【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「今日は抱きついてきますね」
「そう言うレイも、すんなりと受け入れているじゃないですか」
「それはまあ……」
「ふっ……勝ちました」
事実言い返せない俺の負けか……。
ドヤ顔がアホっぽくてかわいいじゃないか。
まあ、昨日はほとんど一緒に過ごせなかったし、今日はその分べたべたされても良いだろう。
「ところで、今日もお仕事はいつも通りですか?」
「そうですねえ。昆虫人たちは相変わらず動きを見せませんし、いつもの侵入者たちの相手といつものお客さんの相手ですね」
「ふむ。停滞したと考えるべきか、安定したと考えるべきか、微妙なところでしょうか」
「ですねえ」
問題が解決したうえでいつもどおりなら、安定した日常と喜べるんですけどね。
相手が水面下で何をしているかわからない以上は、手放しで喜べない。
「とはいえ、できることが無いのも事実です」
「と言うわりには、案外色々とやっているようですが?」
「いえ、これはいつものダンジョン作りの一環ですので」
「アナンタが苦労しそうですねえ」
罠とモンスターの補充、ダンジョンの拡張や改築。
それに加えて、最近は超位モンスターガシャを少々回しているだけだ。
今までは、モンスターガシャよりも、新たな罠やダンジョン施設に重きを置いていたが、最近ではモンスターを優先している。
単純に戦力を増強できるというのもあるが、解禁されてまだまだ試行回数が少ないからな。
どんなモンスターを作成できるのか、気になっているのだ。
「ちなみに、どの子が一番強いですか?」
「う~ん……。なかなか難しい質問ですね。ステータスだけでは、わからない部分も多いですし」
「ソウルイーターとかもがんばっていますし、いっそのこと最強をわかりやすくしてもいいのかもしれませんね」
「なるほど……モンスターだけでなく、魔王軍も交えて考えてみますか」
わりと戦闘好きなやつが多いし、ここらで一つ実力を測定するのも良いのかもしれないな。
◇
「ということで、魔王軍内なら人種問わずに誰でも参加できるようにしようと思う」
「さっすがレイ様! 僕、リピアネム様に殺されたいです!」
「殺すのは無しで」
「うむ。完膚なきまでに叩きのめしてやろう」
と言っても、さすがに四天王や十魔将はある程度自重してもらうつもりだ。
今回はそれらの実力者よりも、モンスターや一般魔族、従業員あたりの実力を測るのが目的だからな。
「希望者はこっちに来てくれ。賞品もあるぞ~」
「ゆる~く言ってるけど、わりと勇気がいる選択なんだよなあ」
「オーガたちは全員並んでるぞ?」
「あいつらは、もうなんか馬鹿だもん」
馬鹿ではなく、戦いがとにかく好きなだけだと思うぞ。
要するにイピレティスから、変態成分をだいぶ減らしたようなものだ。
「獣人の従業員とかわりと多いし、やってみるか? 怪我してもすぐ治るぞ」
「そういうことなら……ちょっと、自分の実力がどこまで通用するのかも気になりますし」
「悪魔の勧誘だな。おい」
リグマがさっきから失礼だ。
まるでアナンタのようだ。と思ったが、そういえば、そもそもアナンタの本体だもんな。
当のアナンタは、両手で目を塞いでいる。
ダンジョンに関することではないから、今回は特に口出ししてこないというわけか。
「ということで、まずはソウルイーターと風間の戦いだな」
「タケミ……。お前、なんで参加しちゃうんだよ」
「武巳くん、努力家だからね」
「戦闘経験を積む良い機会だって、言っていたわ」
風間もだいぶ強くなっているからなあ。
これは、ソウルイーターも油断していたら危ういかもしれない……。
こともなかったな。
「武巳く~ん!」
「言わんこっちゃない……。新、治してあげて」
まだ早かったか。
だけど、ソウルイーターの突進を多少受け止めただけでも、風間の成長はたしかなものだと思う。
あとで、なんか賞品を渡してやらないとな。
「次はドリュとセルケトな」
「あの……宰相様。超位モンスター相手は、荷が重いのですが……」
「大丈夫、ステータスだけ見れば互角だから。それに、百足とサソリだし」
「後半はまったく意味がわからないんですけど!?」
なんかわからないか? カテゴリ的には、同じように分類されると思うんだけど。
「というわけで、二人ともがんばってくれ~」
ツッコミ気質のドリュではあるが、試合が始まるとさすがに表情も真剣になる。
俺としては、まだまだ経験不足なセルケトの分が悪いと思っている。
なので、ここはドリュとの戦闘で何かを学び取ってもらいたいところだ。
巨大な体で敵を威圧し、ハサミや尾で豪快に攻撃をするが、ドリュはそれをいなしている。
敏捷はわずかに1だけといえ、セルケトが上回っているはずなんだけどなあ。
