【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第323話 解決後にやってきた救世主

「何? 病を完治できる薬だと?」

 

「はい。どうやら、ここから逃亡した転生者たちが、特効薬を持参して交渉がしたいと」

 

「必要ない」

 

 そう、必要ない。

 病ならば、すでに感染者は一人となり、国は正常な状態へと戻っている。

 

 我が国家の強みは、勇者リックの存在と、大量の転生者の能力だ。

 特に、転生者たちを大量に確保しているのは、こういう事態にも対処できるようにするためだ。

 

 初めに好待遇で迎え入れる。

 その間に能力を把握し、その者たちが真面目にこの世界と向き合うかを見定める。

 この世界で生きていけるようならば、クニマツのように更なる好待遇で懐柔する。

 

 クニマツ以外にも、率先して行動できる者たちは他にもいた。

 そういう者たちには、秘密裏にこちらの手の者をつけさせて、危険なときは助けるよう命じている。

 だが、残念ながら何の連絡もなく、そのまま行方不明になったので、死んだのだろうな。

 惜しかった……。勇者に聖女に賢者など、クニマツ以上に期待していたのだが……。

 

 そんな期待できる者と違い、ほとんどは身の危険を恐れ、戦う覚悟すらない者ばかり。

 そんな者たちを、いつまでも好待遇にする理由はない。

 それでも、せいぜい兵士と同じ程度の通常の待遇といえる生活ではあるが、不平不満を漏らすのだから呆れるものだ。

 だから、こちらも遠慮はしない。その中で有用な能力者がいれば、容赦なく実験体にさせてもらっている。

 

 今回は、実験体の一人の力によって、病は全てそいつに押し付けることに成功した。

 

 だが、逃げ出した中にそのような能力者がいたとは、知らなかったな。

 ……クニマツの鑑定に対抗する、偽装の能力者でもいたか?

 であれば、徒党を組んで逃亡した連中の中にも、有用な能力者がいた可能性は高いが……。

 

「待遇を通常のものに戻す前から、逃げ出すような者たちだ。今さら戻ってこようと興味はない」

 

 中には、より現実を見ることができない者もいる。

 大抵は自分たちを選ばれた何かだと、おごり高ぶり傲慢にもこの世界を支配しようとする者ばかり。

 そんなやつら、エーニルキア以外の国も拾うことはないだろう。

 あのお人よしのリズワンでさえ、国民とトラブルを起こすような者は受け入れない。

 

 どこかで野垂れ死ぬのが関の山かと思っていたが、存外しぶとく生き延びていたか。

 だが、やはり興味などない。

 

「大方、病に特化した薬を生成する能力か」

 

 能力自体ならば、うちで確保してもいいかもしれない。

 だが、どうせ再び逃亡するだろう。

 そんな者たちを、もしものときの保険として換算していたら、いざ問題が起きたときに対処できなくなる。

 であれば、貴様たちは初めからうちにいないほうがいい。

 

    ◇

 

「……すまなかった」

 

「何を辛気臭い顔してんのよ。王様のくせに」

 

「お、お姉ちゃん……。王様のくせって」

 

 結局のところ、病を解決する手段はなかった。

 いや、他になかったと言うべきか。愛美(まなみ)に頼らざるを得なかった。

 愛美も広貴(こうき)も気にしていないようだが、それに甘えてはいけない。

 

(おおとり)愛美。貴殿の協力に感謝する」

 

「い、いいってば……気持ち悪いわね」

 

 俺、王なのだが、気持ち悪いという感想はどうなんだ?

 

「よし。であれば、報酬として望むものを与えよう」

 

「え、じゃあ、仲間の転生者が欲しい」

 

「それは、俺も欲しい……」

 

 仕方があるまい。

 サンセライオは観光地であり、人の出入りはたしかに多い。

 だが、プリズイコスやアルマセグシアはおろか、エーニルキアより小さな国だぞ。

 

 それも、転生者が現れる地点としても、条件が悪いらしく、転生者確保し放題のエーニルキアとは違うのだ。

 お前たち姉弟を確保できたのは、まあ俺の日頃の行いの良さだとして、そうそう何人も確保することは難しい。

 

「やっぱり、あの売り込みに来ていた転生者は駄目かしら?」

 

