【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「病が?」
「ええ、どうやら人から人へ感染し、爆発的に広がっていくもののようです」
「症状は?」
「幸いなことに非常に軽微で、風邪と大して変わらないとのことです」
「なるほど……。だからこそ、病と発覚するのも遅れたというわけか」
「おっしゃる通りです……。申し訳ございません」
「良い。そのようなことで責めるほど、俺は狭量な王ではない」
だが、あまり楽観視するわけにもいくまい。
これまで流行したことのない病ということは、おそらくは転生者が原因であろう。
かつてもこの世界の者たちが、未知の病に侵されたという記録が……。
「リズワン様?」
記録……だったか?
「……いや、まずは
「それが……すでに検査はすんでおりますが、あの二人は無関係のようです」
「となると、他国の者か?」
「むしろ、散々他国に赴いているあんたが一番怪しいんですけどね……」
「そこは、帰国するたびにしっかりと検査しているであろう!」
いかん。矛先が俺に向く。
だが甘いぞ。そんな心配がないように、俺は常に国に悪影響を及ぼさないかチェックしている。
ここで万が一にでも、俺のせいで病が拡がってしまったとあれば、外出を禁止されそうだからな!
「ってことは、リズワン様が散々遊びに通っている欲望のダンジョンも無関係、ということですか」
「であろうな。たしかにあそこには、様々な人種、様々な国の者がいるが、その者たちから病をもらったというわけではないようだ」
「病気の話?」
会話をしていると鳳姉弟がやってきたようだ。
「うむ。欲望のダンジョンで、俺がもらってきたなんて言いがかりをつけられていたところだ」
「可能性だよ。どこかの王様はふらふらと遊びに行くからな」
「でも、王様のせいじゃなかったってことよね?」
「残念ながらね」
残念とはどういうことだ!
あわよくば、俺の外出を封じる口実とならないかとでも考えたか!
王が病に侵されることを望む臣下とは、なんと恐ろしいやつらだ。
これだから、俺の臣下たちは頼りになる。
「まあ、欲望のダンジョンなら、私たちも行ったけど別になにもなかったわね」
「むしろ、例の温泉で体調は良好になりそうだ」
「さすが、散々通っているだけあって、詳しいな王様」
「……とにかく、俺たちではないということであれば、あとは他国の者たちだろう。うちも、アルマセグシアほどではないが、それなりに他国の者が出入りするからな」
「まあ、そのあたりが原因でしょうね」
宝箱こそないが、立派なカジノはある。あちらにも負けない自然の海がある。
宿泊施設も外食店も多く、観光客だってそれなりに多い。
だからこそ、それらの誰かが持ち込んだ可能性が高いといえよう。
「でも、せいぜい風邪くらいなんでしょ? そこまで真剣に話さなくても」
「今は症状が軽いようだが、俺たちにどう影響するかはわからんからな。突然悪性へと変異する可能性もある。そして、同じルートでより深刻な病原体を運ばれては厄介だ」
「ですね。国に出入りする者たちの検査をさらに強化しましょう」
「うむ。医者も必要な分連れて行くがいい」
「あ、私良いこと思いついた」
「ほう、聞かせてみるがいい」
……なるほどな。だが、それはさすがに安易に行うつもりはない。
もう少し差し迫った場合の選択肢の一つと考えたほうがいいだろう。
まずは感染自体を防ぐよう努めるべきだ。
残念ながらしばらくは、あのダンジョンにも、魔導映写館にも、通えなくなりそうだな。
◇
「今日も順調でしたね~」
イピレティスが満足そうにうんうんと頷く。
一通りの侵入者の撃退も完了し、倒すか撤退させるかで終わった。
ゴブリンダンジョンや獣人ダンジョンはもちろんだが、欲望のダンジョンもそろそろ安定してきたな。
ようやく、撃退までのバランスが調整できてきたといったところだ。
「アナンタやプリミラのおかげで、ちょうどいい難易度になったみたいだな」
「うわぁ、気持ち悪ぃ……。レイが殊勝なこというなんて、悪いことの前触れじゃねえか」
「……カニとエビの話をしようか?」
「増やそうとすんなよぉ」
まあ、カニとエビは今度増やしたり別の場所に配置するとして、ついでだから気になっていたことを確認してみるか。
侵入者たちが、欲望のダンジョンへ挑む姿を幾度となく観察してきたからこそ、ちょっとだけ気になっている。
「今日の侵入者たち、動きがちょっと鈍くなかった?」
本当に少しだけだ。
毎回同じ侵入者じゃないため、ポテンシャルは個人ごとに違うだろう。
それに、日々の調子というものだってあるのだから、同じ者でも毎回同じ成果を発揮できるわけではない。
だけど、なんだか本当に少しだけ、のどに引っかかったような違和感を覚えた。
「とは言ってもなぁ。ちょっとしたことで気が逸れて、集中できなくなっただけでも動きは鈍るぞ?」
「……何か、気になることでもあったか?」
「あったというか、本当になんだか少しだけ。あの侵入者なら、もうちょっと進めるだろって思っていたけど、予想と結果が違ったというか」
「それ、お前が奥のモンスターや罠試したいだけじゃないだろうなぁ……」
そんなことは……まあ、あるといえばあるんだけど。
そういうことなのかな? もっと奥に行ってほしいという思いから、無意識に侵入者たちに落胆していたとか?
