【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「今度は、ダンジョン内の施設の方を嗅ぎ回っている。と」
「ただ、それにしては、何の駆け引きもなくてつまんなかったぜ」
ロペスは、口をとがらせて不満そうに言った。
駆け引きもないというのなら、楽そうでいいじゃないか。
「簡単に向こうの情報を引き出せたってことか?」
「というか、勝手に全部喋った。女王の命令で、有力な転生者や戦力を探しているんだとさ」
「転生者か……。戦力ってことは、オーガも引き続き探しているんだろうな」
「そっちも馬鹿正直に聞いてきたぜ? まあ、簡単にごまかせたんだけどな」
ロペスは、やはり不満そうに言うのだった。
やれやれと大げさなリアクションをするあたり、本気で拍子抜けだったんだろうな。
「楽に聞き出せたのなら、良いことじゃないか?」
「ボスだって、侵入者は手強いほうが好みだろ? 入り口で全滅されたら、拍子抜けじゃないかい?」
「なるほど、わかりやすい」
ある程度の達成感のためには、敵も歯ごたえがないと駄目だからな。
そうしなければ腕も鈍るし、成長も見込めない。
「まあ、あの病の転生者みたいなのよりは、マシじゃないか?」
「ありゃあ、想定する限りで最悪だからな……。さすがに、あれとの比較は昆虫人が不憫だぜ?」
手強いという意味では、話を聞かずに自分のペースを貫くのは、相当に手強いだろう。
だが、あれは真正面から相手にしてはいけない類の人間だったもんな。
「オクイのほうにも聞きに行っていたが、簡単に引き下がるあたり、本当に命令で動いているって印象だったぜ」
「となると、兵隊はあくまでも材料を集めているだけで、それらを吟味するのはもっと上の者たちってことだろうな」
「ああ、女王とやらがその役割なのかもな」
女王といえば……。
うちの女王様たちの話だ。まずは、ダークエルフのほうから、尋ねてみるか。
「こっちの女王様は、なんでロペスを睨んでいるんだ?」
「っ! 失礼いたしました。魔王様と宰相様の御前で」
「いや、俺たちは睨まれてないから良いんだけど、ロペスと喧嘩でもしたの?」
「ボス……。俺にもよくわからねえんだ」
クララもロペスもいつもどおりの態度だが、なんか一方的にクララがロペスをねめつけているように見える。
これは、何か失言でもしたか? 種族特有の文化の違いとかで。
「いや、女王とやらにずいぶん期待しているし、ご執心と思ってね。私も一応は女王だし、それなりに知恵はあると思うんだが?」
「……いや、俺は別に昆虫人が好みとか、そういうんじゃねえんだけど」
「どうだかねえ。なんせ、開口一番にナンパなんて言うほどだからねえ」
なるほど。
つまりクララは、ロペスの軽率な態度が気に食わないわけだ。
だけど、それはロペスの個性だし、俺は嫌いではないんだけどなあ。
女性からしたら、軽薄な男に見えるのだろうか?
「とりあえず、二人が仲違いするのはまずいな……」
「いや、俺たちは別に……」
「部屋作成」
「ボス!?」
とりあえず、部屋を作った。
思うに、クララもロペスも、本心から互いをうとましく思っているわけではない。
ちょっとしたすれ違いということだろう。
ならば、腹を割って話せば解決すると見た。
「とりあえず、仲直りするまで二人でそこで話し合いしておいてくれ」
「ボス? 本気……みたいだな」
「かしこまりました。ほら、行くよ。この唐変木!」
クララは乗り気みたいだし、きっとうまいこと話し合ってくれるだろう。
ああ、あとこれも忘れていた。
「壁作成」
「ボス!? 扉が開かなくなったんだけど!?」
「仲直りしたら、ピルカヤに知らせてくれ。それまでは出られないようにしておくから」
「ま、まじかぁ……」
悪いな。お前らが争ったままだと、今後のダンジョンの運営に支障をきたしそうなんだ。
食事やトイレ等で困ることになる前に、なんとか仲直りしてほしいものだ。
さすがに、それが必要になったら壁を撤去するしかないが……。
◇
「さて、二人は放っておくとして、これで一通り今日の仕事は終わりか」
女王のうち片方が片付いたので、もう一人の女王もとい魔王の相手をしなければ。
仕事中は邪魔をしないように、そわそわとひっついていたからな。
「終わりましたね。では、魔王にかまう時間です」
犬かな? 犬っぽいな。
たまにフィオナ様に、犬が好きかと聞かれる気がするけれど、それってむしろフィオナ様が好きだから、犬も好きになっている可能性があるのでは?
