【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「そんなに急がなくて良いんですけど」
「最近、みんなからの注文が減っていたからね。でも、テラペイアとダスカロスに叱られない範囲で作ったわよ?」
「それなら良いですけど。マギレマさんみたいに、怒られないようにしてくださいね」
「マギレマは、わりと熱中しちゃうからね。私は、それよりは自分が見えているわ」
本人がそう言うだけあって、マギレマさんよりも要領が良いからな。
ラプティキさんの場合、熱中するところは同じだけど、ちゃんと無理の無い範囲で作業している。
プリミラと同じように、そのあたりの配分が上手という印象を受ける。
「それにしても、すごい数の服ですね」
「……ええ。ラプティキは頑張り屋ですからね」
部下の仕事ぶりを褒めるフィオナ様だが、なんだか元気がない。
というかげんなりしていると言うか、疲れていると言うか……。
「どうしました?」
「店に出す服と同じ物を全て作成し、そのたびに私に着せてきました」
「魔王様、とてもお似合いでした」
なるほど。
俺が知らないうちに、フィオナ様は再び着せ替え人形になっていたらしい。
「というわけでレイさん。魔王様のお召し物は、以前より増えているから、好きなだけ二人だけで鑑賞すると良いわよ」
「興味はありますけどね」
「し、しかたありませんね! レイが、そんなに私を見たいと言うのであれば、魔王の勇姿を見せてあげましょう!」
勇姿ではないと思うんだけど、それだけ気合を入れないといけないということだろうか……。
◇
「こういうふうに、自分で着やすい服は良いんですけどねぇ」
……いつもどおりフィオナ様の部屋で二人きり。
それは良いんだけど、まさか同じ部屋にいるのに、そのまま着替えるとは思わなかった。
さすがに、魔力的な何かで姿は隠しているけれど、なんというか落ち着かない……。
「これなんか、楽で良いと思います」
「そうしてみると、普通に美人なお姉さんって感じですね」
「ふふんっ! ようやく、正直に私を褒められるようになりましたか!」
「たった今、美人要素が残念要素に変わりました」
「お、おのれ人類……」
人類関係ありません。十割あなたのせいです。
それとも、俺が元人類だからそっちに対しての恨みか?
この世界ではあまり見ない、ちょっとおしゃれな洋服を着こなすフィオナ様は、見た目だけは相変わらず美人だ。
しかし、口を開けば残念であり、最終的にはかわいいという判断へと落ち着いてしまう。
まあ、そっちのフィオナ様のほうが俺は好きだけど。
「転生者たちから話を聞いて、ここまで色々な服を再現できるって、ラプティキさんはすごいですね」
「熱意がたまに魔王を襲うのが玉に瑕ですが、あの子も優秀な子ですからね」
それだけフィオナ様を慕っているということもあるんだろうな。
きっと、作った服は全部フィオナ様の分も用意するぞ、あの魔族。
「ん……? それって」
そんな様々な服を眺めていると、とある衣装が目に留まった。
よく知っている服とも言えるが、なじみがあるかと言われるとそうでもない。そんな服。
「ああ、これですか。これは、まったく覚えがないですねぇ」
まあ、こちらの世界で生きているフィオナ様にとっては、そうかもしれない。
だけど、俺や時任たちにとってはそうではないそれは、着物と呼ばれる服だ。
日常で着るわけではないが、わりと目にする機会はある。
「テイランの服ともまた違う。なんとなく、どこかの民族が着ていそうですね」
それ、うちの民族です。いや、元うちの民族と言うべきか。
「着るの大変そうですね。さすがに、こういう衣装となるとラプティキさんの補助が必要ですね」
というか、ラプティキさんも知らない服のはずだけど、よく作れるな。
そして、フィオナ様に一度着せたということは、着付けもできるということだ。
「……見たいですか? これを着た私を」
「まあ、気にはなりますね。フィオナ様綺麗だから似合いそうですし」
和服を着た、美しい海外の女性みたいになりそうだ。
だけど、ラプティキさんをここに呼ばないと、さすがに一人で着ることができないだろうな。
「では! レイのために、着てあげましょう!」
「一人で大丈夫なんですか?」
「ふっふっふ……。魔王ですよ? だいたいのことは、全部一人でやらざるを得なかったので、何のこれしき!」
フィオナ様って部下想いだからな。
仕事とかは、全部適任者に任せていたとしても、身の回りのことは自分でやっていたということか。
まあ、マギレマさんみたいに、食事を用意したがる部下がいたら、そちらの思いを優先していたみたいだけど。
なんというか、部下の中で自分が異分子みたいな考えが、ちょくちょくとうかがい知れる気がする。
みんな魔王様のことが大好きなはずなのに、ずれているというか、自分への自信が無いというか。
「俺はフィオナ様のこと大好きですよ?」
「なっ! な、なんでしょうか? いきなり。い、いえ……そ、そうですね! レイは私のこと大好きですし、これからもずっと一緒にいてくれますからね!」
テンパりだした。
やっぱり、自分の人望というものに自信がないんだろうなあ……。
「それに、魔王軍のみんなもフィオナ様のことが大好きです」
「そ、それはぁ……。そう、でしょうね。ええ」
「だから、もっとみんなにウザ絡みすれば良いと思いますよ」
「ウザ絡みって!」
俺にはよくするくせに、他のみんなには、なんだか一線引こうとしているという感じが、たまに見えるからなあ……。
「フィオナ様がどんな態度で接しても、みんな嫌がらないと思います」
「う~……。か、考えておきます」
そう言いながら、フィオナ様は俺の頭をなでて落ち着こうとしていた。
過去に部下と何かあったか? それとも、自分以外を全滅させようとした負い目か?
