【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第353話 待てができないお馬鹿な愛犬

「……だいぶ、やられたようだな」

 

「ナツラ様? 私たちは、まだまだ戦えますが?」

 

「だろうな。だが、別の道を行ったやつらは、そうでもないらしい」

 

 魔力での索敵は得意ではないが、同族の情報くらいなら感知できる。

 別れたときには、戦意に満ちていたというのに、今はすでに失せている。

 であれば、敗北したのだろう。あるいは、罠にかかってしまったか……。

 

「戦意がないまま、奥まで進んでいる。ということは、捕まった可能性が高い」

 

「……魔族って、そこまで強いんですか。まあたしかに、さっきの海のモンスターだけでも強かったので、それ以上なのかもしれませんね」

 

「捕獲されたのが二組、残り一組は撤退したようだ。この時点で、私たちの上と考えるのが自然だろう」

 

「ということは、私たちのほうが配下に加わることになりそうですね」

 

「だが、全力で戦ってからだ。そこで殺されたとしても、そのときはそのときだ」

 

 そう、死そのものは別に問題ない。

 自分たちが今後仕えるのだとしたら、その相手を見極められるのなら、命を懸ける価値がある。

 あいつらとは違う。あんな連中の奴隷になるよりは、まだこちらのほうが良いだろう。

 

「植物に海、そして空からの鳥たち。陸地でのモンスター。ときたら、そろそろ魔族と出くわしたいものだがな」

 

 モンスターは、すでに何匹も撃破してきた。

 こちらの怪我人も増えている。特にソウルイーターが従来以上の強敵だった。

 私が早々に抑え込まなければ、こちらの被害は確実に増えていたことだろう。

 

 だが、戦えないほどの重傷者はいない。

 できることならこちらとあちら、全力で種族同士で戦いたい。

 次の部屋に進むための扉を開きながら、そんなことを考える。

 

 それが良かったのか。

 どうやら、私の願いは叶うことになりそうだ。

 

 頭に角を生やした女。インプ……。

 ただのインプではないか。炎を身に纏っている姿のため、フレイムインプと呼ばれる種族のようだな。

 バフォメットやラミア。様々な魔族たちが、その部屋には揃っていた。

 

「ここで決着をつける。それで良いんだな?」

 

 私の言葉を聞いて、魔族の集団は鼻で笑う。

 いいじゃないか。それだけ向こうも自分たちの力に自信があるということか。

 ならば、私たちの力も示してやろう。

 

    ◇

 

「え、あのオーガの長って、そんなに強いの……?」

 

「宰相様が数値で測定したようだが、十魔将(とうましょう)様にも勝てる可能性があるって……」

 

「宰相様。そんなことまでできるのやばいわね……」

 

 まあ、宰相様だしな……。

 しかし、こうなってくると問題だ。

 このダンジョンは、魔王様と宰相様が俺たちを鍛えるべく作ってくださった。

 つまり、戦闘は俺たちかモンスターのみで、行うことを想定されている。

 

 十魔将様も四天王様も助けてくれない。

 俺たちだけで戦わないといけない。

 だというのに、オーガの長は十魔将様以上……?

 

「俺たち、死ぬかもな……」

 

「不死鳥の羽を渡されたけど、死んだあともう一回殺されるのかしら」

 

「だとしたら、無駄にアイテムを消耗したくないし、不死鳥の羽だけでもどこかに隠しておくか?」

 

「負ける前提やめようよ……。宰相様の罠と、モンスターたちと協力すれば、もしかしたら……」

 

「勝てるかもしれないか?」

 

「傷を負わせたうえで、逃げられるかもしれない」

 

「いまいち志低いよなあ……」

 

 だけど、宰相様だって無駄死にしろなんて言わないだろう。

 いまだに新たな指示が無いってことは、もしかして俺たちなら勝てると信じてくれているのか?

 それか、案外ここに来るまでにモンスターががんばってくれているのかもしれない。

 

『ソウルイーターが敗走した。ガーゴイル軍団も、ヒポグリフ軍団もやられた。……オーガの長強いな』

 

 ……なんか、感心したような声が聞こえたが、やばくない?

 ソウルイーターとか、俺たちが一対一で戦ったら、だいぶ苦戦する相手なんだけど。

 

『う~ん……。十魔将すら危ういし、四天王じゃないと安心して任せられないかもしれない』

 

「それは、私たちだけで対処できる気がしないのですが……」

 

『そうだな。みんなには荷が重いかもな。ちょっと撤退……いや、違う。待て、待って。おい。あ、やばい』

 

「何がですか!?」

 

 宰相様のほうで、何か問題が起こったようだ。

 え、やばいって何が? 俺たち、やっぱりオーガに皆殺しにされるってこと?

