【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「オーガたちは一人としていなくなっていると」
部下の言葉に、さすがに異変を察知した。
命令した部下たちはしょせんは末端なので、そこまで判断できていない。
オーガたちが消えて、やつらの土地を手に入れた。それだけで目的を果たしたと思っている。
「命令に忠実なのは利点だけど、考えることをしないのは、それはそれで問題ね」
命令に決して逆らわない。何も考えないから余計な感情に行動を左右されない。
それは強みでも弱みでもある。もう少し、上位の兵隊を一緒に連れて行くべきだった。
だから、これに関しては運用方法を誤った私の落ち度だ。
「オーガを探しなさい」
「ですが女王様。土地さえ手に入ったのであれば、オーガに固執する必要は無いのでは?」
「オーガを狙っていた理由は土地だけじゃないわ。他の種族に対抗するための戦力にしたかったからよ」
人類という便利な言葉がある。
人間、獣人、エルフ、海人族等々。要するに善の種族たちを指す言葉だ。
ここに魔族は入らない。魔族が人類でないということは、人類の敵と判断して良いと公に認められているということ。
さて、問題は魔族以外だ。
昆虫人やオーガやダークエルフが人類に入っているか、と言われると非常に線引きが曖昧になっている。
魔族たちのように、完全に敵対視されているわけでもなく、かといって人類の仲間と認められているわけでもない。
そんなグレーな存在。それは、下手したら魔族よりも危うい立場なのかもしれない。
ダークエルフは、転生者と組んだらしい。
その結果うまくやっているところを見ると、人類たちの次の矛先が心配になる。
これまでは、もっとも抵抗の薄いダークエルフたちが、矢面に立つことになっていた。
じゃあ、その次は? 昆虫人? オーガ? それとも他の迫害種?
「人類が簡単に手出しをできないような、強力な力を手に入れないといけない」
「ですが、我々昆虫人は数こそ多いものの、個人の戦力はオーガに劣ります」
「だから、まずは数を武器に土地を奪ったんだけど……まさか、土地そのものにすら執着しないなんてね」
無理やりにでも土地を奪うことで、安住の地を失い戦力が低下する。
食料の確保も、安定した睡眠すらできなくなるのであれば、さすがのオーガも弱体化する。
そう考えていたけれど、連中は私の想像以上に強い種族だったらしい。
「末端の兵隊をいくら送っても、ことごとく返り討ちにされる」
「ですが、それでも確実にダメージは与えていたはずです。土地を手放したのがその証拠ではないでしょうか?」
実際に、わりと追い詰めていたはず。
そこは間違っていない。むしろ、追い詰めすぎたせいで逃げられた。
そもそもオーガが、簡単に逃げるとは思っていなかった。
「逃げ場を塞ぐ段階ではないと思っていたんだけどね……。次は、確実に逃がさずに追い詰めるわよ」
そう、逃がしたら何の意味もない。
オーガたちを、自分たちの兵隊にするのだから。
「オーガという戦力を手に入れたら、人類は私たちに簡単に手出しできなくなるのだから」
◇
「オーガ欲しいなあ」
「聞き捨てならない言葉ですねぇ! 角ですか!? 力の強さですか!? 犬と違って、どちらも私は満たしているはずですけど!」
ぽつりと呟くと、フィオナ様が今日も元気に突っかかってきた。
そりゃあ、あなた以上に力の強い存在、この世界にいないんじゃないでしょうか?
あと、頭の角を絶妙な力加減で押しつけてこないでください。
加減に失敗したら、俺の手のひらが貫かれそうです。
「そもそも、私たちはすでに魔王軍のものという認識で正しいのです……が……」
こら、にらまない!
ナツラが怖がっているじゃないか!
