【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「何? 病を完治できる薬だと?」
「はい。どうやら、ここから逃亡した転生者たちが、特効薬を持参して交渉がしたいと」
「必要ない」
そう、必要ない。
病ならば、すでに感染者は一人となり、国は正常な状態へと戻っている。
我が国家の強みは、勇者リックの存在と、大量の転生者の能力だ。
特に、転生者たちを大量に確保しているのは、こういう事態にも対処できるようにするためだ。
初めに好待遇で迎え入れる。
その間に能力を把握し、その者たちが真面目にこの世界と向き合うかを見定める。
この世界で生きていけるようならば、クニマツのように更なる好待遇で懐柔する。
クニマツ以外にも、率先して行動できる者たちは他にもいた。
そういう者たちには、秘密裏にこちらの手の者をつけさせて、危険なときは助けるよう命じている。
だが、残念ながら何の連絡もなく、そのまま行方不明になったので、死んだのだろうな。
惜しかった……。勇者に聖女に賢者など、クニマツ以上に期待していたのだが……。
そんな期待できる者と違い、ほとんどは身の危険を恐れ、戦う覚悟すらない者ばかり。
そんな者たちを、いつまでも好待遇にする理由はない。
それでも、せいぜい兵士と同じ程度の通常の待遇といえる生活ではあるが、不平不満を漏らすのだから呆れるものだ。
だから、こちらも遠慮はしない。その中で有用な能力者がいれば、容赦なく実験体にさせてもらっている。
今回は、実験体の一人の力によって、病は全てそいつに押し付けることに成功した。
だが、逃げ出した中にそのような能力者がいたとは、知らなかったな。
……クニマツの鑑定に対抗する、偽装の能力者でもいたか?
であれば、徒党を組んで逃亡した連中の中にも、有用な能力者がいた可能性は高いが……。
「待遇を通常のものに戻す前から、逃げ出すような者たちだ。今さら戻ってこようと興味はない」
中には、より現実を見ることができない者もいる。
大抵は自分たちを選ばれた何かだと、おごり高ぶり傲慢にもこの世界を支配しようとする者ばかり。
そんなやつら、エーニルキア以外の国も拾うことはないだろう。
あのお人よしのリズワンでさえ、国民とトラブルを起こすような者は受け入れない。
どこかで野垂れ死ぬのが関の山かと思っていたが、存外しぶとく生き延びていたか。
だが、やはり興味などない。
「大方、病に特化した薬を生成する能力か」
能力自体ならば、うちで確保してもいいかもしれない。
だが、どうせ再び逃亡するだろう。
そんな者たちを、もしものときの保険として換算していたら、いざ問題が起きたときに対処できなくなる。
であれば、貴様たちは初めからうちにいないほうがいい。
◇
「……すまなかった」
「何を辛気臭い顔してんのよ。王様のくせに」
「お、お姉ちゃん……。王様のくせって」
結局のところ、病を解決する手段はなかった。
いや、他になかったと言うべきか。
愛美も
「
「い、いいってば……気持ち悪いわね」
俺、王なのだが、気持ち悪いという感想はどうなんだ?
