【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「む……まさか、俺が作成するよりも早く、完成させるとはな」
アルマセグシアに新たな店が作られた。
相も変わらず洞窟のような目立たない場所につくるあたり、俺たちと違ってまともな土地を入手できないロペスの苦肉の策だろう。
だが、あいつはそんな不利な立地条件においても、見事に商売を成功させる恐ろしい手腕を持っている。
今回もそれは揺るがないだろう。
なんせ、俺やテイランの者と話していた、映像結晶による物語の上映施設をこうも速やかに完成させたのだから。
「中は暗い……。なるほど、映像に集中させるためか」
であれば、存外洞窟という立地も悪くないのかもしれん。
それも仕方なくなのか、あるいは計算づくなのか、ロペスのことだから後者の可能性も大いにありうるな。
そして、映像結晶の作成は、おそらくやつの協力者である別の転生者の力か。
ロペス一派とでもいえばいいのか、やつらはどの権力にも所属しない転生者集団となっていると予想できる。
他の国の者たちに教えるつもりがないのは、俺もテイランの使者も同じことだろう。
下手に手を出せば、それこそ女神の力で返り討ちにされる可能性も高く、そもそも他の国に漏らす利がない。
いずれ、ロペス一派を引き込みたい。それができれば最高だ。できずとも、友好関係を築ければ上出来だ。
テイランの使者……。いや、テンユウのやつも、そのくらいの結論にはすぐに行きつくだろう。
「うん? エルフか」
「はい。こちらの管理人を務めさせていただいております。マナと申します」
受付にいたのは、なんとも美しい見た目のエルフだった。
エルフという種族は、容姿端麗の者が多いが、この者はその中でも特に秀でている。
だが、どこかで……。
「ああ、理解した」
そうか。ロペスの後ろ盾は聖光の刃だったか。
「……何か?」
「いや、安心するがいい。ヤニシアの、はぐれエルフへの処遇は理解しているからな。俺に限らず、他の者も告げ口のような真似はしないだろう」
はぐれ獣人やはぐれエルフという言葉がある。
これらは、国についていけなくなり、そこから逃げ出した者たちを指す。
獣人のほうは、国の強さ比べについていけなくなった者たちや、国外での強者を求めた者たちであり、ならず者や放浪者がほとんどだ。
そして、エルフのほうだが、こちらは獣人たちよりも事態は深刻であり、完全に国民を管理している最高評議会から逃亡した者たち。
つまり、獣人と違ってヤニシアにばれたら、連れ戻された挙句に罰を与えられる者となる。
それほどまでに、あの国から逃げたかったというわけありの者ということだ。
誰も、他国の事情に首を突っ込むつもりはない。心配せずとも、ヤニシアに告げ口する者などいないだろうな。
それがたとえ、有名人だとしてもだ。
「まあ良い。楽しませてもらうぞ」
「はい。上映はじきに始まりますので、もう少々お待ちください」
暗い洞窟のさらに暗く広い部屋へと案内され、決められた席に着座する。
なるほど……あれほどの巨大な画面に映像結晶を映し出すならば、この広い空間の誰もが一度に映像を楽しめそうだ。
あれ、うちにも作れないだろうか? いや、まずは映像結晶が先だな。テイランから仕入れるか?
思考にふけっている間に、画面に映像が投影される。
事前に散々注意されたためか、皆行儀よく静かに画面を見つめているのは良いことだ。
下手に騒動など起こして、この物珍しい催しが邪魔されるのは、誰も望んでいないということだろうな。
……なるほど。これはうちでは真似できない。
やはり、転生者の力が関わっているに違いない。
時間にして二時間ほどか。内容としては、俺はすでに知っているものだった。
かつて読んだことがある本に刻まれた物語。それを、ロペスたちは見事に映像へと変換してみせたのだ。
面白い。この映像もだが、ロペスも、その協力者も実に面白い。
これこそが転生者だ。女神の力で横暴なふるまいをする者も少なくはないが、まともな転生者はこうもこの世界を変えてくれる。
だが……そんな転生者たちは、皆死んだ。魔王軍に敗北した者。国に利用され力だけ奪われた者。飼い殺しにされた者。
彼らは気付いているだろうか? 自分たちの価値は非常に高く、その力を狙う者も非常に多い。
やはり……うちで保護したいが、無理なのだろうな。
ならば、せめて他者に情報を漏らさないようにしよう。願わくば、彼らが戦いと無縁でいられたらいいのだが……。
以前の転生者たちのように、この世界で散ることがなければ……。
ん? なんだ、この違和感は。以前の転生者たち……?
