【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
俺は、エーニルキアで定職につかずに生活していた。
なんとなく、自分に合う仕事ではないと、何をしても長続きしなかった。
周囲が大人になり、やりたくもない仕事をこなしていく中、やはりこうではないとしっくりとこない生活を送っていた。
なんとなく生きていき、なんとなく仕事をしていたら、なんとなく妻ができ、子供も産まれて家庭ができた。
だけど、やはりエーニルキアの生活は、俺の望んでいるものではないと思い続けてきた。
このまま、なんとなく生きていくだけの人生なんだろうなと思っていた。
ある日、それが嫌になった。
冒険者になる。そう決意した俺は、妻と娘に正直に話したところ、猛反対された。
だが、成功すれば二人をもっと良い生活にしてやれると、当時の俺は成功する未来しか見えていなかった。
幸いなことに、モンスターたちとの戦闘はそれなりに得意だった。
冒険者として大成することを確信した俺は、家族を顧みることなく、がむしゃらに宝を探し、モンスターを倒し、ダンジョンを探索した。
徐々に、娘との会話が減った。妻と口論する頻度が増えた。
家にいるよりも、冒険者として活動する時間のほうが、心地よく感じるようになった。
そんなことを考えるようになった報いだろうか?
俺は、二度と家族に会えなくなってしまった。
◇
冒険者として生きていくつもりだった俺は、なぜかダンジョンで働いている。
魔族のための宿屋の従業員か……。かつて、様々な仕事を転々とした経験がこんなところで活きるとは……。
「ダートルさん」
「どうした? なんか問題でも起きたか?」
「いえ、ちょっと相談が……」
幸いなことに、俺の指導役は気の良い男だった。
というか、もはや慕っている自分がいる。
だから、こんな風に相談に乗ってもらうこともある。
「俺たちって、いつ解放されるんでしょうか?」
それは、最初にダートルさんから説明された。
ダンジョンに挑んだ俺たちは、魔族に捕まった。
殺されずにすんだのは、人手が欲しいからであり、俺たちはこうして働かされている。
「う~ん。お前なら働き者だし、望むなら条件付きで解放されるだろうが……ここの暮らし、やっぱり嫌いか?」
いや……労働条件が、エーニルキアよりも良い。
人間だからと使い潰すこともなく、むしろ身体の心配は常にされている。
ならば低賃金なのかと言われると、それも違う。
はっきり言って、今までのどんな職場よりも居心地が良いのはどういうことなんだ……。
そして、本当に解放されるというのだから、俺の中での魔族の印象が、音を立てて崩れていく。
まあ、ここでの情報を漏らせないように、魔法なりアイテムで何かされるらしいが……。
そのくらいなら、ヤニシアのエルフよりも、よほどましな待遇と言えよう。
「ちょっと、身辺整理と言いますか、こちらで本格的に生活するにあたって、やっておきたいことがありまして」
「ああ、そういうことか。だけど、魔族の存在バラしたら、さすがにひどい目に遭いそうだから、気をつけろよ~」
「しませんって、そんなこと……」
俺たちに、もう女神の加護なんてない。
魔族に無理やり労働させられているまでは、まだ言い訳が利くかもしれない。
しかし、俺を含めた何人かは、こちらの生活のほうが良いと思ってしまっている。
ならば、もはや言い訳の余地がない裏切り者なんだろう。
だったら、吹っ切れてしまうべきだ。
人類の裏切り者として、俺はもう死んだものとして、全てにけりをつけてから、こちらで生きていくとしよう。
「……あの」
「どうした? 休暇なら、申請すればいつでも許可するぞ」
「妻と娘がいるんです」
「……あ~。そういうこと。でもなあ、さすがにいくらなんでも、許可できないと思うぞ?」
「そうですよね。やっぱり……」
「いくら家族相手とはいえ、魔族の存在を漏らしたら、ろくな目には遭わないはずだ」
