【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
その男は、いつものような襲撃者たちとは違っていた。
こそこそと隠れることもなく、実に堂々とした立ち振る舞いでこちらへと歩いてくる。
歩く……。というか、這っていると言うべきか? なんせ、下半身は巨大な百足だからな。
「俺たちに何か用か? 魔族」
そう、魔族だ。
魔族には二種類いるが、こいつは外見からはっきりとわかるほうの魔族。
魔王軍に与したことで、女神に魔族の烙印を押されたほうではない。
おそらくは、魔王軍の残党だろうな。
「オーガたちに提案がある」
「なんだ?」
意外なことに、そいつは俺たちなんかと話をするためにやってきたらしい。
たしかに、敵意は感じられない。だが、だからといって友好的とも言い難い。
所詮はあぶれた種族同士。敵ではないが味方でもないだけの存在と見たほうが良いだろう。
「俺たちに従え」
「何を言うかと思えば、魔王軍の残党風情に下れと?」
そんなものか。落胆した。
堂々と俺たちのもとへ現れたかと思えば、結局は他種族と変わらないということだ。
迫害種族である俺たちを支配下に置きたいだけ。
つまらない。実につまらない提案だな。
「ああ。だが、お前らがそんなことを言われて、素直に従うとは思っていない」
「ならさっさと帰れ。無駄だとわかっているんだろう?」
「だから今日は単なる宣戦布告だ」
「ほう?」
「俺たち魔王軍は、お前らが言うように残党だ。魔王様が残されたダンジョンを拠点に、今は再起を図っている」
ダンジョン……。かつては世界中に作られていたが、魔王と勇者の戦闘が痛み分けになった今、そのほとんどが崩落か放棄されたはずだ。
そのうちの一つをこいつらが使っていると。
……なんだか、面白い話を聞けそうだ。
「そのダンジョンが、この村の近くにあるからな。お前らみたいな種族は、どうせすぐに気が付いてダンジョンに侵入するんだろ?」
「当然だ。村の近くに他種族の拠点など冗談じゃない。それに……強者が住み着いている可能性もあるなら、戯れに冒険者の真似事をするのも良いだろう」
「それだよ。お前らが俺たちの拠点に侵入するんじゃ、こちらも気が休まらない」
「だから、俺たちを支配下に置くことで、ダンジョンへの侵攻をやめさせたいわけか」
「そうなるな。ダンジョンはお前らを拒まない。ただ、全力で撃退する。お前らの心が折れたそのときは、俺たちに下れ。毎日毎日侵攻されては、さすがにこちらも気が休まらないからな」
良い話じゃないか。ちょうどこちらへの襲撃も少なくなっていた。
仲間たちも、そろそろ体を動かしたいとぼやくようになっていたほどだ。
そこにわざわざ魔王軍が遊び場を用意してくれたというのであれば、実にありがたい話だ。
「良いだろう。ならば、ダンジョンで俺たちを迎撃してみせろ。踏破したそのときは、逆にお前らを俺たちが支配してやろう」
「じゃあ、お前らこそ心が折れたそのときは、俺たちに支配されろよ?」
なるほど。たしかに宣戦布告だった。
村の近くに拠点を作り、そこで俺たちとの対決を望むということだ。
勝ったほうが負けたほうを従える。実に単純な戦の話じゃないか。
面白くなってきた。
百足の魔族が拠点に戻るのを見届け、ダンジョンの方角だけを確認しておく。
さて、仲間への報告だ。まずはナツラ様に今の話を伝えるとするか。
◇
「とりあえず、オーガたちに話はつけてきました」
「ああ、ありがとうドリュ」
さすがに敵地へ単独で赴いたためか、ドリュはどこか疲れたような顔をしていた。
悪いことをしたかな? アナンタあたりに任せれば良かったか?
「これ、お返しします。やっと重荷から解放された……」
「別にそのまま持っていても良いんだけど」
「勘弁してください宰相様……。俺ごときに、不死鳥の羽みたいな貴重品は、荷が重いですって……」
不死鳥の羽。わりと貴重品なのか。
万が一宣戦布告中に敵対されて、数の暴力でドリュがやられたらと考えて、保険に持たせたのだが、それがプレッシャーだったらしい。
……え? じゃあ、この羽だらけの俺はなんなの?
