【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「良いことを思い付きました」
「たぶん失敗しますよ」
「なにをぅ!? まだ話してもいないのに、以心伝心ですねぇ!!」
だって、絶対ろくな思い付きじゃないときのフィオナ様だもん。
もうわかるよ、そのくらい。出会ってから、どれだけ一緒にいたと思っているんですか。
「……」
「なんですか、なんかニヤニヤし始めていますけど」
「せめて、はにかんでるとか、そういう表現はできませんか!?」
「良い意味で言いました」
「ごまかされてあげるのは、今回だけですからね!」
いや、きっと次回もごまかされてくれる。
この魔王様は優しいって、俺は知っているんだ。
またニヤニヤ……いや、はにかんでいる。
「俺の考え読んだりしています?」
「さすがの魔王にもそれは無理です。ただ、素直にかわいいことをかんがえていそうなときは、なんとなくわかります」
読めてるじゃん。こわっ……。
「今、かわいくなくなりました」
「そもそも、男相手にかわいいっていうのもどうなんですかね?」
「む……嫌でしたか?」
「別に良いですけど、かわいいっていうなら、俺じゃなくてフィオナ様のほうがかわいいです」
「……」
はにかんでる。ところで、良いことってなんだったんだろう?
脱線させたのは俺だけど、日頃のフィオナ様ってちょろいから、もう忘れていそうだな。
「……魔王様をそこまで翻弄できるの、レイくんくらいだよなぁ」
「ほ、翻弄されてませんけど!? 魔王ですから!」
「いえ、俺には取り繕わなくていいので……」
「翻弄されていました! まったく、とんだやんちゃ者ですね!」
俺程度に翻弄されていては、勇者との戦いとかやばそうなので、心を強く持ってください。
……いや、そんな遊び心が無いフィオナ様は、なんか嫌だな。
適度に翻弄されるあなたであってください。
「ところで、イチャつくのなら、魔王様の部屋でやったほうが良いんじゃないですかねえ」
「いや、イチャついてるつもりはないが……」
「ええ。レイが生意気なのは、今に始まったことではありませんし」
「……おじさん、よくわからなくなりそうです。それじゃあ、二人は何の話をしていたんですか?」
リグマの言葉のおかげで、フィオナ様は元々の発言をようやく思い出したようだ。
はっとした顔がかわいらしく、魔王じゃないときはとことんポンコツだなと思う。
「そうでした。まったく、この口は本当に生意気ですね」
「今は、何も言わなかったじゃないですか」
「言わなかっただけで、また変なことを考えていたでしょう」
それを言われると、こっちも弱い。
たしかに、魔王相手にポンコツなんて考えてしまったが、ちゃんとかわいいってフォローしたじゃないか。
差し引きで無罪だな。よし、やっぱり俺は悪くない。
「レイくん、あんまり魔王様をからかっていると話が進まないぞ」
「仕方ない……リグマに免じて許してあげます」
「私は魔王で、リグマは四天王ですよね!? 私のほうが偉いんですけど!?」
そうですね。そもそも俺よりも偉いです。
まあ、そんなフィオナ様の発言は一旦置いて、良いこととは何か聞いておこう。
「良いことってなんですか?」
「う~……腑に落ちませんが、良いでしょう。快復の湯のことです」
「快復の湯? 今回新たに作った温泉ですけど、稼働はまだ準備中ですね」
温泉ということもあり、ロペスに管理を任せようとも考えたが、効果がわりと良いものなんだよな。
だったら、これ以上欲望のダンジョンの目玉を作るよりも、それ単独で別の場所の集客を狙うのも良さそうだ。
だが、依然として問題なのは、魔王軍の人手の少なさだ。
少ないと言うと若干の語弊があるな。内部での人手は潤沢なのだが、表立って働ける者、特に施設の管理者が少ない。
テラペイアやルトラの協力も不可欠ではあるし、快復の湯の地上進出はまだ先の話になると思う。
「それは外に向けての稼働の話で、地底魔界の者たちなら使用可能ですよね?」
「ええ、身内で使う分にはテラペイアとルトラにちょっとお願いすれば、いつでも使えますけど」
「……では、私が利用するというのはどうでしょうか?」
フィオナ様が快復の湯を?
……つまり、俺にはわからないだけで、何か病を患っている?