「よし。であれば、報酬として望むものを与えよう」
「え、じゃあ、仲間の転生者が欲しい」
「それは、俺も欲しい……」
仕方があるまい。
サンセライオは観光地であり、人の出入りはたしかに多い。
だが、プリズイコスやアルマセグシアはおろか、エーニルキアより小さな国だぞ。
それも、転生者が現れる地点としても、条件が悪いらしく、転生者確保し放題のエーニルキアとは違うのだ。
お前たち姉弟を確保できたのは、まあ俺の日頃の行いの良さだとして、そうそう何人も確保することは難しい。
「やっぱり、あの売り込みに来ていた転生者は駄目かしら?」
「お姉ちゃん。さすがに、あの人たちを仲間にしたら、何をされるかわからないし危ないと思うよ?」
「うむ、広貴の言うとおりだ。エーニルキアから流れてきた転生者というのは、さすがにな……」
以前も言ったとおり、あの国と対立しても得はない。
これが、愛美や広貴のような、優秀で善良な転生者であれば話は別だが、あの国が手放した転生者というのが問題だ。
「あの国が手放すということは、こちらの話を聞くことができず、あらゆる者を見下す転生者ということだ。そのうえで、実験体にされていないということは、能力としても有用なものではなかったのだろうな」
「え~……。それって、要するに女神様からいい能力をもらえなかったら、放逐されるってこと?」
「いや、まずは性格だ。俺たちを人として見ないような者を内部に置いておくのは、さすがにな……」
問題を起こす火種にしかならない。
その手の連中は、国民を人とも思わず非道な真似をするだろう。
そして、王である俺の言葉すら、疎ましいと思い、最悪の場合危害を加えようとしてくる。
手に余るという点では、エーニルキアに同意せざるを得ない。
もっとも、手に余らずとも、あの国はあの国で能力さえ有用であれば、実験体という道を選ぶ。
なので、どちらが善とは言い難いが。ともかく、実験体にすらされなかった者ということになる。
能力の測定前に、早々にあの国から離れたか、あるいは能力が大したことがなかったか、いずれにせよトラブルメイカーというわけだ。
「でも、他の国の転生者という可能性もあるんじゃないですか?」
「エーニルキアは、逃亡した転生者の情報を各国に知らせている。取り戻すためというよりは、匿うことで内部から不和が起こるリスクがあると知らせ牽制し、能力も各国に知らせて対策できるようにしているのだろうな」
「でも、その国の言うことを全面的に信用しちゃうの? 中には、まともで優秀な転生者もいるかもしれないわよ?」
「以前の大転生で、そう思い匿った国はいくつかあった。だが、エーニルキアからの刺客だったため、内部から国を滅ぼす者もいれば、本人は意図していなくとも、力を遠隔か時間差で暴走させ、そのままやはり国を滅ぼした者もいる」
「人類同士で何争ってんのよ!?」
「まったくだな。しかし、平穏な日々は人類と世界の発展を遅らせるため、各種族、各国で競い合う世界を女神は望んでいる」
「つまり、王様も女神様の言うとおり、いずれは他の国と戦争をしたいんですか……?」
「俺は、その言葉を信じるつもりはない。だが、他の国はそうではないということだ」
まったくもって、救いのない世界だ。
世界を統治している神が、争いなくしては発展はないと宣言しているのだから。
この世界に平和が訪れる日々などくるのだろうか……。
「まあ、要するに私たちは王様に拾われてラッキーだったってことね」
「そうだね」
「いや……つい先刻、愛美を犠牲にしたばかりなのだが……」
「私がいいって言ったんだから、気にしすぎてもしょうがないわよ?」
「む……。そうだな。礼を言おう」
病の感染は拡大の一途をたどり、さらに悪性へと変異し続けた。
対応する薬を確保できるほど、俺の国は品であふれているわけではない。
そのため、俺たちは愛美を犠牲にした。
愛美が自ら病に罹患し、悪性へと変異した後に自害する。
そうして、病の中で再生した愛美は、病への耐性を得た肉体をもって復活する。
その体を使い潰し、病への抗体を抽出することで、俺の国民は救われた。
……やっていることは、エーニルキアの王と変わらんな。
