【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「レイ。そろそろ、オーガたちに私の姿を見せても良いのでは?」
「早くないですか? ナツラたちが来てから、まだそんなに経っていないはずですけど」
クララたちのときと比べても、かなりの早さだ。
そんなにも信用できる相手だったということか?
それとも、ダークエルフと違ってわりと単純だから、疑うだけ無駄と考えた?
「……まあ、大丈夫じゃないでしょうか?」
「投げやりですね……。なにか理由があって、そう判断したと思っていたんですが」
「理由ならあります」
「じゃあ、その理由を教えてくれます?」
「……言えません」
なんだと!? フィオナ様が、俺にも言えないことなんてあるというのか。
もうすっかりと信頼を勝ち取れたと思っていたが、どうやらそれは驕りだったようだ。
いかん。このままでは、フィオナ様の宰相に相応しくない。
「……俺、宰相としてもっとがんばります」
「それが駄目なんです~!」
それが駄目……?
もしかして、前にアナンタが言っていたように、やる気が空回りしているか?
だけど、最近ではアナンタが俺を止める回数も、一日に十回以内に収めているし……。
宰相だからとやる気が空回っている。ということもないはずだ。
「レイが、宰相として忙しくしているうえ、オーガたちから隠れているせいで、レイと会う時間が減っています!」
「それは……まあ、そうですね」
なんなら、俺も同じことを感じていたからな。
だから、自分から率先して、毎日フィオナ様の部屋に通うようになってしまっているし……。
別に会えなくて寂しいとかじゃない。単に、顔を見られてないし、話ができていないというのが嫌なだけだ。
少なくとも、一日に一回。数時間は一緒にいないと、俺のやる気と調子に影響が出る。
「こうして気軽に抱きしめられるのも、レイが来てくれた時だけじゃないですか!」
「そうなんですよねえ……」
背中から抱き着かれるこの感触も、最近ではこの部屋以外ではご無沙汰だ。
以前までであれば、俺の仕事中に勝手に抱き着いてきたり、近くで待っていたりと、仕事の邪魔はしない範囲内でスキンシップを取っていたからな。
……犬? いや、怒られるしやめておこう。……むしろ喜びそうだな。とも思えるのは、なぜだろう。
「私の人生の最優先はレイなんですから、オーガたちのために我慢するのは違くありませんか!?」
「うっ……。俺だって、人生の最優先はフィオナ様ですけど……」
さすがにそんなことを言われたら、こっちだって恥ずかしいのですが……。
というか、思わず同じことを言い返してしまった。
……なんで、そこで真っ赤になって照れているんですかねぇ。なんか、俺が恥ずかしいことを言ったみたいじゃないですか。
「ど、どうします!? やはり、二人でこの部屋に一万年ほど引きこもります!?」
「それはないです」
「私の何が嫌だって言うんですか!」
「嫌なところは何もありません。全てが好きです」
「ならば良いんですけどね!」
だけど、それとこれとは話が別でしょうが。
俺は、フィオナ様が一番好きだけど、地底魔界も魔王軍も好きだからな。
「要するにフィオナ様は、部屋にこもっているのが嫌なので、自由に歩き回りたいと」
「まあ、そういうことになりますかね?」
たしかになあ。魔王様を部屋に押し込めて、代わりに魔王軍の指揮を執ってしまうと、なんか俺が魔王軍を乗っ取っていると思われそうだ。
様子見のためには今後も仕方ないが、あまりそれが長引くと良くないか。
今後復活するであろう魔族たちにも、俺の印象が悪くなってしまう。
「ダスカロスたちに相談して、オーガたちにもフィオナ様を紹介しましょうか?」
「ええ、任せましたよ。私のレイ」
なんで、耳元で囁くんですか。
たまに美人にならないでください。
◇
「……リピアネムですら、足元にも及ばない存在だと」
「というわけだから、この魔王軍のトップは当然魔王様だ。それで、フィオナ様が魔王なので、みんな逆らわないように」
「逆らえるはずがありません……。まったく、世界は広い……」
ナツラって、けっこう敵の実力とかわかるタイプで助かる。
リピアネムが自分より強いことは、戦ったことからもわかっているだろうが、フィオナ様がそのリピアネムよりも、はるかに強いとまでわかっているようだ。
これなら、オーガたちが反旗を翻すってことは、あまり考えなくても良いのかもしれないな。
「全員に言っておきます」
フィオナ様が、魔王モードの凛とした姿で、オーガたちに告げる。
オーガたちは、皆緊張した面持ちで、フィオナ様の口から言葉が発されるのを静かに待っていた。
「レイは私のものなので、わきまえるように」
……なんで、ここでその宣言?
