【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「それで、本当にこっちにオーガたちがいるの?」
「ダークエルフの村は滅んでいたからな。ゲーム知識どおりにいかないんじゃないのか?」
疑るような視線と言葉が嫌になる。
俺の記憶は絶対に合っていた。だいたい、村はちゃんとあったじゃないか。
ゲームでは、あそこに女王しかいないこともあったから、きっとその女王も死んだってことだろ。
「滅びる前にダークエルフたちを仲間にするのは、間違いじゃなかったはずだ」
「まあ、私たちの手足のように使うっていう、作戦自体は良いんだけど」
「……なあ。もしかしたら、俺たち以外にも同じ考えをした転生者が、先んじてダークエルフを引き入れたんじゃないのか?」
それだ。きっとそうに違いない。
だとしたら、俺たちは出遅れたってことになる。
エーニルキアにしばらく滞在していたが、もっと早くにあの国から逃げ出せばよかったか……。
「早い者勝ちってこと。だとしたら、オーガも下手したら回収されちゃってるかもね」
「いや、オーガならダークエルフみたいに弱くはない。女神の加護があっても、そう簡単にはやられないはずだ」
だからこそ、エーニルキアを利用して準備を進めていた俺たちに分があるはずだ。
俺たちは、考えなしに動くような他の転生者とは違う。
せっかく強力な加護を手にしたというのに、それだけで満足して魔王を倒そうなんてやつらよりも、俺たちが上だ。
ゲームの知識と女神の加護を持ち合わせながらも、それに驕るつもりはない。
女神の加護を正しく使いこなせるように努力した。
だから、俺たちであればオーガを屈服させ、従えさせることもたやすいはずだ。
「お、あの村じゃないか?」
「まだ生きてるわね」
村はたしかに存在した。俺の記憶が正しかったことに、内心ほっとする。
それらの村に住んでいるであろう男女の姿を確認し、さらに安堵した。
良かった。ちゃんとオーガたちは残っていた。
背が高く、がっしりとした赤褐色の肌をした肉体で、角が生えている種族。
いかにも肉弾戦が得意そうな種族は、ゲーム中では獣人や竜人と並んで好戦的だった。
イドやルフみたいな上位を除けば、獣人よりも個の力は強い。
さすがに竜人よりは劣るが、数を考えればルダル相手にも一矢報いることは可能だろう。
竜人より多く、獣人より少ない。獣人より強く、竜人より弱い。
こいつらが俺たちの支配下となるのであれば、悪くない戦力として活用できるだろう。
「よし、それじゃあさっそく襲撃に——」
村のオーガたち相手に大立ち回りを決めて、力で屈服させる。
そんな絵空事は、叶うことなく俺の意識とともに消え去った。
◇
女神が迫害対象なんて定めてくれたおかげで、自分たち以外の全てが敵と分かるのは、ある意味では好都合なのかもしれない。
村の付近にいるよそものが、敵かどうか判断する手間だけははぶける。
そのおかげで、潜んでいたやつらが同種族でなければ、こうして始末することができる。
「だが、こんな雑兵相手じゃ意味がないな……」
亡骸となったそいつらは、取るに足らない相手だった。
おそらくは使い捨ての雑兵に、偵察の真似事でもさせていたんだろう。
死んでも問題なし。生きて帰ったなら儲けもの。その程度の連中だ。
「問題は、こっちのほうか」
見られている。
それだけはかろうじてわかるが、どこから見られているのかすらわからない。
こちらが知覚できるよりも遠方からか、あるいはそれだけ存在を消すのが得意なのか。
どちらにせよ、自分よりも格上である可能性が高いということだ。
「それだけの実力があるのなら、直接戦えばいいものを」
それとも、姿を隠すことに特化した個体か?
