【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「また増えたか」
「ああ、感染はどんどん広まっている。そして、やはりというべきか、単なる風邪ではないらしい」
テラペイアの医務室と隣接した部屋のベットは、すでに埋まっている。
そのため、新たな患者のための病室を作成がてら話を聞いてみるも、どうも雲行きは悪いようだ。
「となると、治療も難しいと」
「探っている最中だな」
「無理してテラペイアまで罹患しないよう、気を付けてくれよ?」
「無論だ。さて、部屋の広さは十分だな。君もなるべく近づかないようにしてくれ。君が倒れるのは、非常にまずいからな」
たしかに、今後のことを考えると俺が倒れるのもまずいか。
この先も部屋の拡張が必要となるのであれば、それは俺にしかできないからな。
……だが、メニューを選択するだけだし、一瞬で終わるよな。
「倒れたとしても、部屋は作れそうだから大丈夫」
「それは大丈夫ではないな」
最悪の場合でも平気というつもりで言ったのだが、なんだかかえって心配されてしまった。
この目は、ピルカヤやマギレマさんを見る目と同じだ。
「とにかく、君は細心の注意を頼むぞ」
「はい」
そう言われると、テラペイアに追い返されてしまった。
しかし、お医者さんが彼しかいないせいで大変だな。
今までそれでもまったく問題なかったのだが、こういう緊急時には彼の負担が大きい。
「なにか力になれないかなあ」
俺たちにできることといえばなんだろう。
医療関係の知識などないので、彼の仕事を手伝うことは難しい。
となると、せめて負担のほうを減らしていくべきか。
◇
「ということで、しばらくはフィオナ様を真似るようにしてくれ」
「あの、前後のつながりがよくわからなかったんですけど……」
「ビッグボスを真似るって、俺たちに強くなれってことかい?」
「ボク、けっこう強いよ?」
「レイくんは知らないかもしれないけど、あたしもこう見えてそれなりに戦えるよ?」
集めたのは転生者や魔王軍の幹部以上の者たちと、一部の現地従業員たち。
要するに、フィオナ様の正体を知っているくらいには、信用できる者たちだ。
しかし、思ったとおりみんな自覚はないな。
「テラペイアが忙しいから、その間働きすぎないよう気を付けてくれ。周りの者たちは、気付いたら止めてやってほしい」
何人かに視線が集まる。今度は誰もが自覚できたようで何よりだ。
クララはロペスを見ているし、
きっと、うまいことコントロールしてくれると信じている。
「なるほど、そういうことでしたか。……あれ? 私を真似るようにっていうのは?」
「フィオナ様みたいに、ちゃんと休んでくれって意味です」
「そのとおりですね! みんな、ちゃんと休まないと駄目ですよ~?」
フィオナ様レベルで休まれたら、地底魔界が回らなくなるけれど、そのくらい言っておいたほうがいいだろう。
「ま、まあ、あたしはお客さんのために、料理しないといけないからね」
「マギレマさんは、部下が増えたので負荷を分散できるはずです」
「……いや、そこはまあ」
「お前たち、頼んだぞ。マギレマさんが無茶しないように見張ってくれ」
そう言いながら、マギレマさんの犬たちの頭をなでていくと、彼女たちが俺の意図を汲んでくれたのがわかった。
頼もしい返事をしつつも、もっとなでろと催促してくるので、一匹ずつ頭をなでていく。
……なんか、犬じゃない頭がまざっているので、一緒になでておくけど、あなた魔王なのにそれでいいんですか。フィオナ様。
「あ、あんたたち、あたしよりレイくんの言うこと聞くってどういうこと!?」
これで、マギレマさんが調理を続けようとしても、この子たちが自発的に動いて調理場から立ち去ってくれるはずだ。
みんな良い子なので、さすがに邪魔をすることはないけれど、不要な労働のときは容赦なく行動してくれることだろう。
「エピクレシのほうは、ドラゴンゾンビとノーライフキング……」
だけでは不安だな。
彼らは、優秀だし良識のあるアンデッドなのだが、創造主であるエピクレシの意向に逆らいきれないことが多いし。
となると、もう一人頼んでおくとするか。
「あと、プネヴマが止めてやってくれ。魂とか取り出してもいいから」
「わ、わかりました……!」
「わからないでくださいよ!」
「で、でも……魂を取り出せば……動けなくなるから……」
同じ
ドラゴンゾンビもノーライフキングも、二人のやり取りに見てみぬふりをしていた。
「世良は……」
「はい!
