【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「ナツラが言っている感情の無い兵隊って、自我を奪われた転生者のことか?」
「なんでしょう……。その恐ろしい発想は」
そんな引いた目で俺を見るな!
俺じゃないぞ! 俺はむしろ、そんな転生者の被害に遭った側だから!
エーニルキアのジェルミが、そういう転生者を連れてきたことがあるんだって!
「エーニルキアの転生者が、そういうふうに利用されていたけど、それとはまだ別の話か」
「ああ、そういうことでしたか。てっきり宰相様が、そのような部下を所持しているのかと」
部下を所持と表現している時点で、もう健全ではないよなあ……。
ナツラめ。俺のことをどんな風に見ているんだ。
「私たちと戦っていたのは、昆虫人の群れです」
「昆虫人……。獣人の虫バージョンみたいなもんか」
まだ、この世界で出会ったことがない種族だな。
意外と、そんな種族はまだまだいるのかもしれない。
「獣人と違って先ほど言ったように、感情が無く、淡々と攻撃されるのが不気味でして」
「……ボスみてえだな」
「俺、虫みたいってこと!?」
「い、いや、そうじゃなくて……ええと。ボスって、味方にも敵にも同じような態度じゃねえか」
「そうかな……言われてみれば、気にしていなかった」
わりと内心は感情が乱高下していると思っていたけど、態度には出ていなかったということか。
……つまり、俺は感情を悟られにくい?
「ロペスとポーカーすれば、勝てる可能性が?」
「たまに飛躍するボスの考え、俺は嫌いじゃないぜ」
まあ、遊びは後だな。
ともあれ、俺の感情が平坦なのは、そこまで悪いことじゃないだろ。
宰相として、冷静に物事に対処できているのであれば、今後もいつもどおりの俺でいよう。
「つまり、俺の集団みたいな敵と戦っていたと」
「悪夢かい? よく絶滅しなかったな。オーガ」
お前はお前で、俺を何だと思っているんだ。ロペスよ。
俺の集団なんて、ダンジョンは大きくできるだろうけど、直接叩かれたら一網打尽だぞ。
「さすがに、宰相様ほどの集団なら、こうしてここに立っていることは無かったでしょう」
お前もか。ナツラ。
「ただ、連中は良くも悪くも何の意思もありません。ただ、女王の命令に従って行動するだけです。ええ、感情というより意思がありません。なので、宰相様とはまた別ですね」
俺へのフォローをしっかりと入れてくれているのは助かる。
なるほど、意思そのものが希薄と……。女王という絶対の存在のもとに、与えられた命令のためだけに動くのか。
それならば、たしかに昆虫のイメージという感じだ。
「そんな昆虫人たちと、なんで争うことになっていたんだ?」
「わかりません。それが不気味というか、気持ち悪いというか、倒しても倒しても一定周期で襲いかかってくるため、嫌気がさしていたところです」
俺たちや他の種族のように、オーガたちを従えさせるためってわけじゃないんだろうか。
ナツラの様子からすると、目的もわからないってことみたいだし、宣戦布告どころか会話をしたかさえ怪しいところだな。
「防戦だけか? いっそ、相手の拠点に攻め込んだりは?」
「拠点がわからないのです。追いかけようにも、殿を勤める兵隊たちが命を懸けて足止めするため、見失うばかりで」
それに、様々なところから襲撃されているのだから、そいつらばかりにかまっていられないか。
となると、ここはピルカヤの出番だな。
……まあ、四天王ならいいか。クララたちのときも、フィオナ様以外とは邂逅させていたし。
「ピルカヤ。出てきて良いぞ」
「は~い」
「……もしや、四天王の? リピアネム殿以外も、存命でしたか」
やっぱり、ナツラたちにはわかるか。
急に出現したピルカヤの姿に、見るからに驚いた様子だもんな。
「ああ。リピアネムだけでなく、ピルカヤもこうして生きている。それを教えたのは、ナツラたちが裏切らないと信じてのことだ」
