【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「ありがとうございました~」
これで今日の作業は終わりか。
こちらの世界での生活にも、ずいぶんと慣れてきた。
まだ日も暮れていないというのに、これで一日分の作業も終わり。
俺は、まだ学生だったので知らないが、元の世界での社会人よりも楽な仕事であるとは自負している。
「
「
「ああ、こっちも仕事は終わったよ。……なんか、前の世界で働いていたころより楽だから、色々と複雑だね」
俺と高井さんは、転生者と呼ばれる存在だ。他に、
俺と花沢は、同じ学校だったらしいが面識は全く無く、高井さんに至っては社会人だったらしいので、前の世界では顔すら見たことが無い。
そんな俺たち三人が、数奇な運命によってこうして同じ町で生活しているのは、なんとも不思議なことだ。
「こっちも、働いているって実感はあまり無いですね……。なんと言いますか、自分の功績と思えないような」
「そうだねえ。女神からの加護なんて、得体のしれないものだから仕方がないさ」
そう、女神の加護だ。この世界に拉致した女神から授かった力。
魔王を殺せなんて無茶苦茶な要求をしてきたあの女神の力が、今こうして俺たちを生かしてくれている。
感謝は……したくないなあ。だって、あの女神がいなければ、そもそも元の世界に……。
いや、そうでもないか。死んだもんな、俺たち。
まあ、とにかく女神の加護のおかげで、俺たちが生活できているのは事実だ。
俺は修繕。高井さんは裁縫。花沢は動物親和と少々変わった加護をもらったが、各々がそれを活かして町で仕事をしている。
何の知識も無い俺だけど、さっきのお客さんみたいに、武器や防具のメンテナンスを依頼してくれるお客さんも増えてきた。
「こうしていると、平和な世界に見えるんですけどね」
「私たちは恵まれていると思うよ。エーニルキアから逃げ出しても、こうしてお膝元の町で暮らすことが、許されているのだから」
俺も高井さんも花沢も、それどころかもっと大勢の転生者たちがエーニルキアという王国の城に集められた。
そこでは、女神の加護を使って戦うよう期待され、実際に俺たちも何度か戦いに赴いたことはある。
だけど、まあ無理だ。花沢はともかく、俺と高井さんなんて戦うための加護を授かっていない。
それがわかっているのか、王様やお偉いさんたちも俺たちに無理強いはしていない。
態度が悪いやつらは、どこかに連れて行かれていたまま帰ってこなかったけれど、高圧的な態度を取らなければ向こうも何かしてくることはない。
だから、そのまま飼い殺しにされるのも、選択肢の一つとしてあったのかもしれない。
ただ、俺たちは不安だった。
王国に生かされる間は、飢えることも無いだろう。だけど、それはいつまで?
最初の待遇は、俺たちごときにはもったいないものだった。
現に俺たちが優秀な戦力じゃないとわかったら、待遇は下げられた。
つまり、エーニルキアは実力をしっかりと見たうえで、俺たちの待遇を決めている。
であれば、何の役に立たない者たちを無償で養うというのも、永遠であると考えるべきではないだろう。
その結果、自分たちで生きていくと言ったところ、支度金まで用意してくれるのだから、怖いのか優しいのかわからない。
これは、俺たちが戦闘に役立たない加護だったから、興味を持たれていないだけなのだろうか?