何かおかしい。前回の転生者たちが死に絶えて、その直後に新たな大転生が……。
彼らは、何度目の大転生でこの世界に迷い込んできた者たちだ?
俺の年齢で、大転生した者たちをそう何度も記憶しているのは――。
「だから言ったでしょ? 本は面白いって」
「そうだなあ、そこは認めるよ。俺も読んでみようかな。……っと、悪い。大丈夫か?」
考えが霧散する。
気づけば、上映は完全に終了しており、客はすでに店を出ていた。
そんな中で考え事をしているものだから、ぶつかられたとしても非は全面的に俺にある。
「……あ、ああ。かまわん。こちらこそ、呆けていてすまなかった」
「いや、わかるぜ。すごい店だったからな。まさか、魔法で物語を映し出すなんて、面白いよな」
「うむ。できることなら、今後も続けてほしいものだ」
「ああ、そうだな。アルマセグシアって、でかいから人気のない店はすぐ潰れるしな」
「それなら大丈夫じゃない? この手の娯楽は初めてだし、しっかり面白いし、きっと人気は出るわよ」
そう、人気は出る。ロペスの手腕に間違いはない。
だから、せいぜい危険なやつらに目を付けられぬよう、今後も注意は払ってもらいたいものだな。
……いっそ、うちから護衛を。いや、国が絡むと一気に厄介ごとが増えるか。ままならぬものだな。
◇
「ど、どうだったでしょうか?」
「おう、完璧。さすがは、あのババアどもの下で、無茶な要求ばかりされてきただけのことはある」
髪型と化粧と服装を変えたロマーナが、ロペスに不安そうに尋ねるも、ロペスは満足したように評価していた。
たしかに、あれならば早々正体がばれるってこともないだろうな。
エルフがすごいのか、ラプティキさんがすごいのか、こうも別人のように雰囲気が変わるとは。
「
「そうだよ~。ロマーナさん美人だけど、武巳くんには私たちがいるじゃない」
「い、いや、そういうのじゃなくて……僕は二人のほうが」
日頃から付き合いのある
そうだよな。いつもは凛々しい戦士のような印象だが、今はなんというかやわらかい雰囲気のお姉さんって印象だし。
まあ、雰囲気がころころ変わるっていうのなら、フィオナ様が一番だし。俺はそのくらいでは驚かないけど。
「バレているとしたら、あの王様相手くらいですかね? ですが、彼はヤニシアに密告するような性格ではないので、問題ないかと」
「あ、やっぱりリズワンは気付いていたのか」
エピクレシの発言に納得した。
あの王様、上映前の受付で告げ口しないから安心しろって言ってたしな。
それにしても、上映終了後に珍しく黙ってしまっていたが、それほどまでに映画に感動したんだろうか?
まあ、それならいいか。
「だけど、正体に感づいたのは、黙ってくれるリズワンだけだし、これなら変装したロマーナが映画館の管理者ってことでいけるかな?」
「聖光の刃が使い潰されて全滅したことは、リズワンだけでなく各国に知れ渡っているようだからな。正体に感づくほどの者であれば、行き場を失ったロマーナが、転生者と手を組んだという考えに行きつくだろう」
ダスカロスのお墨付きももらえたことだし、問題なさそうだな。
それじゃあ、今後もエピクレシからロマーナを借りて、映画館を運営していくことにしよう。
「あ、あの……私が管理者など大丈夫でしょうか?」
「ロマーナなら大丈夫。というか、うちに表立って商売ができて、施設の管理もできるような人材は他にいないから」
彼女で駄目だというのなら、あとはもうリグマが分体でなんとかするしかないぞ。
「い、いいのでしょうか……」
「ロマーナ。すぐに慣れるぞ」
「は、はあ……」
各施設の管理者も、不安がる彼女を励ましていくれているみたいだし、きっと大丈夫だろうな。
同じような立場の者だから、種族の垣根を超えて助け合ってくれることだろう。