【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「う~ん……」
「どうした? ピルカヤ」
さっぱりとした気性のピルカヤとしては珍しく、なんだかもやもやしている様子が見ただけでわかった。
これはあれだ。内部に入り込んで商品を横流ししていた獣人の転生者や、偽物のダンジョンを作っていた転生者集団の尻尾を掴めなかったときの雰囲気に近い。
ということは、また情報を掴めずに困っているということだろう。
「例の昆虫人たちのことを調べていたんだけど。ぜんっぜん、わかんないや」
「調べるって、連中の目的がオーガたちかってことを?」
「オーガを狙っているのか。奪った土地で何をしているのか。本体はどこにいるのか。ぜ~んぶ、肝心なところは駄目」
「昆虫人は依然として火を使っていないってことか。ピルカヤとは相性が悪いな」
「そうだねえ。火がないのか、妨害魔法でも使っているのか。いずれにしてもボクの目が届かないよ」
世界中の情報が筒抜けになると思っていたピルカヤの能力も、強力ゆえに対処方法が知れ渡っているのが厄介だな。
それも、火を使わなかったり魔法で妨害できたりと、わりとどの種族でも扱える対処方法なのが問題か。
今回は、そもそも火を扱っていない種族のようだけど、今後も肝心な部分は隠されると思ったほうが良いだろう。
まあ、それでも常にピルカヤを警戒させているというだけでも、一定以上の効果はありそうだけど。
「昆虫人の生態を、もっと知っておくべきか?」
「勉強か~。そうすれば、尻尾を掴めるかもしれないね」
意外と勤勉だよな。ピルカヤって。
社畜かつ勤勉という、見た目とは裏腹な性格なやつだ。
そんなやる気に満ちたピルカヤと一緒に、せっかくなので俺も昆虫人について学ぶことにした。
◇
「それで、今日は大勢集まっているんですねえ」
「ええ、お勉強です」
フィオナ様も集まっているけれど、この魔族はきっと勉強するためではなく、みんなが集まっているのが気になっただけだろう。
まあ、気持ちはわかる。四天王や十魔将が集まっているとあれば、何事かと思うのも当然だろうからな。
「まず気になっていたんだけど、ラプティキさんは昆虫人じゃないの?」
「私はアラクネだけど、昆虫人ではなく魔族ね」
「昆虫人とは違う、と。じゃあドリュも?」
「俺も魔族ですね。ラプティキ様や俺は、虫と人間の性質が半々に分かれています。ですが、昆虫人はなんというか、虫と人間が混ざったような存在ですので」
ああ、そういう違いか。
うちにいる二人みたいに、ケンタウロス型なのが魔族で、融合しているタイプが魔族ではない種族ってことか。
ラミアのアスピダも魔族だもんな。
「……ということは、ケンタウロスは魔族?」
「いえ、ケンタウロスはケンタウロスで、魔族よりは人類側です」
「ミノタウロスは?」
「魔族です」
……難しいな。どんな基準だ。
あれだな。きっと、女神が適当に気分で決めているんだ。
だから、これといった明確な基準が定められていないんだろう。
つまり、あいつ次第で、明日いきなり魔族に認定される種族もいるかもしれない。
「脱線しているな」
「ああ、ごめん。まずラプティキさんとドリュは、昆虫人ではないことはわかった。となると、昆虫人の生態について詳しい魔族は……」
「一番関わりがあったナツラに聞くのが良いだろう」
「は、はい!」
ダスカロスから名前が上がり、ナツラは少々緊張した様子で口を開く。
さすがに、うちの上位陣が集まっているので、ナツラでもこんな様子になるのか。
「まず、以前話したように、あいつらは女王の命令を守るためならば、そこに個人の感情は挟みません」
そのへんは、うちのモンスターたちと少し似ている。
あの子たちも、命令を優先するためならば、命すら軽く捨てられる子たちだからな。
「そもそも、考えることすらしない兵隊なので、本当に戦い甲斐がありませんでした」
まあ、戦い甲斐はともかくとして、命令のみで動く相手って不気味そうではあるな。
うちの子たちは、命令は守るが自分で考えもするから、そこは明確に差別化できる点だ。
どちらが良いというものではなく、各々に利点と欠点がありそうな部分と言える。
「でも、命令を出している以上は女王は、ちゃんと感情や性格があるってことで良いんだよな?」
「そのはずです」
「はず?」
「私たちは、女王と会ったこともなく、兵隊たちが女王様の命令と言っているのを聞いただけですので」
徹底しているなあ。
そうなると、ピルカヤが尻尾を掴めないのも仕方がないかもしれない。
兵隊たちは、何も知らされておらず、女王は表舞台にも現れない。
つまり、情報を秘匿しながら、兵隊たちを指揮しているということなのだから。
火を扱わない種族というよりも、ピルカヤを念のため警戒する知能がありそうな気がしてきた。
「そんな女王が、魔王軍のせいで住処を追いやられているのだとしたら、最終的な狙いはうちになりそうですね」
「いっそ、俺が大きめな居住地でも用意してしまえば、そこに住みついて満足してくれませんかねえ」
フィオナ様も、この問題が魔王軍にまで波及する可能性を考慮しているが、厄介事に巻き込まれたくはない。
ダンジョンに攻め込んでくるだけであれば、他の侵入者たちと同じように対処できるから良い。
だけど、そこに何か思惑がある場合、後々面倒なことが起きそうだし、ちょっと怖いな。
純粋にダンジョンを攻略しているかと思ったら、そのまま四天王の首を取りに来た前例もあることだし、注意は必要そうだ。
「ちなみに、フィオナ様は昆虫人のこと知っています?」
「いえ、私は関わったことがありません。なので、ダンジョンを広げることで住居を侵略していたこと自体、思い当たりませんでした」
まあそうだよな。
この魔王様が、他種族に迷惑をかけるような真似するとは思えないし。
事故でしたって言ったら、女王とやらも許してくれないだろうか。
◇
「……ダークエルフが転生者と手を組んで、村を捨てた。オーガまで転生者と手を組んで村を捨てた」
転生者の力というのは、それだけ強力なものであり、この世界に影響がある。
なら、ダークエルフやオーガたちに続いて、私たちもその転生者たちと同盟を組む?
その決断も候補の一つに置いておこう。
だけど、兎にも角にもまずは相手を知らないといけない。
その転生者たちがどんな者たちなのか、まずは兵隊に調べさせないといけないわね。
まあ、協力は無理でしょうし、オーガたちもろとも力で制圧するのが一番かしら。
「兵隊たちに指示を出したわ。まずは調査。何匹失ってもいいから、相手の情報をとにかく調べるところからね」
「兵隊以外はいかがいたしましょうか?」
「表立って動くのは兵隊だけ。あなたたちも、あいつらも、戦力を動かすのは相手を知ってからにしたいわ」
「かしこまりました。では、兵隊たちを指揮して、情報をまとめることに注力します」
「ええ、よろしくね」
そう。こんなところで失っては、さすがに昆虫人をまとめきれない。
いくらでも無尽蔵に生まれる末端の兵隊ならいいけれど、知能が高いタイプはそこまで育つのを待たないといけない。
使い捨てをできるほど、充実した種族ではないのだから、こうして率先して動いてくれる者は大事にしたいところね。
「さあ、どんな情報が集まることかしら」
できれば、各個撃破できれば良いんでしょうけど。
どうせ、先の二つの種族と幾人かの転生者で、徒党を組んでいるんでしょうね……。
だとしたら、力で制圧するのは相当に骨が折れそうだわ。