互いに好意的で仲が良いのに、なんだかどこかおかしい関係だなと思えてしまった。
「さあ、着物魔王です。褒めたたえなさい!」
「……綺麗は綺麗ですよ?」
「な、なんですか? ははん、さてはいつもの照れ隠しですね。素直じゃありませんね。まったく」
「いえ、というよりも……なんか、着方を間違えていませんか?」
着崩れているような、正しくないような、というか……乱れている。
良くないな。これはまったくもって良くない。
なんか、はだけそうになっているというか、このままじゃ俺の精神上とても良くない。
「あ、そんなこと言って目を逸らして、やっぱりいつもの照れ隠しですね。ふふん、もっと魔王の勇姿を見せてあげましょう」
「いえ、そんな状態であまり動き回ると……」
ほら、言わんこっちゃない。
どんどんはだけて、肌がさっきよりも露出していっているじゃないか……。
だから、ラプティキさんを呼べば良かったのに。
このままでは、最終的に着ているとすら呼べない状態になるぞ。
目の毒……いや、眼福? 違う。落ち着け俺。魔王様相手だぞ。
「あ、あれ~? なんか、肌寒いと言いますか、こんなもんでしたっけ?」
「いえ、絶対違うと思います。と言いますか、どんどんはだけていますよ」
「……レイのえっち!」
「俺のせいじゃないと思います!」
フィオナ様が自分の姿をよくよく見てみると、すでに着物は乱れに乱れていた。
ようやくそのことに気付いたため、両手でしっかりと着物ごと自分を抱くようにして、その場にしゃがみ込む。
挙句、真っ赤な顔して俺を見てくるものだから、なんだか、とんでもない勘違いがされそうな光景だ……。
「魔王様。どうでしたか? レイさん、褒めてくれました?」
そんな状態で、ラプティキさんがやってくる。
この光景を見られたら、俺は魔王軍のみんなにひどい罰を与えられそうだな……。
「ラプティキ~。助けてください~。このままでは、ネイキッド魔王が誕生します~」
「え……? し、失礼します!」
魔王に裏切られた……。こんな姿見られたら、俺がどうなるかわかるでしょう。
ああ、ラプティキさんの視線がどんどん冷たいものに……ならないな?
どちらかというと、なんか申し訳なさそうな顔をされてしまった。
「し、失礼しました。えっと、ごめんねレイさん! お楽しみのところ邪魔して!」
「待って! なんか勘違いされてる!」
「あ……あの……魔王様と、レイ様が……素敵なことを……されている予感……がぁっ……!」
あ、死んだ。
一般通過というか、何かを期待してやってきたプネヴマが死んだ。
生きてるけど死んだようなものだが、それももう慣れたし後で良いとして……。
ええと、まずはラプティキさんを引き留めないと。
「ラプティキ~。うまく着れませんでした~。私は駄目魔王です……」
「あ、そういう……。ええと、レイさんに着付け教えたほうが良いかしら?」
「え、宰相として?」
「だって、そういうときに必要になりそうだし」
どういうときだよ……。
だけど、せっかくだから俺はラプティキさんから、教えてもらうことにした。
というか、フィオナ様が、自分で覚えれば良いのでは?
それに気付いたのは、俺がすっかりと着物の着付けを覚えてからのことだった。