【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「地底湖……。いや、ダンジョンの中に海……?」
入り口の畑はまだわかる。外界へ近い場所だったため、そこで食料でも育てていたのだろう。
正直なところ、地底へ追いやられた種族へ、いっそ同情すらした。
だが、こんな地底に海まであるのか?
「魚もいる。ここも、魔王軍の食料調達場所なのか?」
こんな場所で無理やり生活するために、洞窟内を整備した努力は並大抵のものではないだろう。
そこでしか生きることを許されなかったのだろう。
暗く岩肌だらけの洞窟に、押し込められた哀れな種族。そんな印象を抱いていたのだが、どうにもそうではないらしい。
……魔王軍。案外良い生活をしているんじゃないか?
もっと薄暗い陰気な場所かと思っていたが、魔力と松明によって十分に明るい場所になっている。
食うにも困るような土地かと思えば、自給自足ができそうな畑やら海やらがある。
「前回の魔王軍との決戦には参加しなかったが、地底魔界とはこういうものなのか……?」
迫害された種族同士、魔王軍と傷をなめ合う趣味はない。
だからといって、自分たちを見下すくせに戦う度胸もない人類には、興味すら無い。
だが、参戦しておくべきだったのだろうか?
入り口にいたモンスターたちといい、どうにも魔王軍というのは面白そうじゃないか。
「お前ら、海から離れろ」
「げっ、モンスターじゃないですか」
透き通るような美しい海なので、襲われる前に発見できた。
奥の方から巨大なモンスターたちが、こちらに向かってきている。
大型なカニやエビ、それにシャチか? あれは。
「水中戦は得意じゃないんだがな……」
まあ、やるだけやってみるか。
この場でやつらの接近を待っても良いが、迎え撃つよりはこちらから攻めたい。
刀一本を手に海へ入ると、そのままモンスターたち相手に泳ぐことにした。
部下たちも私に続いているが、私以上に水中での戦いには慣れていないため、どこかぎこちない。
海人族ほどとは言わないが、モンスター相手に後れを取るようではいかんな。
接敵すると同時に刀を振るい、カニを両断しながらそう考える。
部下たちもモンスター相手に戦うが、やはりそれなりに苦戦しているようだ。
だが、助けに行くつもりはない。
あいつらなら、このくらいのモンスターは倒せるだろう。
ならば手を貸すほうが文句を言われそうだ。
それに、私は私で戦うべき相手がいるらしい。
カニやエビと違って、とてつもないスピードで突進してきたそいつを、私はかろうじていなした。
目の前に現れたのは巨大なシャチ……。タコも混ざってない?
まあ、ともかく他とは違うモンスターを相手にしなくてはならないらしい。
タコの足がこちらを拘束しようと向かってくる。
お前、やっぱりタコなのか? シャチなのかタコなのかわからない。
何こいつ。……いや、相手の生態について考えるのは後にしよう。
足の数こそ多いものの、硬度はカニやエビに劣る。
ならば、簡単に斬り落とせる……のだけど、こいつも再生するのか。
しかたない……。足を斬りつつ、隙を見て本体を斬るか。
「やっぱり、水中戦は苦手だな……」
海中から顔を出し、出てきたのはそんな言葉だった。
私の下には巨大なシャチの死骸が、周囲にはカニやエビの死骸がある。
どうやら、私だけでなく、部下たちも戦闘には勝利したようだ。
「タコの足の再生速度が、食人花ほどじゃなくて助かったな」
長期戦になるかと思ったシャチとの戦闘は、足を斬り続けるだけでどうにかなった。
再生にも限りがあったらしく、徐々にこちらへの攻撃の勢いが弱々しくなってきたため、予定通り本体を斬って終わりだ。
だがいかんせん、疲れた……。それは部下も同じらしく、なんとも割に合わない戦闘といった感想しか出てこない。
「この分だと、他の道を行った者たちも苦戦しているかもしれないな」
分かれ道は四本。そのうちの一つを進んだ私たちは無事に切り抜けることができたが、他の者たちはどうなっているだろうか。
まさか全てが海ということでもあるまいし、地上で思う存分戦えているかもしれない。
であれば、私たちは残念ながらハズレの道を選んでしまったということか。
◇
「この道、さっきと同じ……。いや、知らない道か?」
「引き返そうとしても、見覚えが無い光景ばかり……。変化する迷宮?」
まずい。さすがに進んできた道程度なら覚えていられると思ったが、振り向いたら知らない道としか思えない光景しかなかった。
迷路そのものが変化しているというのであれば、もはや帰還すらできないということか……?