「フィオナ様って、昆虫人の狙いがわかりますか?」
「兵隊の強化と、この世界で生きていくための戦力増強ですね」
すんなりと答えが出た。
さすがは魔王だ。長年この世界で人類と渡り合っているだけのことがある。
「こちらを嗅ぎ回っていて、きな臭い気がしましたが、わりと想定内の狙いなんですかね?」
「う~ん。もしかしたら、転生者を欲しがっている可能性はありますね」
……まあ、ロペスたちは優秀だし、リズワンのように引き抜こうとしている可能性はあるか。
それにしても……。
「臭いですか?」
「いえ、レイの匂いですね。私は好きです」
俺の頭に顔を埋めて匂いを嗅がれると、体臭を気にしてしまう。
「なんでまた、急に匂いを嗅いでいるんですか……」
「嗅ぎ回るとか、きな臭いとか、匂いに関する発言が聞こえたので、せっかくですし吸ってみました」
何がせっかくなのかはわからないが、悪臭でないのなら良いと思うべきか。
それにしても、俺の匂いなんて良いものではないだろう。
いくら嗅いでも、それは変わらないと思うのですが……。
「その行為は、どうかと思いますけどねえ」
「嫌でしたか? では、やめますが」
「嫌ではありませんが、そんなに良いものでもないでしょう。俺の匂いを吸ったところで、何になるんですか?」
「ふむ……。説明が難しいので、レイも吸ってみればいいんじゃないですか?」
俺もって……頭は無理だから、腕の匂いでも嗅いでみるか?
一応、毎日温泉に入っているから、臭くはないが、特段良い匂いでもない。
「さあ、どうぞ」
何が!?
フィオナ様は、気づけば俺の頭から顔を離していた。
少し屈んで、頭を俺の顔の近くに持ってきている。
いつもなら、なでろってことなんだろうけど……話の流れからすると、違うよな。
「吸って良いですよ?」
「え~……」
「嫌なんですか?」
「吸います」
嫌じゃない。俺にも恥じらいというものがあるだけだ。
だけど、ちょっとした圧力を感じたため、意固地になることすら許されなかった。
「絵面が変態的で困りますけど……失礼します」
「どんと来なさい」
……まあ、良い匂いだよな。
知っている。大体、いつも一緒に寝ているときは、この匂いすら誘惑の要因の一つなのだから、誰よりも知っていると言えよう。
だけど、こうして集中して嗅ぐこと自体は初めてかもしれない。
……ここで慣れておけば、寝るときの誘惑が一つ減るのでは?
「レイ? あの、レイ? なんか思ってたより、これ恥ずかしいですね。レイ? レイ~?」
何だいまさら。俺だってわりと恥ずかしいんですが?
始めた以上、もうどうにでもなればいいと吹っ切れた。
ならば、せめてこの匂いに慣れておくとしようじゃないか。
「……なんか、さっきと匂いが変わってきた気がします」
「へ、変態! 汗ですけど!? レイが、夢中になるから魔王が汗をかいてるだけですけど!?」
「……なんかすみません」
「いえ! 私が許可したことですし、私も言い過ぎました!」
顔真っ赤ですね。さすがのフィオナ様も恥ずかしかったのか、火照った顔はわずかに汗をかいていた。
これは、危険だな。さすがに今後はやめておこう。