【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「店員さん。この服なんだけど」
「はい」
開店初日ということもあって、正直なところ甘く見ていた。
だけど、さすがは魔王軍というか、きっとロペスくんあたりが噂を広めてくれていたんでしょうね。
そのおかげで、開店休業なんてこともなく、私の服屋は順調に経営をスタートできている。
……私ので良いのかしら? ラプティキさんもレイさんも、それで良いって言っていたけれど、気前が良すぎないかしら?
「面白い見た目の服ばかりだけど、これだけ種類が多いとどれが自分に合うかわかんないのよね」
「あ~……そうですよねえ」
私も、ここのお客さんとして来ていたのであれば、きっと同じように悩んでいたと思う。
それが、身内割引どころか、身内だと無料でもらえるとか、福利厚生の概念がおかしくなりそう……。
だから、限られた予算を手にしたお客さんには、親身に相談にのって、しっかりと満足いく物を買ってもらわないとね。
「普段は、今日みたいな服装が多いですか?」
「そうね。似たような傾向が多いかしら」
「であれば、そちらの服装と合わせやすいこっちか。普段とは雰囲気が変わるこっちがおすすめです」
この世界。美形多いわよねえ……。
魔王軍も、美男美女揃いだし。その中で、魔王様は特に美しいし。……なんか、美しいよりはかわいらしい方だけど。
だから、ぶっちゃけてしまうと、どの服でも似合うと思う。
私が勧めた服を見ながら、獣人のお姉さんは頭の中で色々と考えているらしく、その場で固まっている。
だけど、別に急かすこともしないし、声をかけて邪魔もしない。
わかる。予算と相談し、自分が身につけた姿を想像し、他の服と合うかも考え、その時間も楽しいものね。
そんな時間を邪魔するようでは、ここの店長失格よ。
ということで、そのお姉さんへの案内は一旦それまでにしておく。
御用の際はお声がけくださいと、一言だけ残して次のお客さんのところへ。
「すみません。この服って、耐久力や性能はどうなっていますか?」
「モンスターの糸を使っているので、耐久性はばっちりです。こちらのほうですと、物理攻撃へのわずかな耐性がありますが、そのぶん値段も上がっています」
「魔法耐性の服はありますか?」
「それでしたら、こちらに」
ちょっとだけ元の世界と違うのが、こういう質問。
まあ、見た目よりもそっちのほうが大事よね。生きるか死ぬかがかかっているのだから。
こういうふうに、服選びに防御力とか耐性とかの要素があると、ここがやっぱりゲームの世界だって思い出す。
これまでは、マギレマさんのレストランで給仕や買い出しをしていただけだから、戦いといえばダスカロス先生やロマーナ先生との訓練くらいだもの。
「値段が高いほど、防御できますか?」
「そうですね。そちらの値段の違いは性能の違いですので、身もふたもない言いかたをすると、高いほど強いです」
「なるほど……」
こちらのお客さんも熟考してしまった。
そう考えると、やはり私たちが恵まれている境遇だと改めて感じる。
望む服は作ってもらえるし、防御力が高い服や装備品も与えてもらえる。
魔王様が、みんなで分けてくださいと言っているアイテムだって、本当ならとんでもない高価な物も混ざっているみたいだし、あの方は物欲がないのかしら。
……あえて欲しているとすれば、レイさん? 一緒にいることも多いし、絶対そういう関係だと思う。
物欲がない魔王様の唯一の欲は、全部レイさんに向けられているんでしょうね。
自分と
雲の上の偉い人たちのはずなのに、気さくに話してくれるからでしょうね。
「案外悪くないかもしれないわね」
いつも三人一緒だったけど、こうして一人……。いえ、他の従業員の人たちもいるから、厳密には一人じゃないけど。
とにかく、三人そろっていない時間というのは、ずいぶんと久しぶりだと思う。
だけど、これはこれで、色々なことも考えられるし悪くないのかも。
さて、次に二人に会ったときのために、しっかりと働いて、しっかりと話したいことを考えておかないとね。
◇
「いや、嘘は言っていないんだろうけど……むしろ、君が騙されていないか?」
「い、いえ。本当に病気に良く効く温泉でして」
「なんとなく、あなたは人を騙すような子じゃないとは思うんだけど、むしろ心配になってくるわね」
ど、どうしよう。
詐欺を疑われるどころか、誰かが私を利用していると勘違いされている。
でも、武巳君にも
そもそも、ダークエルフやハーフリングの人たちも手伝ってくれているから、一人じゃないからね。
「ええと……。それならそれで、ただの温泉として利用してもらうことも……」
「たしかに、そのくらいの料金だな」
「ああ。そういうこと? 万病に効くって謳い文句の温泉だと言うのなら、納得したわ」
本当に効くと言っても、さすがにそう簡単には信用できないのも事実。
まずは温泉として使ってもらうことにしちゃおう。
ロペスくんが、ハーフリングの人たちに協力するよう言ってくれているみたい。
だから、きっとそのうち万病に効くが謳い文句ではないと気づいてもらえるはず……。
「ぜ、ぜひ入ってください。それと、軽い病気でも重い病気でも、ちゃんと治るので、そういう人たちがいたら連れてきてもらえると助かります」
「そういえば、風邪ひいたやつがいたっけ。どうせ軽い症状だし、ついでにここに連れてきてみるか?」
「そうね。まあ、それはそうとまずは私たちが入ってみましょうか」
「男女別に作ってあるので、それぞれの温泉にご案内します」
まずは普通の温泉として、そして徐々に快復の湯として広めてもらおう。
ルトラさんとテラペイア先生は、しばらく暇になってしまうかもしれないけど、レイさんとあの二人の力は本物だからね。
きっと、すぐにこの温泉は人を集めることになると思う。
「それまでに、がんばって仕事に慣れちゃおう」
きっと今ごろ友香ちゃんもがんばっているし、武巳君と友香ちゃんがいなくても、私だけでがんばれるようにしないと。
大丈夫。私だけといっても、ちゃんと従業員の人たちがついてくれているし、ここの責任者として頼られるようにならないとね。
三人一緒じゃないということに、まだ少しだけ不安はあるけれど、きっとみんな別々に働くことで成長できると思う。
だから、まずは目の前の仕事をこなしていき、それはそれとして二人に会っている時間を、今まで以上に大切にしていこう。
ただ、お客さんの相手をするって意味では、友香ちゃんよりやること無さそうかなぁ?
