【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「……だいぶ、やられたようだな」
「ナツラ様? 私たちは、まだまだ戦えますが?」
「だろうな。だが、別の道を行ったやつらは、そうでもないらしい」
魔力での索敵は得意ではないが、同族の情報くらいなら感知できる。
別れたときには、戦意に満ちていたというのに、今はすでに失せている。
であれば、敗北したのだろう。あるいは、罠にかかってしまったか……。
「戦意がないまま、奥まで進んでいる。ということは、捕まった可能性が高い」
「……魔族って、そこまで強いんですか。まあたしかに、さっきの海のモンスターだけでも強かったので、それ以上なのかもしれませんね」
「捕獲されたのが二組、残り一組は撤退したようだ。この時点で、私たちの上と考えるのが自然だろう」
「ということは、私たちのほうが配下に加わることになりそうですね」
「だが、全力で戦ってからだ。そこで殺されたとしても、そのときはそのときだ」
そう、死そのものは別に問題ない。
自分たちが今後仕えるのだとしたら、その相手を見極められるのなら、命を懸ける価値がある。
あいつらとは違う。あんな連中の奴隷になるよりは、まだこちらのほうが良いだろう。
「植物に海、そして空からの鳥たち。陸地でのモンスター。ときたら、そろそろ魔族と出くわしたいものだがな」
モンスターは、すでに何匹も撃破してきた。
こちらの怪我人も増えている。特にソウルイーターが従来以上の強敵だった。
私が早々に抑え込まなければ、こちらの被害は確実に増えていたことだろう。
だが、戦えないほどの重傷者はいない。
できることならこちらとあちら、全力で種族同士で戦いたい。
次の部屋に進むための扉を開きながら、そんなことを考える。
それが良かったのか。
どうやら、私の願いは叶うことになりそうだ。
頭に角を生やした女。インプ……。
ただのインプではないか。炎を身に纏っている姿のため、フレイムインプと呼ばれる種族のようだな。
バフォメットやラミア。様々な魔族たちが、その部屋には揃っていた。
「ここで決着をつける。それで良いんだな?」
私の言葉を聞いて、魔族の集団は鼻で笑う。
いいじゃないか。それだけ向こうも自分たちの力に自信があるということか。
ならば、私たちの力も示してやろう。
◇
「え、あのオーガの長って、そんなに強いの……?」
「宰相様が数値で測定したようだが、
「宰相様。そんなことまでできるのやばいわね……」
まあ、宰相様だしな……。
しかし、こうなってくると問題だ。
このダンジョンは、魔王様と宰相様が俺たちを鍛えるべく作ってくださった。
つまり、戦闘は俺たちかモンスターのみで、行うことを想定されている。
十魔将様も四天王様も助けてくれない。
俺たちだけで戦わないといけない。
だというのに、オーガの長は十魔将様以上……?
「俺たち、死ぬかもな……」
「不死鳥の羽を渡されたけど、死んだあともう一回殺されるのかしら」
「だとしたら、無駄にアイテムを消耗したくないし、不死鳥の羽だけでもどこかに隠しておくか?」
「負ける前提やめようよ……。宰相様の罠と、モンスターたちと協力すれば、もしかしたら……」
「勝てるかもしれないか?」
「傷を負わせたうえで、逃げられるかもしれない」
「いまいち志低いよなあ……」
だけど、宰相様だって無駄死にしろなんて言わないだろう。
いまだに新たな指示が無いってことは、もしかして俺たちなら勝てると信じてくれているのか?
それか、案外ここに来るまでにモンスターががんばってくれているのかもしれない。
『ソウルイーターが敗走した。ガーゴイル軍団も、ヒポグリフ軍団もやられた。……オーガの長強いな』
……なんか、感心したような声が聞こえたが、やばくない?
ソウルイーターとか、俺たちが一対一で戦ったら、だいぶ苦戦する相手なんだけど。
『う~ん……。十魔将すら危ういし、四天王じゃないと安心して任せられないかもしれない』
「それは、私たちだけで対処できる気がしないのですが……」
『そうだな。みんなには荷が重いかもな。ちょっと撤退……いや、違う。待て、待って。おい。あ、やばい』
「何がですか!?」
宰相様のほうで、何か問題が起こったようだ。
え、やばいって何が? 俺たち、やっぱりオーガに皆殺しにされるってこと?
