【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「随分と広い場所だな。あの魔族たち、ここで決着をつけようって魂胆か?」
「それならわかりやすいな。あいつらみたいに、何を考えているのかさえわからないよりは、ずっと良い」
それが直接の戦闘ならなおさらだ。
そういうことならば、こちらも気兼ね無く応じてやろうじゃないか。
そう思いながら、俺たち全員が入れるほどの広間に足を踏み入れる。
……本当に何もないな。敵すらいない。
ここで待っていれば、魔族が来るというわけでもないのか?
若干の拍子抜けを感じつつも、先へ進もうとして気が付いた。
……この部屋。入り口以外に扉がないぞ。
「まさか、行き止まりか? だとしたら、この無駄に広い部屋はなんだったんだ」
「作りかけなのかもしれないな。魔王も、まだそこまでの力を取り戻していないってことだろ」
あるいは、隠し扉でもあるのか?
正方形の床に見えるが、よく観察するとところどころ小さなでっぱりというか、不自然に広がった空間があるからな。
だが、部屋の端まで行き調べてみるも、やはり何もなさそうだ。
本当に作りかけの部屋というわけか。
魔王に場所だけ用意してもらったので、あの魔族たちがモンスターでも配置しようとしているのかもしれないな。
「戻るか」
そう口にしたと同時に、部屋中に響く大きな音が聞こえた。
なんだ、ここからだったか。
期待をしながら迎え撃つ準備をし、魔族かモンスターが現れるのを待つ。
……しかし、何者かが現れる気配はない。
音だけが鳴り続けて……なんか、天井が揺れていないか?
「逃げろ! 罠だ!」
入口まで……いや、間に合わない。
あの天井が予想通りに落下してくるというのであれば、さすがに俺たちも少なくないダメージを受けるだろう。
そういうことか! あの不自然にでっぱっていた空間の正体がわかった!
走りながら天井を見上げると、ちょうど落下する瞬間だった。
時間はもう幾ばくもないが、天井の形を確認できたのは大きい。
正方形だった……。この部屋と違って、落ちてくる天井は完全な正方形だ。
ならば、歪にところどころ飛び出ていたあの場所に逃げ込めれば、天井に潰されずにすむ!
要するに、あの不自然な空間は、この天井の罠の安全地帯ということだ!
もしかしたら、魔族たちとここで戦うことになったときに、魔族だけが退避するための場所なのかもしれない。
「あの突き出た空間まで逃げろ!」
それだけで、仲間も俺の意図を察したようで、入口まで逃げることは諦めて、すぐに安全地帯まで逃げ込む。
なんとかたどり着くと、次の瞬間には大きな音が背後に響く。
振り向くと、予想通りそこには天井が落下していた。
間一髪だったな……。
仲間の悲鳴は聞こえなかったので、全員なんとか退避が間に合ったようだ。
「しかし、ここからどうしたものか……」
天井は、それなりの厚みがあるようで、ここから登るのは一苦労だろうな。
もう少し待てば、再び上まで移動してくれないだろうか?
……もしかして、それが正しい道なのか?
落ちてきた天井に登り、その先に扉や道があるのか?
それに気づいたとしても、少しタイミングが悪かったようだ。
俺たちの目の前にあった天井は、再びその役目を果たすべく上に移動していく。
今からよじ登ろうものなら、挟まれそうだな。
「もう一度落下させて、次はすぐに登ってみるか……」
移動する天井を見届けながらそう考えると、その思考を中断するかのように、足元から煙が出てきた。
なんだこれ……。煙、違う! 毒ガスか!
「くそっ! 逃げ場が……」
俺たちの目の前には、まるで壁のように天井が広がっている。
狭い安全地帯は、落下した天井に挟まれてしまい、窮屈な小部屋のようだ。
そんな状態で毒ガスなんて噴出されたら……。
「解毒薬は……無いよな」
天井が上がりきったときには、俺もおそらく仲間たちも、全員毒に蝕まれてしまっていた。
これが……この部屋の本当の狙いだったか……。
駄目だ。どうやらここまでのようだな。
俺たちは、落下する天井に気をつけながら、撤退せざるを得なかった。
魔族め……。まさかここまでの罠を用意しているとは、どうやら思っていた以上にやるようだ。
◇
「なんなんだ! このしつこい落石は!」
「絶対、自然のものじゃないだろ! これ!」
薄暗い道を歩いていたら、ふいに頭上に落下物の気配を感じた。
そこまでは良い。全員問題なく回避できたからな。
問題は、それが執拗に繰り返されることだ。
避けたと思ったら、避けた先でも落石が。
ならば受け止める、あるいは破壊すると、追加の落石が。
次から次へと降ってくるため、ドワーフたちの採掘場にでも迷い込んだとすら錯覚する。
「まだ作成中のダンジョンだったのかもね!」
「そんなところに招くなよ! 魔族!」
崩落しやすい場所だから、この道を整備するのを諦めたのか?
