【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「……」
「どうした? テラペイア」
「今日のダンジョンの各施設の従業員の割り振りを教えてくれ」
何か思案している様子のテラペイアに話しかけると、ふいにそんなことを頼まれた。
そのあたりは、なぜか各施設の管理者から俺に報告されているので、たしかにすぐに教えることはできる。
申し訳ないが、名前はいまだに覚えきれていないので、外見的な特徴による説明になるけどな……。
「なるほどな……」
魔王軍の専属医なだけあって、テラペイアはすでに全員の名前どころか、診察結果まで頭に入っているんだろうなあ。
そうか、自分の役割と絡めて記憶すればいいのか。
ということは、俺の場合誰がどんな罠で仕留められる程度の強さなのかを……。
「君、また変なことを考えようとしていないか?」
「まずは岩に潰されても大丈夫そうな従業員を考えようとしていた」
「……よくわからんが、やめてあげなさい」
火の球のほうがよかったか。
「君がおかしなことを考える前に提案があるのだが」
真剣に従業員について考えようとしていたが、テラペイアに遮られた。
また、各従業員の健康診断でもしたいのだろうか。
「半数ほどは、休ませるべきだ」
「もしかして、また働きすぎて無理している人たちが?」
最近では、わりとそのあたりの意識改革は浸透してきたと思ったんだけどなあ……。
ピルカヤやマギレマさんみたいな、一部の強敵たちと違ってダークエルフたちなんて、しっかりと言うことを聞いてくれていたし。
やっぱり、色々と好き勝手事業を広げすぎたか?
「いや、一部の馬鹿どもはともかく、彼ら彼女らはしっかりと働き、しっかりと休めている」
あれ、違ったか。
だがそうなると、どうしてわざわざ休ませるなんて提案を……。
「体調を崩しているのか?」
「ああ。といっても、本人たちも、わずかに体がだるい程度にしか感じていないだろう」
「風邪の初期症状みたいだな」
「だが、風邪ではない未知の病の可能性が高い」
……なんだか、一気に物騒な話になった気がする。
これが初期症状だとしたら、その後症状が悪化した場合どんな影響があるかわからないな。
「罹患している従業員を教えてくれ」
そうしてテラペイアから名前を教えてもらい、俺はピルカヤを通じて対象者に休むよう命じた。
……なんで俺が命令しているんだろう。これ、テラペイア発信でよかったんじゃないか?
◇
「つまり、宿泊客の中にも患っている人がいると」
「みたいだなあ。ここ最近、もう一部屋貸してくれって客が増えていたが、それが理由ってわけか」
人間だけが罹患しているわけでもなく、ダークエルフやハーフリングたちといった者たちも同じ症状は見えていた。
今のところまったくその兆候がないのは、魔族とモンスターくらいか。
「経路はいくらでもありそうなんだよなあ……」
「いったん、各施設の利用者を制限するかい?」
それか、いっそのことしばらく休むかだな。
これが感染力の高い病だった場合、うちの従業員も客たちも次々と感染していくことになる。
そうなると困るのは俺たちのほうだろう。
病が蔓延してしまえば、身内が病に伏せることとなり、客もうちに遊びに来るどころではなくなってしまう。
「テラペイア。しばらくこの病気について調べてもらえるか?」
「無論、そのつもりさ。ということで、私が注意しなくとも無理に働きすぎないことだ。ピルカヤ」
「名指ししなくたって、ボクは精霊だからたぶん病気になんてならないから!」
そういうことじゃないんだよなあ。
ダスカロスたちと一緒に、働きすぎる者がいないか監視しておいたほうがよさそうだな。
ただ、それはそれとして、ピルカヤには別の仕事を与えないといけない。
「ピルカヤ。ちょっと別件で頼みが」
「なになに~? 新しい仕事なら、ボク活躍しちゃうよ~」
喜んで食いついてくるのは、良いことなのか悪いことなのか……。
なんか頼りになるんだか、不安を招くんだかよくわかんないな。
「各地で似たような病が発生しているか、調べてもらえるか?」
「オッケ~」
「あと、その分他の仕事減らすようにな」
「なんで~!?」
俺たちのやり取りを聞いていたテラペイアは、ピルカヤの仕事を増やすことに不満そうだったが、その分他を減らすと聞いて満足そうな顔へと変わった。