技術に差がありすぎると、こうなってしまうのか。
「か、勝ちました……」
「ああ、おめでとう。それじゃあ、賞品は奮発しないとな」
「恐縮です……」
「セルケトもがんばったな。ちょっとごり押し気味になっていたから、ドリュみたいに上手く立ち回れるよう心がけてみようか」
心なしか、セルケトは大きな体を縮めて落ち込んでいる。
ドリュもそれを見て、慰めるようにしているし、両者に絆が芽生えたのかもしれない。
「こんなふうに実戦経験を積んで強くなれるから、獣人や他の従業員も次回は参加してくれても良いぞ」
「隙あらば巻き込もうとするんだもんなあ」
「人材の育成は、いつだって必要だから」
「レイくんが宰相としてがんばってくれて何よりだよ」
さて、続いてはナツラとケルベロスか。
これは、だいぶケルベロスが不利だなあ。
ステータスが単純に大きく開いてしまっている。
ナツラは十魔将クラス。対する超位モンスターはそれより一歩劣る。
ディキティスの直属の部下である、エリート一般魔族くらいだ。
「……瞬殺だった」
「死んではいないけれど、わりと完封気味だったな」
ケルベロスは、先ほどのセルケト以上に落ち込んでしまっている。
とりあえず三つの頭をなでておいてあげよう。
……なんか、マギレマさんの犬たちが騒がしくなってきた。
駄目だぞ。今回はマギレマさんの意向で、お前たちはこの催しものには参加していない。
飛び入りの乱入なんて、マギレマさんに迷惑をかけるからやめておきなさい。
「私は、犬系の種族相手の対策は特に練っているからな。相性が良かった」
「へえ。虫系ならともかく、犬系なんだ」
「ええ。不甲斐ない戦いを見せたくない相手がいまして」
マギレマさんかな? いずれ、彼女が今回みたいなイベントに参加したときは、優先的に戦わせてあげるべきなのかもしれない。
「対策して努力すれば、ナツラみたいに強くなれる。というわけで、今回参加しなかったドワーフたちも、気兼ねなく参加していいぞ」
「レイくんは、地底魔界バトルロイヤルでも開催したいの?」
「それだと、リピアネムが全てをなぎ倒すから駄目だ」
次は、クラーケンとウルラガか……。
う~ん。ますますもって実力差が開いている。
ウルラガだけでなく、カーマルやアナンタにガナも、リグマの分体だもんなあ。
ステータスだけを見ると、十魔将より上なのが恐ろしいところだ。
それ以外の分体はそうでもないことを考えると、別人格と呼べる彼らだけが特別な成長をしているのだろう。
「まあ、不利な場とはいえ、そう簡単に負けてはやれねえな」
「クラーケンどうだった?」
「良いね。戦いがいがあって、ここ最近では一番満足できたぜ」
「だってさ。良かったなクラーケン」
だが、クラーケンは円状の口に並んだ鋭い牙で、ウルラガを威嚇していた。
まだまだ闘志は燃えているみたいだな。
ウルラガも、そんな姿を見て不快に思うどころか笑っている。
「クラーケンみたいに戦う気があれば、きっともっと強くなれるぞ。だから、人間の従業員たちも気が向いたら参加してくれ」
「合間合間に宣伝を忘れないんだよなあ」
さて、さっきからずっと尻尾を振って、やる気を満ちている彼女の出番だ。
「リピアネム」
「うむ!」
「ハイドラを鍛えてやってくれ」
「心得た」
リピアネムから、お馬鹿な犬みたいな気配が消滅する。
戦闘に臨む以上は、訓練だろうとイベントだろうと真剣に行うのが、彼女なりの矜持なのかもしれないな。
ふだんからこれなら、頼れるお姉さんって感じなのだが……まあ、アホなリピアネムも俺は嫌いではない。
「再生能力はさすがのものだが、限度がある点はアナンタに劣るか」
「ハイドラの首って、有限だったんだな」
終わってみれば、どの試合よりも早かった。
再生能力とその巨体による生命力で、時間だけならかなりかかると思ったのだが、それ以上にリピアネムが速すぎた。
ハイドラは、一本だけ残った首をうなだらせて、それでもリピアネムから何かを学ぼうとしているようだった。
◇
「まあ、リピアネムが最強なのは想定内か」
「どうだ! 私は強かったろう?」
「うん、よくがんばった。リピアネムだけでなく全員だけどな」
なかなか悪くないイベントだったかもしれない。
各自の戦闘訓練になる。俺自身もみんなの強さを見ることができる。戦い好きな者たちは、単純に楽しんでいる。
今後は、定期的にお祭り騒ぎのイベントとするのも悪くないかもしれない。
「あとは、この結果を踏まえて今後のダンジョン作りに活かしてみるか」
「活かせよ? 難易度上げるだけは駄目だからなぁ?」
「……」
「返事ぃ!」
「しょうがないなあ……」
せっかくみんなの強みがわかったのに、ポテンシャルをフルで発揮させられないとは、なんとも歯がゆいものだ。