【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「そうか。こうなったか……」
ナツラとイピレティスがわりと本気で戦ったため、最悪どっちかが死ぬかと思った。
だが、二人とも死ぬどころか四肢すら失うことなく、無事に気絶している。
「乱入して良かったのかよ……」
「なんだ? お前も乱入したかったのか? ビビりなのに?」
「んなわけねえだろぉ。魔王軍、血の気の多いやつ多くねえか?」
「良いことじゃねえか。雑魚とはいえ、最近獣人どもが絡んでこなくて暇だったんだ」
二人の戦いに乱入したのはウルラガ。
というか、以前見た時よりも強くなっていたから、群生の魂晶を使っていたようだ。
姿を隠しているリグマや、店員のカーマルを巻き込んだんだろうな。
「で? お前らはやらないのか?」
「ナツラ様以上の相手がごろごろと……」
やめろ。挑発するなウルラガ。
お前はもう、イピレティスとナツラと戦ったんだから満足だろ。
ほら、オーガのみんなだって居心地悪そうに……。
「ここで生活すれば、駆け足で強くなれそうね!」
むしろやる気みたいだな。やっぱり、良さそうな種族じゃないか。
ダンジョンのテストプレイも、きっと快く引き受けてくれるに違いない。
「良い種族を仲間にしたな! レイ!」
そうして向かっていくオーガたちを、ちぎっては投げといった様子でウルラガは片っ端から倒していった。
あ~あ……。このままだと、ウルラガの手によってオーガたちは全員気絶するぞ。
ちょうどいいから、今のうちに仕事の割り振りを考えておこう。
「あいつ、レイよりアホだなぁ」
「俺はアホ判定のままなのか。宰相なのに」
「お前は頭の良いアホだ」
「頭の良い部分は、岩の部分に集約されていると」
「アホな部分のほとんどはそれだぁ……」
冗談じゃないか。そんな本気で残念そうな目をするなよ。
「あのような者たちだからこそ、他の種族たちからの迫害をものともしなかったのでしょうね……。やはり、私たちには力が足りませんでした」
陰湿な女神の執拗な嫌がらせみたいな迫害は、魔族も他の種族もけっこうな迷惑を被っている。
抵抗するのに力が必要というクララの判断は、そこまで間違いというわけではない。
それでも、最強の力を持つフィオナ様が率いる魔王軍が狙われるのは、いまだに女神が俺たちを滅ぼそうとしているからだろう。
ナツラやクララの場合は、一応迫害対象ではなくなったから、そこまで熱心に攻撃されていなかったってところか。
そして、その中で抵抗する力が弱かったクララたちは、特にひどい目に遭っていたと。
「まあ、全員が全員あんな感じなら、それはそれで大変そうだけどな」
「種を統率する者として、その気概が足りなかったと実感しています。レイ様もナツラも、敵には毅然と立ち向かっていますので」
「向き不向きや、性格の違いがあるからなあ……」
クララの場合、争いは苦手そうだし。
フィオナ様も俺も、別に争いは得意じゃないので、やはりオーガが特殊なんだろうな。きっと。
「ちなみに、そんな血気盛んなオーガたちは、基本的にはクララたちに面倒を見てもらおうと思っている」
「え……。あれを?」
あれを。
ウルラガに向かっていってはぶん殴られ、なんなら骨折しても楽しそうにしているあれをだ。
……俺も、あれを制御できるか不安になってきた。
もしものときは、リピアネムになんとかしてもらおう。
「そうですか。私たちの世話はダークエルフがしてくれると」
「不服か?」
俺たちの会話を聞いていたらしく、ナツラが折れた足を引きずりながらやってきた。
なんか早くも気絶から立ち直ってるぞこいつ。
……面白いな。これはぜひとも、うちのテストプレイヤーになってもらいたい。
「い、いえ! 滅相もありません! 新参者の私たちの面倒を見てもらえて感謝します!」
「私たちのほうが弱いんだけどねぇ……」
