【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第363話 経費で落とす、地の底まで

「ボス。オーガたちも増えたことで、ちょっと相談があるんだが」

 

 ある日、ロペスがそんな話を切り出した。

 その傍らにはダスカロスも一緒にいるため、少し気を引き締めて聞く必要がありそうだな。

 

「クララたちの教育で、何か問題でも発生したか?」

 

「いや、そうではない。オーガたちは、意外なほどに地底魔界での生活に適合しようとしているらしい」

 

 そうか。ダークエルフたちと違って、他種族やらルールやらで雁字搦めされたら、その性質上反発するかと心配していたのだけど、問題なかったか。

 最初にリピアネムが、ガツンと力を示したのが効いたかな?

 

「じゃあ、一体何の問題が……」

 

「金だ」

 

「金……」

 

 なんだか久しぶりに、ロペスのやつがハーフリングらしいことを言っている。

 仲間だったハーフリングや、うまくうちの従業員にしてくれた者たちは、わりと金稼ぎ大好きだけど、ロペス自身はあまり金金言わないからな。

 

「給料が足りない、というわけでは無さそうだな」

 

「ああ、オーガたちに限らず、ここで暮らせて施設を使えるだけで、給料はいらないってやつも多いしな」

 

 今や衣食住が揃っているし、娯楽もあるので、その気になればそれでもいいだろう。

 だが、さすがに無給で雇うことはしていない。

 オーガたちにも給料は支払っているが、それに満足しているというのであれば、また別の問題が起きている、と。

 

「従業員も店も増えてきたからな。魔王軍全体の支出をここらで管理したほうが良いんじゃねえか? 必要経費の申請とか、今ってわりとなあなあで済ませてるだろ? ダスカロスの旦那と、そう話していたんだ」

 

「そして、それをやるのであれば、宰相である君にも話は通すべきだろうと考えてな」

 

「なるほど……つまり、経理か」

 

 最初は何も無かった地底魔界も、今や金が無くても生活できる環境にまでなった。

 その反動と言うべきか、金への頓着がどんどん自分から薄れていったみたいだ。

 そういえば、各種施設の売り上げを経験値に変換しているけれど、一律で50%を設定したまま変更してもいないな。

 宰相なのだから、そのあたりが適当を済ませるというわけにもいかない。

 

「それじゃあ、俺が引き受けようか? ……まずは、各管理者に話を通して、経費とその用途、それと売り上げを調べるか」

 

「いや、ボスにそこまで手をわずらわせるのも良くないからな、ダスカロスの旦那が先にすませてくれたみたいだぜ。本当なら、俺がやろうと思っていたんだが……」

 

「レイはもちろんのこと、ロペスもこれ以上の作業を増やすわけにはいかないだろう。それに引き換え、私は見回りと教育が常にあるわけでもない。手が空いた者がやるのは当然だ」

 

 う~む。どちらも相変わらず優秀なことだ。

 ダスカロスが渡してくれた紙の束は、軽くめくるだけでも綺麗に支出がまとめられていた。

 

「それじゃあ、俺はこれを見ながら節約すべきか、あるいは費用をもっと増やすべきか、判断していけば良いわけだ」

 

「ああ。頼めるかい? ボス」

 

「そうだな。ただ、俺だけで判断して良いものでも無さそうだし、二人にも協力してもらいたい」

 

 俺の言葉に二人は頷いてくれた。

 どうやら、最初からそのつもりで、俺にこの話を振ってくれたみたいだな。

 まあ、それはそうと念のため魔王様への確認は必要だろう。

 ……たとえ、どんな言葉が返ってくるかわかっていようと、だ。

 

    ◇

 

「レイにお任せします」

 

「でしょうね」

 

「私を通さずとも、自由にしてくれて良いのですよ?」

 

「そういうわけにもいかないでしょう……。あなた、魔王なんですよ?」

 

「そしてあなたは宰相です。もはや、魔王軍の全権をあなたに委ねる覚悟で、私はあなたのことを任命しましたからね!」

 

 それ、覚悟というか丸投げと言うのでは……?

 この魔族、もしも俺が魔王軍を乗っ取ったとして、笑って許しそうと言うか、肩の荷が下りたとか言い出しそうだな。

 

「まあ、内容だけは耳に通して貰いたいので、そこでお菓子でも食べながら聞いていてください」

 

「は~い」

 

「……」

 

「ロペス、気にするだけ無駄だ。あれが今の魔王軍のツートップだ」

 

 なんかごめんね、うちのフィオナ様が!

