【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「……いや、それは宰相殿に聞いてくれ」
「じゃあ、宰相様が許可してくれたら、俺たちをあんたの部下にしてくれるんだな!?」
「だが、お前たちはナツラの部下だろう」
「ナツラ様なら、強くなるために上司を変えるくらい許してくれるはずだ!」
あ……。行ってしまったか。
オーガたちに同じようなことを連日頼まれ、段々と疲れてきた……。
私は、最近蘇生した部下の面倒だけでも、まだまだ完璧ではないというのに。
モンスターの育成、部下の育成、それに加えてオーガたちの育成か。
……悪くないな。モンスターだけでも満足していたが、こうも部下が増えるのであれば、かつての魔王軍で軍団司令官を務めていた時のようだ。
「ねえねえ、ディキティス~。部下やオーガの訓練に、僕なんてどう? お買い得だよ~?」
「イピレティス。お前、加減できるのか?」
「そんなの、戦う相手に失礼じゃない」
「では駄目だな」
「オーガなら、喜んでかかってくると思うんだけど!」
「だから駄目なのだ」
蘇生薬ほどではないが、不死鳥の羽だって貴重なアイテムだぞ。
訓練のたびに消耗していては、魔王様や宰相殿になんて言われるかわかったものではない。
……いや、なんかわかるかもしれないな。
消耗しても、おそらく許される。
そのうえで、魔王様は新たに補充するという名目で、宝箱を開封しようとする気がしてきた。
……気のせいだろうか。
「死んでもアンデッド化できますよ?」
「エピクレシ……。それで解決したと思うのは、お前くらいのものだ」
「そうですか? オーガ自身が満足しそうですし、レイ様も許してくれそうですが」
「……否定できない」
むしろ、アンデッド化したオーガの特性を活かし、ダンジョンに組み込みかねない。
ならば問題ないのか? ……わからなくなってきた。
「それ自体は、今後ナツラとオーガたちと宰相殿に確認しておこう」
「いっそイピレティスも、アンデッドになってみます?」
「え~。眠れなくなるのは嫌だなあ」
そこなのか。相変わらず、死生観がおかしな同僚だな。
さて、そんな死生観がずれている同僚といえば、エピクレシがスケルトンたちに運ばせているもう一人の同僚だ。
「プネヴマは、また気絶したのか?」
「と言いますか、これ本当に魂が体から抜けているんですよねぇ……。放っておいたら自力で体に戻りますけど」
「彼女は、そんなに脆かっただろうか?」
「魔王様とレイ様の仲睦まじい姿を拝見するたびに、刺激が強すぎて魂が抜けます」
バンシーとは、そういう種族だっただろうか……?
以前は魔王様を見ても、緊張こそすれど、魂は抜けていなかったはずなのだが。
……これはこれで、新たな魔王軍による変化の一つなのだろうな。
「ところで、オーガたちが部下になりたいと相談する相手って、どうしてディキティスだけなんでしょうね?」
「
「まあ、司令官ですし、教育が得意というのもあるのでしょうが。オーガたちは、どちらかというとイピレティスとウマが合いそうなんですけどね」
「指導力の差かな~。たしかに、ディキティスにはかなわないけど、それならダスカロスのところに相談しても良さそうなのに」
二人が言うとおり、戦闘に関する教育なら、私かダスカロスだろうな。
そして、そんな中で自分だけが選ばれているのは、何も能力が秀でているからではない。
「戦場の勲章だ」
「戦場の勲章……。ああ、前にディキティスが宝箱から獲得していたアイテムですか」
「覚えてるよ。たしか、魔王様がディキティスの部下になろうとしていた、あのアイテムだよね」
嫌なことを思い出させないでくれ……。
結局、あのときはどう答えるのが正解だったのか、いまだに自分の中で折り合いを付けられていないのだから。
冗談だったのだろうが、私はどうにもそういうものが不得手らしい。
「たしか、ディキティスの部下たちを強化するアイテム……。なるほど、そういうことですか」
「そういうことだ」
「戦場の勲章の恩恵を受けるために、ディキティスの部下になろうとしていたってことか~」
つまり、私自身を慕ってとか、能力を買ってとかではなく、アイテム目当てで部下に志願していただけだ。
別にそれ自体は良い。強くなるための手段を選ばないことは、むしろ好ましいとさえ言えるだろう。
だが、あのアイテムの効果対象は、いまだに条件が不明だからな。
