【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
私たちは土地そのものに興味はない。だからこそ、村をすぐに捨てることができて良かった。
魔王軍が私たちより上とわかれば、こちらに移住することに反対する者もいないからな。
部下たちは部下たちで、各々地底魔界を満喫しているらしい。
私の部下をやめて、
何か考えあってのことらしく、強くなったら再び私の部下に戻るなどと言っていたが、義理を果たす必要すら無い。
あえて言うのであれば、強くなった後に私と戦うことこそが、一番の忠義だ。
「噂には聞いていましたが、オーガたちって、たんじゅ……ええと、竹を割ったような性格だねぇ」
「言葉を濁す必要はないぞ、クララ。私たちは単純なものだ。それで良い。それが良い」
「そうやって割り切れるから、堂々としていられるから、私たちみたいに迫害されなかったのだろうね」
「迫害……というよりは、殺しに来ていた気がするな。充実した日々だった」
「その境地にはたどり着けそうもないねえ。私たちには」
ダークエルフだからな。いや、どちらかと言うと、私たちのほうが異端なのだろうさ。
だからこそ、魔王軍に私たち寄りの者も多いのは、実にありがたい話だった。
四天王リピアネム。十魔将イピレティス。ディキティスもそうか? そして、宰相のレイ様。
トップから重要な役割の者まで、ところどころ私たち寄りの魔族ばかりで、実に良い場所だ。
「そうだ、宰相様から聞いた。お前の提案で、私たちオーガ族は、魔王軍と戦うことになったんだったな?」
「恨むかい?」
「まさか。その逆だ。感謝するぞクララ。実に良い戦いだった」
「意外だねえ」
ダークエルフは、本心から驚いたような表情を見せる。
だが、そんなにも意外だろうか? 私たちオーガは戦いが好きだ。
ならば、すばらしい戦いを提供してくれた魔王軍にも、そのきっかけであるクララにも、感謝すべきなのは当然だろう。
「まさか、恨まれているとでも考えていたか?」
「いや、君たちはそんなたまじゃないだろう」
よくわかっているじゃないか。
不敵に笑う女王の姿を見て、私はこいつのしたたかさも気に入りそうになった。
「だとしたら、何がそんなに意外なんだ?」
「君たち、もっと戦闘らしい戦闘が好きかと思っていてね。リピアネム様に敗北した者たちはともかく、レイ様のダンジョンに屈した者たちは、もう少し逆らうと思っていたのさ」
「なんだ、そんなことか。あれも戦いだろう。まさか、私たちが馬鹿正直に突撃だけする種族だとでも思っていたか?」
「思っていた」
「はははっ! 言ってくれる。だが、私たちだって、戦いで策を弄することだってある。その延長だろう。いや、そちらを極めているとでも言うべきか?」
策を練りに練った集大成があのダンジョンだったのだと思う。
それを突破してみせたときの高揚もまた素晴らしいものだ。それに敗北したときは、相手が自分を上回った。それだけだ。
だから、私の部下も誰一人として、あのダンジョンに文句を言うものはいないだろう。
「良い勝負だった。宰相様は、自分の強みをよく理解している方だ」
「なるほどねえ。どうやら、私たちが思っていたような単純な種族ではないようだ」
「いや、単純なものだ。戦いたい。それだけの種族だ。私たちは」
まあ、戦いが全てというわけでもないのだがな。
その点においても、この地底魔界という拠点は、実に面白そうだ。
立派な宿。映像の娯楽。賭け事の娯楽。地底なのになぜか海まである。
腕の良い専属の鍛冶師が武器や防具を提供してくれるし、怪我をしたら医者や温泉ですぐに癒せる。
こんな場所に住むことができるのなら、はっきりと言ってしまうと、私たちの村を放棄することに、何の躊躇もなかった。
「宰相様は、ダンジョンのテストプレイヤーとやらを探しているのだろ? 私の仕事は、それが良いのだが」
「……正気かい? 正気なんだろうねえ……。だが、様々な仕事を体験してもらい、レイ様のダンジョン作成も見てもらってからだよ。思いとどまれ」
わりと強めに反対されているな。これは。
まあ、私の部下の中にも、ダンジョンにもう一度挑むことに忌避感を覚えている者もいる。
それだけ、このダンジョンが恐ろしいものなのだろう。つまり、それだけすばらしい出来ということでもある。
「止められると思うなよ。ダークエルフの女王」
「止まらないと後悔するぞ。オーガの族長」
まあ、配下に加わった以上、世話役の意見に従うさ。
だが、私にお前たちほどの器用さを期待されてもなあ。
