【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
本当に馬鹿の相手は疲れるね。
だけど、根気よく話してやったことで、ようやく理解できたようだから、俺の努力も無駄じゃなかった。
ハーフリングどもの上に立ってやろうとしたときに、才能を理解できない愚かなチビたちはロペスに劣るなんて言い出した。
なるほど。たしかに、ロペスというハーフリングは多少はましみたいだね。
俺の才能を理解し、自分の非を認め、こうして宝箱の場所を教える程度の知恵はあるのだから。
「やっぱり、
「まあね。論点をずらしてばかりだったから、根気よく軌道を修正する必要があって大変だったよ」
「言い訳ばかりだったからね。まったく、金にうるさいハーフリングがお似合いの男だったわ」
それでも、最後は俺たちに宝箱を譲ろうとしたあたり、あいつはまだギリギリのところでやり直せるやつさ。
他の愚図どもは、最後の最後まで話を聞かない。
それどころか、卑怯な手で成功して、俺たちの足を引っ張ることをなんとも思っていない。
ここで大量の宝箱を手に入れたら、そいつらへの復讐をしないとね。
「しかし、なんでわざわざダンジョンに店を作っているのかと思ったら、宝箱を回収するためとはね。それって要するに、冒険者の真似事しているってだけだろ。それが成功者としてもてはやされるんだから、世間の認知がいかに歪んでいるかわかるね」
結局のところ、あいつは単に宝箱を盗んで商売しているだけじゃないか。
そんなこと誰にだってできる。そんなものをありがたがるやつらも、本当に程度が低くて嫌になるね。
「あいつらより先に、宝箱全部回収してやりましょう」
「そうしたら、俺たちを認めるしかなくなりますよね」
「堀井さんのこと舐めているから、こうなるんですよ」
「そうだね。ロペスのやつも、さすがに俺がきたら慌てて宝箱をゆずったくらいだし、後ろめたさはあったみたいだ」
ダンジョンの奥を進む。あいつが言ったとおり、こちらの道は危険な罠なんて存在しない。
たまにモンスターがいるから、やり過ごさないといけないとは言われていたけれど、面倒だから病に罹患させている。
なんで、俺がモンスターごときにびくびくしないといけないんだ。
「お、堀井さん! あの部屋の中、宝箱があります!」
「本当だ。ここがロペスが言っていた部屋みたいだね」
さすがに、俺を騙すような真似はしなかったようだね。
まあ、あいつ程度の知能では、俺を騙すなんて無理だろうし、身の程はわきまえているんだろう。
部屋の中に足を踏み入れると、そこには所せましと宝箱が転がっていた。
あいつの話では、ここには定期的に宝箱が生成されるらしいから、そのたびに回収できるってわけだ。
これからは、ここは俺たちで管理してあげるとしよう。
「じゃあ、試しに開けてみようか」
「そうですね。これだけあるのだから、少しくらい中身を確かめても良いですよね」
全員で、宝箱を一つずつ手に取る。
それでもまだまだ手をつけていない宝箱はあるので、後で全て外へ持ち運ぶとしよう。
さて、何が出てくるか。
こいつらのゲーム知識のおかげで、ある程度の装備品は手に入っているけれど、できれば魔王を倒せるくらいの装備が欲しい。
ここまで不当な評価で苦しんできた俺だから、きっとその反動でそれくらいのアイテムは出てくると思う。
「……煙?」
罠? 部屋を埋め尽くす煙の正体に気が付く前に、体に異変が訪れた。
かゆい。目がかゆい。涙が止まらない。鼻水もくしゃみも止まらない。
鼻と目が、体内に侵入した煙を排出しようとフル稼働している。
自分の意思で止めることができない。
体が勝手にそれらを外に出そうとし、その結果俺が苦しむことになっている。
あれは、煙じゃなくて……花粉?
