【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「なんか、こっちの話を聞いてるようで聞いていなかった」
「へえ。まあ、あてが外れて必死なやつはいるからなあ」
ピルカヤの旦那が言うには、トルベリオにも病は蔓延していたが、結局自力で治したらしいからなあ。
タイミングが悪かったんだろうさ。その人間は。
「う~ん……。というよりも、あれは本気で、自分の正しさを疑っていなかったって感じだったな」
目論見が外れたから、必死に儲け話をしようとしていたわけじゃねえのか?
「聞く耳持たずって感じか?」
「そうそう、そんな感じだ。しかもだ。瓶に入れた水を売ろうっていうんだから、俺たちも舐められたもんだよな」
「なんだそりゃ……。お粗末にもほどがないか?」
誰だか知らねえけど、トルベリオは目利きができるやつしかいねえぞ。
下手なアイテム売ろうとしても、すぐに見透かされて適正な価格よりも安く買いたたかれるのがオチだ。
それどころか、ただの水を薬と称して売ろうなんて、ハーフリング舐めすぎだろ。そいつ。
だが、ピルカヤの旦那も、今はそのあたりまでは監視していないので、そういった情報は助かる。
うちの利用客を治療したおかげで、トルベリオの従業員も客も増え、情報も入ってきて、いいこと尽くめだな。
……もしも、うちにそんな詐欺師がきて、下手にボスたちの怒りを買ったらたまったもんじゃねえし、気を付けておこう。
「なに! ただの水を高額で売ろうとしたということか!?」
「よう旦那。久しぶり」
「うむ。ちょっと俺の国が危なかったのでな。さすがに、そんな状況ではここで遊んでいる場合ではなかった」
「そりゃあそうだ。自分の国を大事にしてくれよ」
まあ、その事情はこっちも知っているけどな。
こうして遊びに来る余裕ができたということは、王様のところも無事に病に対処できたということか。
「あんた……もしかして」
「ただのリズワンだ。そういうことにしておくがいい」
「……ああ、なんとなくわかった。詮索はしねえよ」
こいつも、商売人なだけあって、その手の事情を察するのは得意だ。
だが、俺たちはいいけれど、他の客に散々目撃されてるから、あんたのことわりと知れ渡っていると思うぜ。
「まあ、それはいいとして、サンセライオも似たような病気がはびこっていたみたいだな」
「うむ。抗体を作って、なんとか特効薬を完成させたことで対処した」
「そりゃあすごい。うちみたいに、病に効く薬を常備していたわけでもないのに、よく間に合ったな」
「俺の国は、優秀な者が多いからな」
……さすがに、そんなすぐに特効薬を作れるのなら、医療大国にでもなりそうだよな。
ということは、単純に医療従事者がなんとかしただけでなく、転生者の力でも絡んでいるんじゃねえか?
「それよりもだ! 先の話は本当か? 特効薬を売りに来た者が、薬どころか水を売ろうとしたなどと」
「ああ。さすがに呆れたよ。……もしかして、そっちにも来たのか?」
「うむ。エーニルキアが手放した転生者がな」
「ああ。それならうちと同じだ。間違いない」
「やはりか……。高額で購入することと、自分たちをサンセライオの権力者として招き入れることを条件に、特効薬を売ってやると言われてな」
「げえ……。そりゃあ、強欲なやつらだな」
「対応した者を、人として見ていないような傲慢さだった。さすがに、そんな者たちを招き入れることはできないと、取引の品を確認する前に追い返したが……。そうか、水か」
……転生者だったのか。
それにしても、さすがにずいぶんと考えなしに動くやつだな。
いや、王様の発言からすると複数人か?
誰か一人くらい、そんな暴挙を止められるやつはいなかったのかねえ。
「この分だと、エーニルキアにまで、偽物の薬売りに行ってそうだな……」
「いや、さすがにそれは……。あり得るのか? 自分たちから逃亡したのだぞ?」
行ってそう……。
こりゃあ、あれだな。転生直後に、この世界で好き放題動いた連中と同じだ。
この世界をゲームの世界だと軽視し、自分たちが主人公のごとく万能の存在になったと勘違いしている。
そうして、ここで生きる人類やモンスターや魔族に敗北する。
その手の相手なら、正直大したことないし、むしろ安心して良さそうだな。
◇
「だから、強がりはやめて、金を払って楽になったほうがいいんじゃないの?」
と思っていた俺の馬鹿!