無言で親指を立てると、彼は病に罹患したものたちの看病と、その正体を調べるために医務室へと向かったようだ。
「風邪ですか。大変ですねえ」
フィオナ様が、他人事ながらもやや心配そうにしている。
「そういえば、魔族とモンスターは罹患していませんけど、他の種族からの病気って、移りにくいんですかね?」
「病気にもよりますけど、基本的には移らないはずですよ。ただ、全ての生き物にかかる厄介な病というものも、存在はするようですね」
「とんでもない話ですね……」
種族が別でも共通して罹ってしまうとなると、下手したら魔王だ勇者だとか言ってる場合ですらなくなりそうだ。
そういうときこそ女神がなんとかしろと思うけど、あいつ魔族だけは絶対治さないだろうしな。
「案外、聖女の力で治せたりは……」
「が、がんばります!」
「いや、無理だろうからやめておきなさい」
話を振られた
「やっぱり、毒とか怪我とかの治療とは別?」
「こういうのは、テラペイアの領分だからな。聖女としての力は、どちらかというと戦闘における被害を治すものと割り切るべきだ」
「そっか、じゃあテラペイアの負担を減らすよう、各自ちゃんと休んでくれ」
その言葉に、さすがにピルカヤですら不承不承ではあるが頷いてくれた。
やっぱり、その点も踏まえて各施設は、しばらく休むか規模を小さくするべきだろうな。
「では、しっかりと休みましょう。私の部屋で」
「俺、別に自分の部屋でも休めますが」
「そうしたら、私がさみしいじゃないですか!」
……まあいいか。
なんかもう、俺の部屋に帰る回数よりも、フィオナ様の部屋に帰る回数のほうが多くなっている気がする。
とりあえず、コレクションの中から、病に関する本でも探して読んでみるか。
◇
「なんでサンセライオまで?」
「前にリズワンに会いに行ったけど、俺のすごさを理解できていなかった」
駄目だね。あいつ。
ゲーム中では有能で理解のある王様みたいに扱われていたけれど、現実ではこんなものかと落胆したよ。
だから、復讐というべきか、まあ利用くらいはしてやろうかなという感じだ。
現実では俺を門前払いする無能だけど、リズワンはゲーム中では使えるNPCだったし、病から国を救ってやって貸しを作るのは悪くない。
それがたとえ、マッチポンプだったとしても、救ったという事実には変わらないだろうし。
「回りくどくて面倒な能力だと思っていたけど、その分効果範囲や持続力は高いってことみたいだし、これはこれで悪くないね」
「毒とかのほうがいいって言ってたけど、たしかに病もいいわね。治療困難な病気をばらまくって、被害者がどんどん増えそう」
「それは被害者次第かな。国を蝕む病から救ってもらうのに、ケチケチしているようなら被害者は増える。だけど、見返りがあるなら被害者は減る。それだけだよ」
そのあたりは心配していないけどね。
サンセライオの国民が苦しみから解放されるというのなら、転生者相手だろうと協力はいとわず、見返りもしっかり用意してくれるはず。
リズワンならそのくらいの知能はあるはずだから。
だから、他の国が全滅したとしても、最低限の報酬は得られるはずさ。
「サンセライオに欲望のダンジョン。エーニルキアにトルベリオ。ずいぶんとまあ被害は広がりそうね」
「しょうがないよ。今まで散々我慢してやった。俺を重用するようにと、それぞれの国を巡ってやった。それなのに、俺のことを取り立てられなかったのはあいつらのほうさ」
「そんなことして、とんでもない能力をもった転生者に、敵だと思われたらどうするのよ」
「だから、こうして近づかないようにして、適当な冒険者に依頼したんだよ」
欲望のダンジョンを探索して、その情報を高値で買い取ると言ったら、何も考えずに馬鹿みたいに向かって行ったからね。
そいつから、あのダンジョンの入り口に店を構えたやつも、従業員も、その利用客さえも病にかかれば最高だ。
「適当に自作自演していれば、それなりに成功するのに、嫌がらせする意味ある?」
「だってムカつくから。こうして能力を使って努力しているのに、あんなふうに俺より成功するなんて、どうせ卑怯な手を使っているはずだよ」
「まあ、私は儲かるっていうのなら、それでいいけど」
そう。だから、これは正当な復讐であって、悪いのは全部向こうのほう。
だから、病気が蔓延するのも自業自得だね。