【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「……なるほど、それは大変でしたねえ」
「なんか、ディキティス自身も、ダスカロスにお説教されに行きましたからね」
本当に、困ったものだ。
せっかくのホワイトな魔王軍。パワハラなんて目も当てられない。
「そろそろ……本気を出すときがきたようです」
「組織の改革ですか」
普段はぐーたらな魔王様だが、さすがに魔王軍全体の規律の問題となると、そうも言っていられないらしい。
フィオナ様は、心なしか普段より一割ほどキリッとした顔で、ピルカヤに指示を出し始めた。
「ピルカヤ。本日の業務後に、全員を集めてください。……いえ、いっそのこと今日はもうお休みにして、恩賞の儀でも」
なんだか話が大きなことになりそうだな。
単にパワハラを禁止する通達をするだけかと思ったが、これを機に魔王軍の者たちを労うことにしたのか。
フィオナ様が、珍しく魔王として働こうとしていることだし、俺は可能な限り補佐するように徹しよう。
「むむむ……。さすがに、急なお休みは大変ですね。では、明日にします。明日全員お休みなので、通達してください。……嫌がるんじゃありません! 魔王ですよ?」
……まあ、ピルカヤは嫌がるだろうけど、それを魔王という立場で封殺するあたり、これも一種のパワハラかもしれないが。
とりあえず、今日は普通に仕事することにしたらしいし、俺もダンジョンの様子を見に……。
なんですか? 俺の腕をつかんでいますけど、何か用ですか?
「レイは、今日は一日私と一緒です」
「……寝るんですか?」
「それも良いのですが、明日はみんなの働きを褒めて、褒美にアイテムを配ろうと思っています。なので、一緒に魔王ボックスの整理をお願いします」
「ああ、そういうことですか。それなら喜んで手伝います」
本気だ。今回のフィオナ様は、本気で明日の場を成功させようとしている。
なんか、いつもと違ってだらだらした感じが一切ないし、本気で挑んでいるのがわかる。
なら、俺はそれを邪魔することなく、成功できるように手伝わせてもらうとしよう。
◇
全員というわけではないが、ガシャ祭りにいたメンバーは少なくとも揃っている。
そして、それに加えて蘇生したばかりの二十人のディキティスの部下たち。
要するに、フィオナ様が信頼できている者たちが、ここに集結しているということだろう。
俺は、フィオナ様の隣でその様子を見ているわけだが……。
フィオナ様が玉座に立ち、みんなよりも高い位置にいるのはわかる。
だけど、さすがに今回は、俺も下にいたほうが良くない?
四天王のみんなも、最前列とはいえ玉座には立っていないのだから。
「それでは、恩賞の儀を始めます」
よそ行きのフィオナ様だ。
この場にいるのは、気心知れた相手ではあるものの、こういう場ではちゃんとするんだな。
それに、思っていたよりも本気だ。これまでも、働きに応じて報酬を与えることはあったが、ここまで大々的でもなければ、ここまで重々しくもなかった。
ロペスとか、わりと気軽に報酬を与えられることが多かったからな。
「褒美は都度与えていますが、今回はわけあって改めてその功績を称える必要があるようです」
それはやはり、大きくなってきた魔王軍で、誰がどういう功績を上げているか、改めて周知するためにということか。
ピルカヤとか、すごく喜びそうだな。
「まずは四天王。プリミラ、ピルカヤ、リグマ、リピアネム。前へ」
フィオナ様の言葉を聞いて、四天王が真面目な表情で玉座へと登壇する。
そして、片膝をついてひざまずくと、一言も言葉を発することなく、各々の功績を聞いていた。
金品を与えたり、俺と一緒に選んだアイテムを与えたりと、実に魔王様らしい姿だ。
ピルカヤだけでなく、心なしかプリミラも嬉しそうにしている。
そうして、
いずれは、ディキティスの部下たちも、こうして褒められるんだろうな。
◇
「最後に、レイ」
……そろそろ終わりかと思ったが、俺の名前まで呼ばれた。
もしかして、締めの言葉でも言わされるのか?
まいったな。何も考えていないぞ。
「どうしました? 他の者と同じく、私の前にひざまずきなさい」
……フィ、フィオナ様が、俺に対してまで魔王みたいだ!
なんだか感動する。いつもの優しいフィオナ様ではない。
まるで初めて会ったときの、魔王としてのフィオナ様のようで、とても新鮮な気持ちだ。
「は、はい! すみません」
言われるがままに、思わずフィオナ様の前にひざまずく。
いつもはかわいいフィオナ様も、今日は美しい魔王としてのフィオナ様になっている。
……まあ、どちらも好きだが。
「あなたは、魔王軍の復興に最も貢献しました。ダンジョンの作成、蘇生薬の生成による魔王軍の復活、物資の調達、魔王軍の運営と多岐にわたり貢献しています」
まあ、だいたいはいつもやっていることの話だな。
要するに俺の趣味のダンジョン作りと、フィオナ様の趣味のガシャの話だ。
「この働きは、常々称えるべきものではありますが、改めて皆の前で功績として刻むべきものでしょう」
いつも褒めてもらっているので、俺はそれで十分なんだけどなあ……。
「よって、レイをこの場で正式に宰相に任命します。今後も魔王軍の実務を担い、私のために働きなさい」
「はい……?」
フィオナ様のために働く。
それは良い。それは出会ったころからずっと変わっていない思いだ。
だけど、正式に宰相として任命……?
いつものように、言葉だけの適当な宰相と違って、こんな場所で大々的にそんなことを言ってしまったら……。
うわぁ……。なんだよこの歓声。
フィオナ様が蘇生薬を引き当てたときじゃあるまいし、そんな盛り上がられても困る。
逃げ道は……と考えていると、フィオナ様が小声で俺にだけ聞こえるよう、囁いてきた。
「私に仕えたいと言ってくれましたよね? なら、覚悟を決めてください。あなたには、ずっと私の傍で働いてもらいます」
……ずるいなあ。
そんなことをそんな不安そうな顔で言われたら、断れるはずないだろう。
元より決めていたことだ。俺は、この魔王様に仕えて、この魔王様のもとで貢献し続ける。
なら、与えられた役割を受け止めて、しっかりと活躍すると腹をくくるか……。
「……今後も、宰相として魔王様の役に立てるよう、精進します」
本当にずるい。
そんな花が咲いたような笑顔をされては、俺も覚悟を決めるしかないじゃないか。
「いやあ、良かったです。レイが宰相を引き受けてくれなかったら、魔王軍全滅でしたからね。私をまた一人にする気ではなくて、本当に良かったです」
いや、今の魔王軍なら、そう簡単に全滅とはならないと思いますよ?
「む……。わかっていなさそうな顔ですね? あなたが、今後も自由にダンジョンの指揮をするのであれば、宰相であることを自覚してください」
「いえ、ですが……」
「真面目なレイがダンジョンを指揮しないと、他に誰が私の代わりに働くというのですか」
「……」
たしかに、この魔王様の代わりは必要だよな。
魔王様がゆるい感じだからこそ、この魔王軍は雰囲気の良い職場になっている。
であれば、ゆるい魔王様を補佐するために、誰かが魔王様の代わりをやらないと駄目か。
「……わかりました。改めて、宰相として働きます」
「ええ、よろしくお願いします。私のために、今後もずっと働いてもらいますね?」
う~ん……。なんか、ブラックな言葉に聞こえる。
聞こえるけど、この魔王様と一緒なら、それでも良いかなと思えてしまうんだよなあ。