ニコニコ笑って客相手の商売とか、無理だぞ。私の性格では。
「おっと、休憩だね。昼食に行くとしようじゃないか」
「食事か。この分だと、それすら高い水準なんだろうな」
「おや? まだ、ここの食事は体験していないのかい?」
「村から持ってきた食材を消費していたからな。放棄したとはいえ、資源まで無駄にするつもりはない」
「それも、提供してしまえば有効活用していただけると思うよ?」
なるほど、その手があったか。
どうせ、私たちよりも料理が得意な魔族がいるのだろう。
であれば、食材もその者が扱ったほうが良いはずだ。
徹底した専門分野による役割分担は、なかなか理想的な働き場所だな。
◇
「すごい人数だな」
「魔王軍に所属している者たちが、全員集まるからね」
言われてみれば、魔族だけでなく様々な種族がいるな。
ダークエルフ、獣人、人間、ハーフリング、ドワーフもいるのか。
いや、一番驚くべき光景は、あのモンスターたちだな。
周囲は気にも留めていないようなので、これも魔王軍では当たり前の光景らしい。
「つくづく面白い場所だ」
「そうだねえ。まあ、君たちもその面白い一部になると思うよ」
クララの言葉にうなずきながら、私たちは席に着いた。
給仕に注文をし、しばらく待つ……こともなく、すごいスピードで完成したようだな。
それを持ってきたのは、給仕ではなく別の魔族……。
「あちらが十魔将の一人、マギレマ様だ。魔王軍の食を司っている方さ」
「……」
「やっほ~。クララちゃん。そちらは、新しいお仲間……」
何かの冗談か?
「あ、あの。マギレマ様?」
「え、えっと……ああ、そっか~。オーガって言ってたもんね~。族長になってたんだぁ……」
「なんだそれ。ずいぶんと変わったな。マギレマ」
「ナツラちゃん、魔王軍のルールを教えておくね? 魔王軍の過去は、言いふらしちゃだめだよ~?」
「え、そうなんですか?」
嘘だな。クララですら困惑しているのだから、そんなルールは無いのだろう。
だが、まあ従ってやろう。そうか、あのとき私を完膚なきまでに打ちのめしたスキュラが、料理長か……。
マギレマを従える魔王軍のすごさに驚くべきか、こうも変貌したマギレマ自身に驚くべきか、なかなか判断が難しい問題だな。
◆
「それで、なんでアタシに絡んできてんだよ。てめぇは」
「知れたこと。お前、強いだろ。血の気も多いようだし、私と戦え」
武者修行というガラではない。単に、喧嘩のための旅ともいえる。
他のオーガたちとの力量差を考えると、私はいずれ族長となるだろう。
そうなっては、さすがにこうも自由に漫遊するなどできない。
だから、今のうちに様々な地を放浪し、目につく強者に片っ端から勝負を挑む。それだけだ。
「私に目を付けられたことを、運が悪かったと思え」
「上等だコラァ!!」
あの足では、機敏な動きはできないだろ……う?
おい、嘘だろ? いや、当然か! 馬鹿か私は!
犬ではあるが、足でもある。あれだけの足の数を完璧に使いこなせるなら、動きも速くて当然か!
「死ね! オラァ!」
「ぐっ……! は、速い……」
まずい。完全な格上だった。
別にこの場で殺されようとそれは仕方がない。私が弱かったのが悪い。
だから、問題があるとすれば、私の目が節穴だったということか……。
これほどの格上相手に、ろくな勝算もなく挑むなど、なんと愚かなことか。
そもそも、実力差を測れない時点で、戦う者としても私はあまりに未熟だ。
「てめえから喧嘩売っといて、そのざまか! コラァ!」
ああ、本当にすまないと思っている。
すごい速度だ。すごい手数だ。いや、足か?
ああ、まったくもって、適う気がしない。
獰猛な犬の攻撃は、一撃があまりにも強力だ。
だが、本体とでも言うべきだろうか? 人間のような体のほうの攻撃は、それ以上に致命的すぎる。
一発殴られるごとに膝をつき、胃の中をまき散らす。
これ……殺されるかもしれないな。
「ほんっと、わけわかんねえやつだな。何がしてえんだ。てめえは」
そのスキュラは、倒れて動けなくなった私を、呆れたように見下ろしていた。
ああ、本当に何がしたかったんだろうな……。
だが、学べたことはあったぞ。悪かった。次は、もう少しお前も楽しめるようにしてみせよう。
名前も知らないスキュラのことを忘れないように、その後似合いもしない情報収集なんてものをしてみた。
どうやら、あのスキュラはマギレマという名前で、この一帯では決して手を出してはならない危険な魔族だったらしい。
なんだ……。ちゃんと、私の目に狂いはなかったじゃないか。