだろうと思っていたけれど、実際に勇者に殺されたそのとき、な~んか違っていたんだよね。
なんというか、殺意が足りない。義務? 魔族といえど殺すことへの抵抗?
それじゃあよくない。もっとこう、心の底から殺意を向け合うのが健全だと僕は思うのです。
「まだ戦うか? 骨も折れたようだが?」
「もうちょっとお願いしま~す!」
そんな心配しないでほしい。
僕は小柄な魔族だけど、僕は女みたいな魔族だけど、僕は弱い魔族じゃない。
全部僕の武器だ。だから、ふざけるな。
もっとむき出しの殺意を向けてくれないと、僕自身を見てくれないと、つまらないじゃないか。
う~ん……。でも、結局だめだったなあ。
加減されて叩きのめされて、どうやらこれで今回も終わりみたいだ。
この方たちが、本気で僕を殺しにきてくれたら、どれだけ嬉しいだろう。
そう思うと、たびたび興奮してしまい、今回みたいに戦いを挑んでしまうんだけど……。
先は長いみたいです。
「おや?」
体から急に痛みが消えた。
どうやら、レイ様が回復薬を使ってくれたみたい。
「なるほど、骨が折れたり傷だらけになっても、案外動けるんだな」
「何怖い分析してんのぉ!? お前ぇ!」
あはははは。
だから、今はこの方が一番好き。
だって、味方相手でもこうやって、本気で殺す手段を考えてくれるから。
うん。やっぱり、僕はこの方の側近でいるのが一番いいみたいだね。
「レイ様~。今度、僕と殺し合いましょうね~」
「え、俺一瞬で死ぬから嫌だ」
「つれないな~……」
正直なところ、裏切って本気で殺してもらおうなんて考えた時もあった。
だけど、僕はどうにも欲張りで臆病らしい。
本気で殺してほしいけど、僕のことは好きでいてほしい。
だから、敵も味方も分け隔てなく、とても美しい殺意を向けるあなたに脳を焼かれてしまった。
うん。僕やっぱり、レイ様が一番好きです。
◇
「とりあえず、テラペイアに診てもらってくれ」
効果の高い回復薬で、骨がぼきぼきに折れていたイピレティスを治療した。
そりゃあもう、動くことすらできないんじゃないかってくらい、とんでもないことになっていた。
だけど、その状態で稼働可能な箇所を把握して、無理やり動いてリピアネムに攻撃する姿は、鬼気迫るというか迫力あったな。
なるほど……あの状態でも油断できない相手もいるってわけだ。
大いに参考になったし、今後の侵入者も岩で潰しただけでは油断できないな。
「あ、リピアネム様の攻撃、いくつかいつもと違うパターンありましたよ~」
「何! 癖を消せていたか。診察が終わったら、教えてくれ」
「了解で~す」
必死に食らいついているように見えていたが、ちゃんとそのあたりの分析をしてくれていたんだな。
思っていたよりも、堅実に相手を観察して、殺しにいくタイプというわけだ。
それなら、今後も四天王の戦闘訓練には、イピレティスも参加してもらうべきなんじゃないか?
「フィオナ様」
「はいはい。なんですかレイ?」
「次から、四天王との戦闘訓練にイピレティスを参加させるのはどうでしょう? 不死鳥の羽をもたせておけば、万が一があっても平気ですし」
「なるほど……」
「お前、味方が死ぬこと前提のとんでもない提案してんぞぉ!」
……たしかに。
アナンタの言うとおりだな。なんか、最近はモンスターたちで慣れたのか、復活できればいいかって考えがあった。
うん、考え直そう。さすがにイピレティスもこんな提案されたら怒る……。
「それ、とってもいいです! さすがレイ様! いやあ、僕魔王軍に入っていて良かった!」
なんか、すごい喜んじゃったよ。
本人が乗り気なら、不死鳥の羽の数次第では、その方法も視野に入れてもいいかもしれないな。