【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
敵将の到着を待っていると、倒したはずの魔族たちが起き上がる。
殺してこそいないものの、それなりの傷を負っているはずだが、なかなかの胆力だな。
「……あぁ、負けたか」
「そうだな。私の勝ちだ」
「なら、俺たちはこれ以上は戦えない。だが、まだあんたたちに従うわけにもいかない」
「わかっているさ。来るんだろう? お前らの将が」
魔族の男は、私の言葉に驚いた様子を見せた。
なんだ。この者たちも、うちの部下と同じで、敵の気配がわからないのか?
さすがに、ここに迫っているほどの強者の気配なら、わかるとも。
……しかも、私より強い相手らしい。
魔王軍。どうやら、私たちでは手に負えない相手だったようだな。
「色々と言いたいことはあるが、まずは戦いを楽しませてもらう」
「……そうか。まあ、敗者には何も言えないだろうし、せめて見届けさせてもらう」
さて、そんな話も終わりだ。
敵はついにこの部屋までたどり着いた。
扉を破壊するほどの勢いで、駆け込んできた相手の正体は竜人。
「まさか……リピアネムか」
「魔王軍四天王リピアネム。手合わせ願おう」
いっそ笑いたくなってくる。
そうか。とんでもない強者の正体は、お前だったか。
以前より弱くなっているようでもあり、強くなっているようにも思える。
それがたまらなく不気味なやつだ。
そして、魔王はこれより上ということか?
まったく……恐ろしい軍団だな。
「またお前と戦うことになるとはな……。改めて、オーガの族長ナツラだ」
刀を構えると、向こうも剣を構えた。
その所作の一つ一つが洗練されており、美しいまでの力量が感じ取れる。
この時点で、はるかな高みにいるとわかる。
全身全霊で相手の動きを観察しろ。
おそらく、相手の速度に対応すらできないだろう。
私など、一撃で両断されてもおかしくないぞ。
剣を持つ手に力が込められた。来るか。
やはりとんでもない速さだ。
だが、幸いにも見えないほどではない。
相手は接近して剣を振るう。ならば、こちらは迎え撃つように刀を振るえばいい。
接近と攻撃を行わなければならない相手、迎撃だけに集中すればいい私。
これならば、かろうじて対抗できる。
「っ! 見た目とは裏腹に、随分な怪力だな!」
「お前もだ。ナツラ」
ああ、たしかに私もそうか。
一見すると細身ですらある私たち。しかし、その力はドラゴンにだって負けていない。
そういえば、こいつはそもそも竜人か。ならば、この怪力も当然だったな。
思考すら許さないと言うかのように、次の攻撃がくる。
迎え撃ち、弾かれたように後方へ跳躍する。
再び接近され、攻撃される。
それの繰り返しだ。
敵はご丁寧にも、この攻防に付き合ってくれている。
こちらの迎撃は、敵が一足で近づいてくれることを前提としたものだ。
牽制の一つでも混ぜて、接近するのをやめるだけで、私は体勢を崩して斬られるだろう。
相手の行動を信じての攻防という、なんとも情けない結果になっている。
それに律儀に応じてくれているのが、実に不甲斐ない。
「どうやら、私もまだまだ鍛錬が足りていないようだ」
答える余裕はない。
これで鍛錬が足りないなど、存外謙虚なものなのだな。魔王軍四天王というものは。
リピアネムが剣を軽く振るう。すると、手にした武器は、風をまといながら嫌な音を立てた。
……あれを受けるのは厳しいな。
速度も力も十分すぎるほどに脅威だというのに、武器まで劣っていたか。
いや、武器以前に私の力量不足だな。
ともかく、あんな風をまとわれたら、今度こそ攻撃を受け止めることは不可能だろう。
ならば、やめた。
もう身を守るなどとせこいことは言わない。
先のことも考えない。
こちらの全力の攻撃をもって、この戦いに幕を引こう。
「悪いな。付き合えるのはここまでだ」
相手が風をまとったように、私も刀に魔力をまとわせる。
