【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
期待はしていません。私を治すことなどできないでしょう。
そして、その結果を恨みはしません。むしろ申し訳なさでいっぱいになりそうです。
私なんかのために、これだけ手を尽くしてくれる方々に、ただただ罪悪感だけが募っていきます。
◇
没落貴族という言葉が、それが私を表す言葉です。
疫病神でも良いかもしれません。
なんせ、娘である私の生まれながらの病を治すために、お父様もお母様も国々を奔走しているのですから。
それが原因で、私の家は慎ましい生活へと変わっているのですから。
今は、執事もメイドもいますが、いずれは雇用すらできなくなることでしょう。
「お嬢様。アルマセグシアにできた快復の湯という店舗なら、お嬢様の病を治療できるかもしれません」
そんなメイドの一人が、私をはげますように新しい治療方法を教えてくれました。
きっと無駄でしょう。どうせ無駄でしょう。
その言葉が喉元まで出かかって、なんとか飲み込むことができました。
私なんかの為に、周囲の人々は懸命に努力してくれています。
だから、私自身が諦めるなど、あって良いはずはありません。
「この国に、まだそんな可能性が残されていたのですか」
「前回の調査では発見できませんでしたが、最近新たに作られた施設のようです」
ここアルマセグシアは、非常に人の出入りが激しく、商売をする人たちもそれは同じ。
人気のないお店は次々と閉店していき、それに代わって新しいお店が作られていきます。
そんな新規参入したお店の一つ、それが今回の私の希望となるみたいですね。
……そんな不確かなものにすがるくらいしか、もはやできることは無いのですね。
「お身体は、いかがでしょうか?」
「ええ、大丈夫です。お医者様も、今日は比較的容体が良いと言っていましたので」
それでも、一人では長時間歩くことすらできません。
私にも、人並みの体力があれば良かったのですが……また、周囲の力を借りることになりそうですね。
◇
「いらっしゃいませ~。何名様でしょうか~?」
「こちらの店舗では、お嬢様の病を治せるとお聞きしました」
「湯と言っていましたが、まさか本当に温泉なのですね……」
「はい。ただの温泉としても好評ですが、そちらのメイドさんたちはどうしますか?」
出迎えてくれたのは、私と同じくらいの年齢の、少しほんわかしている様子の女の子でした。
ただ、同じ年齢と性別の元気そうな姿を見ると、自分に無いものを持っていることが羨ましくなってしまいます。
こうして、お店を経営できていることも、とても羨ましいですね。
一人で生きていけない私と違い、彼女は一人で生きているのですから。
「そうですね。では、私たちも利用させてください」
「かしこまりました~。それで、病の治療はそちらの方だけですか?」
「……私たちは、健康ですので」
言いにくそうにするのは、私への配慮でしょうね。
たしかに、健康な肉体は羨ましいですが、決して妬むつもりはありません。
ただ、そんな配慮をさせてしまって、申し訳ないとは思ってしまいます。
「では、こちらへどうぞ~」
そう言われながら案内されたのは、やっぱり普通の温泉のようでした。
気持ち良くはあるのですが、これが病に効くとは思えませんし、気休め程度ということ……。
なんでしょうか。なんか、体内の魔力が変に循環し始めたような、それでいて体の中の異物が無くなり、巡りが良くなったような気が……。
「……」
「お嬢様? いかがいたしましたか?」
私の様子を不審に思ったメイドが話しかけてくるも、次の瞬間には驚きの余り言葉を失っていました。
当然です。私自身同じ思いなのですから、彼女たちが驚くのも無理はありません。
私は、しっかりと自分の足で立ち上がっていました。
それも、普段のようにふらふらとした様子ではなく、危なげなく立つことができています。
体の調子はまったく悪くありません。無理をしているわけではなく、むしろこれまでこんなにも調子が良かった記憶はありません。
「……治っている?」
支えを必要とせず、数秒でその場に崩れることもなく、私自身の力で……?
す、すぐに、お父様とお母さまに報告を! い、いえ、まずはお医者様に病が治ったか確認を?
「お、お嬢様! お気持ちはわかりますが、まずはお着替えを!」
あ……。そ、そうですね。
危うく、とんでもないことを仕出かすところでした。
◇
治った。治った!
歩けることがとても嬉しい。今の私なら、メイドの皆さんのお手伝いだってできます!
力仕事とかも、できると思いますが……残念ながら、メイドたちに断られてしまいました。
「お気持ちは嬉しいのですが、せっかくお身体が治ったのであれば、もっと他にやりたかったことを優先してください」
「やりたかったこと……」
なんでしょう。歩いてアルマセグシアを見て回る? それとも、いっそのこと他の国に?