ぞっとする。煙に見えるほどの大量の花粉が、部屋に充満している。
それが無害ならよかったけど、俺も周囲も目をこすりながらくしゃみをし続けていることから、有害なのは明らかだ。
「花粉、症……」
この世界に、そんなものあるのかよ。
駄目だ。かゆみで、くしゃみで、涙で、何も考えられない。何も考えたくない。
ロペスめ。俺を騙したのか。
「ほ、堀井さん」
くしゃみをしながら、名前を呼ばれるが、反応する余裕がない。
「花粉症なら、病ってことですし。堀井さんが治せませんか!?」
無理に決まってんだろ。少しは考えろ馬鹿。
俺が治せるのは、自分でばらまいた病だけだよ。
だから、自作自演して病を起こして治したんだろうが。
くしゃみが止まらない。くしゃみが……。
あれ? 今、くしゃみしたときに、赤いものが見えたような……。
吐血? なんで……。
周囲を見回すと、そこにはいつの間にか二種類のモンスターたちがいた。
一方は花のようなモンスターであり、花粉はこいつらが原因だろう。
こいつらを、病にして殺してしまえば……。
だけど、体に力が入らない。
急激に手足が震え、まともに立つことすらできなくなる。
それ以上に、苦しい。血を吐くほどに苦しい。
きっと、もう一方のモンスター。バジリスクのしわざだろう……。
「――!!」
もう、まともに声を出すことすらできない。
体中の痛みは、毒に蝕まれているせい。
だというのに、花粉のせいで無理やりくしゃみをさせられ、そのたびに血を吐きながら苦しむことになる。
やめてくれ。もう勘弁してくれ。
俺が何をしたっていうんだ……。
毒で苦しめるだけなら、花粉なんていらないだろ……。
くしゃみが怖い。くしゃみをするたびに毒で弱った体の節々が痛む。
まるで、自らの死期を早めているかのようで、くしゃみをするのがとても怖い。
だけど、自分の意思でそれを止めることなんてできない。
だいたい、なんでこのバジリスク、すでに毒にやられた俺たちに、執拗に毒を吐き続けているんだ……。
ああ、まただ。くしゃみが出る。そのたびに体が壊れていくのがわかる。
あと何度かのくしゃみで、俺の体は完全に壊れてしまうんだろう。
自分で自分を壊すかのような恐ろしい状況に、思わず震えそうになる。
「ふ、ふざけんな……! 堀井。てめえについていけば、成功するって言っていたじゃねえか!」
「何が……卑怯な連中から、簡単に金を巻き上げられるよ……。この嘘つき」
「うるさい! お前らが失敗しなければ、こんなことには」
「何が失敗だ! 失敗したのは、お前だろ!」
うるさい。うるさいうるさい!
結局お前らも同じか。俺の才能を理解できない馬鹿だったってことか。
どこにいる。俺のことを理解できるやつはどこにいる。
俺の才能を認めて、権力も金も与えないこの世界が悪い。
大体、俺の能力のおかげでここまでこれたんだろ!
俺のゲーム知識のおかげで、そんな立派な装備も手に入ったんだろうが!
ああ、もう駄目だ。
この世界も全然駄目だ。クソみたいな世界ばかりで嫌になる。
前の世界と同じで、俺を認めていないゴミのような世界。
いいさ。前回でわかったことだ。
ここで死んでも、前みたいに次があるんだろ?
こんな世界に未練はない。だったら、さっさと終わらせて次の世界に転生させてくれよ。
あの女神か、別の神か知らないけど、今度はちゃんと俺を認める世界を選べよ。愚図ども。
もう騒ぐことすら馬鹿馬鹿しくなり、俺は完全に体が壊れるのを待ち続けた。
さっさと死んで、次の世界へ……。
早くしてくれ。もう痛いのは嫌なんだ。
あるはずだ。あるはずだ。
絶対に俺を理解するまともな世界があるはずだ。
俺を馬鹿にしたやつら全員を見返せるような世界が……。
痛い。苦しい。もうこんな世界に未練はないから、早く……。
本当に……次の世界はあるのか?
いや、絶対にある。だってそうじゃないとおかしい。
俺を認めない世界しかないなんておかしい。
だ、誰か……俺を認めろ。俺を助けろ。
俺という才能が認められないなんて、あって良いはずが――。
◇
なんで、この人が怖いかわかった……。
この人、怒らねえんだ。
ビッグボスをこけにされるという例外を除いて、怒ることすらねえんだ。
ただ、何の感情もなく、淡々と対処するってだけなんだ。
そりゃあ、怖えわけだよ!
俺たちを信頼してくれているときも、失望しているときも、見限るときでさえ、見た目からじゃわかんねえんだから!
幸い、俺たちはまだ身内程度に思ってもらえているが、くれぐれも気を付けよう……。
この人、調子に乗った相手にも、いつもと同じように接して、ある日突然敵認定する人だぞ……。
「……堀井とかいうやつには、この恐ろしさわからねえんだろうなあ」
俺を介してとはいえ、あいつとのやり取りは途中からボスとのやり取りになっていた。
そんなボス相手に、自分に都合のいい戯言を吐き続ける。
だけど、途中からボスはお前の話なんて聞く耳持ってくれていなかったぞ。
あまりにも自分本位な妄言を垂らすものだから、対話不能の敵と判断されてしまったんだぞ……。
お前は、最後まで自分が正しいと思い込んでいるし、ボスや俺を言い負かしたと思っていたんだろうけど、それ、もう相手にされていなかっただけだ……。
「なんか、すごいことになってしまった」
……ほら、お前らの苦しむ姿を見た感想がこれだぞ。
どうやら、ヨハンや俺に劣等感を抱いていたようだったが、ヨハンのように脅威という認定すらされていないぞ。
結局、お前はボスに相手にすらされなかったな……。