属性はない。純粋な魔力を通しているだけだ。
枯渇寸前になるほどの魔力を武器にまとわせ、あとは居合の要領で振るうだけ。
それだけで、斬撃そのものは飛翔する。
たしか、プリズイコスのイドも、同じ原理の攻撃を得意としているらしい。
これが、私にできる精一杯の攻撃だ。
わずかにでも貴様に届けば幸いなのだが……。
「――!!」
声すら出ないほどに、その一撃に全てを費やしたつもりだ。
……だが、ああそうだな。やはり、お前には届かないか。
「見事な攻撃だ。ナツラ」
よく言う。軽々と受け止めておきながら……。
ここまでの力量差を見せつけられると、いっそ清々しくもある。
リピアネムは、やはり一足でここまで接近し、一太刀のもとに私を斬り伏せた。
◇
「偉い! ちゃんと殺さずに加減している!」
『ふふん! そうだろう。そうだろう』
「お前が言うんじゃねえよぉ……」
まあそこは、俺もそのうちがんばるよ……。
今は、ちゃんとオーガたちを殺さなかったリピアネムを、褒めておこうじゃないか。
四天王じゃないと安心できないなんて言ったものだから、自分の出番かと走り出したときは、どうしようかと思った。
だが、終わってみれば一番良い結果だったかもしれないな。
プシシモたちには荷が重いようだったし、
だが、リピアネムならご覧のとおりだ。
オーガの族長ナツラを圧倒し、残ったオーガたちも一蹴してみせた。
それも重傷を負わせていないのだから、さすがは封印状態と言えるだろう。
『私も、腕輪の力さえあれば、このとおりだ』
「ああ、すごいよ。偉い偉い」
俺の言葉に気を良くしたらしく、リピアネムは尻尾を嬉しそうに振っていた。
犬ドラゴン……。フィオナ様といい、うちの美人たちはかわいい性格だよな。
「それじゃあ、回収用のゴーレムに引き渡してくれ」
『承知した』
これで、四組に別れたうちの三組までは捕獲した。
あとは、毒を受けて撤退した集団か……。
だけどあの状態なら、ダンジョンの外で休んでいそうだな。
「ピルカヤ……いや、ドリュたちのうち誰かに行ってもらうか。そっちの族長を倒したって」
「ボクでも良いんだけど?」
「いや、さすがに四天王を出したくはない」
「リピアネムさんは、戦ったじゃん!」
それは、もう手遅れだっただけだ。
……やはり、お説教すべきか?
「まあ、リピアネムだから」
『私はかっこいいからな!』
いや、君が若干アホだからです。あるいはポンコツ。
……ほんと、フィオナ様に似ているよなぁ。実は姉妹だったりしないだろうな?
見た目は全然違うから、さすがにそれはないか。
「ドリュ。あとは停戦して、今後について話すだけだから、外に逃げたオーガたちを呼んできてくれ」
「お任せください!」
「時任、ドリュに解毒薬を渡してやってくれ」
「はい! じゃあドリュさん。ついてきてください!」
ドリュはともかく、なんで時任まで気合が入っているんだ。
さあ、事後処理だ。
当初の目的である、一般の魔族たちへの戦闘訓練も達成できたし、オーガも仲間にできるなら上々の成果と言えるだろうな。
あとは……ついでに、仲間になった後も、戦闘訓練ができれば助かるかもな。
「なんとか、深夜になる前に終わりそうですね」
「眠くなりました? フィオナ様は、先に眠っていても良さそうですけど」
「今日はレイを抱く日なので駄目です。さくっと終わらせて、たっぷり眠りましょう」
何その日……。
まあ、言わんとしてることはわからんでもない。
毎日とまでは言わないが、一定間隔でフィオナ様と寝ているからな。
今日は一緒に寝る日だったというだけだ。
「深夜になる前に、オーガたち相手に交渉の手腕を発揮してもらいますよ? 私の宰相」
「そういうの、ロペスのほうが得意だと思いますし、俺に期待しないでくださいよ……」
いっそ、リピアネムにぶん殴ってもらって、力ずくで……は、悪い魔族みたいだし駄目だな。
なんとか、すんなりと話し合いを終えられれば良いんだけど……。