そういえば、色々な噂だけは聞いていましたし、気になるお店とかもありますね。
「魔導映写館に行ってみたいです」
アルマセグシアにできたという、一風変わった娯楽施設。
物語を映像結晶に込めて、巨大な魔導スクリーンで映し出す試みらしいです。
元々本は好きだったので、きっと楽しめるはず。
そう思って向かった魔導映写館で、美しいエルフに席へ案内されました。
片腕を失っているようでしたが、もしかしたらかつては冒険者だったのでしょうか?
そんなことを考えていると、案内された室内が暗くなり目の前の画面だけが、色鮮やかな世界を見せてくれます。
……なるほど、これは面白いですね。
あれだけ大きく映像を映し出せば、広い室内を埋め尽くすほどの乗客たちも、漏れなく楽しむことができます。
座席は後ろのほうが高くなっているため、前のお客様が邪魔で見えない、なんてこともありませんね。
それに、この食べ物や飲み物もとても良いです。
食べやすく美味しい。邪魔にならない。なんとも贅沢な時間の使い方ができていると実感できます。
「そういえば、お食事ができるお店もできたと聞きました」
「ええ、少し前に作られたレストランですね。安くて美味しいため、とても人気がありますよ。行ってみますか?」
「ぜひ!」
それは楽しみです。
先ほどの魔導映写館でもそうでしたが、体調を気にすることなく、好きなものを食べられる。
ただそれだけでも楽しみというものです。
「……すごいですね。うちの料理長には申し訳ありませんが、こんなにおいしい食事は初めてです」
「あの方もここで食事をしては研究しているようなので、いずれはここに追いつくかもしれませんよ?」
「それは楽しみです」
レストランはとても繁盛しているようです。
それでいて、ものすごい速さで料理が作られては運ばれていくため、行列はみるみるうちに捌かれていき、すぐに私たちは席につくことができました。
手際の良さ、味、値段、どうやら、ものすごいレストランみたいですね。
「外の世界には、こんなに楽しいことであふれていたんですね……」
「ええ、この国だけでも本当に色々な物がありますからね。最近では、人気の洋服店などもできたようです」
「行きましょう!」
まずはアルマセグシアで、気になるところは全て楽しみましょう。
そして、できることなら他国にも行ってみたいです。サンセライオやテイラン、トルベリオで掘り出し物を見つけたり……。
ああ、そういえば、国ではありませんが、ダンジョンの入り口にカジノや海、それに温泉宿なんてものまであるそうですね。
いつかは、そんな場所にも遊びに行きたいです。
ええ、いつかは。
もう今までと違って、できないことに思いをはせてではありません。
今の私なら、それは届かない夢ではないのですから……。
◇
「へえ、それで快復の湯の客が増えているのか」
「はい! メイドさんとお嬢様みたいなお客さんが、とても嬉しそうにお礼を言っていました。快復の湯の効果が正しいものだったことを、喧伝してくれるとも」
今までの快復の湯は、単なる温泉としての利用客が多かったからな。
中には、もののついでと試してみて、効果は確かだと体験した者もいるけれど、わざわざ周知まではしていなかったようだし。
「そのお嬢様、マギレマ様のレストランにも来ていましたよ? なんか、見た目がおしとやかなのに、やけに活発だったから印象に残っています」
「うちの店にも来ていました。メイドさんにたくさんの服を買わせていたので、てっきり典型的なお貴族様かな、と思っていましたけど、そういう背景があったんですね」
やけに目立つお嬢様だったので、従業員たちの記憶にも残っているらしい。
まあ、かくいう俺もなんとなく覚えていたけれど。
「……」
「なんですか? そのジト目は」
「別に~? レイも、貴族のお嬢様に興味があるんだなあ、と思っただけですけど~?」
「まあ、どことなくフィオナ様に似ていましたからね」
「わ、私ですか!?」
そう。見た目がおしとやかなのに、言葉や行動が印象と違うのは、なんかフィオナ様っぽい。
そう思って、ついつい目で追ってしまっていたのかもしれない。
「私は、てっきりレイがああいうのを好んでいるのかと……」
「まあ、好んでいるんでしょうね。フィオナ様みたいだったので」
「つまり、私が一番好きってことですね!」
「まあ……はい」
「ならば許します! さあ、大好きな魔王ですよ~? 近くで顔を見せてあげますからね~?」
「というわけで、解散していいぞ。みんな」
こうなるから言いたくなかったんだけどなあ。
まあ、この面子なら慣れているだろうし、別に見られて恥ずかしいことでもないし、問題ないか。
こうして、今日の残り時間は、じゃれつくフィオナ様の相手をすることになった。