【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

336 / 398
第336話 将来必要になる技術

「そんなに急がなくて良いんですけど」

 

「最近、みんなからの注文が減っていたからね。でも、テラペイアとダスカロスに叱られない範囲で作ったわよ?」

 

「それなら良いですけど。マギレマさんみたいに、怒られないようにしてくださいね」

 

「マギレマは、わりと熱中しちゃうからね。私は、それよりは自分が見えているわ」

 

 本人がそう言うだけあって、マギレマさんよりも要領が良いからな。

 ラプティキさんの場合、熱中するところは同じだけど、ちゃんと無理の無い範囲で作業している。

 プリミラと同じように、そのあたりの配分が上手という印象を受ける。

 

「それにしても、すごい数の服ですね」

 

「……ええ。ラプティキは頑張り屋ですからね」

 

 部下の仕事ぶりを褒めるフィオナ様だが、なんだか元気がない。

 というかげんなりしていると言うか、疲れていると言うか……。

 

「どうしました?」

 

「店に出す服と同じ物を全て作成し、そのたびに私に着せてきました」

 

「魔王様、とてもお似合いでした」

 

 なるほど。

 俺が知らないうちに、フィオナ様は再び着せ替え人形になっていたらしい。

 

「というわけでレイさん。魔王様のお召し物は、以前より増えているから、好きなだけ二人だけで鑑賞すると良いわよ」

 

「興味はありますけどね」

 

「し、しかたありませんね! レイが、そんなに私を見たいと言うのであれば、魔王の勇姿を見せてあげましょう!」

 

 勇姿ではないと思うんだけど、それだけ気合を入れないといけないということだろうか……。

 

    ◇

 

「こういうふうに、自分で着やすい服は良いんですけどねぇ」

 

 ……いつもどおりフィオナ様の部屋で二人きり。

 それは良いんだけど、まさか同じ部屋にいるのに、そのまま着替えるとは思わなかった。

 さすがに、魔力的な何かで姿は隠しているけれど、なんというか落ち着かない……。

 

「これなんか、楽で良いと思います」

 

「そうしてみると、普通に美人なお姉さんって感じですね」

 

「ふふんっ! ようやく、正直に私を褒められるようになりましたか!」

 

「たった今、美人要素が残念要素に変わりました」

 

「お、おのれ人類……」

 

 人類関係ありません。十割あなたのせいです。

 それとも、俺が元人類だからそっちに対しての恨みか?

 

 この世界ではあまり見ない、ちょっとおしゃれな洋服を着こなすフィオナ様は、見た目だけは相変わらず美人だ。

 しかし、口を開けば残念であり、最終的にはかわいいという判断へと落ち着いてしまう。

 まあ、そっちのフィオナ様のほうが俺は好きだけど。

 

「転生者たちから話を聞いて、ここまで色々な服を再現できるって、ラプティキさんはすごいですね」

 

「熱意がたまに魔王を襲うのが玉に瑕ですが、あの子も優秀な子ですからね」

 

 それだけフィオナ様を慕っているということもあるんだろうな。

 きっと、作った服は全部フィオナ様の分も用意するぞ、あの魔族。

 

「ん……? それって」

 

 そんな様々な服を眺めていると、とある衣装が目に留まった。

 よく知っている服とも言えるが、なじみがあるかと言われるとそうでもない。そんな服。

 

「ああ、これですか。これは、まったく覚えがないですねぇ」

 

 まあ、こちらの世界で生きているフィオナ様にとっては、そうかもしれない。

 だけど、俺や時任たちにとってはそうではないそれは、着物と呼ばれる服だ。

 日常で着るわけではないが、わりと目にする機会はある。

 

「テイランの服ともまた違う。なんとなく、どこかの民族が着ていそうですね」

 

 それ、うちの民族です。いや、元うちの民族と言うべきか。

 

「着るの大変そうですね。さすがに、こういう衣装となるとラプティキさんの補助が必要ですね」

 

 というか、ラプティキさんも知らない服のはずだけど、よく作れるな。

 そして、フィオナ様に一度着せたということは、着付けもできるということだ。

 

「……見たいですか? これを着た私を」

 

「まあ、気にはなりますね。フィオナ様綺麗だから似合いそうですし」

 

 和服を着た、美しい海外の女性みたいになりそうだ。

 だけど、ラプティキさんをここに呼ばないと、さすがに一人で着ることができないだろうな。

 

「では! レイのために、着てあげましょう!」

 

「一人で大丈夫なんですか?」

 

「ふっふっふ……。魔王ですよ? だいたいのことは、全部一人でやらざるを得なかったので、何のこれしき!」

 

 フィオナ様って部下想いだからな。

 仕事とかは、全部適任者に任せていたとしても、身の回りのことは自分でやっていたということか。

 まあ、マギレマさんみたいに、食事を用意したがる部下がいたら、そちらの思いを優先していたみたいだけど。

 

