【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「それじゃあお前は、病人を見捨てるって言うんだね!?」
「そうは言ってねえよ……」
またきた。
しかも、別のやつがきてしまった。
この前きたやつが、後ろで付き従っている様子を見るに、こいつがホリイとかいうやつなんだろう。
なるほど、やつらの親玉か。どおりで、話が通じないわけだ。
「このダンジョンにいるやつは、全員病気になっているはずだ! それなのに、特効薬がいらないってことは、そいつらを見捨てるってことでしょ!」
「いや、治ったって……」
そういえば、やばい転生者との話し合いって、ヨハンのときも最初はそうだったよなあ……。
あのときは、気を抜けない相手ではあったが、どこか楽しくもあった。
だが、同じ転生者ではあるものの、こいつとの話し合いは楽しくねえ……。
というか、こんなもん話し合いですらない。一方的に向こうの思い込みをぶつけられているだけだ。
「会話にならねえな」
「それはお前のほうだろ! 言葉が理解できていないんじゃないの?」
もうそれでいいよ。
というか、言葉が通じなくてもわりと会話ってできるんだぜ?
エピクレシの姐御のところにいるゾンビとか、言語は発さないけど、わりと言いたいことわかるし。
あと、匂いとかも問題ないんだよな。あれも、姐御の研究成果なんだろうか?
「俺の話聞いてるのか!?」
「悪い。ゾンビのこと考えていた」
「そうやって、都合の悪いことから逃げるから、問題を解決できないんでしょ! しっかりと話を聞けよ!」
「要するに、あんたらはなぜかうちの病を知っていて、なぜかその特効薬を持っているんだろ?」
「そうだよ。やっと話ができるようになったじゃないか」
「じゃあ、なんで病のこと知っているんだ?」
「そんなことはどうでもいいだろ。話を逸らすなって何度言えばわかるんだ」
いや、どうでもよくはないだろ。
あんたらうちにきたのは、その薬と称した水を売りにきたときが初めてだぞ。
どんな病か知らないのに、それに効く薬を売れるっていうのか?
ボスたちのように万能薬や、トルベリオのように病特化の万能薬もどきってわけじゃないよな。
なら、うちの病についてどこで知ったのかは、必要な話……。といっても、聞く耳持たねえんだろうなあ。
「それ、水だろ? うちは、水は足りてるから、わざわざ買うつもりはねえよ」
「はあ? 人のこと詐欺師呼ばわりなんて、所詮はその程度のやつってことじゃないか。これだから、周りのやつに媚び売って、過大な評価をされるやつは駄目なんだよ」
周りのやつって誰だろう。ボスかな?
ボス、俺のこと過大に評価してる気がするもんなあ……。
その期待に応えられなかったときが怖いから、俺の評価はそこそこでいいんだが。
「エーニルキアも、トルベリオも、はぐれ獣人どもも、サンセライオも、俺が率いてやるって言ってるのにまったく見る目がない!」
「え、そんなに色んなところに売り込みにいったのかよ」
っといけねえ。
なんかとんでもないこと言い出したから、思わず尋ねちまった。
だが、それだけ色々な場所に売り込みに行って、全員から断られったってことだよな?
なんというか、節操がない……。いや、この世界で生きるためなら、しかたないか。
「俺のすごさを理解できない馬鹿しかいなかったけどね。なにが、
なんか、俺の名前出たんだが……。
あと、王様もこいつの被害にあっていたんだな。
「お前らのせいで、俺は不当な評価を受けて、本来収まるはずだった地位を奪われているんだよ!」
「えぇ……。俺関係ないだろ」
恐らくだが、俺がいなくなった後のトルベリオで、ハーフリングたちのまとめ役にでもなろうとしたんだろ?
だけど、それには俺関係ねえじゃん。単に、連中の求める能力に見合わなかったってだけの話じゃないのか?
