【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「ところでレイ」
「どうした? ダスカロス」
時任たちに、ダンジョンの外のオーガを迎えに行ってもらうと、ダスカロスに話しかけられる。
ダンジョンの講評か? それなら、今回は自信があるぞ。
「君もリピアネムも、その自信こそが強さにつながっているのかもな……」
「いや、俺は弱いけど」
「まあ、そのあたりの自覚は後でいい。私が言いたかったのは、トキトウを行かせて大丈夫だったのかということだ」
時任が心配?
あいつはわりと図太いところがあるし、それでいてそつなく仕事をこなしてくれるから、適切な采配だと思ったんだけど。
「彼女、オーガが苦手ではないのか?」
「……あ」
なんかもう普通にオーガを観察していたから忘れていた。
あいつと奥居のトラウマじゃん!
やばい。そんな部下にオーガたちを連れてこいとか、俺の命令に断れなかっただけかもしれない。
「大丈夫だと思いますよ? 私もそうですけど、オーガより強い存在を見ることができたので、克服したと思います」
リピアネムか。
なるほど、彼女の圧倒的な強さを前にしたら、オーガへの恐怖心はもうなくなったってわけだ。
わりと暴走気味の出陣ではあったが、それなら意外と最善の結果を残してくれたのかもしれない。
「リピアネム強いからなあ」
「あ、いえ。リピアネムさんもですけど、このダンジョンにいる限り安全だとわかったので」
……その言葉は、喜ぶべきなんだろうけど、なんで遠い目をしているんだ。
なんだか釈然としない……。
「オーガたちが、あんな簡単に一網打尽に……私たちの前世にもレイさんがいてくれたら、みんな無事だったんでしょうね……」
ごめん。それ無理。
俺も君らの前世に住んでた人間だけど、なすすべなく死んだからここにいるんだろうし。
◇
「さあ、キリキリ歩いてください! 解毒した時任です! 解毒を命じたのは宰相様です!」
「なんでこんな元気なんだよ。このウサギ……」
「あの変なポーズ威嚇なのか?」
両手を広げてオーガたちを威嚇しながら、時任がオーガたちを連れてきた。
……なんか、思っていた以上に元気だな。
それとも、気持ちが飲まれないように、強気でいようとがんばっているんだろうか。
「オーガを克服したスーパー時任です! もはや、私を殺した相手などと怯えることもありません!」
「知らない話をされてる気がする……」
「誰だよ。あのウサギに喧嘩ふっかけたの」
「そもそも殺したとか言わなかったか? 誰かあのウサギ殺したってことか?」
「ということは、蘇生薬で復活したのか?」
……なんか、勘違いされた結果、蘇生薬に行き着いてしまった。
まあ、量産できることがばれたわけじゃないし、オーガたちが仲間になるのならばれて困ることでもないか。
「時任、落ち着いてくれ」
「はい! 恐怖に勝った時任です!」
興奮気味の時任は、とりあえず奥居になんとかしてもらおう。
目線を送ると、奥居は察してくれたらしく、時任を隅の方に移動させてくれた。
「ここに来たということは、そちらも戦いは終わりと考えている。ってことで良いんだよな?」
「そうだな……。毒で弱っている俺たちを倒すでもなく、治された時点で俺たちは負けだ。だが、他のやつらのことまでは知らん。特にナツラ様たちは、そう簡単には」
「あ、そっちもそろそろ合流するはずだ」
「……倒したのか? ナツラ様を?」
「ああ、完膚なきまでに敗北した」
「ナツラ様!」
オーガの女性の声に答えたのは、他ならぬナツラ本人だった。
リピアネムに敗北して失っていたはずの意識が、もう回復したのか。
さすがに、かなり頑丈なんだろうな。
「レイ殿。勝ってきた」
「うん。偉いぞ」
自慢気に誇るので、こちらも褒めるしかなくなる。
お説教は、まあ次に同じことをしそうになったときだな。
これだけ尻尾を振って喜ばれると、なんか叱りにくい。
「さて、話は聞いた。私たちはことごとく敗北したというわけだ。そこの宰相様に」
あんたは俺じゃなくてリピアネムにだけどな。
だが、半分のオーガたちは、ダンジョンに負けたと考えると、俺に負けたというのも間違いでもないか。
……あれ? いつもなら、俺を魔王と勘違いするはずが、宰相とまで言い当てられたな。
なんで、俺の役職までわかったんだ?