「俺、羽だらけなんだけど」
「当然です。宰相様は最低十枚は、羽を持っていてください」
「弱いからなあ」
「宰相様の身に危険があれば、魔王軍はおしまいですので……」
ダンジョンの様々な施設が二度と作れなくなるし、拡張も増築もできなくなるからな。
ああ、あと宝箱もか。と考えると、一般魔族より弱い俺は、やはり保険を多めに持たないとまずいか。
「ということで、お返しします」
「まあ、ドリュたちも死んだら困るから、今後も危険が予測されるときは、この羽は所持してもらうぞ」
「えぇ……」
「特に、オーガたちとダンジョンで戦うのなら、全員最低一枚は持ってもらう」
「それが却ってプレッシャーになりそうなんですけど……」
「俺なんて十枚だぞ?」
それを言うと、ドリュは返す言葉がなさそうだった。
なんか言ってくれよ……。俺がパワハラしてるみたいじゃないか。
「し、死なないようがんばりましょう!」
「そうだね……。まあ、アイテムよりはドリュたちの命だから、そこははき違えないようにな」
◇
「ということで、近々オーガたちがダンジョンにやってきます」
「ドリュは上手に話せたみたいですね」
「なんだか、オーガたちも宣戦布告されたわりには、悪くない反応だったみたいですよ」
「喧嘩好きですねえ」
その手の種族には、わりとダンジョンって好評だよな。
力試しの場として、ちょうど良いと思われているってわけだ。
……舐められないように、もうちょっと難易度を上げるべきじゃないか?
まあ、それは様子を見てからにしないと、アナンタに怒られるからやめておこう。
「フィオナ様は、オーガたちと会ったことは?」
「ありますよ。ただ、戦うことはありませんでしたが」
それはやっぱり、女神から虐げられている種族同士ということもあり、自然と不可侵の関係になっていたんだろうか?
「私の前に、リピアネムが全てを蹴散らしました」
「なにしてんだ。あいつ……」
ごりっごりの敵対関係じゃないか。
いや、待てよ。あいつはあいつで強者との戦いを好んでいたな。
「もしかして、オーガって、全員リピアネムみたいな感じですか?」
「あ~……。中には近いのもいますねえ。なるほど、リピアネム……。あの子ドラゴンですけど、オーガにもちょっと似ていますね」
つまり、獣人もオーガもドラゴンも脳筋と。
ダンジョンにリピアネムを解き放ちたくなってきた。
そうしたら、案外オーガたちがすんなりと仲間になりそう。
……まあ、やめておくか。今回の目的はドリュたちのレベルアップ。それを忘れてはいけない。
「まあ、不死鳥の羽もありますし、ウルラガやピルカヤから譲ってもらえたアイテムもあります。彼らを再び失うことはないでしょう」
「そうですね。ああ、そのことですけど、不死鳥の羽ってけっこうレアアイテムですか? なんか、ドリュが持ってるだけでプレッシャーを感じていましたけど」
「ふっ……。しょせんは蘇生薬のハズレです。私が、あれを何枚引いたと思っているんですか!」
「なんかすみません……」
ただ、レアなことには違いないはずだよな。
たしか、一番最初にフィオナ様が引き当てたときも、こんなものまで出るのかみたいなこと言っていたし。
となると、レアリティは近しいけど目当てじゃないから要らないとか?
……ガシャのすり抜けみたいなものか。狙い以外の最高レアを引いたことで、なんともいえない気持ちになるあれだ。
「あまりレアなアイテムなら、俺にそんなに渡さなくて良いんですけど」
「駄目です」
何だ急に。真剣な表情で怖がらせようったって、そうはいかないぞ。
「あなたを失うなんて、あり得てはいけません」
「まあ、ダンジョン管理とか、宰相とか、いろいろやっていますけど」
「そうです。あなたはとても大切な存在です。絶対に、失いません。だから、羽はたくさん持っておくように」
「それはわかりましたけど、ちょっと苦しいです」
「あなたは、とても大切なんです」
俺を抱きしめるフィオナ様は、まるで言い聞かせるようにそう言い続けた。
まあ、多少苦しいくらいだし、我慢できないほどじゃないから良いか。