いや、こいつらのほうが馬鹿!
なんで、うちにまで水を売りに来るんだよ……。
「だからな? うちはそんな病に罹患しているやつは、もういない」
「そんなわけないでしょ! ここで病気に苦しんでいる人が多いって、話は聞いているんだから、隠しても無駄よ! それとも、病気が発生したことを隠すってことは、何かやましいことでもあるのかしら?」
……もうって言ったじゃねえか。
話が通じる気がしねえ……。なんだこの女。勘弁してくれ。
ウルラガの旦那。待ってくれ。
気持ちはわかる。わかるけど待ってくれ。
よりによって、カジノで周囲の客に聞こえるように大声で騒いでいるから、ここで手荒な真似はしたくない。
そりゃあ、誰もがこの女の言いがかりだと思ってくれているだろう。
だけど、ここで力ずくで解決したら、この女の言い分も間違いじゃなかったなんて、わずかにでも思われかねない。
「はあ……。それじゃあ、その薬とやらが本物かどうか、調べさせて」
「本物に決まってるでしょ!? まさか、私だけじゃなくて、
誰だよ。そいつ。
知らないやつだし、疑うもクソもねえよ……。
「だいたい、商品に勝手に触ったら、全部買い取ってもらうからね!」
「ええ……。じゃあ、いらねえから帰ってくれよ……」
「強がりはやめなさいって、言ってるでしょ?」
話が通じねえ……。
やばい。ある意味で、ここまで厄介な相手は初めてかもしれない。
ヨハンがかわいく感じるほどに厄介だ。
「……ウルラガの旦那。下手に怪我させたらうるせえだろうし、放り出してくれるか?」
「おう」
「ちょっと! 触んないでよ! 誰か! 助け!」
あ~あ。なんか、すげえ疲れた。
女王様と一緒に、息抜きでもしたほうがよさそうだな。
「ロペス。うちに来たのもあんな感じだったぜ」
「俺の国に来た者も、似たようなことを言っていたな」
「そうかい。あんたらも、苦労したんだな……」
休もう。今日の営業が終わったら、ボスに休みをもらおう。
◇
「なんかすごいのが来たな」
「まじで、疲れた……」
「珍しいな。休んだほうがいいぞ?」
「そうさせてもらえるか?」
おぉ……。あのロペスが、自発的に休みたがるなんて、よっぽど大変だったんだな。
まあ、腹の探り合いをする相手よりも厄介そうだったもんな。話の通じない相手というのは。
「じゃあ、ロペスはしばらく休暇で」
「いやいや! 明日だけでいいから!」
「え~……。働きすぎじゃないか? 大丈夫か?」
「ボス……。最近、ビッグボスの発言に似てきたな……」
え、まじで? やばいことになっているじゃないか。
トップのフィオナ様が、サボりがちなのだから、せめて補佐をする俺が真面目にならないといけないのに。
「いや、でもブラックな労働はさすがになあ……」
「それで、ブラックにしようというぶっ飛んだ考えはどうなんだい?」
「だよなあ。まあ、適度に働くホワイトな魔王軍として、今後もやっていこうと思う」
そんなこんなで、疲れた様子で立ち去るロペスを見送った。
一日休むだけで大丈夫なのかなあ? まあ、有休以外にも週休二日があるし、その間にも疲労を回復してもらうとしよう。
「レイもなかなか魔王軍のトップとしての采配がわかってきましたね」
「さりげなくトップにしないでください」
そして、さりげなく背後から抱き着かれるほうは、もう気にしないことにする。
「では、そんな上の者が働きづめでは示しがつきません。一緒に休みましょう」
「え~……。まあ、今日の仕事は終わりですけど、また一緒に寝るんですか? 読書ですか?」
「魔導上映もよさそうですねえ。レイが選んでいいですよ? ちなみに、私の気分は睡眠です」
「俺、まだそこまで眠くないですけど」
「ちなみに、私の気分は睡眠です」
あ、これ選択肢がありそうでないやつだ。
なるほど……。話が通じない相手って、大変だ。
俺は、はからずともロペスの苦労の一端を理解しつつ、寝室に拉致されるのだった。