「ありがとうございます。魔王軍のため、しっかりと働かせていただきます」
「しっかりすぎるとあれなんで、適度に休もうね」
クララたちも最初は徹夜が当然だったからな……。
最近では、ようやくテラペイアの小言相手も減ったのだ。
ここでまた、そんな相手を増やしてしまっては、彼の負担になってしまう。
「さて、それはクララたちに指導してもらうとして、ピルカヤに頼みがある」
「うん、がんばっちゃうよ~。要するに、その昆虫人たちを探せば良いんだね?」
「ああ、どこに拠点があるのか、調べてくれるか?」
「おっけ~」
ピルカヤは、そう言いながら消えてしまった。
彼ならば、何らかの手がかりを見つけてくれることだろう。
「ナツラ、昆虫人たちの相手は定期的に行っていたみたいだけど、次の襲撃がいつになるかはわかるか?」
「なんとなくはですが……。前回倒してから、それなりに日数が経過しているため、半月ほど先かと」
「なるほど……。昆虫人たちが、オーガを狙っていたのか、オーガの村を狙っていたのか、そのときにわかりそうだな」
「私たちの村……ですか?」
「ああ。オーガたち自身が狙いかもしれないし、村を狙っていたから、邪魔なオーガを排除しようとしていたのかもしれない」
村というか、土地そのものに、昆虫人が求める何かがあった可能性もあるか?
「なるほど……。そこまでの考えには至っていませんでした」
「だから、向こうの動き次第では、何が目的かわかるかもしれないな」
もっとも、今は推測しかできない。
そもそも、俺は昆虫人なんて見たこともないくらいだからな。
ピルカヤが情報を持ち帰ってくれるまでは、考えてもしかたがなさそうだ。
「とりあえず、ピルカヤが戻ってくるまでは方針も決められないか。クララ、ナツラたちのことを頼んだ」
「お任せください」
「じゃあ、一旦これで解散で良いかな?」
「やり残しもないし問題ないだろう」
ダスカロスからの同意も得られたし、ようやくオーガたちとの一件はひと段落か。
昆虫人という新たな問題は残っているものの、それはまた先の話になりそうだな。
ああ、あと一つだけ……。
「ピルカヤ~! ちゃんと休めよ~!」
『嫌だ~!』
「休みなさい」
『……もう~! レイが言うなら、しょうがないな~!』
よし、これで今度こそ片付いた。
なんだか疲れたし、フィオナ様のところに帰って休ませてもらおう。
「今日はこれで解散で、みんなちゃんと休むように」
「はい!」
◇
「ということで、一旦は問題が片付きましたが、新たな問題が浮上しそうです」
「ええ。ちゃんとピルカヤを通して見ていました。私の宰相は、しっかりと働いてくれるので助かります」
フィオナ様の部屋をノックすると、嬉しそうに出迎えてくれた。
なんだか、その顔を見ただけで疲れが飛んでしまう気がする。
こうして、膝枕までしてもらっているのだから、残業なんてなんでもないな。
「フィオナ様は、昆虫人を見たことはありますか?」
「う~ん……。そういえば、昔少しだけ見たことあるような? ですが、いまいちどんな種族かわからないんですよね」
「他の種族と、あまり関わることがないのでしょうか?」
「ですねえ。自分たちの繁栄のためだけに生きている。そんな感じでしたよ?」
なら、わざわざナツラたちを狙う理由は……。
特に、オーガなんて強力な種族と戦闘しても、良いことは無さそうなんだけどな。
ナツラの発言では、それで少なくない数の仲間を失っているようだし、繁栄が目的なら手出しすべきではないだろう。
ピルカヤが戻ってきたら、そのあたりのことが何かわかると良いんだが……。
……駄目だ。さすがに、眠くなってきた……。意識がなくなっていくのがわかる……。
「おや、寝てしまいましたか。今日もがんばりましたね。頼りにしていますよ? あなたは、私だけの宰相なのですから」