【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「服屋も良いけど、もう一つの集客施設のことも考えないとな」
ただし、こちらは向こうと違ってそれほど大変ではない。
何かを作る必要はほぼないし、新たな責任者や従業員が必要というわけではない。
快復の湯を俺が作成し、ロペスが喧伝し、ルトラとテラペイアが協力してくれたら、それで新たな温泉の出来上がりだ。
これまでと違って、怪我には効かないけれど、病によく効くことは検証済みだ。
であれば、また別の客層を呼び寄せる温泉となってくれるんじゃないかと期待できる。
「ルトラとテラペイア。快復の湯を客向けに作ってもやっていけそうか?」
「問題ないな」
「はい。私たちなら大丈夫です」
ルトラはたまに無理するけれど、テラペイアが何も言わないということは、きっと大丈夫なんだろうな。
「新しい温泉ですか。これは、実際に入浴して試さないといけませんね」
「入りたいだけでは?」
「入りたいだけです。というわけで、明日はレイと一緒に温泉宿で一日のんびりします!」
俺の明日の予定が勝手に埋められてしまった。
最近、フィオナ様と一緒に温泉に行っていなかったし、ちょうど良いと割り切ってしまうか。
「では、魔王様。レイ様とお二人で入浴できるように、快復の湯は貸し切りにしておきますね」
「い、一緒には入りません!」
さすが精霊。ピルカヤもそうだけど、たまにずれた考えをする。
フィオナ様も、慌てて訂正するが、ルトラは終始納得がいっていない様子だった。
「ど、どうなんですか!? レイは、私と一緒にお風呂に入りたいんですか!?」
なんか、温泉じゃなくてお風呂と言われると、余計にやばい印象だ。
なので、慌てふためきながら、そんなこと言わないでください。
「ちゃんと男女それぞれの快復の湯を作るから、安心してください」
「そ、そうですか……」
よし、落ち着いてくれた。
「む、無理はしなくて良いですよ?」
「まあ、回復しながら作れば無理でもないので」
「むぅ……。そうですか」
なんか、ほっとしてはいるけれど、若干後ろ髪を引かれているかのような反応だな。
まさかとは思うが、混浴したかったわけじゃないよな。
……道具か!? 寝具だけでなく、お風呂道具とでも思われている!?
プリミラの、あのアヒルみたいなおもちゃのように……。
「俺のこと、おもちゃにしようと思ってます?」
「そ、そんなわけないじゃないですか! レイは私の大事なレイです!」
ちょっと……恥ずかしい。
いや、大事にされているのなら、ありがたいんだけどね?
「……」
「……」
そして、大声で騒いでいたのに、そんなしおらしい反応をされるの、こちらも何も言えなくなってしまった。
二人で無言というのは、読書のときと同じだというのに、こうも感じる空気は変わるものか。
「二人の複雑な関係はさておき、快復の湯を公開するにあたって、問題点を解決すべきだ」
ありがとうダスカロス。
この空気を物怖じともせず、会話の軌道を戻してくれて。
「問題点?」
ってどういうことだろう。
やはり、ルトラやテラペイアの負担が大きいか?
「効果がありすぎる」
「良いことじゃないか」
「とも言い切れないな。これまでの温泉も、効能としては十分に高かったが、ロペスに協力している魔力関係者の力と説明できた。だが、今回は万病に効く温泉だ」
「万能薬とかもあるわけだし、そのくらいならこの世界でも普通だったりは……」
「しないな」
「しないかあ……」
フィオナ様がハズレ扱いするし、わりといくつも引いているから感覚が麻痺しそうだが、万能薬もかなり希少か高価なアイテムのようだ。
となると、この世界でも病に苦しむ人類は決して少なくないか……。
いや、名前は忘れたけど、あの転生者が病を流行させたとき、わりと迅速に対処していたし、やっぱり元の世界よりは対処法も多いんじゃないか?
