【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「岩で潰してみるのはどうだろう」
「どうだろうって……。どうなるつもりなんだよぉ。それで」
まあ待てアナンタ。ちゃんと考えはあるぞ。
俺だって、無意味に落石の罠を作成しているのではない。
虫だから潰せば良いとか、そんな短絡的な発想ではないのだ。
「毒が仲間同士に蔓延した結果、数はどんどん減っていっただろ?」
「ああ。そこまでは良いんだけど、その先がなぁ」
「呼んだか?」
「ガナじゃねえよぉ……」
ガナの天然なところはさておき、毒による結果の話だ。
全滅させることになると思っていたのだが、残念ながら昆虫人は生き残った。
そのときは、毒への耐性が強い者がわずかに残ることになったので、仕方ないかと思っていたが……。
問題はその後だ。
対して間を置かずに、再び大量の昆虫人が各ダンジョンにやってきた。
当然、同じように毒の罠は起動する。
今回も大多数の昆虫人を間引く結果になるかと思ったのだが、なんとほとんど通用しなかったのだ。
「毒への耐性を得たってことだよな」
「だろうなぁ……。末端の兵隊、案外厄介かもしれねえぞ」
うちのモンスターたちにますます似ているな……。
あの子たちは、死んだあとに再作成することで、同じ個体が生まれる。
そのため、前回の死因は経験となり、今後に活かすことができるのは大きな強みだ。
昆虫人たちが同じ個体か判断できないが、毒への対処法を得て復活したのかもしれない。
だとしたら、毒はもはや効果がほとんど無いと思ったほうが良い。
そこで岩だ。岩は良い。質量攻撃というのは強いからな。それに、俺にとっては魔法よりも信頼できる。
「とりあえず、岩で潰しておけば、なんとかなるかと思っている」
「お前、よくそれで宰相やっていられるよなぁ……」
「俺もそこは不思議なんだ」
「少しは抗えよぉ……。まあ、それ以外でプラスってことなんだろうけど、なんで俺がお前をフォローしないといけないんだ」
言い出しっぺなのにな。
そういう人の良さが実にリグマの分体だ。
「いや、でも物理攻撃は通用するだろ? それとも、これも繰り返していたら耐性がつくか?」
「やってみないとわかんねえなぁ」
「ほら見ろ。まずはやってみよう。そこから、色々と情報を得て対策を練るんだ」
「いちいちそれらしい理由なのが、小癪だよなぁ」
宰相だからな。小癪と言うか、小賢しいのなら良いことだろう。
情報収集するのは基本だ。アナンタも文句はなさそうだし、さくっと岩を大量に設置してしまおう。
「君も難儀な性格だな。落石の罠自体は賛同しているが、レイを止めることは忘れないようにしているのか」
「効果的であるならば、私やダスカロスは口出ししていませんからね」
「俺までお前らみたいにしていたら、こいつは他のダンジョンでも同じこと仕出かしそうなんだよぉ……」
……そうだな。
今後もアナンタのお小言は、常に発生すると思っておこう。
◇
転がる岩:消費魔力 5
巨大な岩:消費魔力 10
六つの岩:消費魔力 15
「よし!」
「……」
なんか言いたそうだな。だけど何も言えないんだな、アナンタ。
まあ、今回はあくまでも調査用の岩だから、結果次第では減らしたり増やしたりするよ。
毎回これが襲ってくるダンジョンにするつもりはない。
「スイッチ起動型の罠じゃなくて、手動起動型の罠にするから、昆虫人だけを狙うぞ?」
「ならもう良いよぉ……」
ということで、岩を転がしていく。
昆虫人たちはと言うと……うん。まあこれも想定内だな。
潰されていく者も多いが、避ける者、受け止める者、さらには装甲のような外殻が軽く凹むていどの者まで。
結果はわりとばらついている。
毒の時もそうだったが、昆虫人は同じような行動をしていても、ちゃんと個性があると思ったほうが良い。
実際ステータスもばらつきがある。
だから、敏捷が高い者は回避できるし、筋力が高い者は受け止められる。そして、頑強が高い者は岩が通用しにくいのだろう。
「あの固いやつに、何度か岩を当ててみると……」
潰れたな。
だが、ステータスがまだ見えているので、中で生きてはいるようだ。
硬いから岩による攻撃は効きにくいが、力は普通だから岩の中から抜け出せないってところかな。
「力持ちのやつらの場合……」
潰れたな。
いくら力持ちでも、岩の数さえ多ければ、支えられる岩にも限度があるってことだ。
