【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「……参加しなければよかったかしら」
「なんでだ? 素晴らしい催し物じゃないか。先日の戦闘祭といい、魔王軍ってこんなに楽しい場所だったんだな」
「あんたたちは、なんか宰相様と相性良すぎるのよねえ……」
オーガって、全員が全員こうだからすごいわね。
それを考えると、魔王軍はわりとばらばらだと知ったわ。
全員が魔王様のために動く組織だったけれど、こうも全員同じようには動けない。
オーガと昆虫人って、そのあたりが意外と似ているのかもしれないわね。
「なんだ? じろじろと見て」
「あんたたちが、昆虫人と似ている気がしてきただけよ」
「そうか? あいつら、何考えてるかわからないし、俺たちほどわかりやすくないと思うぞ?」
「女王の目的こそわからないけれど、全員が命令に忠実と一貫しているからね。全員が戦いを好むと一貫しているあんたたちと、案外似ているかもしれないわよ?」
「俺たちは全員同じような見た目だが、昆虫人はバラバラだ。だから、あんたたち魔族に近いと思うんだがな」
半身である蛇の部分を見つめる。たしかに、私やドリュやディキティス様。同じ部隊で同じく魔族だけどバラバラね。
昆虫人も見た目はバラバラだし、女王のためだけに動いている。
そのあたりは、私たち魔王軍に近いと思っていたんだけどねえ……。
個性が無いとでも言えばいいのかしら、中身が統一されているという意味では、やっぱりあんたたちオーガに近いわ。
「オーガって、全員が戦い好きなんでしょ?」
「当然だ。老若男女全員だ」
「勝つのが好きなんじゃなくて、戦いが好きなんでしょ?」
「大切なのは勝つことでなく、いかに全力で戦うかだ」
「直接戦闘じゃなくて、卑怯な搦手とかも許すの?」
「それが全力の戦いだ」
さっぱりしている性格ね。
だからかしら、宰相様の罠を喜んで体験しようとするのは。
「だからって、これはさすがにどうかと思うのよねえ!?」
「ははは。さすがは宰相様だな」
大量の落石。それはもう良いわ。もう良いの。諦めた。
私たちだって、多少なりとも慣れてきたから対応できる。
最近種類も増えてきて、より難易度が上がっているけれど、なんとか対処できる。
だけど……そればかりに気を取られると、あっさりとリタイアしてしまうのが恐ろしいところよね。
岩に乗ったゴブリンってなんなのかしらねえ!
こいつら、器用だし身軽だからって、そんなことまでしてくるわけ!?
「岩ごと攻撃すれば……まあ、避けるでしょうね! あんたたちなら!」
「大した身のこなしだな。ここまで強いゴブリンたちなど、見たことがない。やはり、司令官殿は相当に優秀なかただな」
「ええ。だからこそ、今回も加減なく指示を出しているんでしょうね……」
ディキティス様。あの方も宰相様と相性良いからね……。
一時期は、あのお二方とイピレティス様が組んでダンジョンを作っていたというのだから恐ろしい。
アナンタ様が引き離してくれたみたいだけど、今回は例外になっていそう……。
「一部屋抜けるだけでこの疲れ……先が思いやれるわね」
「一部屋抜けるだけでこの充実感。先も楽しみだな」
うるさいわよ。脳筋……。
◇
「……伏せろ!」
「あぶねえ……。なあ、宰相様って本当に殺す気ないんだよな?」
俺たちも獣人だからと参加したはいいものの、すでに後悔している。
魔王軍は、戦闘というか荒事に対応できる人材も求められている。
だから、ここで活躍することで、必要な人材であるとアピールしておこうなんて思っていたが……。
軽い気持ちで受けていい話じゃなかったようだ。
「あの火の球の罠。当たったらリタイアだったよな」
「他の参加者は、あの程度簡単に対処できるんだろうなあ……」
というか、ここまで来ただけでもわりと頑張ったほうだと思う。
ソウルイーターから逃げ切り、バジリスクの毒を食らう前に倒し、やたらバリエーション豊富な落石もしのぎきった。
俺たちがこのダンジョンに挑み、捕獲されたのはわりと前の話だ。
そのころから、罠もモンスターもどんどん凶悪になっている気がする……。
「お前、どうやって捕まったんだっけ」
「俺は、油の道で焼かれたけど、なんとか生き延びたところを捕まって治療された」
「よく生きてたな……」
「運が良かったんだよ。それで、お前は?」
「イエローバジリスクに麻痺させられて、まったく動けなくなった」
「ああ、それなら運がいいほうだな」
お前に比べたらそうだろうな……。
そんな俺たちが、今はここまで進めるようになったのだから、以前よりはましになったと言えるだろう。
だからさあ。もう引き返しても良いですかねえ? 宰相様。俺たちを無事に返す気ないですよね?