まさか、あの転生者の加護が、フィオナ様にまで及んでいたのか!?
実験的に対処したが、生かして病を解除させるべきだった? いや、そもそも楽に倒すべきではなかった?
「い、急いで治しましょう!」
「ええ。可能性はありますので、試してみるべきかと」
「……レイくん、ちょっと落ち着こう」
「落ち着こうって、フィオナ様が病を患うなんて、大変なことだぞ」
焦る俺をリグマが止める。
こんなときでも冷静なのは頼りになるが、こうしている間にも病状が悪化したら問題だ。
やはり、急いで快復の湯の準備に取り掛からないと。
「ピルカヤ!」
「はいは~い。どうしたの~?」
「まあ待てって、二人とも。魔王様。率直にお聞きしますが、魔王様は病気に罹っているのでしょうか?」
何を今さら。だからこそ、快復の湯を利用しようとしているんじゃないか。
リグマの当然の質問を受けて、フィオナ様も呆れ……あれ? なんか困ったような表情だな。
「ええと……病だったら良いなあって思います」
「良いわけありません。病なんですよね? なら、すぐに治しましょう」
まさか、病気だから仕事をさぼれる口実になる。なんて考えていないだろうな。
だとしたら安心してもらいたい。今さらフィオナ様が仕事をさぼっていても、そこまで文句は言われないから。
「魔王様を心配して、レイがわりと判断力を失いかけています。魔王様が心配されている病って、なんですか?」
「……ええと、私の魔力が一万に届かないのは、病のせいじゃないかな~なんて」
……良かった。フィオナ様は病に罹っていたわけではないらしい。
安心したせいか、なんか急に疲れてしまった。
「ご、ごめんなさい。そこまで心配してもらえるとは……いえ、でもずっと9999だというのなら、そこから成長できないのは、やはり病やら状態異常なのでは?」
「たぶん、成長が上限に達しているだけなので、心配いりません……」
「まあ、お元気そうですからねえ。病を患っているとは思えませんよ」
「え、魔王様病気だと思ってたんですか? 見るからに元気そうじゃないですか」
そうだね。リグマとピルカヤの言うとおりだ。
どうにも、俺が一人で勝手に焦ってしまったようだ。なんとも恥ずかしい姿を見せてしまった……。
「まあ、快復の湯を使いたいなら止めませんが、テラペイアたちも治すべき病気がないって判断するはずですよ」
そうだ。テラペイアが定期的に健康診断をしているのだから、そんな病があったら隠し通せるはずがなかった。
う~ん……。どうにも、冷静さを欠いてしまっていたようだ。醜態だな。
「むぅ……。では、仕方がありません。念のため温泉に浸かるだけ浸かっておきましょう」
「はいはい。ごゆっくり……」
快復の湯の効果はともかくとして、普通の温泉としては利用できるはずだからな。
フィオナ様も、どんな温泉なのか興味があるのかもしれない。
「レイも一緒に来てくれますよね? 今日は温泉宿お泊りにしましょう。なんだか疲れているみたいですし」
「誰のせいで疲れたと思っているんですか……」
「……私を心配してくれたためですか?」
「当然でしょう……」
「ふふ、当然。当然ですか。まあ、レイは私のこと大好きですからねぇ。心配させてしまってすみません」
「まったくです」
本当なら叱りたいところではある。
だけど、そんな嬉しそうな笑顔を見せられたら……まあ、無理だよな。
まったく、この笑顔の前では逆らえる気がしない。
「んじゃあ、おじさんたちは先に宿の確保してますね」
「え、ボクも?」
「邪魔しちゃいけないからなあ。ついでに撤収するぞぉ」
「う~ん。まあ、仕事がないのならそれでもいいや。魔王様とレイは、二人で温泉に入っちゃうみたいだしね」
……いや、ピルカヤはきっと勘違いしている。
たしかに、二人で温泉に行くとは言ったが、一緒に入浴するわけじゃないからな?
フィオナ様も、そんなピルカヤの発言を聞いたため、顔が真っ赤になってしまっている。
「い、一緒にはまだ無理です!」
「予定があるような言い方しないでください……。ピルカヤが勘違いしますので」
「可能性はゼロではないのでは!?」
「どこにムキになっているんですか……」
なお、フィオナ様の魔力は、快復の湯に入っても一万にならなかった。
当然といえば当然の結果だな。