【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「強くなるためには、日々の訓練が必要だと思う」
「それはわかります」
「元々、みんなのレベルアップをするために、オーガや昆虫人たち相手のダンジョンを作っていた」
「それもわかります」
「だけど、オーガは身内になって、昆虫人は消息不明。となると、あとはもうみんながダンジョンに潜るしかないと思うんだ」
「それがわかりません!」
なぜだ……。とてもわかりやすいじゃないか。
だが、無理強いするのは良くないな。
一応説明したうえで、もう一度参加者を募ってみよう。
「魔王軍での戦闘イベントによって、魔族もモンスターもそれ以外の種族も、何らかの成長はできたと思っている。だから、ダンジョン探索をすることで、さらなる成長をしてもらいたいんだ」
「う~ん……。言いたいことはわかるのですが、俺たち死んじゃいません?」
「死なないように加減するから大丈夫」
「なら良い……のでしょうか?」
よし、ドリュは徐々にやる気になってくれている。
アスピダやファギトも、やってみるかと言っているし、案外みんなが参加してくれそうだな。
「ただ、普通に侵入するだけでなく、みんなで競い合えるようにも考えている」
「互いに妨害し合うということですか?」
「いや、踏破までのスピードを競ってもらおうかなと思って」
要するにタイムアタックだ。
クリアできる者も多いだろうし、その中で一番早かった者に何か賞品でも出そう。
そうすれば、みんなやる気が出るんじゃないか?
ただ、ダンジョンのテストも兼ねるとすると、単独だけでなく複数人での挑戦結果も見てみたい。
そこは、各自で判断してもらうか。
腕に自信がある者は一人で、集団戦を得意とする者は複数人で挑んでもらおう。
「ダンジョンタイムアタックを開催しようと思う」
「地獄みたいなイベント開いてんじゃねえよぉ!」
「あ、アナンタ」
「全然、悪びれなくなってるなぁ! お前はぁ!」
う~ん……。戦闘イベントでは口出ししなかったのに、やはりダンジョンとなると身内だけでも口出ししてしまうのか。
まったく、アナンタのダンジョン好きにも困ったものだな。
「おい、なんか絶対変なこと考えてんだろぉ。お前ぇ」
「大丈夫。身内ってこともあるし、今回はゆるくやっていくから」
「全然信用できねえんだよなぁ……」
宰相だぞ。信じてもらえなかったら、魔王軍が成り立たない。
まあ、隣で見てくれたらいいさ。
俺だって、ちゃんと死なないように手加減できるんだ。
「さて、そういうわけで参加者を集めて、ダンジョンタイムアタックを始めよう」
「ちなみに、どのダンジョンを使用されるのでしょうか?」
「専用の新しいダンジョンを作ったよ。今稼働しているダンジョンを、下手にいじるわけにはいかないからな」
「お前、俺に隠れてそんなことまで……」
いや、これの監修はいらないだろ?
侵入者を生かさず殺さずというバランス調整は不要だ。
ある程度、訓練になる程度の塩梅というのなら、俺一人でも大丈夫だって。
おい、なんでピルカヤに頼んで内見しようとしているんだよ。
「信用無いなあ……」
「これが俺の仕事だ」
仕事熱心め。俺の作品に恐れおののくがいい。
「……う~ん。一見すると、たしかに自重はしてるみたいだなぁ」
「ほら見ろ! 俺だってできるんだ」
「なら、いつもやれよぉ」
それはほら、倒す必要もある敵だからさ。
そうなってくると、バランス調整も一気に難しくなるんだよ。
大体、身内ならある程度の実力を理解できているからこそ、調整も簡単なんだ。
「じゃあ、ダンジョンに向かわせるとするかぁ」
アナンタまでそう言ったことで、一部の一般魔族のみんなが覚悟を決めたような顔をしていた。
大丈夫、みんな強くなれるから。後々これが役立つ日が来ると思うから。
◇
「宰相様。思いついたことを実践する傾向にあるんだよな……」
「いや、さすがの宰相様も、一朝一夕でダンジョンを作れまい。ということであれば、前々から準備していたということだろう」
「たしかに……いや、そのほうが恐ろしいぞ」
「そうか? 私は、こうも理想的な上司ができるとは思っていなかったが」
お前らオーガは、宰相様と相性良いからなあ。
それにしても、族長であるはずのナツラが、魔族側の集団の一員となっているのもおかしな話だ。
こいつの部下、みんなディキティス様のもとで行動しているから、だいぶ身軽になったと笑っているし、やっぱりオーガってよくわからない。
「さて、雪辱戦のようだな。であれば、私は手出ししないようにしよう」
「え?」
そう言ってナツラは後ろに下がってしまった。
雪辱戦? 何が見えているんだ?