 なんというか、部下の中で自分が異分子みたいな考えが、ちょくちょくとうかがい知れる気がする。

 みんな魔王様のことが大好きなはずなのに、ずれているというか、自分への自信が無いというか。

 

「俺はフィオナ様のこと大好きですよ?」

 

「なっ! な、なんでしょうか? いきなり。い、いえ……そ、そうですね! レイは私のこと大好きですし、これからもずっと一緒にいてくれますからね!」

 

 テンパりだした。

 やっぱり、自分の人望というものに自信がないんだろうなあ……。

 

「それに、魔王軍のみんなもフィオナ様のことが大好きです」

 

「そ、それはぁ……。そう、でしょうね。ええ」

 

「だから、もっとみんなにウザ絡みすれば良いと思いますよ」

 

「ウザ絡みって!」

 

 俺にはよくするくせに、他のみんなには、なんだか一線引こうとしているという感じが、たまに見えるからなあ……。

 

「フィオナ様がどんな態度で接しても、みんな嫌がらないと思います」

 

「う~……。か、考えておきます」

 

 そう言いながら、フィオナ様は俺の頭をなでて落ち着こうとしていた。

 過去に部下と何かあったか? それとも、自分以外を全滅させようとした負い目か?

 互いに好意的で仲が良いのに、なんだかどこかおかしい関係だなと思えてしまった。

 

「さあ、着物魔王です。褒めたたえなさい!」

 

「……綺麗は綺麗ですよ?」

 

「な、なんですか? ははん、さてはいつもの照れ隠しですね。素直じゃありませんね。まったく」

 

「いえ、というよりも……なんか、着方を間違えていませんか?」

 

 着崩れているような、正しくないような、というか……乱れている。

 良くないな。これはまったくもって良くない。

 なんか、はだけそうになっているというか、このままじゃ俺の精神上とても良くない。

 

「あ、そんなこと言って目を逸らして、やっぱりいつもの照れ隠しですね。ふふん、もっと魔王の勇姿を見せてあげましょう」

 

「いえ、そんな状態であまり動き回ると……」

 

 ほら、言わんこっちゃない。

 どんどんはだけて、肌がさっきよりも露出していっているじゃないか……。

 だから、ラプティキさんを呼べば良かったのに。

 このままでは、最終的に着ているとすら呼べない状態になるぞ。

 目の毒……いや、眼福? 違う。落ち着け俺。魔王様相手だぞ。

 

「あ、あれ~? なんか、肌寒いと言いますか、こんなもんでしたっけ?」

 

「いえ、絶対違うと思います。と言いますか、どんどんはだけていますよ」

 

「……レイのえっち!」

 

「俺のせいじゃないと思います!」

 

 フィオナ様が自分の姿をよくよく見てみると、すでに着物は乱れに乱れていた。

 ようやくそのことに気付いたため、両手でしっかりと着物ごと自分を抱くようにして、その場にしゃがみ込む。

 挙句、真っ赤な顔して俺を見てくるものだから、なんだか、とんでもない勘違いがされそうな光景だ……。

 

「魔王様。どうでしたか? レイさん、褒めてくれました?」

 

 そんな状態で、ラプティキさんがやってくる。

 この光景を見られたら、俺は魔王軍のみんなにひどい罰を与えられそうだな……。

 

「ラプティキ~。助けてください~。このままでは、ネイキッド魔王が誕生します~」

 

「え……? し、失礼します!」

 

 魔王に裏切られた……。こんな姿見られたら、俺がどうなるかわかるでしょう。

 ああ、ラプティキさんの視線がどんどん冷たいものに……ならないな?

 どちらかというと、なんか申し訳なさそうな顔をされてしまった。

 

「し、失礼しました。えっと、ごめんねレイさん! お楽しみのところ邪魔して!」

 

「待って! なんか勘違いされてる!」

 

「あ……あの……魔王様と、レイ様が……素敵なことを……されている予感……がぁっ……!」

 

 あ、死んだ。

 一般通過というか、何かを期待してやってきたプネヴマが死んだ。

 生きてるけど死んだようなものだが、それももう慣れたし後で良いとして……。

 ええと、まずはラプティキさんを引き留めないと。

 

「ラプティキ~。うまく着れませんでした~。私は駄目魔王です……」

 

「あ、そういう……。ええと、レイさんに着付け教えたほうが良いかしら?」

 

「え、宰相として?」

 

「だって、そういうときに必要になりそうだし」

 

 どういうときだよ……。

 だけど、せっかくだから俺はラプティキさんから、教えてもらうことにした。

 というか、フィオナ様が、自分で覚えれば良いのでは?

 それに気付いたのは、俺がすっかりと着物の着付けを覚えてからのことだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。