【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第366話 相憐れむ沼から抜け出して

「来たみたいだよ~?」

 

 オーガたちも地底魔界に慣れ、フィオナ様という魔王にも謁見し、わりと平穏な日々が過ぎていった。

 そんな中、ピルカヤが軽い口調で知らせてくれる。

 

「昆虫人か」

 

「そうそう。言っていたとおり、オーガたちの村にやって来たみたい」

 

 まあ、あの感じからすると、ダンジョンへの侵入ってわけではないと思っていた。

 それに、特に焦る様子でも緊迫した様子でもないため、問題が起こるというわけでもないんだろうな。

 

「どんな感じだった?」

 

「最初は、オーガたちが隠れて襲ってくるんじゃないかって、警戒していたみたいだね」

 

「ああ、たしかにそのようなこともしたことがある」

 

 ナツラは、心外だと憤ることもなく、むしろそれを肯定する。

 薄っすらわかり始めていたことだが、オーガたちって全力で挑むのを良しとしているからな。

 奇襲奇策なども、当たり前のように弄してくるし、相手がそうしてきても文句も言うこともない。

 本当の意味で、全力での戦いが好きなんだろう。

 

「それで、オーガたちがいないと理解できたら、そのまま村を占拠したのか?」

 

「そうだねぇ。ただ、何人かは、オーガたちを探している様子だし、警戒しているのかもね?」

 

「あるいは、単に村だけが目的じゃないか、かな?」

 

 今の段階だと、どちらとも判断がつかない。

 土地が欲しかったのか、労働力や戦力も欲しかったのか、それ以外の何かが欲しかったのか。

 

「まあ、今は気にしてもしょうがないか。ピルカヤ、あと何日か見張っておいてくれ。それで何もなかったら、監視は終わらせて良いぞ」

 

「りょうか~い」

 

「念のため、オーガたちに働いてもらう店は、昆虫人の活動圏内から離しておくべきだろうな」

 

 ダスカロスの言うとおりだ。

 万が一オーガたちを狙っているのであれば、わざわざ鉢合わせるのも良くないだろう。

 

「まあ、どのみちアルマセグシアのほうになりそうだし、早々出会ってしまうことは無いと思うけど」

 

「そうだな。そちらで働いてもらうのが良い」

 

 そんな話をしていると、ナツラが見るからに嫌そうな顔をしている。

 

「店員は、気が乗らない?」

 

「い、いえ……。私たちに、務まるかと思いまして。……やはり、ダンジョンのテストのほうが良いのではないでしょうか?」

 

 それはそれで魅力的な案だが、そればかりというわけにもいかないんだよなあ。

 とちらかというと、各種施設の働き手のほうが、必要になることのほうが多い。

 

 魔族と違って表立って働ける種族だ。

 それも、同じく迫害されていたダークエルフと違い、客に舐められにくい。

 やはり、配置先としては他種族の相手をしてもらうものを優先すべきだろう。

 

「器用なダークエルフのほうが、その手の働きは合っていると思うのですけどね……」

 

「むしろ、一緒に働いてもらうことで、互いの足りない部分を補完しあってほしい」

 

 要するに、従業員兼用心棒みたいな感じを期待している。

 接客はダークエルフなら完璧だ。

 ただ、それだけだと客が因縁をつけてくる可能性がある。

 そこでオーガも一緒に働くことで、力ずくという選択を取らせにくくしたい。

 

「最初のうちは、荒事のための保険として期待している」

 

「なるほど。であれば、接客はダークエルフというわけですね」

 

「”最初のうちは”だけどな。いずれはオーガにも同じことをしてもらうぞ」

 

 そう言われたナツラの表情は、やはり気が乗らないという気持ちがありありと見て取れた。

 

    ◇

 

「カジノの案内など必要なのか?」

 

「ここは、マギレマ様のレストランに次いで稼いでいる施設だよ? まあ、最近はライバルも増えてきたけどね。だからこそ、より一層励む必要があるのさ」

 

 女王様が、族長に教育している。

 あれで、どちらも種の長だというのだから、不思議な光景だよなあ。

 

「ライバルか。つまり、他国にも似たような場所があると」

 

「いや、あくまでも私たちの中でのライバルさ。最近では服屋や魔導映写館なんかもあるからね。古株だからと油断していたら、追い越されてしまう」

 