一人の転生者を犠牲にし、自国の民を救っているというだけなのだから。
「心臓が病気になっても、案外問題ないみたいね。再生するときに、耐性を獲得できるみたいだし。……もしかして、毒とか炎とかで死んで再生すれば、いろんな耐性が入手できるのかしら?」
「お姉ちゃん。岩に何回潰されても耐性を獲得してないよ?」
「それもそうね。じゃあ、無駄なことはやめときましょう」
だが、死んだ本人がこうもあっけらかんと割り切っている。
いつまでも負い目を感じていても、本人も言うとおり気持ち悪いだけか。
であれば、感謝は忘れずに、うじうじとするのは終わりにしよう。
「では、ちょっと気分転換にカジノに……」
「せめて、自分の国のカジノにしなさいよ」
「う……しかたあるまい。今回は言うことを聞いておこう」
◇
「だから、病気で困っているんだろ? 強がっていないで、俺たちから治療薬を買ったほうがいいぞ?」
「いや、本当にもう完治してるからなあ……」
そんなわけないだろ。
あの人が言っていたんだから、間違いない。
つまり、嘘をついているのはこいつらだ。
「強がりはよせよ。くだらない意地を張って、後で大変な目に遭うのはお前らのほうだぞ」
「いや、本当に治ってるって言ってるのに、しつこいな……。まあ、同じ症状が発生したときのために、保険として買うのはありか……」
……いや、これも嘘だ。
治るはずがない。堀井さんの力は絶対だ。
だから、今も苦しんでいるはずなのに、やせ我慢しているんだ。
さては、こいつらそうやって余裕ぶって、こっちの薬を安く買おうとしているな?
本当に、浅はかで嫌になる……。
「へえ。じゃあ、教えてくれよ? どうやって、あんなすごい病気を治したっていうんだ?」
「あのな。トルベリオは商業国家だぞ。未知の病なんて、これまで何度も発生した。だから、その手の危機のために、病に特化した薬を常備しておくなんて常識だろ」
「……へ、へえ。そうなのか。まあ、とっさの言い訳にしては、それなりに説得力があるじゃないか」
「なんでそんな疑ってるのか知らないけど、うちの国にある品は、種類はともかく、品質はアルマセグシアにだって勝るぞ?」
本当に強がりばかり言いやがって……。
そんなこと言われたって、この特効薬は絶対割引してやらないぞ。
まあ、特効薬と言いつつ、中身は適当な液体だけどな。
飲んだら堀井さんが病を解除してくれるから、結果は変わらないし問題ないだろ。
「過去に蘇生薬を売りに出したのも、ほとんどはトルベリオからだからな」
蘇生薬の話なんて今はどうでもいいだろ。
それとも、死んだ後に生き返るつもりかよ。
「だが、さっきも言ったように、保険として買っておくならありだな。今回の病はかなりの国民が罹患した。国で保有している病の特効薬も、かなり数が減ったはずだし……悪くない取引かもしれないな」
「はあ……。もったいつけやがって、最初から素直にそう言えばよかったんだよ」
「まあ、そう言うなって。こっちも商売となると、慎重に進めたいからな。それじゃあ、見せてくれ」
「ああ、薬ならこれだよ」
そう言って、ハーフリングの男に薬を渡す。
あとは金をもらうだけ。そのはずなのに、ハーフリングの男は金を出すこともなく、じろじろと薬を観察していた。
「おい、さっさと金を渡せよ」
「……なあ、あんた。これが病に効くって、どういうことだ?」
なんだよ。その目は……。
まるで、こっちが悪いみたいな、糾弾するような目は。
「それを飲めば病が治るんだよ。いいから、早く金を」
「治るわけないだろ。これ、ただの水じゃないか」
「ち、違う! 本当に、それを飲めば病気が治るんだよ!」
「あのなあ……。騙すにしても、こりゃあお粗末すぎだろ。ほら、返すぞ」
「お、おい! いいのかよ! 病気で苦しんでいる仲間たちのことは!」
「だから、もう治ったって言ってんだろ。話にならねえな。これは……」
ふ、ふざけんな……。話にならないのはどっちだ!
もういい。こいつ以外にもハーフリングなんていくらでも……。
いくらでもいるけれど……。全員病気にかかっている様子には見えない。
……くそっ! やせ我慢ばかりしやがって!
とにかく、堀井さんに報告しないと。