宰相様の返事は返ってこない。……え、どうしよう。
『レイ、今ちょっと忙しいから、そっちの相手できないみたい』
それはしかたないが、俺たちどうすればいいんだ?
このまま、オーガたちを迎え撃って討ち死にすべきか、それとも逃げるべきか。
『だから、みんなは一旦退避してくれってさ』
「わかりました。それは良いんですけど、宰相様のほうは大丈夫でしょうか?」
『……レイは大丈夫なんだけど、止められなかったみたい』
「な、何をでしょうか?」
『オーガと戦うって、意気込んで走ってくるリピアネムを』
そういうことか……。
宰相様、四天王様じゃないと安心できないって言っていたから、きっとリピアネム様がならば自分がと走ってきているのだろう。
言っちゃ悪いが、宰相様とリピアネム様の関係って、飼い主と犬みたいだ……。
「ど、どうするの?」
「そうだなあ……。まあ、撤退してリピアネム様と合流したら、なんとか連れて帰ろう」
俺たちに、そんなことできるだろうか……。
とりあえず、この場は放棄しよう。
そう思った矢先、扉が開かれるとオーガの女が、堂々と部屋に足を踏み入れた。
「ここで決着をつける。それで良いんだな?」
……いや、ちょっと色々とこっちにも事情があって。
どうしよう。ここで戦うのはいいんだけど、急がないとリピアネム様がやってくる。
なんともタイミングの悪いことだ。
いったん仕切り直させてくれと言っても、たぶん聞いてくれないよなあ……。
敵を前にしているというのに、すっかりと変わってしまった魔王軍のドタバタした状況に、思わず笑ってしまう。
昔の魔王軍はもっと厳格だったが、余裕がなかった。
それが今では、なんとも楽しい状況になったものだ。
オーガの女性は、そんな俺の笑いに怪訝な表情を浮かべるも、戦う意思はそのままらしい。
「まあ、やるだけやってみても良いか。格上相手とはいえ、経験になるのなら悪くない」
「敵が来る前ならともかく、こうして対峙しちゃってるからなあ。悪いが、この場で戦うよう切り替えさせてもらおう」
相手は俺たちより強く、余裕などあるわけない。
しかし、今の魔王軍には、魔王様も宰相様も四天王様もいる。
俺たちが死ぬ前よりも充実しているような魔王軍だ。
ここで敗北しても、上に立つ方々がどうにかしてくれる。
そう思うと、こうも余裕を持って戦えるらしい。
「……強いな。どうやら、一筋縄ではいかないらしい」
「過大評価だよ。それは」
強いのは俺たちではなく、その上の方たちだ。
油断無く構えたオーガの長は、このまま俺たちを圧倒するだろう。
なら、せいぜい抗って学ばせてもらうとするか。
◇
「……やはり、強かった」
「すみません、ナツラ様。私たちが足手まといでした」
「かまわん。お前たちも、この者たちから多くを学べただろう。次に活かせ」
彼らは強かった。
部下と同等には強かった。私よりは弱かった。
だが、戦いにくかった。死を恐れていない。かといってヤケクソでもない。
心に常に余裕があるようで、私の攻撃にも対処してみせた。
同格の相手である部下たちが、終始押されていた。
……いいな。実にいい。
死を恐れない精神性が、戦いを楽しむ心根が、実に私好みだ。
同種以外に、ここまでの者たちがいることに嬉しくなる。
「あの、ナツラ様……。私たちが勝ったということでいいんですよね?」
「であれば、魔族たちは私たちの配下になるんでしょうか?」
まあ、この光景だけを見ればそう思うか。
しかたがないことだが、まだまだ甘い考えだな。
「この者たちは、兵士だ。まだ上がいる」
そうだろう?
もう間もなくすれば、この者たちを束ねる者がやってくる。
同種の気配ではないが、こうも戦意を向けられては嫌でもわかる。
私たちが倒さねばならないのは、その何者かだ。
……体の震えは武者震いだろうか。
嬉しいじゃないか。こうも、格上に挑ませてもらえるなんてな。