【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「無理」
「遊ばれていた、ということなのでしょうか……」
たぶんそう。
こちらの兵隊に合わせて、ダンジョンは次々と作り替えられていった。
私たちの兵隊では、初めから勝ち目なんてなかった。
だと言うのに、希望だけは見せておいて次々と刈り取られていった。
なんて悪辣。これが……魔王軍。
「ま、まあ良いわ。兵隊の成長という目的だけは達成できている」
「では、次もあのダンジョンに挑ませますか?」
「生産は完了したの?」
「はい。命令があるまで待機中です」
相変わらず、兵隊が生み出されるのは早くて助かる。
成長は色々と制約があるけれど、この速度による生産量は大きな武器ね。
「ダンジョンの情報は、どれだけ集まったのかしら?」
「同じ場所で何度も全滅しましたからね……。探索のほうは順調とは言い難いです」
「となると、オーガたちがいるか、確認もできていない。と」
「申し訳ございません」
「その様子だと、各国の調査も同じ状況みたいね」
「はい。おっしゃるとおりです」
オーガには、完全に逃げ切られたということかしら。
そもそも、オーガってそんなふうに、昆虫人から逃げるような存在だったのかしら?
まずいわね……。
私たちには、いずれ戦力が必要になる。
成長した兵隊。それ以上の知能ある昆虫人。この前捕まえたやつら。
それなりに充実してきたけれど、まだ足りない。
だから、オーガたちを味方に引き入れて戦力を増強したい。
それができれば、魔王軍と戦って魔王軍すら取り込める可能性もある。
あらゆる種族を取り込んで、勢力を拡大して、いずれは私たちがこの世界を支配する。
そうでなければ、待っているのは迫害だ。
「オーガの代わりになれそうな種族は……」
「獣人でしょうか?」
「駄目。イドがいるから、手出ししたくないわ」
「ということは竜人も……」
「ヘーロスがいるから、余計に手出ししたくないわね」
勇者にちょっかいを出すのはまだ早い。
それこそ、オーガや魔王軍を傘下に置いて、ようやく渡り合える可能性があるような相手だ。
魔王なら、勇者にも勝てるんでしょうけど、今はどこまでの力を取り戻しているかもわからないし、やっぱり危険ね。
そもそも、魔王が力を取り戻していたら、魔王軍を傘下にという話も見直さないといけない気がする。
力を取り戻していても、そうでもなくても、どの道頭を悩ませることになるのだから、厄介なものね。
「一度、情報収集を優先するように切り替えましょう」
「何の情報を集めるのですか?」
「全て。有力そうな情報は全て集めるの」
「その判断は、兵隊たちには難しそうですが……」
ああ、そうだったわね。
そういうところは、兵隊たちの融通が利かない部分というか、不便な部分といえる。
それが便利なときもあるけれど、今回は自分で判断できないことが足かせとなってしまっている。
「勇者。魔王軍。転生者。オーガ。あるいはそれ以外の強者たち、それ以外の優秀な者たちの情報。それらを徹底的に集めなさい」
「承知いたしました。兵隊たちにはすぐに指示を出します」
本当ならそれ以外も、これはと思える情報は勝手に集めてほしい。
だけど、そこまでは望めないし、かといって今この場では指示を出せない。
集めた情報を吟味して、そこから追って指示を追加していくしかなさそうね。
◇
「……ほんと、指示しなければ自発的には動いてくれないのよねえ」
「それが兵隊ですので」
何日か経過して、情報が次々と入ってきた。
各国の配置していた兵隊たちは、初日に見聞きした情報を今になって報告してくるのだから、本当に指示以外は何もしてくれない。
たしかに、オーガを探すという指示で派遣していたけれど、それにしたって各国の情報くらいは報告してくれても良いじゃない。
アルマセグシアには、魔導映写館やレストラン。服屋に病気を治す温泉と、なかなか面白い店が増えている。
それに、今はもう廃墟のようになっているけれど、ダンジョンらしきものの名残まであったらしい。
これは……おそらく、転生者のしわざね。
エーニルキアは知っていたけれど、テイランやサンセライオにも転生者がいる。
それも、それぞれ国の有力者に保護されているらしい。
テンユウやリズワンもいることだし、あれらの国も要注意といえるでしょう。
そもそも、わりとどの国にも転生者がいるわね……。
ヤニシアどころか、ルダルにまでいるというのだから、もはや転生者はどの種族に混ざっていてもおかしくはない。
特に、ルダルにいるってどうなの?