「……岩だけじゃないんだな。こだわりが強いのは」
「なんにでも全力なんだよ。あの方は」
ただの火の球なんてまだかわいいほうだ。
威力がないかわりに光量だけが増加された火球による目つぶし。
それだけなら、まだ目以外の感覚で他に対応できる。
しかし、火の球というか、もはや爆破魔法みたいなのはどうなんでしょうかねえ!
こうして悪態をつく元気があるのだから、たぶん加減もしてくれているんでしょうけど。
「閃光弾。爆破。火の壁。追尾する螺旋状の炎。……ははは。火の球のバリエーションもすごいな」
「すごすぎるんだよ……。魔王様の力が全盛期だったころだって、こんなにこったダンジョンじゃなかったと思うぞ」
まあ、直接見たわけでなく、生き残りから聞いた話だけど。
閃光……。っ! 今度は爆音で耳まで麻痺させにきたか!
あれ……。いつの間にか檻の中に……。
◇
「う~ん……。タイムアタックどころか、完走が思ったよりも少ないな」
「この光景をしかと目に焼き付けておけよぉ。お前がはしゃいだら、こうなるってことだぞぉ」
「ちょっと反省している」
「それでもちょっと……。いや、反省できているぶん、改善してるのかぁ?」
まあ、今回は上澄みにあわせた設定だったから。
現に完走できている者もちゃんといるわけだし。
俺のバランス調整もなかなか捨てたものではないだろう。
「それじゃあ、一位はディキティスだな」
「ああ。だが、私はダンジョンの傾向もモンスターの癖もよく知っているからな。条件が違うので、賞品は他に譲るべきだろう」
「わかっていても難しいですよ。あれ」
ロマーナの言うとおりだ。
ディキティスだけは、本当にタイムアタックという感じの進み方だったからな。
ウルラガやロマーナ。ナツラやドリュ、イピレティスを差し置いての一位は、十分褒めるべき結果と言えるだろう。
「ちなみに、実際に潜ってみた感想はどうなんだぁ?」
「超位モンスターの実戦経験不足は、今後の鍛錬で補っていこうと思う」
「まだ難易度上げようとしてるよ。こいつ……」
「テストプレイヤー側の鍛錬にもなるかな?」
「なるだろうな。オーガたちは、今後もここに挑みたいと私に尋ねてきたくらいだ」
「オーガとお前ら、やっぱり好き勝手させたらやばそうだなぁ」
アナンタは、そんなふうにため息をついていた。
これは、また俺たちを監視しようとしているな。
たまには休めばいいのに。
「それじゃあ最後に、一番大事なことを聞いておきたいんだけど」
「なんだ?」
「勇者には、通用すると思うか?」
「……本気の勇者であれば、残念ながらまだまだ容易に突破されるだろうな」
「やっぱりそうなるか……」
この世界の上澄みも上澄みだからな。
やはり、今後もダンジョンやモンスターの強化は怠らないようにしよう。
それと同時に、一般の侵入者用に合わせた難易度も必要なので、そのあたりが大変だ。
だが、これも魔王軍のため、フィオナ様のためだ。
手を抜かず、全力でダンジョンを作っていかないとな。