ともあれ、俺たちは安全な町の中で、自らの加護を活かして働くことができている。
「整備の真似事くらいしかしたことが無いのに、修繕なんて加護で装備を直しているのが、いまだに慣れませんけどねえ……」
「そんなことを言ったら、私なんて裁縫だよ? 破れやほつれの補修もだけど、新しい服作りなんて自分の力とは思えないよ」
「ですよねえ」
まあ、俺たちはどちらの力もこの世界に役立ってはいる。
モンスターや魔族と戦う者が多いため、装備の調整は喜ばれる。衣服を取り扱う店にそこまで大手はいないので、元の世界の衣服を再現するだけで高評価だ。
「不破くんと高井さんは良いわよね。私も、もっと生産系寄りの加護が良かったわ」
「花沢。……今日も、大変だったみたいだな」
「ええ、また新しい仲間がたくさん増えたわよ~……」
日がな一日、建物の中でゆったりと仕事をしている俺たちと違い、花沢は見ての通りのあり様だ。
朝早くに、仲良くなった動物たちと一緒に、近隣の見回りに出かける。
そこで、モンスターに関する異変の兆候があった場合は、すぐさま引き返して町に知らせ、場合によってはエーニルキアの騎士が派遣される。
ただ、モンスターの異変は、ほとんど見かけることは無い。
なので、花沢の主な仕事は、動物たちと仲良くなることだ。
畑や森や川や湖。それらの資源を荒しそうな動物がいた場合、花沢の力で動物たちと話し合い、仲良くなって説得する。
そうして、彼女の仲間である動物はどんどん増えている。
彼女単独で、小さな自警団みたいなものだ。
もっとも、そのせいでいつも動物たちにじゃれつかれ、服も髪もぼろぼろになっているけどな……。
「はい。花沢さんの新しい服、作っておいたよ」
「ありがとうございます~……。髪はともかく、服だけは高井さんのおかげで、なんとかなってよかった……」
「私と花沢さんの加護が、逆だったら良かったんだろうけどねえ」
「ほんとそうですよ。女神~……。私、服を作る仕事のほうが良かったのに~……」
まあ、動物も嫌いじゃないみたいだから、花沢は花沢で相性が良い加護だったんだろうけど。
こうして、俺たち三人は今日も平和な一日を過ごしている。
仕事は短時間で終わり、町の人たちにもよくしてもらっている。
花沢ですら、戦うことなどまったくない。
……本当に、この世界は平和なんじゃないかと錯覚するほどだ。
国松のやつが、魔王は倒さないといけないと言っていたけれど、戦う力が無い俺たちにはどうすることもできない。
なら、こうやってこの世界で生きていくしかないんだろうなあ。
いつか、この町にも魔王軍がやってくるんだろうか?
願わくば、いつまでも平和な世界であってほしいものだが、こうしている今も外の世界では戦いが常なんだろうな。
風間のやつが帰ってこないのは、そういう理由なんだろう。
……やっぱり、この世界怖いんだろうな。
俺と高井さんと花沢以外にも、エーニルキアを去って平和な生活を送っている転生者は非常に多い。
女神が魔王退治を期待してよこした転生者が、あれだけ離反したということは、いつかはこの世界に危機が訪れるのかもしれない。
「はあ……。ほんと、平和な光景に見えるのにな」
「魔王軍とやらを、勇者たちが退けてくれることを願うことしかできないね。私たちには」
今日も一日平和だった。明日もそうとは限らない。
全ては、魔王軍の気分一つで変わってしまうのだろう。
なら、せめて毎日を大切に生きていくしかないか。
◇
「はい。今日も一日平和でした」
「昆虫人たちも攻めてくるでもなく、転生者が襲撃するでもなく、最近は平和ですね」
フィオナ様の言葉に、俺も賛同する。
一時期は単なる侵入者以外のせいで、わりと物騒なことが多かったからなあ。
だけど、フィオナ様は俺の言葉に、首を横に振って否定した。
「いえいえ、そのあたりのことは別に平和とは関係ありません」
「フィオナ様にとっては、そのくらいは敵じゃないからですか?」
まあ、俺にとっては一大事だったけど、フィオナ様ならその気になれば誰が相手でも瞬殺だもんな。
でも、それなら何をもって平和と言っていたんだ?
「そう。私にとっての敵は、宝箱ですね」
「ミミックとでも戦っているんですか?」
「宝箱そのものが敵であり、それでいてたまに私に協力してくれる。なかなか一筋縄ではいかない関係なのです」
宿命のライバルキャラか何かですか?
「というか、宝箱は今日は開封しなかったはずですが」
「ええ。ですので、今日は心が乱されない平和な一日だったというわけです」
「宝箱がフィオナ様に悪影響を及ぼすようなら、作成しないほうが良いですか?」
「レイ。たしかに、宝箱は私の心を乱します。しかし、だからと言って逃げ出すのも、また違うのです」
「つまり、宝箱ガシャは今後も回したいと」
「ええ。そして、こうして話している今が機なのではないかと思ってきました! レイ! 宝箱を用意しなさい!」
気が変わるの早いなあ……。
というか、本人も平和な一日と言っていたのに、自らその平穏を乱すつもりなのか。
当然ながら、物欲まみれのフィオナ様が宝箱に勝利することなどなく、彼女の平和な一日は脆くも崩れ去るのだった。
……魔王のこんな姿を見たら、勇者とか転生者とかどう思うんだろう。
案外、無害だと判断してくれて、連中が魔族を敵視しなくなるんじゃないか?