 宰相様の返事は返ってこない。……え、どうしよう。

 

『レイ、今ちょっと忙しいから、そっちの相手できないみたい』

 

 それはしかたないが、俺たちどうすればいいんだ?

 このまま、オーガたちを迎え撃って討ち死にすべきか、それとも逃げるべきか。

 

『だから、みんなは一旦退避してくれってさ』

 

「わかりました。それは良いんですけど、宰相様のほうは大丈夫でしょうか?」

 

『……レイは大丈夫なんだけど、止められなかったみたい』

 

「な、何をでしょうか?」

 

『オーガと戦うって、意気込んで走ってくるリピアネムを』

 

 そういうことか……。

 宰相様、四天王様じゃないと安心できないって言っていたから、きっとリピアネム様がならば自分がと走ってきているのだろう。

 言っちゃ悪いが、宰相様とリピアネム様の関係って、飼い主と犬みたいだ……。

 

「ど、どうするの?」

 

「そうだなあ……。まあ、撤退してリピアネム様と合流したら、なんとか連れて帰ろう」

 

 俺たちに、そんなことできるだろうか……。

 とりあえず、この場は放棄しよう。

 そう思った矢先、扉が開かれるとオーガの女が、堂々と部屋に足を踏み入れた。

 

「ここで決着をつける。それで良いんだな?」

 

 ……いや、ちょっと色々とこっちにも事情があって。

 どうしよう。ここで戦うのはいいんだけど、急がないとリピアネム様がやってくる。

 なんともタイミングの悪いことだ。

 いったん仕切り直させてくれと言っても、たぶん聞いてくれないよなあ……。

 

 敵を前にしているというのに、すっかりと変わってしまった魔王軍のドタバタした状況に、思わず笑ってしまう。

 昔の魔王軍はもっと厳格だったが、余裕がなかった。

 それが今では、なんとも楽しい状況になったものだ。

 

 オーガの女性は、そんな俺の笑いに怪訝な表情を浮かべるも、戦う意思はそのままらしい。

 

「まあ、やるだけやってみても良いか。格上相手とはいえ、経験になるのなら悪くない」

 

「敵が来る前ならともかく、こうして対峙しちゃってるからなあ。悪いが、この場で戦うよう切り替えさせてもらおう」

 

 相手は俺たちより強く、余裕などあるわけない。

 しかし、今の魔王軍には、魔王様も宰相様も四天王様もいる。

 俺たちが死ぬ前よりも充実しているような魔王軍だ。

 ここで敗北しても、上に立つ方々がどうにかしてくれる。

 そう思うと、こうも余裕を持って戦えるらしい。

 

「……強いな。どうやら、一筋縄ではいかないらしい」

 

「過大評価だよ。それは」

 

 強いのは俺たちではなく、その上の方たちだ。

 油断無く構えたオーガの長は、このまま俺たちを圧倒するだろう。

 なら、せいぜい抗って学ばせてもらうとするか。

 

    ◇

 

「……やはり、強かった」

 

「すみません、ナツラ様。私たちが足手まといでした」

 

「かまわん。お前たちも、この者たちから多くを学べただろう。次に活かせ」

 

 彼らは強かった。

 部下と同等には強かった。私よりは弱かった。

 だが、戦いにくかった。死を恐れていない。かといってヤケクソでもない。

 心に常に余裕があるようで、私の攻撃にも対処してみせた。

 同格の相手である部下たちが、終始押されていた。

 

 ……いいな。実にいい。

 死を恐れない精神性が、戦いを楽しむ心根が、実に私好みだ。

 同種以外に、ここまでの者たちがいることに嬉しくなる。

 

「あの、ナツラ様……。私たちが勝ったということでいいんですよね?」

 

「であれば、魔族たちは私たちの配下になるんでしょうか?」

 

 まあ、この光景だけを見ればそう思うか。

 しかたがないことだが、まだまだ甘い考えだな。

 

「この者たちは、兵士だ。まだ上がいる」

 

 そうだろう?

 もう間もなくすれば、この者たちを束ねる者がやってくる。

 同種の気配ではないが、こうも戦意を向けられては嫌でもわかる。

 

 私たちが倒さねばならないのは、その何者かだ。

 ……体の震えは武者震いだろうか。

 嬉しいじゃないか。こうも、格上に挑ませてもらえるなんてな。

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