そのあたりは、原と二人に任せるとして。
俺が聞いておきたいのは別のことだ。
「よろしく頼む。それはそうと、世良の聖女の力って、やっぱり病には使えないか?」
「一時的に症状を緩和することはできるみたいですけど、根本を治療しないとすぐにぶり返しちゃうみたいでして……」
「なるほど。となると、症状が悪化したときに、もしかしたらその力が必要になるかもしれないな」
「わかりました! では、魔力はいつでも残しておきます!」
「ああ、頼む。クララはロペスのこと頼んだぞ」
「はい」
「ボス!?」
転生者の男性陣は働きすぎる傾向にあるからな。
そのへんは、女性陣がうまく手綱を握るのが一番いい。
ただ、そこは多少なりとも不服だったらしく、風間とロペスも意見がありそうな表情を……。
「では、みんなでしっかり休んで、テラペイアに迷惑かけないようにしましょう。というわけで、レイはこっちです」
「え、もうですか」
なんか今日の寝室行きは早かったな。
だが、タイミングとしてはちょうど良かったのかもしれない。
さすがに風間もロペスも、魔王様の行動を邪魔することはできないらしく、俺への意見は内へ押しとどめたようだ。
……ただ、これはこれで意見を封殺しているみたいで、あまり良くないよな。
フィオナ様と一緒に寝た後で、二人の意見をちゃんと聞いてから説得することにしよう。
◇
「……あんな風に、自分も身をもって実践しているところ見せられたら、俺たち何も意見できねえよなあ」
「魔王様、いつもレイさんが働きすぎないように、強制的に同衾させてるからね」
ボスもちょっと前までは、俺たち寄りというべきか、仕事ばかりしていたからなあ。
だが、ダスカロスの旦那が蘇生したあたりから、そのへんは改善されていった。
てっきり、ダスカロスの旦那が説得したのかと思ったが、思えばビッグボスが強制的に休ませる頻度が増えただけだな。こりゃ。
「魔王様を見習って……よし、行くわよ武巳!
「え、あの……どこへ」
「寝室だね。じゃあ、武巳くんを休ませるから私たちはこれで」
……兄弟。がんばれよ。
まあ、あの三人もいつものことだし、俺は俺で適当に休むしかねえか。
テラペイアの旦那に倒れられでもしたら、このダンジョンの危機になりかねないからな。
それにしても、集団が一気に病か……。
なんか、ヨハンのやつの毒による攻撃を思い出して嫌になるな。
あのときと違って、薬一つで治せないから、俺が備えてどうにかするわけにもいかないし……。
ん? 考え事をしていたら、誰かに肘をつかまれて……。
「何してんだい? 女王様」
「君も、そうやって考え事ばかりで、全然休もうとしないみたいだからね」
「いや、今から休もうと」
「君のそれは、体は休んでいても頭が休んでいないと思うよ?」
「……」
「仕方ない。宿に縛り付けておくとするか」
いや、なんか怖いこと言い出してるけど、働きすぎなのはあんたたちだって……。
「安心したまえ、君くらいの魔力なら、すぐに枯渇させて眠らせてあげられるから」
なんか怖いことしようとしてねえか!?
結局、宿に連れて行かれた後の記憶はなくなっていた。
悔しいことに、体も思考もすっきりしていたため、手段はともかく女王様に文句すら言えなくなってしまった……。