「妻と娘まで、こちらに住まわせてもらうのは、虫が良い話ですよね?」
「え……?」
ダートルさんが驚いた顔を見せる。
そうだよなぁ……。俺一人住み込みで働かせてもらえているだけでも、費用はかかっているはずだ。
そこに、妻と娘までというのは、許可されないだろう。
確実に、これまでよりも良い生活を送れるはずなのだから、何としてでもこちらに住まわせてやりたかったが……。
「いやぁ……。魔族の土地で暮らせといきなり言われても、お前の奥さんも娘さんも、頷かねえだろ」
「いえ、説得してみせます!」
「魔族に雇われているという、一番重要な部分を隠しながらか? 後で大喧嘩しそうだな」
「大丈夫です! 冒険者になった時点で、関係が冷え切りそうだったので!」
「余計、心配なんだけど……」
そんな不安そうな様子を見せながらも、ダートルさんは最後には上に掛け合ってくれた。
ほら、やっぱり。許可を出してくれた魔族の方たちは、話が分かる良い人じゃないか。
あとは、なんとかして説得を……。
◇
「絶対に後悔はさせない!」
「死んだと思っていた夫が帰ってきたかと思えば……なんなの。その暑苦しさは……」
妻は、怒りよりも呆れが勝ったようだ。
だが、話は聞いてくれているし、なんとかして移住させないと。
……どうやって、説き伏せよう。
「とにかく! 今までの暮らしよりも、絶対に良い暮らしになるんだ!」
「……冒険者になるって言ったときも、そんなこと言ってたじゃない」
「うっ……!」
そこを突かれると弱い。
たしかに、あのときは何の未来もないのに、根拠もなくそう言った。
だが、今回はすでに体験している。
だけど、そこらを詳しく話すこともできない……。
「たしかに、そっちに移住したら、しばらくは外出もできない!」
「え……」
「だが、金払いが良く、休みも多く、飯も美味ければ、珍しくて楽しい設備も多い!」
「う~ん……」
「俺がすでに体験しているから、自信を持って言える! エーニルキアより、良い暮らしだぞ!」
「はぁ……」
駄目か……。まあ、こんな具体性がない話じゃ、納得してくれないよなあ。
「言ってることは、冒険者になったときと同じだけど、今度は真剣な話みたいね」
「あ、ああ!」
「あのときと違って、昔みたいな目をされたらねえ……」
あのときの俺、わりと言い訳ばかりだったからなぁ。
でも、今回は本当に違うんだ。
「私とこの子の人生がかかっているんだけど?」
「当然、理解している!」
こちらの目をしっかりと見据えてくるが、そらすつもりはない。
何もやましいことなどないし、本当にそう思っての言葉なのだから。
「まあ、このままここでその日暮らししても、どうにもならないからね」
妻は疲れたように、そうこぼした。
そして、娘はそもそも生活が変わろうと気にしていないらしい。
それだけ、これまでの生活がつまらなかったらしく、俺どころか自分の人生にすら興味をなくしてしまっていたんだろう……。
◇
なじられることは覚悟していた。
裏切り者と恨まれることを覚悟していた。
だが、さすがは俺が選んだ妻であり、俺たちの娘だ。
魔族の庇護下で暮らすと言ったときは、さすがに俺がおかしくなったと思われたが、俺以上にあっという間にここに馴染んでしまった。
それだけ、こいつらには苦労をかけていたってことなんだろうな……。
女神とか人類とか、もうそういうものがどうでも良くなるほど、追い込まれていたんだろう。
今では、二人ともすっかりと魔族派といえる存在だ。
「パパ! あれすごかった! お星さまがいっぱいあって、すごいきれいだった!」
「魔導映写館って言うらしいぞ。お星さまだけじゃなくて、外の国の映像や、色んなお話も映せるみたいだ」
「見たい!」
「わかった。それじゃあ、ダートルさんに、予定を聞いてみるよ」
だから、これからはこの二人のために、俺も一生懸命宿屋の従業員としてがんばらないとな。
「休め」
……働きすぎも良くないらしい。
難しいもんだな。魔王軍での生活というものも……。