蘇生した者たちは、効果の対象であった。しかし、モンスターたちは効果の対象外だった。
となると、忠義が必要か? ……であれば、オーガたちが望む効果を与えることができないかもしれないな。
「期待には応えねばなるまい」
強くなるために私の部下に志願するというのであれば、その望みは私自身の力で叶えよう。
ちょうど、先ほどのオーガたちが戻ってきたので、タイミングも悪くないな。
「ナツラ様から許可はもらった。これで、あんたの部下にしてくれるんだろ?」
「良いだろう。強くなるために、私の部下になった。それであっているな?」
「おう! 戦場の勲章とやらの効果で、あんたたち十魔将とも戦えるようになっていると良いんだけどな」
「責任もって強くしてやろう。まずは……口の利き方からか」
「は? そんなものは、強さとは関係ないだろ?」
◇
「最近、ディキティスとオーガたちって、一緒にいることが多いな」
ピルカヤの視界を共有し、フィオナ様と二人で地底魔界を観察しながら、そんな感想を口にする。
「そうですねえ。私としては、ディキティスよりもイピレティスのほうが、オーガたちと気が合うと思っていたのですが」
そんなフィオナ様の発言にも頷けるというものだ。
戦闘馬鹿って意味だと、リピアネム、イピレティス、オーガって感じだからな。
「それにしても、なんか変わった気がする」
「そうですねえ……」
目の前で繰り広げられているのは、ディキティスの指示で動くモンスターたち。
対するは、ディキティスの部下の魔族たちと、最近つるんでいるオーガたち。
……なんか、モンスターたちが容赦なく、魔族とオーガをぼこぼこにしている。
「勘の鋭さは大したものだが、それに頼りすぎだ。敵が何をするか、事前に予測してから動け」
「は、はい! ディキティス様!」
今返事をしたのは、魔族ではなくオーガだ。
彼らって、四天王にすらため口じゃなかったっけ?
いつの間にか、十魔将相手にも敬語を使うようになっている。
ディキティスって、そういうところはあまり気にしないと思っていたんだけど、方針を変えたのか?
「なあ、イピレティス」
「なんですか~? レイ様」
「オーガたちの言葉遣いって、ディキティスが矯正したのか?」
「ええ、僕もびっくりしました。あのオーガたちって、戦場の勲章の効果目当てでディキティスの部下になったみたいなんですけど、その効果が発揮しなかったんですよね」
「まあ、モンスターたちにも発揮していないもんな」
「だから、忠義が条件じゃないかって考えたらしくて、ディキティスが徹底的に他の部下と同じ扱いにしているみたいなんです」
「ああ、それで魔族もオーガも、みんなディキティスの部下みたいになったのか」
そういうことなら、真面目で責任感が強い彼らしい行動だ。
頼られた以上は、見放すことなくきちんと教育してあげているんだろうな。
「それで、戦場の勲章の効果の対象にはなったのか?」
「みたいですよ~? なんか、ああなったくらいから急に強くなりましたし」
なるほど……。
形だけディキティスの部下になっても意味はなく、忠義が必要と。
……能力が上がるってことは、魔力も上がるよな? そうしたら、ダンジョンの改築もやりやすくなる。
「あ、あの~? 魔王様もレイ様も、同時に立ち上がってどうしたんですか?」
「ちょっとディキティスに忠義を尽くしに行ってくる」
「ディキティスに忠義を貫こうと思いまして」
「……僕が言うのもなんですけど、かわいそうなのでやめてあげてください」
イピレティスが、乾いた笑いをしながらそう言った。
珍しいな。彼女がこんな反応をするなんて。
ああ、そうか。フィオナ様がガシャ祭りのときみたいに、ディキティスにパワハラしようとしているせいだな。
「駄目ですよ、フィオナ様。ディキティスがまた困るじゃないですか」
「レ、レイだって、私と同じタイミングで同じことをしようとしたじゃないですか!」
「俺はほら……ディキティスの上ってわけじゃありませんし」
「上です~! 私が宰相と命じたので、レイはもうみんなの上なんです~!」
「魔王に騙された……」
「だ、騙してませんけど!? 嫌なんですか!?」
「……嫌じゃないです」
「ほら見なさい。ひやひやしましたよ。まったく」
そういうことなら、俺もディキティスの部下になるのはやめておくか……。
というか、フィオナ様はまだオーガたちに魔王とばらしていないからな。
あの場所にフィオナ様が現れたら、色々と問題が起こりそうだ。