「それが私たちを打ち負かした魔王軍のルールなのだから従うさ。よろしく頼むぞ姐さん」
「姐さん……」
長同士、うまくやっていけそうで何よりだ。
もっとも、クララのほうは呼称が気になっているらしく、しっくりときていない様子だが。
「良いじゃないか。ちゃんと面倒見てやるこったな。姐さん」
そんなクララをからかうようにロペスが笑うと、クララは罰が悪そうにロペスをにらんだ。
「なら、君は兄さんだな」
まるで芸事の世界のしきたりみたいだ。師匠みたいなのも出てくるんだろうか。
クララの思わぬ反撃を受けたロペスだったが、そんなロペス本人よりも周囲のほうが大きな反応を示した。
「女王様が姐さんで、ロペスさんが兄さん、それってやっぱり……」
「女王様。ようやく、一歩進もうとされているのですね」
「違うから! そういう意味じゃない!! 邪推はやめないか!」
うん。ダークエルフたちは今日も仲が良さそうだ。
……なんだろう。なんか、無性にフィオナ様とお茶でも飲みたい気分だ。
まあ、色々あったから疲れているんだろうな。
残っている作業を終わらせたら、俺もさっさと休憩するとしよう。
「ウルラガ~! 全員倒し終わったら、テラペイアのところに運んでおいてくれ~!」
「おう! もう少しで終わる……。ああ? その女目が覚めてるじゃねえか! よし、もう一回ぶっ飛ばす!」
「いや、今日のところはあれで満足した。また戦うのもやぶさかではないが、今後のここでの生活の説明をしてもらわないといけないからな」
「しょうがねえなあ……」
「しょうがねえのはお前の方だろぉ……」
ナツラの言葉に渋々と戦いを終えるウルラガを、アナンタが呆れた目で見ている。
……なんか、見覚えのある表情だな。俺も、いつもあんな感じなのか。
「では、地底魔界での仕事と暮らしと、守っておくべきことは私が教えようかねぇ」
「ああ、助かる。姐さん」
「まず、私を姐さんと呼ばないことからかな……。それと、驚かないように。いちいち驚いていたら、疲れるからね」
「魔族と私たちの常識に、それほどの違いがあるとも思えないが」
オーガたちは、ウルラガとアナンタとクララたちがなんとかしてくれる。
じゃあ、オーガたちに対処されたダンジョンのメンテナンスを行って、それから戦闘訓練については考え直すか。
オーガだけでなく、ウルラガやイピレティスも協力してくれたら、実戦形式での訓練はできそうだ。
「ああ、それとオーガたちの村をどうするか。ナツラ、村にいるオーガが全員こっちに来たってことは、クララたちみたいに完全に移住するってことで良いんだよな?」
だとしたら、部屋やら宿やらを大量に作っておかないと。
クララたちのときくらいの人数が住むのなら、今のダンジョンでは部屋数が足りないかもしれない。
「ええ、あそこは放棄します。いい加減、外敵にうんざりしていたところなので」
「やっぱり、クララたちみたいに、常に敵がいたわけか」
それにしても、オーガであるナツラたちがうんざりするほどとは、一体どれだけちょっかいをかけていたんだ……。
もしかしたら、現地の住民だけではなく、転生者たちもこれ幸いと行動していそうだな。
ますますもって、うちと似たような境遇だ。
「戦いが好きな君たちですらうんざりときたか。まったく……これだから女神は」
「いや、舐めてかかってきた連中は力でわからせれば良い。純粋に敵として見られているのなら、私たちも喜んで応じる」
「そうではない相手ということかい?」
「そこに確固たる意志がない相手との戦いなんて、つまらないんだ。敵意も侮蔑も殺意もなく、淡々と攻撃をする無感情な兵隊なんてな」
……なんか、ナツラが言う敵って普通じゃなさそうだな。
感情がない兵隊……。前に俺のダンジョンを崩壊させた転生者みたいに、意思をはく奪された敵ってことか?
もう少し、話を聞いてみる必要がありそうだな。