「エビとカニを、もう少し入り口に配置できるように考え直しますか?」
「プリミラ。甘やかすなよぉ」
なるほど、そんな考えが……。
そうだよな。一匹くらいなら、入り口のほうに配置しても大丈夫だよな。
ソウルイーターだって、昔は入り口にいたし。
「お前、ソウルイーターをなんで奥に配置したか、忘れているんじゃねえだろうなぁ」
……おかしいな。まだ言葉にしていないのに、思考とアナンタの言葉が変にかみ合ってしまった。
ソウルイーターのことは根拠にせず、どうしたら入り口にエビを配置できるかアナンタを説得するとしよう。
さて、これで本当に今日の作業はひと段落だ。ひと段落しましたよ?
「……あ、終わりました? では、お昼寝と読書とご飯。どれにします?」
「とりあえず食事にしましょうか」
俺を背後から抱きしめて、頭の上に顎を乗せて大人しくしていたフィオナ様が、話し合いの終了を察して楽しそうに話しかけてきた。
……なんか、仕事終わりを待っている犬みたいだな。尻尾があったら振ってそう。
「フィオナ様って犬っぽいですよね」
「犬!? む……ですが、レイは犬大好きですからね。つまり、私のことも大好きと」
「まあ、嫌いじゃないです」
「ふふんっ!」
誰に対するドヤ顔なんだ。それは。
呆れた様子のアナンタと、なぜか見守るような目線のプリミラとダスカロスに見送られながら、俺たちは食堂へと向かうのだった。
◇
「……悪いな。引き返すことになってしまって」
「別にかまわないけど、大丈夫なの? 毒……ではないわね」
「体調が悪いのであれば、正直に言ってくれた方が助かるぞ?」
体調……悪いのか?
ああ、駄目だ。頭の中がぼんやりとして、思考がうまくまとまらない。
なんというか、頭の中が熱いというか、一度意識したらそれは一気に襲いかかってきた。
「風邪ひいたかも……。移らないように、お前ら別の部屋とってくれ……」
「受付に頼んで薬とおかゆでももらってくるわ」
「それで、途中からモンスターたち相手に動きが鈍ったのか。まあ、ゆっくり寝とけ。これまでの稼ぎがあるから、しばらくは休むのもいいだろう」
それは、ありがたい。
しかし情けない。体が資本の冒険者だというのに、こんな風邪ごときに負けるなんて……。
依頼は残念ながら失敗だな……。
せっかくの簡単に稼げる仕事だったというのに、俺のせいで申し訳ないことをした。
欲望のダンジョンに可能な限り潜って、その調査結果を報告するだけという楽なものだったのに。
だが、気前のいい依頼人で良かった。
前金まで渡してくれたため、失敗してもこうして懐に余裕はある。
もしかしたら、金銭感覚がおかしいのかもしれないな。
やけに立派な装備、それにしては身のこなしは素人に毛が生えた程度。
きっと、どこかの貴族が道楽で、俺たちに依頼をしてくれたんだろう。