そう思ったのもつかの間、ダンジョンの奥からは巨大なモンスターが近づく音が俺にも聞こえた。
「先日はお前の勝ちだったな、ドリュ。だが、相手もそれだけで終わるわけではないようだ」
わかっている。
その言葉を聞かずとも、すでに俺の目の前には巨大なサソリのモンスターが見えているのだから……。
「セルケトがいるんですが!?」
『ああ、やる気だな。セルケトのやつ』
思わず宰相様に叫ぶと、感心した雰囲気の声が返ってきた。
あれ、この様子だと、宰相様も知らなかったのか?
「え……。もしかして、勝手にダンジョンにやってきたんですか?」
『いや、俺が配置した』
「なんで、そんな他人事みたいな態度をとれるんでしょうか!?」
この魔族、思考と感情と行動が、たまにバラバラになっているんじゃないかと思う。
ロペスあたりは、そこが恐ろしくも頼もしいところだと言っていたっけ……。
「ああ、もう! わかった、わかった! 急かすな!」
セルケトのやつは、俺に不意打ちを仕掛けてくることはない。
ハサミを開いては閉じて、金属が打ち合うような音が聞こえてくる。
正々堂々と戦って勝ちたいってことか……。
まったく、ストイックなやつだよな。主人に似たのか。
「悪いが、俺もまだまだ負けてやるわけにはいかないんだ」
そうして俺は、思っていた以上に早いセルケトとの再戦に身を投じることにした。
こいつ……前回の戦いから学んで成長している。
なるほど。またいつものとんでもない提案かと思ったが、なかなかどうしてためになる。
宰相様、やってることは意外と正しいんだよなあ……。
「良い戦いだった。あれでまだ戦闘経験が不足しているというのだから、モンスターたちも面白いものだな」
「そのうち、あっさりと追い越されそうで恐ろしいけどな」
「ならば、貴様も強くなれば良い。戦闘訓練ならばいつでも付き合うぞ?」
「考えておく……」
こいつはこいつで、あのマギレマ様と同等の強さらしいからなあ。
しかも、一度完膚なきまでに叩きのめされたにも関わらず、あの方に追いつくために努力して得た力らしい。
……俺もまだまだ精進が必要か。勇者にあっさりと殺されて終わりでは、あまりにも情けない。
強くなることで魔王軍に貢献しなければ……。
だが、なぜだろう。
強くなったらなったで、なんか今以上に苦労が増えそうな予感がしてしまうのは。
「ケルベロスいるじゃないですか!」
『みんなやる気なんだよなあ』
「だからなんで他人事なんですか!」
俺たちがいくら強くなったとしても、きっとこの宰相様に振り回されるのは変わらないのだろう。
「セルケトがドリュへの雪辱を果たそうとしたということは、貴様はやはり私か」
「……加減してやれよ」
「無理だな。それは挑んでくる者への侮辱だ」
その宣言通り、ケルベロスはまたもナツラにぼこぼこにされていた。
だが、最後まで闘志は失われていない。
先のことを考えるよりも、こいつらのことを見習うべきなのかもしれないな。