その間に、私も聖女の力を鍛えておいた方が良いかも。
そうして、レイさんの温泉に力を使って、いつかは本当に病気を治せたり……。
「よ~し、がんばろう!」
◇
フィオナ様との添い寝時間が終わり、ダンジョンを歩いていると
「二人のことが心配なのか?」
なので、ついそんなふうに声をかける。
だけど、風間は交互にどちらかの店を手伝うって話じゃなかったっけ?
「レイさん。……いえ、二人のことなので、きっとうまくやっていると思います」
風間の返答には、俺も同じ意見だ。
あの二人、商店もレストランもうまくやっていたし、だからこそ店を任せられたんだからな。
「じゃあ、どうしてそんなに悩んでいるんだ?」
なので、それが気になった。
あの二人とは別件の問題でも起きたか?
まさか、俺が願ったから、本当に転生者が生えてきたというか、侵入してきた?
いや、ピルカヤが何も言っていないから、その可能性は低いか。
「それが……今日はどっちの店を手伝うか聞いたら、どちらも手伝わなくていいと」
「……珍しいな」
風間と一緒にいなくて良いと言うなんて。
むしろ、どちらを手伝うかでもめるくらいはあるかと思っていたが、その逆とは想像していなかった。
「そうですよね!? レイさん、僕あの二人に嫌われましたかね!?」
「い、いや……俺が見ている限りでは、そんなことは無いと思うし、あり得ないと思う」
いつもべったりくっついてイチャイチャしているくせに、何を言うんだ。
「初日は一人で、というか風間の補助なしでの仕事に、慣れておきたかったとかじゃないか?」
「そ、そうですかね……? だったら良いんですけど……」
「そんなに気になるなら、聞いてみれば良いのに」
「も、もしそれで、怒っていたりしたら……」
「原因が判明するなら良いじゃないか。そこで足踏みせずに前に進める」
一番厄介なのは、原因がわからないことだからな。
もしも風間に落ち度があれば誠心誠意謝ればいいし、理不尽な怒りだとしたら受け止めればいい。
「レイさんが、魔王様に同じようなことされたら、やっぱりそうします?」
「まあ、そうかな……?」
フィオナ様が、そんな不条理な怒りをぶつけることは無いだろうけど。
……いや、ガシャのときとか、マギレマさんの犬と遊んでいるときとか、わりと不条理なとこあったわ。あの魔王。
でもまあ……。それでも、あの魔族の行動なら、全部許しちゃうよなあ。
「うん。あの魔族に負の感情を抱くの無理だ。たぶん、全部受け止めるし、何されても許す」
「僕もそうですね……。ありがとうございます。ちょっと二人に聞いてみることにします」
まあ、がんばってくれ。
すでにお前たちは、魔王軍の施設の管理者なんだから、ここで仲たがいとかされても困る。
……三人に限って、そんなことはあり得ないと思うが。
話を終えると、風間は悩みが吹っ切れたような顔をして去っていった。
一応、相談に乗れたということで良いんだろうか。
そんなことを考えていると、なんかフィオナ様がダッシュしてきた。
なんだこのアグレッシブな魔王は。
「レイが、私のためなら何でもしてくれると聞いてやってきました!」
「どこから聞いたんですか……。まあ、フィオナ様の要望なら全部聞きますよ」
「じゃあ! 魔力を一万注いだ宝箱ガシャを、十連ほどお願いします!」
「嫌ですよ。何言ってんですか」
「嘘つき! レイの嘘つき!」
なんでもとは言ったが、そういうのじゃないから。
ならばと、フィオナ様は俺に甘やかせと要求してきたので、そちらはちゃんと受け止めることにした。
そこからは、俺がどこまでなら言うことを聞くか、フィオナ様はわけのわからないラインを探るようにしたらしい……。
まあ、無駄遣いとかは許さないが、別に大抵のことなら聞きますってば……。