ただでさえ強い竜族が、勇者だけでなく転生者まで抱えているとか、勢力としては非常に強力なものになってしまっている。
「……転生者。まずはそこからね」
エーニルキアが治める町や村に住む者たち。
欲望のダンジョンで稼ぐ者たち。
アルマセグシアで店を経営する者たち。
後ろ盾がないのは、ダンジョン……?
またダンジョンかあ……。
いえ、今回は探索とかじゃないから。まずは、欲望のダンジョンの調査をするだけだから。
それなら、兵隊たちを減らすことにはならないし、幸い入り口に店舗を構えているようなので、調査もしやすいはずよ。
「欲望のダンジョンを調査させなさい。そのロペスという転生者だけでなく、関係者を洗い出しておきたいわ」
思うに、そのロペスというハーフリングは表立って行動する役割だ。
さすがに、一人でそんなに様々な力を持っているとは思えない。
カジノに宿に商店に温泉に海? たった一人でそんな物を用意できるのなら、大アタリの能力すぎるわ。
それとも、創造みたいな能力で、万物を生み出せるのかしら……。
いえ、少なくとも海は違うはずね。だって、奥居とかいう転生者が管理しているらしいじゃない。
つまり、海は奥居の能力の可能性が高い。
となると、他の店もそれぞれの能力者が作成しているはず。
やっぱり、欲望のダンジョンには、複数の転生者がいると思ったほうが良さそうね。
切り崩すなら、戦力に加えるのなら、まずはそこからかしら。
◇
「いらっしゃい。で良いんだよな? 客だよな? あんたら」
「オ前ノコトヲ、知リタイ」
見覚えのある女に声をかけられる。
見覚えがあると言っても、この女自体を知っているわけではないし、そもそも俺が知っているのは別の個体のはずだ。
最近まで、ボスのダンジョンで散々な目にあってきた者の一人。
昆虫人の兵隊と呼ばれている者が、今俺の目の前に立っていた。
「ナンパかい?」
「ドウイウ意味ダ?」
「あ~……そういう感じかあ」
こりゃ、ボスが考えていたとおりだな。
遊びがない。命令だけを淡々とこなすだけの存在だ。
じゃあ、俺を知りたいっていうのは、上からの命令ってことになるな。
ここの利権を得ようと動いている? 昆虫人が?
……なぁんか、そんな気はしないんだよなあ。俺の勘がそう言っている。
どちらかと言うと、王様みたいに俺たちの能力を買ってくれていて、自分たちの勢力に取り込もうとしているほうが納得できる。
「俺のことねえ。そもそも、あんたがどこまで知っているのかも知らないんだが」
「ろぺす・とたねす。はーふりんぐノ転生者。欲望ノだんじょんノ管理者。同ジク転生者ノオクイエリコト協力関係。オソラク、他ノ転生者トモ協力関係ニアル」
……わりと知られてるなあ。
他の転生者というのが、どこまで推測されてのことなのか、それが問題だ。
タケミたちのことか? それとも、まさかボスの力にまでたどり着いている?
実際のところボスは転生者じゃないが、あの力も相当やべえからな……。
「他の転生者ねえ……。まあ、たしかに温泉とかは、俺一人じゃできなかったことではあるが」
「ソレダ。ソノ他ノ転生者ニツイテ知リタイ。オ前タチハ、ドコマデ強大ナ集団ナノカ、ソレヲ知リタイ」
「俺たちは大した集団じゃないさ。この世界に転生させられて、それでもなんとか生き延びようとしているだけの矮小な存在さ」
「ソウカ。デハ、オクイニモ話ヲ聞イテコヨウ」
行ってしまった……。
駆け引きとか、なんにもねえんだな。
こちらの情報をとりあえず仕入れて、上に報告しようとしている?
だとしたら、それらの材料から判断するのは上の仕事か。
一応、オクイのやつにも伝えておくか。
あいつなら、そつなく対応できそうだから、余計なお世話かもしれないけどな。
「……」
「どうした? 女王様」
「君、ああいうのが好みなのかい?」
「好み?」
いや、俺としてはもっと会話し甲斐のある相手の方が楽しいが。
……え、女の好みの話じゃないよな?
「ナンパとか言ってなかったかい?」
「いや、あれは単なる軽口というか……」
「ああいうのが好みなのかい?」
「んなわけねえだろ……。なんで、そんな圧をかけてくるんだよ」