いや、誰かが言っていたが、この落石自体が魔族のしわざだろ。
自然のものにしては、こちらの動きに合わせすぎている。
「嘘だろ! あんなでかいのまで!?」
ひときわ大きな岩は、もはや天井が落下したと錯覚する。
だが、あれも岩か……。なんなんだ魔族ども。
この岩へのこだわりだけは、まったく理解できないぞ……。
さすがに無視することもできず、仲間と数人がかりで全力で巨岩を攻撃して破壊する。
だが、その後はまた同じことの繰り返しだ。
岩、岩岩岩、岩ばっかりかよ!
「急いでここを通り過ぎるぞ!」
もはや、一つ一つ対処するだけ無駄だ。
こちらの動きに合わせて落下しようと、危険なものだけ壊して進めば良い。
これ……俺たち以外の種族なら、簡単に全滅しそうだな。
「よし、そろそろ次の部屋だ!」
先に扉が見えた。
その中は、さすがに落石は無さそうで助かる。
ついでに言うと、扉が開いているのもありがたい。
このダンジョンを作ったやつときたら、扉を開いている隙に絶対落石をしかけてくるだろうからな……。
「走り抜けろ!」
頭を狙う岩を避け、破壊し、なんとか扉の前へとたどり着く。
あとはそのまま、部屋の中に走り抜け……。
は? なんだ。急に浮遊しているかのような……いや、事実浮遊しているのか。
「落とし穴!?」
ご丁寧に、俺たちが全員収まるほどの落とし穴だ。
だが、深さはそこまででもない。
これなら、すぐによじ登って……。
ああ、はいはい。そうだよなあ……。
ほんと、この岩へのこだわりだけは、まったく理解できねえからな! 魔族!
再び降ってきた巨岩は、俺たちを潰すより先に穴を塞ぐ形で止まった。
壊せば良いと思ったのもつかの間、天井代わりとなった巨岩に、何かがぶつかるような、重なるような音が何度か聞こえる。
「……これ、絶対同じくらいの大きさの岩が、降り続けているだろ」
「だろうな……。俺たちを捕らえるにしたって、もっとやり方あっただろ。なんなんだよ。この原始的というか力ずくなやり方……」
あの百足の魔族のしわざか?
こうして敗北した以上、俺たちのことはお前らの好きにすればいいけどな。
このやり方を考えた魔族の顔だけは見ておきたい。
脳筋だなんて言われる俺たち以上の存在なんて、どんなやつなんだよ……。
「案外、ゴーレムみたいなのが、ここを仕切っていたりしてな……」
「あり得そうで嫌だ……」
岩が重なる音が止み、俺たちは向こうの出方を見るために、その場で待機し続けるのだった。
◇
「ほら! オーガに全然効いてない! やっぱり、やり過ぎじゃなかった!」
「どこで興奮してんだお前はぁ! 良いんだよあれで!」
「だが、怪我人すらいないとは、オーガもなかなかやるものだな」
ダスカロスの言うとおりだ。
やっぱりオーガすごいじゃん。ドワーフよりもはるかにすごかった。
これは、いよいよ本腰を入れて、落石の改良に臨む必要がありそうだ。
「ですが、あの量はさすがにオーガにも堪えたようです。矢継ぎ早に落下させて余裕を奪い、落とし穴で一気に捕獲する。お見事でした。レイ様」
こちらも手動で落下させ続けたからな。
自動での起動となると、落とし穴はともかく落石はそうもいかなかっただろう。
「今後も、あのエリアは俺が見張らないと」
「もうやめとけ……。魔王様と休憩でもしろよ。お前は……」
「アナンタが良いことを言いました。ですが、さすがに侵入中のオーガを無視はできません」
「ですよね」
さすがのフィオナ様も、オーガたちのことが片付くまでは、部屋で休もうなんて言わないようだ。
「なので、こうして邪魔しないように、勝手に抱きついておきますね」
「仕事が終わるのを待つ犬とか猫みたいですね」
「良いじゃないですか。犬好きなんだから」
「いえ、別に……まあ、好きですけど」
好きではないと言おうとしたら、マギレマさんの犬たちが反応した。
なので訂正すると、今度はフィオナ様が抱きしめる力が強くなった。
俺にどうしろと言うんだ。どっちが正解だったんだ。今の質問……。