【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「きた!」
「どうしたんですか? レイ」
「フィオナ様! 新しい岩のメニューが出ました!」
「なるほど。岩を作り続けた結果、新たな力を得たのですね。おめでとうございます」
「ありがとうございます!」
思わずフィオナ様に握手をしてしまった。
昆虫人たちの検証で、岩を作り続けたのが良かったんだろうな。
情報はそんなに得られたわけじゃないけれど、こうなったのなら話は別だ。
「どんな罠が追加されたんだ?」
「リグマも同じ属性だから興味があるんだな。追尾岩っていうのが増えていた」
追尾岩:消費魔力 15
「いや、おじさんというよりアナンタがかわいそうだから、聞いておこうかと思って……」
かわいそうってなんだろう。
新たな選択肢が増えたのなら、それは良いことじゃないか。
「名前からすると、転がる岩の派生のようだな」
「ああ、俺もそう思う。さっそく試してみたいし、早く昆虫人にきてもらいたいな」
「君、目的忘れてないか?」
「昆虫人を撃退しつつ、耐久力と耐性の調査をして、罠の検証もするんだろ?」
「増えたな。罠の検証という項目が」
新しいメニューが増えたのだから仕方ない。
ついでに、威力や追尾性能も測るのなら、直近まで似た罠を使った昆虫人が最適だろう。
◇
「女王様。ダンジョンに向かわせた兵隊は全滅しました」
「そう。耐性は?」
「毒で全滅したため、毒に強い兵隊が生産されています」
ということは、毒のダンジョンということかしら。
まあ、二度目は通用しないから問題ないわね。
もしかしたら、耐性を上回る強力な毒が残っているかもしれないけれど、それも次の耐性で克服すれば良い。
兵隊の強みは、恐怖すらない無感情の兵を大量に生み出せること。
それともう一つ、死因が兵隊に共有されることで、次回の生産では耐性を得られること。
おかげで、死を前提とした特攻は、とにかく効率的だと思っている。
「女王様」
「何?」
「各国の調査は理解できるのですが、ダンジョンに挑む理由は何でしょうか?」
「兵隊たちの強化にちょうど良いからよ」
オーガ相手に無策に突っ込ませていたのは、やつらの疲弊を狙っていただけでなく、兵隊たちを強化するためだ。
そんなオーガが突如消えてしまった。土地を得たのは良い。だけど、兵隊の強化は全然足りていない。
そこで目を付けたのが、魔王が徐々に力をつけているのか、最近活発になってきているダンジョン。
調査と並行してここを攻略させることで、兵隊たちの強化を継続させることにした。
攻略できるのなら、多少の価値あるものを手に入れることになる。敗退したのなら、兵隊を徐々に強化できるようになる。
良いこと尽くめで、こちらにはまるで損が無い。
「毒や麻痺等への耐性ならば、得るのは早いでしょうが、それ以外はゆるやかな成長となってしまいます。ダンジョンを攻略できるまでに成長できるのでしょうか」
「気長にやれば良いわ。ゆるやかと言えど、こちらは確実に成長を続ける。いずれは、他の種族にも負けない兵隊が、量産できるようになるはずよ」
オーガ相手に善戦できるほどの兵隊は、残念ながら作れなかった。
だけど、時間をかければ、必ず追いつける。
一度追いついたのなら、あとは追い越すだけ。
私は、昆虫人たちの兵隊を使って、あらゆる外敵に対抗する手段を得るのだ。
……そんなことを考えていたのが、数日前のこと。
兵隊の生産は常に行っているので、随時ダンジョンへ向かわせては経験を積ませている。
狙い通りに毒の耐性を得たことで、もはや毒の罠は通用しなくなっている。
だけど……ちょっと想定外の出来事に見舞われている気がするわね。
「……また全滅?」
「はい。物理的な罠に襲われたようです」
物理的な罠か……。
ちょっと厄介かもしれないわね。
毒なら相性が最高だったけど、その手の罠への耐性はなかなか得られない。
得られるけど微々たるものになるので、オーガたちのときと同じく長期戦が予想される。
