【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「ナツラ様。その場で戦わなくて良かったんですか?」
「そのほうが面白い」
「ですよね」
言いたいことはわかる。あの場で、その魔族を殺すことは簡単だった。
だが、敵地に一人で乗り込んできた相手に興味が出た。
あいつらとは、あいつらが有利とする場所で戦ったほうが面白くなるはずだ。
それに、あの場で魔族を一人殺したところで、あいつらが屈服するとも思えない。
問いかけた部下も、それは理解しているのだろう。
形式的な問いかけにすぎなかったらしく、特段文句を言うこともない。
魔王軍の残党。魔王が活動を休止している今、やつらが主体的に行動しているというわけだ。
興味がある。どんなダンジョンなのか、どんな敵が待ち受けているのか、あるいはどんな罠で私たちを負かそうとするのか。
「良いな。わかりやすい場所にあるのは助かる」
百足の魔族が去った先を歩いてみると、ほどなくして見覚えのない洞窟を発見した。
間違いない。ここがダンジョンだ。
「地底魔界のほとんどは、勇者たちが崩壊させたと聞きましたが、まずは私たちの村の近くにダンジョンを作り直したのでしょうか?」
それか、入り口だけが崩壊していたため、魔王の力で開けたといったところか。
そう考えると、案外中は無事なのかもしれない。
勇者たちは、地上とつながる入り口を破壊することによって、魔王軍の侵攻を止めたというのが現状ということだろう。
「あるいは、中身は無事だったかだな。まあ、私たちには関係ないが」
人類と魔族の争いにも興味はない。
もしも人類が勝利した場合、迫害種族である私たちを滅ぼそうとするかもしれないが、そのときはそのときだ。
魔王に勝利したというのであれば、おそらく私たちオーガでは太刀打ちできずに敗北するだろう。
だが、それならばその戦いを楽しんで死ねば良い。
「畑……?」
「魔族たちの食料を作っているということですかねえ」
となると、あの先の部屋は作業者のためのものか。
わずかに落胆してしまう。ダンジョンというわりには、いきなり生活感丸出しじゃないか。
それだけ魔王軍がひっ迫しているのかもしれないが、それで侵入者である私たちを倒せるのか?
それとも、それだけひっ迫しているからこそ、オーガという戦力と労働力を確保せざるを得なかった?
であれば、どうやら互いに事情は似ているのかもしれないな。
戦うためにここに来たのは本当だが、こちらの事情というものもある。
今は攻撃が止んでいるものの、次の攻撃では再び少なくない犠牲者も出るだろう。
こちらも逆に魔王軍を支配下に置くことで、戦力を増強したい。
「廃墟に近いな。部屋の中だというのに、植物だらけじゃないか」
たしかに、部下の言うとおりではある。
だが、これはどちらかというと、周囲に溶け込ませるためじゃないか?
そこら中に生い茂る植物の中に、わずかに動くツタが見えた。
モンスターだな。魔族が使役するものか、自然に住みついたものかはわからない。
どちらであろうと、侵入者である私たちの敵であり、倒すべき相手ということだ。
「植物系のモンスターだ。さすがに、この程度の相手にやられるなよ?」
私の言葉に、部下たちはモンスターに襲いかかる。
……小さな部屋のわりには、それなりの数がいるな。
だが、敵の攻撃は全て対応できている。倒すのに多少の時間はかかるだろうが、無傷で突破できるだろう。
◇
と思っていたのは、どれくらい前だったか。
……長くないか? 植物系のモンスター。おそらく食人花だな。
耐久力というか、生命力が高いことは知っていたが、ここまで無尽蔵にツタを伸ばせる相手だったか?
部下たちもさすがに疲弊……いや、これはうんざりしている様子だ。
「ナツラ様……。なんか終わらないんですけど」
「そのようだな。なんなんだこの生命力は……」
ダンジョンに住みついているせいで、魔力が従来のモンスターより多いのか?
だとしても、斬るたびにツタが生えてきては、永遠に終わる気がしない。
こちらが被害を受けているわけではないが、かといってこのまま無視することもできないだろう。
背後から襲われたらさすがに厄介だ。この再生力とあれば、強引に突破するのも問題だろう。
いっそ、ツタ以外の部分を叩くべきか。
そう思い、モンスターたちの大本を探る。すると、離れた場所に食人花の群れを発見した。
そこまでは予想通りだが、どうやら私たちの敵は食人花だけではないらしい。
「……妖精?」
食人花の周囲を飛び回っている小さな生き物。
それは、フォレストフェアリーと呼ばれるモンスターの一種だ。
本来ならば、共生することのないモンスターではあるが、このダンジョンでは別らしい。
なるほど……植物の成長速度を促進させる妖精が、食人花のツタを斬られるたびに生やしていたのか。
「そこだ」
飛び回る妖精は私が飛ばした斬撃で両断された。
種が割れれば簡単なもので、妖精たちを片っ端から撃破するたびに、食人花のツタの再生速度が低下する。
あとは部下たちに任せても、無傷で突破できそうだな。
ツタを失った食人花たちは、本体と呼べるべき部位まで攻撃され、確実に数を減らしていった。
「それにしても、まだ入り口でこれか……」
犠牲者はいない。いないのだが……なんというか、精神のほうが疲れそうだな。
モンスター同士が連携するなど、想定していなかった。
野生のモンスターではなく、魔王軍の一員と考えたほうが良い。
今後も、従来とは違うモンスターとの戦闘になりそうということか……。
それはなんとも、面白そうだ。頼りになりそうだ。
ぜひとも、お前たちを従えさせたくなったぞ。魔王軍。
◇
「バレたか」
「アホなほうの獣人たちなら、あそこで延々と戦い続けていたかもしれねえな」
リグマが感心したように、そう言った。
オーガたちは、戦闘好きな種族ということだが、脳筋ってタイプでもないのか?
「にしても、またえげつなくて良い組み合わせだったね~」
「フォレストフェアリーが、植物の成長を強化する能力を持っていたからな。試しに食人花に使ったら無限にツタが再生することを発見したんだ」
「あの子たちもがんばっていますからね」
なぜかプリミラが誇らしげだが、食人花は彼女が育てたし、フォレストフェアリーは彼女の同僚みたいなものだからかな。
事実、相当に厄介なコンボになったと思ったが、想定外の遠距離攻撃で易々とやられてしまった。
オーガもなかなか侮れない存在なのかもしれない。
「あれ~? みなさん残業ですか? テラペイア先生に怒られますよ~?」
「邪魔しちゃ駄目よ」
この二人が戻ってきたということは、本来の業務時間はすでに終了しており、職場が別の二人が合流して駄弁ってから戻る程度の時間ということになる。
それだけ長時間オーガたちが粘ったというべきか、あるいは食人花たちが粘ったというべきか。
今日は、この後も仕事になりそうだな。
「新しいダンジョンの侵入者たちを観察しているところだ」
「あれ、ダンジョン増えたんですか? さすがレイさんですね~。ぱぱっとダンジョンを作っちゃうなんて」
そういえば、転生者組にはまだ言っていなかったな。
対人類用のダンジョン作成なので、なんとなく魔王軍だけで話を進めてしまっていた。
「どんな相手なんですか?」
「ピルカヤ」
「はいは~い」
奥居の質問に、見せたほうが早いと判断したので、ピルカヤに頼んで視界を彼女たちにも共有してもらう。
二人もそれに慣れてきているのか、抵抗なくすんなりと映像を受け入れた。
「……え」
しかし、奥居も時任も驚愕した様子で、やや青ざめた顔へと変わってしまった。
なんだ? 何か見落としている問題でもあったのか……?