【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「……来なくなっちゃったな。どうしたんだろう」
「ほぼ確実に、お前が心を折ったんだろうなぁ」
そんな……。俺たち上手くやれていたじゃないか。
俺の罠を昆虫人が対処して、そのたびに俺がその対策を練る。
そうやって、互いを高め合う関係だったじゃないか……。
「しかし、驚くべきは昆虫人たちの適応力だな。毒だけでなく、岩のような物理的な危機にさえも、適応するとは」
「それに慣れてきたかと思えば、急に海に招いてモンスターで襲撃とか、レイくんってわりと容赦ないよね」
「わりとじゃないぞぉ、リグマ。常に容赦なんて無いんだ、この宰相はぁ……」
俺が誤解されるからやめてくれない?
十魔将以上はともかく、ファギトやドリュたち、それに他の種族の従業員が聞いたら、無駄にかしこまるだろうが。
「海は最後まで適応できなかったな」
「適応前に、ゴブリンと各種罠や、ソウルイーターと麻痺系のモンスターや、一般魔族とモンスターと、あの手この手で全滅させたからな」
思えば色々やったものだ。
ダスカロスが言ったことも全てではなく、ほんの一部であることを考えると、充実したダンジョン生活だったと言えよう。
「伝令を逃して良かったのか?」
「たしかに、巣に情報を持ち帰っていたみたいだな」
「ああ。君なら、伝令ごと全滅もできそうかと思ったのだが」
「情報を持ち帰ることで、巣で対策を講じていたんだろうけど、それって他の冒険者たちも変わらないからな。全滅させることはできるけど、やり過ぎても良くない」
「……ま、まぁ。多少わかってきたみたいだけどよぉ。伝令以外全滅は、やり過ぎの範囲外なのか、疑問なんだよなぁ」
俺とダスカロスの会話を聞いていたアナンタが、複雑そうな心境を顔に出していた。
まあ、ほぼ全滅がやり過ぎではないのかと言われると弱い。
「だけど、昆虫人たちは、その後も変わらずやって来たし、連中にとってはあれも許容範囲ってことだろうと思って」
きっと、数が強みなので、大量に兵隊を産み出せるとかだろう。
それもより強い兵隊を、前回の死因の対策をした兵隊を、だ。
「兵隊を成長させるのも許容範囲内と言うことか?」
「どの範囲まで成長するのか、どの方向性は成長しにくいのか、色々と調べたくなって」
「ふむ……。たしかに、それを知ることも必要か」
「特に、一般魔族との戦闘でやられても、それらに対応した兵隊は全然来なかったからな」
ドリュたちが強いからという線もあるが、戦闘に関する成長は苦手な可能性が高そうだ。
ドリュたちだけでなく、モンスター相手にやられたときも、それに関連した成長は微々たるものだった。
思えばナツラたち相手にずっと戦っていても、優劣は覆せなかったみたいだからな。
「昆虫人全体かはわからないが、少なくとも兵隊は戦闘で倒すのが一番良い」
「同感だ。もっとも、それがわかったころには、昆虫人たちがやって来なくなったわけだが」
「なんでだろうな……」
「たぶん、お前のせいなんだよなぁ」
これで打ち止めか……。
残念だ。まだまだ楽しい仕掛けは用意していたというのに、まだ火球系の派生罠とか全然試していないのに。
結局、目的は何だったのかもわからずじまいだな。
「次来たときのために、罠の種類は色々と変えておこう」
「いっそ突破されても良いと思っていたが、レイの成長につながっているのも事実だ。判断が難しいところだな」
「私たちも参戦しましょうか?」
「オーガを探している可能性が完全に消せたらそれでも良いけれど、今はうちとオーガのつながりを悟られないようにしたいかな」
「そうですか。失礼しました」
ナツラが気持ち残念そうにしている。
なんか俺だけで楽しんですまないが、やはりオーガと魔族が手を組んだことは知らせたくないんだ。
「ピルカヤ、各国の昆虫人の動向に変化は?」
「数が減ってるね。たぶん、レイのダンジョンに人数を割いているんじゃないかな?」
となると、優先度はうちのダンジョンが上だったわけだ。
それがピタッと来なくなってしまっている。
ならば、再び各国の昆虫人の人数を増やすのが普通だろう。
「うちから撤退しても、各国の人数に変化は無い?」
「う~ん。あんまり変わってないね。レイが皆殺しにしたせいで、生産が追いつかなくなったんじゃないの?」
「有限だったのか……」
やりすぎたのか?