「お姉ちゃん。さすがに、あの人たちを仲間にしたら、何をされるかわからないし危ないと思うよ?」

 

「うむ、広貴の言うとおりだ。エーニルキアから流れてきた転生者というのは、さすがにな……」

 

 以前も言ったとおり、あの国と対立しても得はない。

 これが、愛美や広貴のような、優秀で善良な転生者であれば話は別だが、あの国が手放した転生者というのが問題だ。

 

「あの国が手放すということは、こちらの話を聞くことができず、あらゆる者を見下す転生者ということだ。そのうえで、実験体にされていないということは、能力としても有用なものではなかったのだろうな」

 

「え~……。それって、要するに女神様からいい能力をもらえなかったら、放逐されるってこと?」

 

「いや、まずは性格だ。俺たちを人として見ないような者を内部に置いておくのは、さすがにな……」

 

 問題を起こす火種にしかならない。

 その手の連中は、国民を人とも思わず非道な真似をするだろう。

 そして、王である俺の言葉すら、疎ましいと思い、最悪の場合危害を加えようとしてくる。

 手に余るという点では、エーニルキアに同意せざるを得ない。

 

 もっとも、手に余らずとも、あの国はあの国で能力さえ有用であれば、実験体という道を選ぶ。

 なので、どちらが善とは言い難いが。ともかく、実験体にすらされなかった者ということになる。

 能力の測定前に、早々にあの国から離れたか、あるいは能力が大したことがなかったか、いずれにせよトラブルメイカーというわけだ。

 

「でも、他の国の転生者という可能性もあるんじゃないですか?」

 

「エーニルキアは、逃亡した転生者の情報を各国に知らせている。取り戻すためというよりは、匿うことで内部から不和が起こるリスクがあると知らせ牽制し、能力も各国に知らせて対策できるようにしているのだろうな」

 

「でも、その国の言うことを全面的に信用しちゃうの? 中には、まともで優秀な転生者もいるかもしれないわよ?」

 

「以前の大転生で、そう思い匿った国はいくつかあった。だが、エーニルキアからの刺客だったため、内部から国を滅ぼす者もいれば、本人は意図していなくとも、力を遠隔か時間差で暴走させ、そのままやはり国を滅ぼした者もいる」

 

「人類同士で何争ってんのよ!?」

 

「まったくだな。しかし、平穏な日々は人類と世界の発展を遅らせるため、各種族、各国で競い合う世界を女神は望んでいる」

 

「つまり、王様も女神様の言うとおり、いずれは他の国と戦争をしたいんですか……?」

 

「俺は、その言葉を信じるつもりはない。だが、他の国はそうではないということだ」

 

 まったくもって、救いのない世界だ。

 世界を統治している神が、争いなくしては発展はないと宣言しているのだから。

 この世界に平和が訪れる日々などくるのだろうか……。

 

「まあ、要するに私たちは王様に拾われてラッキーだったってことね」

 

「そうだね」

 

「いや……つい先刻、愛美を犠牲にしたばかりなのだが……」

 

「私がいいって言ったんだから、気にしすぎてもしょうがないわよ?」

 

「む……。そうだな。礼を言おう」

 

 病の感染は拡大の一途をたどり、さらに悪性へと変異し続けた。

 対応する薬を確保できるほど、俺の国は品であふれているわけではない。

 そのため、俺たちは愛美を犠牲にした。

 

 愛美が自ら病に罹患し、悪性へと変異した後に自害する。

 そうして、病の中で再生した愛美は、病への耐性を得た肉体をもって復活する。

 その体を使い潰し、病への抗体を抽出することで、俺の国民は救われた。

 

 ……やっていることは、エーニルキアの王と変わらんな。

 一人の転生者を犠牲にし、自国の民を救っているというだけなのだから。

 

「心臓が病気になっても、案外問題ないみたいね。再生するときに、耐性を獲得できるみたいだし。……もしかして、毒とか炎とかで死んで再生すれば、いろんな耐性が入手できるのかしら?」

 

「お姉ちゃん。岩に何回潰されても耐性を獲得してないよ?」

 

「それもそうね。じゃあ、無駄なことはやめときましょう」

 