 ダスカロス、蘇生したのは後発組だったけど、順応力高いよなあ……。

 

「じゃあ、まずは商店系から……時任(ときとう)の商店は、基本的には全部魔王ボックスから補充しているけど、消耗品類はたまに仕入れていたな」

 

「ああ。と言っても、ほとんどは自給自足だ。不足することなど、件の毒の蔓延のときくらいか。あるいは、新たな状態異常の罠かモンスターを配置した直後くらいだからな」

 

「つまり、俺がやりすぎなければ問題無し。と」

 

 今後は、店の在庫とも相談してダンジョンを作っていこう。

 これは、忘れないように個人的にメモしておかないとな。

 

「温泉も、商店と同じく従業員の給与くらいか」

 

「ボスとルトラの姐御が、全てどうにかしちまうからな。客が来れば来るだけ稼ぎになるぜ」

 

「魔導映写館のほうも似たようなものだろう。今の魔王軍の強みの一つはそこにある」

 

 当然、快復の湯もそうだし、海や服屋なんかも特段費用は発生していない。

 レストランくらいか? あまりに盛況なため、食料の補充が追いつかずに、定期的な仕入れが必要となっているのは。

 あとは、客のアイテム買い取りという特殊な施設でもあるカジノもそうか。

 

「支出って言っても、出ていく資金はほとんど従業員の雇用費なら、むしろみんなの給料をもっと上げられるかもな」

 

 ……あれ? でも、それにしてはおかしな点があるな。

 消費するのが給料だけだとしたら、これだけの資料って必要なのか?

 案外収入が、それだけ多岐に渡っているとか? そう思いながら、資料に目を通していくと、すぐに理由がわかってしまった。

 

「……研究費」

 

「まずはそこからか。それは、エピクレシのアンデッド研究費用だ」

 

「なんか、色々と買っているみたいだな。数も金額もそれなりのものになっている」

 

「それらは全て、アンデッドの触媒や強化実験に必要としているらしい。実際に目を通したが、嘘は書いていない」

 

「ダークエルフやハーフリングに任せて、買える物は買ってるってことか」

 

 じゃあ、許可だな。

 ただ、あまり膨大になってくると、軽々に許可を出すのは問題なのかもしれない。

 今後はそのあたりも、ダスカロスと相談しながら進めていくことにしよう。

 

「あれ、こっちは別? ……防腐剤」

 

「ロマーナの申請だ」

 

「え? ロマーナって腐るの?」

 

「ゾンビだからな。と言いたいところだが、彼女が好んで入っている聖光の湯の副次効果か、腐ることはないはずだ。気分の問題らしい」

 

 気分……。まあ、今までエルフだったのが、急にゾンビにされたわけだし、うちの問題だよな。

 たとえ腐らなくても、予防として購入しておきたいってところか。

 ……気分の問題なのだろうが、従業員のモチベーションに関わることになる。

 

「許可で」

 

「ああ」

 

 こんな調子で進めていけば良いんだな。

 まあ、基本的にはあからさまに変な物は、ダスカロスが弾いてくれているだろう。その点はとても助かる。

 

「酒。許可」

 

「ドワーフたちって、ほんと酒好きだよな」

 

「耐熱アヒルの作成費……。耐熱アヒル!?」

 

 なにそれ。字面から用途が全く想像できないんだけど。

 

「プリミラだ」

 

「あ……」

 

 想像できた。お風呂に持って行ってたあれか。

 もしかして、壊れちゃったんだろうか?

 

「マグマ温泉のほうにも浮かべたいらしい」

 

「え、本人入らないよな?」

 

「ああ。だが、雰囲気として必要だ。と言われた。判断が難しかったのでレイに委ねる」

 

 委ねないでほしい……。

 

「まあ……。やる気につながるのなら、良いか。次は……調理器具。特にまな板が多いな」

 

「リピアネムの姐御が、たまに興奮して走る前に力加減を誤って両断するらしいぜ」

 

「たまに興奮って……なんでまたそんなことが」

 

「よくわかんねえけど、ボスに呼ばれた気がするとかで、走り去る前に大体まな板が斬られているみたいだな」

 

 ……ごめん。身に覚えがある。

 俺がリピアネムを呼んだときって、なんか向こうが察して走ってくれるから便利だなって思ってた。

 だけど、厨房ではそんなことが度々起こっていたのか……。

 

「許可。あと、次から気を付けます……。次は、演劇の製作費用?」

 

 まだ諦めていなかったのか。時任。

 あいつ、自分たちで映像を撮って流そうって、意気込んでいたもんな。

 

「宰相を主役とした演劇らしい」

 

「却下」

 

 なにしてんの!? あいつ!

 

「やる気はあるが、主役へのオファーができない。と悩んでいた」

 

「出ないから」

 

「だが、これまでは趣味のような申請も許可を出していたので、私では判断しかねて保留したわけだ」

 

 う……。それを言われると、俺の私的な理由で時任だけ却下するのは良くないな。

 でも、これで許可なんて出そうものなら、映像制作にも許可したようなもの。と勘違いされそうだし……。

 おのれ時任。なかなか切れ者じゃないか。こんな頭脳戦を仕掛けてくるとは。

 

「いったん保留にして次は……魔力回復薬? それならプリミラが作ってくれているじゃないか……って、なんだ!? このとんでもない値段。というか、量は!」

 

「ギクッ!」

 

 ギクッって言っちゃったよ!

 今までのほほんと眺めていた後ろの魔王様が!

 

「……フィオナ様。あなたの魔力を全快するだけの回復薬を仕入れていたら、いくら魔王軍でも破産します」

 

「経費で! そこは、経費でなんとかしてください我が宰相!」

 

「あなたの宰相は、そんなに仕事ができる魔族ではないので……」

 

 これ許したら、もうどんな経費も許可になっちゃうじゃないですか。

 これは、もう一度他の経費も見直したほうが良さそうだな。

 もう少し頭を冷静にして、ダスカロスとロペスの三人で、よ~く協議しておこう。

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