「俺が得るはずだった、正当な評価を返してもらう。だから、まずは病の特効薬をかって、俺に謝罪してもらうからね?」
すごい理屈だな。
そして、後ろにいるこいつの仲間たちも、それはおかしいと言うどころか、こいつの意見に同調している。
だいたいわかってきた。こいつら、自分の能力と成果が見合っていないんだろうな。
そして、その理由が自分にあると認められず、誰かのせいだと思うことで、現実から逃げているんだ。
そんな連中をまとめあげたのは、その中でも特にやばいこの男ってわけかい。
そりゃあ、話が通じない集団にもなるはずだ。
自分が正しいと思い込んでいるやつらが、同類を集めてそのとおりだと憤っているんだから。
「いや、だから……」
「まだ、病が治ったなんて嘘で自分を騙そうっていうのか」
お前には言われたくねえ……。
「ならいいよ。もう一度何度でも病を蔓延させてやるから。せいぜい後悔すればいい」
……まあ、そんな気はしていた。
やっぱり、こいつ自身がばらまいたってわけだ。あの病気を。
「人質ってことかい?」
「ようやく理解できたんだ。馬鹿に説明するのは、本当に疲れるね」
「つまり、あんたは病を操る能力を持っていると」
「へえ、それがどういうことかわかったってことか。そうさ。つまり、お前らは何度でも病になる。ここにいる従業員も客も人質だ。この薬を買ったら、治してやるよ」
……同じ人質でも、こうも違うもんかねえ。
「どうだ? たかだかゲームのキャラクターに、優秀だのなんだのもてはやされていたみたいだけど、こんな策お前もヨハンも思いつきもしないだろ」
それ、この前うちに大損害を出しかけた策なんだよ。
思いつきもしないどころか、ヨハンのやつはもっとうまくやっていたぞ。
「ヨハンの下位互換……。いや、比較すら失礼か」
「はあ!? 言うに事欠いてそれかよ! 訂正しろ!」
もう疲れてきた。そう思ったとき、ピルカヤの旦那を通じてボスの声が聞こえてきた。
『ロペス。相手の話を聞いても意味ないだろうし、しっかりと断っていいぞ』
そうさせてもらうか。
転生者だが、こいつからはなんの情報も得られないだろう。
そもそも、願望と現実がごっちゃになっている気がするし、発言の精査をするのも面倒なレベルだ。
「いや、もういい。何度も言うが、うちはお前の病の対処法は確立した。その水売りたきゃ他でやってくれ」
「……だったら、他でやってやるよ。ただし、発生源はお前の大事なこの場所だ」
……それは、案外迷惑だな。
病の能力者。であれば、どこから病を発生させるかも自由ってわけか?
今回の病はうちだけでなく、トルベリオにエーニルキアにサンセライオまで被害にあっている。
特に濡れ衣を着せられて、エーニルキアに恨まれるのはまずい。
なんせあそこは、勇者がいる国だ。
ボスもさすがに、その暴挙に出られるのはまずいと思ったのか、最低限こいつとの交渉を続けるつもりみたいだ。
「じゃあ、その水を買えば穏便に事を済ませるとでも?」
「いや、それだけじゃだめだ。まずは俺たちに土下座してもらうね。そして、この施設ももらうことにした。お前の成功は、俺たちからかすめ取ったものなんだか、当然だとわかるよね?」
『ロペス。だいたいわかった。そいつ、話が通じないからもういいぞ』
……ああ。本当に、どこまでも愚かなやつらだ。
俺にだけ聞こえているこの言葉が、どういう意味か理解できた。
だが、もしもこいつらが、ボスと対面して話すようなことがあったとしても、きっとこの言葉に食って掛かっていたんだろうな。
「危機感が足りねえ」
「は? まだ、なんか文句でもあるってこと? 俺を認めずに、本来俺が得るはずだった賞賛や金を奪って盗人のくせに」
「ああ、大丈夫だ。もうわかった。なら、まずは何から渡すべきか……」
「そうそう。そうやって、素直に応じてくれれば、俺も叱らなくてすんだんだよ。やっと、素直になってくれたみたいだね」
「じゃあ、まずはうちのカジノの目玉の宝箱の話だな」
「うん。ぜひ聞かせてくれる? こっちも、いちいち怒りたくなんてないんだよ」
そうして気を良くした男たちを連れて、俺はカジノで使う宝箱の入手先を案内することにした。
入り口の店から離れた、暗く深いダンジョンの奥地へ……。