 だが、死んだ本人がこうもあっけらかんと割り切っている。

 いつまでも負い目を感じていても、本人も言うとおり気持ち悪いだけか。

 であれば、感謝は忘れずに、うじうじとするのは終わりにしよう。

 

「では、ちょっと気分転換にカジノに……」

 

「せめて、自分の国のカジノにしなさいよ」

 

「う……しかたあるまい。今回は言うことを聞いておこう」

 

    ◇

 

「だから、病気で困っているんだろ? 強がっていないで、俺たちから治療薬を買ったほうがいいぞ?」

 

「いや、本当にもう完治してるからなあ……」

 

 そんなわけないだろ。

 堀井(ほりい)さんの病は、すでにいくつかの国に蔓延している。

 あの人が言っていたんだから、間違いない。

 つまり、嘘をついているのはこいつらだ。

 

「強がりはよせよ。くだらない意地を張って、後で大変な目に遭うのはお前らのほうだぞ」

 

「いや、本当に治ってるって言ってるのに、しつこいな……。まあ、同じ症状が発生したときのために、保険として買うのはありか……」

 

 ……いや、これも嘘だ。

 治るはずがない。堀井さんの力は絶対だ。

 だから、今も苦しんでいるはずなのに、やせ我慢しているんだ。

 さては、こいつらそうやって余裕ぶって、こっちの薬を安く買おうとしているな?

 本当に、浅はかで嫌になる……。

 

「へえ。じゃあ、教えてくれよ? どうやって、あんなすごい病気を治したっていうんだ?」

 

「あのな。トルベリオは商業国家だぞ。未知の病なんて、これまで何度も発生した。だから、その手の危機のために、病に特化した薬を常備しておくなんて常識だろ」

 

「……へ、へえ。そうなのか。まあ、とっさの言い訳にしては、それなりに説得力があるじゃないか」

 

「なんでそんな疑ってるのか知らないけど、うちの国にある品は、種類はともかく、品質はアルマセグシアにだって勝るぞ?」

 

 本当に強がりばかり言いやがって……。

 そんなこと言われたって、この特効薬は絶対割引してやらないぞ。

 まあ、特効薬と言いつつ、中身は適当な液体だけどな。

 飲んだら堀井さんが病を解除してくれるから、結果は変わらないし問題ないだろ。

 

「過去に蘇生薬を売りに出したのも、ほとんどはトルベリオからだからな」

 

 蘇生薬の話なんて今はどうでもいいだろ。

 それとも、死んだ後に生き返るつもりかよ。

 

「だが、さっきも言ったように、保険として買っておくならありだな。今回の病はかなりの国民が罹患した。国で保有している病の特効薬も、かなり数が減ったはずだし……悪くない取引かもしれないな」

 

「はあ……。もったいつけやがって、最初から素直にそう言えばよかったんだよ」

 

「まあ、そう言うなって。こっちも商売となると、慎重に進めたいからな。それじゃあ、見せてくれ」

 

「ああ、薬ならこれだよ」

 

 そう言って、ハーフリングの男に薬を渡す。

 あとは金をもらうだけ。そのはずなのに、ハーフリングの男は金を出すこともなく、じろじろと薬を観察していた。

 

「おい、さっさと金を渡せよ」

 

「……なあ、あんた。これが病に効くって、どういうことだ?」

 

 なんだよ。その目は……。

 まるで、こっちが悪いみたいな、糾弾するような目は。

 

「それを飲めば病が治るんだよ。いいから、早く金を」

 

「治るわけないだろ。これ、ただの水じゃないか」

 

「ち、違う! 本当に、それを飲めば病気が治るんだよ!」

 

「あのなあ……。騙すにしても、こりゃあお粗末すぎだろ。ほら、返すぞ」

 

「お、おい! いいのかよ! 病気で苦しんでいる仲間たちのことは!」

 

「だから、もう治ったって言ってんだろ。話にならねえな。これは……」

 

 ふ、ふざけんな……。話にならないのはどっちだ!

 もういい。こいつ以外にもハーフリングなんていくらでも……。

 いくらでもいるけれど……。全員病気にかかっている様子には見えない。

 

 ……くそっ! やせ我慢ばかりしやがって!

 とにかく、堀井さんに報告しないと。

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