【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「昆虫人がダンジョンに来たみたい」
「それはオーガの村からか?」
ピルカヤの報告を聞き、出所を尋ねてみると、彼は首を横に振る。
オーガの村以外には、昆虫人は姿を見せていないという話だったため、彼が見つけ出したのでなければ、向こうが行動に出たということだ。
「数が多いね。一か所からじゃない。いろんな場所の地底からやってきているみたい」
「ということは、やっぱり地底が住処である可能性は高そうだな」
ある意味では、俺たちの同類ってわけだな。
女神に迫害されており、地底に住処を追いやられている。
ただ、昆虫人たちは、魔王軍と争うくらいなら地上に進出を、と考えているためナツラたちの村を占拠した。
「それにしても、ダンジョンね……。魔王軍との争いを回避したのに、結局衝突することを選んだのか?」
「というよりは、次の侵略先を探しているって感じかなあ。ダンジョンだけじゃなくて、地上にもワラワラと出現しているみたいだし」
「うちが狙いとも限らないか」
であれば、うちがナツラたちを雇用したことで、狙うようになったわけでもなさそうだな。
なんなら、ダンジョンも、うちの管轄と知らずにやってきている可能性すらある。
「案外、リズワンとかテイランの女性みたいに、欲望のダンジョンにハマったという可能性は……」
「ないんじゃないかなあ。ナツラが言ってたとおりだよ。全然、何考えてるかわからない。というか、そもそも何も考えずに、命令だけをこなそうとしているのかもね」
やっぱりそういう印象なのか。
うちのモンスターたちと違って、感情豊かだけど言語が使えないというわけでもないらしい。
本当に淡々と動くだけか。それこそ、まるでNPCみたいだな……。
「それだけ目撃できたってことは、連中の住処の場所は」
「多すぎて逆にわかりにくいね。一応、どこから出てきたかは教えられるけど、全部つながってるとしたら、うちみたいに相当広そうだよ」
「おかしいな。それだけ広い土地があるのに、オーガたちの土地まで必要だったのか?」
「オーガ自身に用があったってほうが、合ってるのかもね~」
まあ、とりあえず俺たちだけで考えても仕方ない。
ダスカロスやフィオナ様を交えて、改めて状況を整理するとしよう。
◇
「う~ん。多すぎるな」
「獣人、人間、エルフ、ドワーフ、ハーフリング、海人族。竜人たちや他にも様々な種族の土地へ現れたか」
しらみつぶしに、行ける場所全てに行ったかのようだ。
そこに俺たちのダンジョンも含まれているのだから、狙いが本当にわからない。
「それも争うでもなく、ただ各地に訪れているだけですか」
「観光というか偵察というか、やっぱり何かを探しているみたいな動きですね」
広範囲を一度に探索できるほどの人手で、数によるごり押しの調査をしているみたいだ。
それだけに、目的が全然しぼれない。
昆虫人たちの強みは、この圧倒的な数なのかもしれないな。
「であれば、ちゃんと地底魔界にも訪れているのは、なかなか見どころがありますね!」
「観光なら、の話ですけどね」
自慢げに胸を張るフィオナ様。自分で言っておいてなんだが、観光という可能性は低いだろう。
今は、単純に何かを探っているという段階なんだと思う。
そして、そんな状態で事を荒げるつもりはないから、大人しくしているだけなんじゃないか?
つまり、そういうことを判断できる種族ということになる。
ナツラが言っていたように、女王だけは知能が高いのかもしれない。
それとも、それ以外にも考えて動ける人材はいるが、今は表舞台に出していないだけか?