ほらぁ……。オーガたちも、ぽかんとした表情で、言葉の意味を必死に理解しようとしているじゃん。
「まあ、みんなすでに従ってくれているけれど、俺はフィオナ様の宰相だから、俺の指示に逆らうなって意味だ」
俺が補足をすることで、オーガたちは納得した様子で頷いてくれた。
前にダスカロスやリグマが教えてくれたことだ。宰相を命じたのはフィオナ様。
つまり、俺の言葉はフィオナ様の言葉だと思わせろ。ってやつだな。
意外だ……。フィオナ様、魔王モードとはいえ真面目にオーガたちにそんなことを言ってくれるとは。
「……当然ながら、逆らうつもりはありません。なので、これは好奇心からの質問なのですが」
ナツラがそう前置きをして、緊張をそのままになんとか言葉をひねり出した。
「魔王様や宰相様に逆らった場合、どんな罰がまっていますか? 死、でしょうか?」
「逆らう範囲次第ですが、あからさまにレイに反乱するのであれば、四天王の誰かに動いてもらうことになるでしょうね」
「フィオナ様に逆らうなら、本気のダンジョンで迎え撃つ」
「……よくわかりました。ええ、当然ですが私たちオーガにその意志はないことは、覚えておいていただきたく……」
聞かれたから答えただけなのに、そんな萎縮されても困る……。
「当然、ナツラたちがそんなことになるとは思っていないし、嫌な命令とかされていたら、ちゃんと意見してくれよ? さっきのは、完全な敵対した場合の前提だから」
「はい、理解しています。……ちなみに、マギレマと戦うのは、敵対にあたりますか?」
「実戦訓練とか、勝負ってことなら該当しないけど……。マギレマさん自身が嫌がっていたら、無理に戦わせないようにな」
過去にマギレマさんに敗北したって話だからな。因縁の相手ではあるのだろう。
今のナツラのステータスは、マギレマさんにやや劣る程度だ。
再戦の機会があったらしたいのだろうけど……マギレマさんのほうが、料理好きのお姉さんだからなあ。
戦いに応じてくれるかは、かなり微妙なところだと思う。
「では、解散してください。ふぅ、これで堂々とレイと一緒にいられます」
魔王モードが終わった。
フィオナ様は、いつもどおりのかわいらしい笑顔で、俺に思い切り抱き着いてきた。
ほら、温度差がすごすぎて、オーガたちがぽかんとしている。
「解散していいぞ」
「あ、は、はい……」
ここまで見せたのだから、オーガたちもフィオナ様には慣れてもらうしかない。
威厳ある美しい魔王なのは疑うべくもないが、きっとこっちのかわいらしいフィオナ様が基本形だからな。
「宰相様が自身のものだという発言。そう言う意味でしたか……」
去り際に、ナツラがそんなことを言っていたが、そうだよ。そう言う意味だよ。
俺は宰相であり、魔王様のお気に入りのぬいぐるみみたいなものなんだ。
なんか、変な魔王軍でごめんな。
「うぎゃー! ……ま、魔王様と……レイ様が……ひ、久しぶりに……」
「な、なんだ!?」
ナツラたちと入れ替わりでやってきたプネヴマが、口から魂を出して倒れた。
そうか。ナツラたちは、これにも慣れていなかったな。
ほんと、変な魔王軍でごめんな……。だが、慣れてくれ。
それにしても、プネヴマのこの感じも久しぶりに思えるが、最近ではこんなことになっていなかったよな?
てっきり体質が改善したのかと思ったけれど、どうやらそういうわけでもなかったらしい。
「エピクレシ、プネヴマは大丈夫か?」
「ええ、いつものことです。ロマーナ頼みました」
「はい」
そう言われたロマーナも、慣れた手つきで鎖をプネヴマに巻き付かせて運んでいく。
「最近では、お二人がご一緒の姿を見ていなかったですからね。久しぶりに拝見したことで、より強い刺激となって襲ってきたようです」
何が……?
俺だけでなくフィオナ様も、俺に抱きつきながらきょとんとした顔をしていた。
これもある意味日常が戻ったってことなんだろうか。
……良い日常なのかどうか、判断が若干難しいなあ。