こっちは、本当に潰れたから岩の中から抜け出すも何も、すでに動かなくなっている。
「動きが速いやつらは……」
潰れたな。
数が多すぎると、回避も間に合わないわけだ。
よし、さすがは岩の罠だ。この物量による攻撃こそが、岩の罠の良いところだ。
消費コストもお安いし、回復薬こそいるものの、こうして数の暴力で成果を発揮することもできる。
数が強みなのは、昆虫人だけでなく、俺のダンジョンも同じというわけだ。
「あ……全滅してる」
「いや、お前が全滅させたんだからなぁ?」
検証に夢中になっていたが、そのとおりだ。
昆虫人たちのやり方は前回でよく理解した。
大多数は死んでも前に進むが、それとは別の役割の者たちは途中で通路に放置される。
点々と配置されたそれらの昆虫人が、敗走しているのを見るに、何が起こったか報告するための人員ってことだろうな。
一網打尽にしたいところだが、入り口から見張られていることを考えると、ある程度の情報を持ち帰られることは切り捨てるほうが良いか。
さて、とにもかくにも岩は通じた。だが、今回はあくまでも初回だ。
つまり、次回からが本番と言える。
これだけ落石で攻撃したのだから、次からは毒の時みたいに耐性を獲得した兵隊がやってくるかもしれない。
その場合、やっぱり末端の兵隊たちは、情報が共有されているってことになりそうだな。
大量生産され、なおかつ前回の脅威に対する耐性を得ている。
そんな昆虫人が大量に生み出されていると仮定すると……どこかにいる女王の力か?
大量の兵隊を作成し、それらで情報を共有し、危機に対する耐性を与え、最後はどんな相手をも打倒する?
「次回は、岩と毒で様子見しよう」
「やってることは正しいから、俺は何も言えねぇ……」
ということで、今回も俺たちの勝ち。
だが、怖いのは負けても負けても挑んでくる昆虫人たちが、ちゃんとした勝算を持っていた場合だ。
油断せずに、こちらも可能な限りの情報を得ながら倒していこう。
◇
「……宰相様って、感情はあるのか?」
「あるぜ。ただ、淡々と物事をこなしていく方なんだよ。ボスは」
ナツラが冷や汗を流している。
すげえなボス。あのオーガですら、ボスのダンジョンへの姿勢には引くらしいぜ。
ナツラの話を聞いて、俺はボスが昆虫人っぽいって言ったが、あながち間違えではない気がしてきているんだ……。
潰されても潰されても、何の感情も無く淡々と進む昆虫人。
そんな昆虫人を観察しながら、やはり淡々と無感情で昆虫人を潰すボス。
いっそボスが昆虫人のボスだったとしても、俺は納得してしまいそうだ。
「全滅していることに、後から気付いていたもんなあ……」
「あくまでも観察が目的という様子だった。なるほど……あの冷静さが宰相たるゆえんか」
「そう、なのかなあ?」
宰相だから冷静なのか、元々そういう性格なのか。
まあ、どちらにせよ、一つだけわかっていることはある。
「ボスが俺たちのボスでいる限り、心強いのはたしかだよなあ」
「ああ、そのとおりだ。あの目で私たちオーガを観察されていたかと思うと、恐ろしくも嬉しくもある」
なんで嬉しいんだよ……。
この族長さんは族長さんで、ちょっとネジぶっ飛んでるよなあ……。
◇
「フィオナ様、終わりました」
「昆虫人たちは、全員撃退したようですね」
「はい、なんか全滅しました」
「ただ、ここから進化する可能性もあると」
進化か……。この短期間に行っているとしたら、どっちかと言うと突然変異って感じだけどな。
どちらにせよ、数だけが武器の兵隊と思えるほど、簡単な相手ではない。
「今は、様子見するしかありませんね」
「強くなりすぎても大変ですし、そのあたりの見極めは必要そうでしょうね」
お、フィオナ様が真面目な魔王様だ。
いつものかわいい姿も好きだけど、こちらはこちらで好きなので……。
「なんですか? その顔?」
「私のこと好きですよね~」
「なっ……! 好きですけど、なんか問題でもあるっていうんですか……?」
そんなふうにいちいち指摘されたら、こっちだって恥ずかしいじゃないか。
「問題はありません。むしろ、他を好きになるほうが問題ですからね!」
要するに今のままで良いということだな。
ならば、こちらの心を乱してこないてほしい。
「まったく……フィオナ様と一緒にいると、楽しいですね」
「前と後ろの言葉のつながりがおかしい気がしますが、楽しいなら良しとしましょう」
そうして、俺たちはいつもどおり、くっつきながら本を読むのだった。