「どの国にも、不治の病の者くらいいるだろうな。その中にはそれなりに力を持つ者もいるだろう」
「力って、リピアネムみたいな?」
「私は強いぞ」
「単純な戦闘能力もだが、財力や権力もだ。そして、知力や魔力もな」
色んな得意分野はあるだろうけど、病はそれらの人たちを等しく襲うってわけだ。
うちは、テラペイアのおかげで大丈夫だろうし、それこそ快復の湯で、もはやどうにでもなるが。
「そんな者たちが、病をあっさりと完治した場合、良くも悪くも話題になる」
「ロペスの協力者のおかげで作れたことにしようと思ったけど、作らないほうが良いかな」
「ロペスがこれ以上成功すると、厄介事を呼び込みそうだな。独立させて別に作ったほうが良いだろう」
「転生者が、自分の力で快復の湯を作ったということなら、そこまで不思議でもないってわけか」
「そうなるな。そのくらいであれば、過去の転生者も似たようなことをしていた」
病を操る転生者もいたことだし、その逆が過去にいてもおかしくないか。
つくづく、転生者というものは、この世界に大きな影響を残せそうだな。
だからこそ、各国で迎え入れられているわけだろうけど。
「となると、風間たちは服屋だし。ロペスは当然駄目。奥居も人工海がある。時任も商店がある」
「転生者は、みんなお店持ちですからねえ」
いっそ、時任を温泉経営者にして、商店を別の誰かに任せるか?
転生者欲しいなあ。そのへんから生えてこないかなあ。
……ヨハンをアンデッドとして復活。は、さすがに俺でもやばいとわかるし駄目だな。
「あ、あの、レイさん」
そんなふうに頭を悩ませていると、風間が遠慮がちに提案をしてきた。
「僕で良ければ、そちらの管理者になりましょうか?」
「良いのか? そうしてもらえるのなら、こっちは助かるけど」
「服屋のほうは、三人も管理者は必要ないでしょうし、新と友香だけでも良いかなって思うんです」
たしかにそうだが……。
この三人は一緒に働きたいだろうなと思って、いつも三人セットで行動させていた。
「その、僕たちに気を遣っていただいているのはありがたいですが、仕事以外ではいつも一緒なので」
風間め……。ここに来たばかりのときは、三人の世界に入り込んでいたというのに、成長したんだな……。
いや、俺も同じくらいの年齢だし、そんな上から目線は……。
まあ、心の中で思っているだけだし、宰相だから許してくれ。
「ふむ……。そうなると、カザマよりも、セラに管理してもらうべきだろうな」
「新ですか?」
「ああ。たしかに、カザマも勇者なので、癒しの力が使えはする。だが、聖女であれば、説得力はより高まる」
言われてみればそうだな。
実際は、世良成分の温泉って、聖属性耐性が付与される温泉だったけど、その事実は内部の者しか知らない。
聖女の力で、病に効く温泉が出来上がった。それを、現地の者に解放する。
ただし、温泉の管理費は必要なので、さすがに無償ではないとかにすれば、わりと怪しまれずに温泉を公開できる気がしてきた。
「う……。そうなると、武巳くんは、友香ちゃんと服屋さんですね……」
「大丈夫よ、新。こんなところで抜け駆けをする気はないから。武巳、あんたは毎日私と新を交互に手伝ってね?」
「そうするよ。レイさん、それで良いですか?」
「そうだな。ただ、風間がどっちの店にもいたら怪しまれるから、表立って管理者をするのは、世良と原に任せていいか?」
「わかりました」
すごいな。風間。
世良と原といつも三人で一緒にいるけど、それで関係がうまく続いているのは素直に尊敬する。
さすがは勇者というわけか。
「今回は、三人のおかげで助かったけど、転生者もいよいよ全員店の管理者になってしまったか」
「したのはボスだけどな」
「まともな転生者もっといないかなあ……。まともで、魔王軍に敵対していない転生者」
「ここに攻め込むのは、たいていがろくなやつじゃねえしなあ……」
そうだよな。
フィオナ様を殺そうとしたり、騙ったり、ダンジョンごと毒や病で滅ぼそうとしたり、敵ばかりだ……。
となると、今後も協力的な転生者なんて、うちにやってくる可能性は低いか。
「ないものねだりしてもしょうがないし。転生者は、今いる者たちが仲間になってくれただけ良しとすべきか」
……いっそのこと、変身が得意な魔族が復活したら、うちで殺した転生者の姿を模して活動してもらうか?
どうせ、もう死んでいるんだし、なんの加護かばれていなければ、適当にでっち上げてそれっぽい施設の責任者にできそうだな。
「ボス……。なんか怖いこと考えてねえか?」
「いや、無駄の無い采配を考えていた」
「……俺、最近はその言葉を信じて良いかわかんなくなってきた」
「失敬な」
そんなアナンタみたいな反応されても困るぞ。
ただ、さっき考えていたことを口にすると、なんとなくロペスがドン引きしそうだし、あの案は保留にしておこう……。