であれば、偵察の本命はこいつのほうということになる。
この雑兵だったやつらは、こちらがどう対処するか、どう戦うか、それを見るための道具にすぎなかったってわけだ。
「……その気になったら来るといい。そのときは、こちらも容赦しない」
村に戻る。
見逃されたのか見逃したのか。何の情報もない以上それすらわからない。
それがなんとも不気味であり、不完全燃焼に終わってしまって気分が晴れない。
まずは、長に報告だな。俺を見ていた者は、もしかしたら俺では勝てないかもしれない。
だが、長ならばあるいは……。いや、敵の実力も測れていない俺では、そんなことを考える資格もないか。
◇
「ただいま~……何してんの?」
「ご機嫌を取っていた」
「取られていました」
フィオナ様のご機嫌を取っているところ、ちょうどピルカヤが偵察から帰ってきた。
良いタイミングだな。ご機嫌斜めだったフィオナ様も、すっかりと機嫌を直しているし、ダンジョンの話にスムーズに移行できる。
「魔王様が後ろから抱き着いて、レイの髪の匂いを嗅いでるように見えるんだけど、ご機嫌を取ってた……? レイはされている側なのに?」
「色々あったんだよ」
「う~ん……。ボク精霊だから、たまに他の種族のことわかんないかもしれないんだよねぇ」
「安心しろピルカヤ。おじさんもよくわかんない。というか、魔王様とレイくん以外は理解できないと思って良い」
「なら良かった!」
そうだぞピルカヤ。なんなら俺もよくわかんないから大丈夫だ。
俺なんかの匂いを嗅いで何になるというんだ。マギレマさんの犬たちへの対抗心か?
まあ、毎日温泉に入っているから、悪臭はしないだろうけど。
「それで、オーガの村はどうだった?」
「うん、いたよ。オーガがたくさん」
「じゃあ、クララが言っていた場所から、移動はしていないってことだな」
「私たちがそうだったので当然と言えますが、他種族に敗北して連れ去られた、ということもないのですね」
クララの心配は、オーガたちが敗北して全滅していないかということだったようだ。
たしかに、他の種族の気分次第では、その可能性もあったか……。
それだけ聞くと、ますますオーガと和解できないものかと考えてしまう。
「村自体は、平和といえば平和だったかな? ただ、ピリピリしていたし、敵と戦う前後だったんじゃないかな?」
「今も襲われているってことか?」
「う~ん、わかんない。しばらく観察していたけど、オーガ以外は村に来なかったし」
それじゃあ、オーガたちが撃退したのかもしれないな。
戦闘前ということであれば、ピルカヤの索敵に引っかかるだろうし。
クララたちと違って、ちょっかいかけてきた相手の撃退にも慣れていると……。
そんな場所にダンジョンを作ってしまったら、やっぱり敵として見られそうだよなあ。
◆
「お、村だ。良かった~。セーブ地点ないし、周りの雑魚敵多すぎるし、そろそろ回復したかったんだよ」
『人間か。また俺たちを襲いにきたか?』
「またって何? なんかもう嫌予感しかしなんだけど!」
リックを操作する青年は、こういうときばかり予感を見事に的中させてしまう。
会話らしきものも一応はあったのだが、その後は選択の余地すらなく敵のHPが表示された。
完全に敵対した証であるHPバーの表示に、青年は慌てながらも慣れた手つきでリックを動かす。
「聞く耳持たずかよ!」
「一度ならまだしも、また襲いに来たんだからしょうがないな」
「だから、またってなんだよ!?」
オーガといえど、こちらは勇者であり、それを操作する手つきもさすがに慣れてきた。
ならば、これまでの強敵ほどではないオーガ一人程度、プレイヤーの敵ではなく、終始優勢なまま戦闘を終える。
「あっぶねえ……。なんだこの蛮族」
戦闘後の回復をしながら、一息ついた青年だったが、その間に画面には複数のオーガが駆けつけていた。
村の見張りを倒したことにより、騒ぎを聞きつけた住民たちが次から次へと現れる。
それらの全てが、先ほど倒したオーガに匹敵し、中にはそれ以上の強者もちらほらと混ざっている。
「……多くない?」
「ほら、そこは村だからな」
「敵の村とか、もはやダンジョンなんだよ!」
その言葉は正しく、村はもはや危険な敵地へと変貌していた。
罠こそないものの、押し寄せてくるオーガたちは、モンスター以上に強敵であり、その数はモンスターよりも多い。
いくら四天王に劣るとはいえ、数の暴力を体現したような集団に、青年は四方から攻められ続け、勇者リックは確実に傷を増やしていく。
「回復……。する隙すら無い!」
攻撃する隙も回復する隙もなく、四天王を撃破したはずの勇者は、迫害されている種族たちにあえなく敗北した。
「はい、クソゲー」
そしてお決まりのセリフを口にすると、青年は再びコントローラーを手にするのだった。