戦闘員のことごとくが、ピルカヤが見たのと同じ昆虫人だったらしいし、あくまでも働きアリみたいな存在だけが見えているのかもな。
「うちの関係者の店に来た昆虫人っているのかな」
「虫と人間のハーフみたいなお客さん、うちに来ました!」
「海にも来ています」
時任や奥居が教えてくれる。
それだけでなく、ロペスやロマーナやリグマ。なんだか、うちの店には大体来ているようだ。
客として来てくれるのなら、うちとしても歓迎できるのだが、やっぱり様子見って感じらしい。
邪魔するでもなく、客になるでもなく、目的がわからない不気味な集団になりつつある。
「カジノを含めて、うちの店に来たってことは、オーガたちの存在もばれたか?」
「ピルカヤ様が教えてくれたので、その前にスタッフルームに下がってもらっています」
ロマーナだけでなく、他の者たちもやっぱり同じ対応をしたようだ。
ピルカヤ、やっぱり優秀だな。事前に昆虫人の来店を知らせてくれていたのか。
「ボク優秀でしょ?」
「ああ、目的はわからないが、オーガの存在はばれないに越したことは無いからな」
「だよね~」
そう言いながらも、今も分体で昆虫人の動向を探ってくれているみたいだし、相変わらず頼れる四天王だ。
そんなピルカヤだったが、じっと集中した様子を見せる。
これは、どこかの分体が何らかの情報をつかんだか?
その予感が正解であることを示すかのように、意識が戻ったピルカヤは唐突に口を開いた。
「今度は、ダンジョンに挑み始めているね。これまた色んなダンジョンに、大量の昆虫人がやってきている」
「調査ではなく、侵入者としてか」
「だね~。モンスターに勝ったり負けたり、罠にかかったり回避したり、物量でなんとかしようとしているのかな」
「これはこれで、目的が不明だなあ……」
何かを探していたかと思えば、今度はダンジョンの探索?
行動に一貫性がないので困る。
ただ、店への来店よりは良い方向に動いているのか?
ダンジョンに侵入者としてやってきたのであれば、あとは他の冒険者たちと同じように扱えば良いだけだし。
「ちょっと見せてくれ」
「おっけ~」
視界には、たしかに昆虫人が映し出される。
なるほど、こういう見た目だったか。
獣人とは別の方向性で、人間と別の生き物が混ざったような見た目だ。
そんな彼ら彼女らは、多数のグループで各ダンジョンの中を進んで行く。
他の冒険者たちが何事かと訝しむも、まったく気にする様子も無く、ただただ奥を目指しているようだ。
宝箱の回収とかが目的でも無いようだし、ダンジョンの踏破を狙っている?
「あ、毒の罠にかかった」
「ですが、仲間が倒れても気にせず、前に進んでいますねえ」
感情が乏しいのか、本当に命令以外をこなす気が無いのか、これはこれで厄介な集団かもしれないな。
そんな集団ではあるが、個体としての能力はバラバラらしい。
毒にかかったものもいれば、同じ距離なのに無事な者もいるのは、耐性の違いということだろう。
「振り返らず前に進んでいるけれど、かろうじて動いているあいつも毒にかかっているだろうし、これってもしかしたら」
群れについていく昆虫人。彼はしばらくしてから倒れた。
だが、その間に彼自身が毒の媒介となったためか、群れはどんどん毒におかされていく。
気にせず前に進むも、体が言うことをきかないのか、前進できるものはもはやほとんど残っていない。
「バタバタと倒れていっているね」
「死にかけた昆虫人から、毒がどんどん蔓延していったみたいだな。……こわっ」
「怖いのはお前なんだよなぁ……。なんだよ、その連鎖毒。知らねえぞ、あんなの」
「いや、俺も知らないんだけど。他の冒険者って、仲間が毒になっても、味方まで巻き込まれなかったよな」
「そういう特性なのかもね? 案外、意識も全員で共通していたりして」
う~ん。だとしたら、雑に消耗している理由もわからんでもない。
最初は死んでも良いから情報を得ようとしているのか?
それができるというのであれば、うちのモンスターたちみたいに徐々に学習できるということになるが、敵に回ると厄介なことだな……。