「どんな罠?」
「大小さまざまな岩が落ちてきて、潰されたそうです」
「単純な罠ね……。でも、それだけに厄介だわ」
岩に潰されても問題ない外殻を得るか、落下した岩を支える腕力を得るか。
それか、落石を回避するだけの機動力を得るか。
耐性と違って、身体能力の強化は微々たる量での成長となる。
気長にやっていこう。その岩を対処できるようになったときは、戦闘もこなせるようになっているでしょうからね。
◇
「お、今日も来た」
「最近毎日来ますね」
ダンジョンがそれだけ盛況というのもありがたいが、今日は新たな罠の検証もできるので、なおのことありがたい話だ。
岩を対処できる昆虫人たち相手に、うちのダンジョンマスターさんも負けじと成長している。
どちらの成長が上回っているかの勝負だな。
「転がる岩は……」
「まだそれなりの数を減らせてはいますが、対処できる昆虫人たちが増えてきているようです」
「そこは仕方がないと割り切ろう。本命は、こっちのほうだ」
回避され、受け止められ、単純に耐えられ、俺の岩を各々の方法で対応する昆虫人たちもなかなかやる。
だが、それだけでは今回は突破できないぞ。
「なんだあのえげつない曲がり方。回避した方向に、猛スピードで転がっていったぞぉ……」
「やるな。追尾岩」
回避で対応していた昆虫人は、これで対応可能か。
それに追尾の速度が思っていたよりも速かったため、結果的に威力が増しているのも嬉しいところだ。
「受け止められるかは、半々くらいって感じだな」
「はい。加速したことで、受け止めきれずにはねられている者たちも増えております」
追尾岩の思わぬ成果だ。
こっちは、逃げる相手を追い詰めるためだけに設置していたが、力で対処できる者にも有効だったとは。
威力も増しているから、頑丈になった昆虫人にもダメージを与えられているのは嬉しい。
このぶんだと、今日も岩だけで昆虫人を対処できそうだな。
◇
「情報伝達用の者以外は、全滅しました」
「また……? 毒と岩以外の脅威にやられたのかしら?」
「いえ、岩にやられました」
「耐性がうまくついて、岩の罠を対処できる兵隊が生まれていなかったかしら?」
報告が誤っていた?
それとも、まだまだ耐性が足りていない?
「新たな岩の罠は、高速でこちらを追撃するもので、回避も防御もできないものだったようです」
「ここにきて新しい罠……? はぁ……。また、その罠に適応できるまで根競べね」
◇
「良いな。昆虫人良いな。なんか、どんどん成長できている」
「……」
フィオナ様が優しい表情を浮かべながら、無言で頭をなでてくれた。
……ちょっと、はしゃぎすぎたのかもしれない。
ダンジョンに夢中になっていると、とかく子ども扱いされるからなあ……。
「その様子だと、もしかしてまた新しいメニューが追加されたのか?」
「ああ、今度は起爆岩っていうのが」
「もう不安な予感しかしねえよぉ……」
俺は素敵な予感しかしないんだが。
とにかくすぐに設置だ。どうせ今日も昆虫人は来るんだろ?
なら、彼らが来る前にすぐに準備してしまわないと。
そうして急いだ甲斐はあったらしい。
昆虫人たちは、無事に岩の罠エリアまで到達してくれた。
転がる岩は完全に対応できるように変異しているらしく、ここで脱落する者はいない。
追尾岩のほうは……。なるほど、回避特化の昆虫人は後ろに下がったようだな。
代わりに前に出たのは、特に頑丈そうな体をしている昆虫人。
きっと、彼が盾になって岩の罠を受け止めようってことだ。
「……なるほど、地雷みたいだな」
「昆虫人が吹っ飛ばされたな」
「もう岩じゃねえだろ。あれぇ……」
岩だよ。ちゃんと岩だった。
ただ、近づいたら自動で爆発するだけの岩だ。
良いなこれ。追尾岩と組み合わせたら、きっと昆虫人たちにもまだまだ通用するだろう。
俺はそんな予感と共に、今回の検証結果にも満足するのだった。
……その間、フィオナ様がずっと優しい笑顔で頭をなでていてくれたので、きっと恥ずかしながら子供っぽい姿を見せてしまっていたようだ。