「……リピアネム。オーガたちに何か話した?」
「うむ。私たちは、宰相様の下で魔王軍を立て直そうと動いていると言った」
う~ん……。ちゃんとカバーストーリーを話したことを褒めるべきか。
建前とはいえ、軽々とこちらの行動を話したことを叱るべきか。
「リピアネムをお説教するかは後にして」
「な、なぜだ? 私は、活躍したと思うのだが……そうか。殺してないからか。だが、今から無抵抗の相手を殺すのも……」
「負けを認めた相手を殺すなって」
ナツラですら、わりと驚いているぞ。
どうなっているんだ。お前の思考回路。
「首が欲しければ差し出そう。だが、許されるのであれば私のだけにしてもらえたら助かる……助かります」
ほら、なんか敬語になってるじゃないか。
仲間が増えると思ったけど、このままじゃ部下が増えそうだ。
「首はいらないから、労働力になってほしい」
「温情に感謝します」
駄目だ。クララたちみたいに、すでに対等な関係は消滅している。
リピアネム……。お説教では?
「ええと……。オーガたちって、これで全員か?」
「いえ。さすがに村を守る者は残しているので、半数ほどです」
「となると、そっちの説得はナツラたちに任せないとな」
「それは、どうでしょう……」
ナツラは気が進まない様子のようだ。
なるほど、まだ半分も残っているもんな。
オーガとしては、負けたと判断していないということか。
「私たちは敗北しました。魔王軍の支配も受け入れます。ですが、戦ってもいない部下たちは、同じように受け入れるとは思えません」
まず勝負して、負かさないといけないってわけだ。
まてリピアネム。お前じゃないから座ってろ。
……よし、ダスカロスが止めてくれている。
「説得は難しいか」
「ええ。なので、残りのやつらも、ダンジョンに招いてやってください」
「話し合いは難しいんじゃなかったのか?」
「話し合いではなく、私たちのように倒してやってください」
「……いいのか? 仲間たちを倒せと言っているように聞こえるが」
俺の言葉に、ナツラはむしろ頷いて肯定してしまった。
そっか、良いのか……。仲間なのに。
「戦力の半数を失った以上、今後あの者たちは侵略者相手に疲弊することになるでしょう。であれば、私たち全員を魔王軍の配下に加えていただきたいのです」
そういうことか。ナツラの意図は理解した。
だが、それならなおさら戦う必要はないんじゃないか?
「倒す必要あるの?」
「オーガですので」
オーガならしかたないってことらしい。
まあ、族長である彼女がそう言っているんだ。
それなら、残りのオーガたちで試させて……勝負させてもらうとしよう。
ソウルイーターやグリフィンは、ナツラたちに敗北してしまったからな。
今度は、あの子たちが活躍できるように、仕掛けや配置を急いで変えないと。
「ちょっと、ダンジョン作り替えてくる」
「おい、話の途中で! ああ、もう! 俺もついていかないとまずいだろうがぁ!」
「ダスカロス。ナツラたちのこと頼んだ」
「……まあ、そちらのほうが優先されるか。良いだろう。ただ、アナンタだけでなく、もう一人連れて行くように」
もう一人っていうのは、プリミラのことだな。
まだナツラたちには、リピアネム以外の四天王を見せていないから、名前は伏せたということだろう。
よし、それならプリミラと合流して、急いでダンジョンをメンテナンスしないと。
◇
「……行ってしまわれたが、正直なところ驚いている。私たちはすでに敗北した。そのくせ残りの者とも戦えなどと、虫が良すぎると思っていたのだが……」
「虫が良いどころか、都合が良いと思われていたぞ。私たちの宰相には」
「……面白い、そんな方が宰相か。存外話が合うかもしれないな。私たちを苦しめたダンジョンもあの方が?」
「宰相の趣味だ」
「そうか趣味……趣味? それは良い。魔王軍、ずいぶんと面白そうな場所じゃないか」