だけど、順調に成長できたのも事実。
ステータス自体は、そこまで変化していないが、メニューは一気に増えたからな。
ダスカロスが言うように、俺の成長にはもってこいだったわけだし、間違いとも言えないはずだ。
「いや、昆虫人たちなら、きっと今もダンジョンを攻略しようと、何か考えているはずだ」
「兵隊は、感情と考えが無いのが強みって結論になったはずだろうがぁ……。お前の希望を込めすぎるなよぉ」
「希望ではあるけど、実際のところ他に人員を割いていないから、まだ警戒はしておいて良いと思う」
「いちいち、正論を挟むからやりにくいんだよなぁ」
正論なら良いじゃないか。
さて、昆虫人たちはなぜうちに来なくなったか。
うちを諦めた、あるいは他に優先すべきことができた?
だが、それは各国の調査ではない。
動いている数は、各国の調査をしているわずかな兵隊たちのみ。
うちに挑んでいた大多数の兵隊の姿が消えている。
なら、水面下で何かを企んでいる可能性を外してはならない。
うちを攻略するために、何か準備をしている?
あるいは、生産が追いつかないというよりは、時間がかかっている?
「たとえば、戦闘用の強化兵士みたいなのを準備しているから、時間がかかっているというのはどうだろう」
「可能性はあるが、今の段階では何とも言えないな。全てが推測になってしまう」
「それもそうか」
俺の頭では、残念ながら連中の動きを見透かすことなどできない。
なら、一番最悪に備えて、いつでも迎え撃てるようにするしかないだろう。
「一人一人が、十魔将クラスの兵隊を想定して、迎え撃てるダンジョンを準備しておくか」
「備え過ぎな気がしますが、今回に限っては上に見積もることは悪くありませんね」
「ただ、いつでも難易度を切り替えられるのが望ましい。常に殺しにかかるにしても、難易度が高すぎると本当に来なくなってしまう。……それもありといえばありだがな」
「よし、ちょっと起動方法とかで工夫しておこう。いつでも手軽に高難易度。それが次の目標だな」
◇
「レイ様は、いつもあんな感じなのか?」
「大体そんな感じだねぇ……。アナンタ様が、いつも止めているよ」
ボスは、次のダンジョンについて考え始めてしまった。
それを聞いていた俺たちは、なんとなく解散する雰囲気になっている。
そもそも、今回は呼び出されたわけでもなく、興味本位で聞いていただけだからな。
聞くのも自由なら、解散も自由だ。
だが、聞いていてふと気になったことがある。
「ボス、兵隊一人一人が十魔将を想定って言ったよな」
「言っていたな。そこは俺も気になった」
ドリュやアスピダ、いわゆる一般魔族がそこに同意する。
そうだよなあ。一般魔族、つまり兵隊だ。
そんな魔王軍の兵隊である彼らは、今回何度も攻め入ってくる昆虫人の兵隊にある意味で一番近い。
「ボスの前提って、うちで言ったらドリュやファギトたち全員が、マギレマの姐御やディキティスの旦那クラスの力まで成長しているってことだよな」
「悪夢かしら……」
「昆虫人、たしかに侮れないけどそこまでの成長はさすがに……」
だよなあ……。
「しかも、それで焦ってもいないということは、宰相様は十魔将様までなら、ダンジョンで返り討ちにできるということか?」
「いや、さすがにリピアネムの姐御やピルカヤの旦那を使えばという話だろ」
……そうだよな?
さすがのボスも、単独で十魔将と渡り合えるダンジョンとか作れないよな?
最近、ワンランク上のモンスターたちを作れるようになったけど、さすがに……な。