「ナっちゃん。余計なこと言わないほうがいいよ? 魔王様、たまに怖いからね?」
「あ、ああ……。むしろ、怖いのはたまにだけなのか。魔王様なのに……」
実際のところ、これも別に怖くないんだけどな。
まだまだ新参者のナツラには、そのことを理解しろと言うほうがかわいそうだ。
つまり、フィオナ様が悪い。
「まあ、なでておくので機嫌を直してください」
「なんか、雑ですねえ!」
「そう言いながらも、大人しくなるフィオナ様が好きです」
「レイは私のことが大好きですから、そうでしょうね」
だから、なんでナツラのほうを見るんですか。
あなた、そんなパワハラ上司とは対極の存在だったじゃないですか。
「ところで、レイが言うオーガが欲しいとは、モンスターのほうのことか?」
「そう。そうなんだよ、ダスカロス」
そもそもは、それが問題だ。
超位モンスター作成が解禁されたので、絶対にオーガが引けると思っていた。
だけど、残念ながらガチャのプールはそれなりに広いのか、あるいは俺もついに物欲センサーに補足されたのか、いまだにオーガは引き当てていない。
「前回は、クラーケンとケルベロスだっけ? 毎回ボスっぽいモンスターが出てくるね」
「ボスばかり引くと、配置先に困ってしまうんだよな。通路に雑に配置したらアナンタが怒るし」
「それがわかるようになっただけ、少しは成長しているんだなぁ。お前も」
魔力もそろそろ90になるからな。
俺だって、いつまでも雑魚魔族なままではない。
……戦闘力でいえば雑魚魔族のままだけど、成長自体はしている。
「燃費の問題よりも、無駄に増やして暇になるのがかわいそうだし、超位モンスターガシャは、様子を見ながらって感じだなあ」
「宰相ボックスに、入れるわけにもいきませんからねえ」
「生物ですからね。魔王ボックスみたいなものは作れません」
作るも何もただの宝箱ではあるけれど。
いっそのこと、超位モンスターをそれぞれボスに据えたダンジョンを作成すれば……。
管理が大変そうだし、増やしすぎると人類が本気で魔王軍に対処しそうだし、あまり良くないか。
◇
「あはは! 今のは惜しかったよ!」
まあ、楽しそうなことだ。
リピアネム用の広い戦場で、イピレティスがケルベロスと遊んでいる。
遊んでいるというか戦っている。
しっかりと三つの首の攻撃を回避して、その小さな体で果敢に挑んでいるように見えるが、実際はイピレティスのほうがだいぶ上みたいだ。
ケルベロスたちも、そんなイピレティスになんとか一矢報いようとするが、なかなか相手が悪いらしい。
「いや~。面白かった~」
「満足そうだな」
「これはこれで良いですね~。次は、クラーケンと戦います」
「いったん休憩してからな。連戦させすぎるなってダスカロスにも言われたから」
イピレティスって、ほうっておいたらずっとこの子たちと遊びかねないからな。
疲れを知らないとかじゃなく、疲れすらも楽しむのだから筋金入りだ。
「それに、ナツラたちも挑むみたいだし」
「人気ですね~」
超位モンスターは、オーガや一部の十魔将。それに一般的な魔族たちに人気だ。
味方同士なので経験値は入りにくいが、戦闘経験という意味ではとても得られるものが大きいのだろう。
さすがにリピアネムの参戦は止めたが、たまには戦わせてあげるのも良さそうだな。
そうして、超位モンスターのみんなも様々な経験を積むことで、きっと強力なボスとして働いてくれることだろう。
「蘇生したばかりなんだから、無茶するなよ」
再作成したソウルイーターが、ケルベロスに向かっていく。
この子も格上相手にずいぶんとがんばるものだ。
実際に、戦うたびに結果を残しているようだし、向上心が高いようで何よりだな。
しばらくは、超位モンスターたちには、各自の戦闘訓練要員としてがんばってもらうのが、一番良いのかもしれない。
活気に満ちた戦場を見ながら、俺はのんびりとそんなことを考えるのだった。