「あの岩山を崩してみるか。壁と材質が違うようだし、もしかしたらこっちなら破壊できるかもしれない」
壁は壊せなかった。魔王が作ったダンジョンというだけあって、そのあたりは非常に頑丈らしい。
なので諦めて進んでいたが、こうなった以上は岩を破壊して進んでみるべきだろう。
そう思い、岩に近づくと突如攻撃された。
どこから……いや、岩自身がモンスターか!
「ゴーレム! 迷宮が変化しているように見えたのは、こいつらのせいか!」
こいつら自身がそんなことを……。いや、さすがにモンスターにそんな知恵はない。
ということは、あの宣戦布告にきていた魔王軍が、モンスターに指示を出したということか。
……まずい!
「魔王軍だ! 全員応戦しろ!」
ゴーレムの壁の影から現れたのは、魔王軍の残党たち。
なるほど、ここで勝負を決めようということか。
ナツラ様には悪いが、アタリを引いたのは、どうやら私たちだったらしい。
「喰らえ!」
一撃で勝負を決める。それほどの気迫で攻撃を仕掛けるも、敵もなかなかの強者だ。
簡単に攻撃が直撃することもなく、こちらへしっかりと反撃もしてくる。
数はこちらのほうが多いが、油断をしていたら敗北しかねない相手のようだな。
私たちに戦いを挑むだけのことはある。
「そこだ!」
今回は私たちのほうがわずかに上回っていたようだな。
体勢を崩した魔族に、ようやく攻撃が直撃することを確信した。
どうやら、それがまずかったしい。
攻撃はたしかに命中した。
だが、私の武器で砕けたのは魔族ではなく、ゴーレム。
魔族をかばうように身を挺したモンスターは、私に致命的な隙を作り出し、魔族の攻撃が私に直撃する。
油断した……。いや、想定していなかった私が悪かった。
相手は魔族のみと考えていたが、魔族とモンスターが相手だったのだ……。
魔王軍はすでに壊滅状態であり、残党である魔族の数は少ないと舐めていた。
しかし、魔族はモンスターを使役することで、すでに勢力を増やしていたということか……。
「負けだ。やれ」
「そう。じゃあ、後は頼むわ」
「頼む? 何を……おい? 何をしている!?」
複数のゴーレムたちが私に群がると、そのまま担ぎ上げられた。
どうやら、そのままどこかへ運ぶつもりらしいが、何を考えているんだ。こいつら……。
ふと周囲を見ると、仲間たちも戦闘を終えたらしく、同じように運搬されてしまっていた。
敗北した私たちに何か言う権利はないか……。
◇
「海は負けたが、迷路は勝ったな」
「うわあ。オーガがわりと簡単にやられている。魔王軍すごいねえ。江梨子ちゃん」
「カニとエビが……。シャチまでいたのに……」
「悔しそうだねぇ……。海のオーガたち強かったね」
時任が言うとおり、海というフィールドなのに、やけにオーガたちが強かったな。
さすがに海人族のように、海で強化ということはないだろうが、海でも戦える種族ってことか?
「フィオナ様。オーガって、海でも陸でも戦えるんですか?」
「戦ったことがないからわかりませんが、海での動きは鈍っていましたね。他の種族のように、陸の戦闘のほうが得意なんじゃないでしょうか?」
「ですよね。ということは、あのオーガのボスみたいなのが、それだけ強かったってことかもしれませんね」
「ボス相手によくがんばったわよ。ワタリたち……」
「ワタリじゃないカニだから」
奥居のやつ、すでにオーガへの恐怖心とか、どこかへ行ってしまったようだ。
今は、海の仲間たちを、いかにオーガに勝たせるかを考えているのだろう。
それにつられて時任もすでに平常運転という感じだし、海エリアのモンスターたち、敗北はしたものの良い仕事をしたんじゃないだろうか。