 女王様、そんなこと考えていたんだな。

 俺としては、任せられている施設の一つというだけであって、そこまでの考えは無かった。

 まあ、それはともかくとして、そろそろ客も来るころだ。

 内部事情を話さないように、念のため注意しておくかね。

 

「しかしなあ。施設の案内など、まだできないぞ」

 

「今日は、私たちについていくだけで良いさ」

 

 そう言いながら、しっかりとダークエルフにオーガたちが付き添う。

 なんかあれだな。ウルラガの旦那と同じく、ここのケツ持ちの集団みたいだ。

 スーツ姿が、余計にそんな雰囲気を感じさせる。

 

「あら? 従業員増えた?」

 

「おう、レンシャの姐御。今度からうちで雇うことにした、オーガたちだ」

 

「へえ……。ダークエルフといい、変わっているわね」

 

 それは迫害種族をわざわざ雇っていることに対する言葉だろうが、あえて言葉を濁してくれているようだ。

 リズワンの旦那もそうだが、迫害こそしないものの、迫害対象の種族ということは、しっかりと認知しているんだよなあ。

 ほんと、女神のやつもうまく認識させているもんだ。

 

「ほう。ウルラガだけでなく、あれだけの用心棒を雇うとは。……もしや、何か火種でもあったのか?」

 

「ああ、違う違う。単に職の斡旋ってだけさ。現に俺だけでなく、知り合いの他の店も今ごろオーガたちを雇っているはずだぜ?」

 

 ロマーナやセラたちも、オーガを従業員にしている。

 だが、あれらの店は俺の管轄外だからな。

 オーガを全てうちで雇ったなんて勘違いされたら、あの店も俺の系列扱いされそうだ。

 まあ、横のつながりを匂わすていどで良いだろう。

 

「ふむ……。ダークエルフはわかるが、オーガもか。もしや、集落が襲われでもしたか?」

 

 ……相変わらず、頭の回転が早いことで。

 おそらく、オーガの大量雇用から、その答えを導き出したんだろう。

 

「さあ、どうなんだろうな? 住み込みで雇う契約こそしたが、詮索するつもりは無いんでね」

 

「うむ、俺もそうだ。であれば、先の言葉は失言だな。許せ」

 

「うちに金を落としてくれるなら、忘れることにしようかね」

 

「はっはっは! それでは、許されなくなるな。なぜならば、今日こそ俺は宝箱に打ち勝つからだ!」

 

「順番からいったら、たぶん私のほうが勝つわよ。良かったわね? 王様。つまり、あなたの失言は許されるってことじゃない」

 

 強気だねえ。

 強気なのは良いけれど、俺にはその姿に見覚えがあるんだ。

 ビッグボスも、いつもそれくらいの自信をもって挑んでいるもんなあ……。

 

 当然ながら勝つことなど無く、二人は今日も良いお客さんになってくれた。

 ……そろそろ、イカサマしてでも当てさせてやりたくなってくるな。

 

    ◇

 

「……」

 

「こっちを見られても、俺にもどうすることもできません」

 

「ですよねえ……。いえ、レイならあるいは、外れた宝箱の中身を蘇生薬にできるのでは? なんて思ってしまいました」

 

「フィオナ様は、疲れているんですよ……」

 

「ですよねえ……。とりあえず、魔王ボックス行きなので、部屋に戻りましょうか」

 

 宝箱を片手で持ち、もう片方の手で俺をしっかりと確保するフィオナ様。

 だが、今回は落ち込むこと無く、冷静に現実を受け入れているようだった。

 

「今日は、あまりショックを受けていませんね」

 

「私のライバルたちも、外れていたようですからね。同じ結果の者がいるので、焦りはあまり無いのです」

 

 ……それ、ガシャ沼の底で慰めあってるようなものじゃないか?

 なんとも健全じゃない精神になっている気がするが、かといって悲しむのが良いわけでもないし、どうあるのが正解なのかわからなくなってくる。

 

「部屋に戻ったら、膝枕を所望します」

 

「あ、ちゃんと落ち込んではいるんですね」

 

「ちゃんとってなんですか!? 慰めに頭をなでることを所望します!」

 

「はいはい。がんばって部屋まで歩きましょうね」

 

 冷静そうに見えただけで、意外とガッツリと落ち込んでいるようで何よりだ。

 変にもやもやしたまま抱え込むよりは、やはりある程度発散するのが健全なのだろう。

 

 その代償として、俺の膝と腕が痺れることなど、些細なことじゃないか……。

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