【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「忙しい」
メニューを触る。施設を作る。部屋を作る。モンスターを作る。
「忙しい。とても忙しい」
魔力が無くなり、魔力回復薬を一気に呷る。
回復した矢先、すぐに魔力を消費する。
「忙しすぎて、暇をどこかに置き忘れたかのようだ」
なんだか色々と重なってしまったなあ。
各ダンジョンのメンテナンスは、普段よりも特に手間がかかるものだった。
たまたま、それぞれのダンジョンに強い冒険者が現れたせいで、いつもよりも被害が大きい。
罠もモンスターも、いつもより多く作り直しだ。それに、いくつかの部屋も作り直す羽目になった。
それだけならまだ良いが、カジノに宿に商店等々、それぞれの施設にも補充が必要らしい。
忙しいと忙しいがぶつかり合っている。なんだか、とんでもないタイミングで仕事量が増えていく。
◇
「それでご飯を食べに来なかったんだね~」
「ピルカヤさんに各地の視界を映してもらって、目の前はほとんど見ずに作業していましたよ?」
マギレマの姐御とファギトの会話が聞こえてくる。
カジノのスロットやらルーレットが、ガラの悪い客に破損させられたことを相談しに行ったが、そのときと同じく、ボスはまだまだ忙しいらしい。
俺の顔を見もしないで、片手間でささっと直しちまったもんなあ。
「大変そうだねえ。こりゃあ、相談するのを後にすべきだったか」
「私も、人工海の相談は後回しにしておけばよかったかしら……」
「オクイもかい?」
「ええ。魚を獲るための罠を仕掛けたお客さんがいたんだけど、どうやらその罠と人工海の魔力が共鳴して、海がすごい荒れちゃって」
魔力関係となると、俺たちにはまだまだわからないことが多いからなあ。
だけど、こうして何事もなく話している姿を見るに、どうやらその問題はすでに解決しているようだ。
「ボスが解決したのかい?」
「ええ。海をもう一つ作って、荒れているほうの海の生き物を全て移してくれたわ。それも、ほとんど手元以外見ることもなく」
「あ、私もそうだったよ~。こっちを見ないどころか、話しかける前から私だってわかっていたみたい。すごいよね~レイさん」
オクイもトキトウも俺の時と同じだな。
普段なら、俺たちの顔を見ながら話すのだが、どうやら今日は本気で忙しいらしい。
それにしても、俺たちの気配やら魔力やらがわかっているのか。
俺のときなんて、背後から近づいたうえ、手元しか見ていなくても名前を言い当てていたもんな。
ボスのすごさはさておき、あの仕事量はどうなんだろうな?
ちょうど昼食の時間ということもあり、十魔将の旦那や姐御たちはわりとこの場にいる。
ということで、聞くべき相手に聞いてみるとしよう。
「ダスカロスの旦那。ボスのこと止めなくて良いのかい?」
「夜になっても働いているのであれば問題だが、日中に仕事をしているだけでは止めにくい。あれだけの量をよくこなせるものだ」
「だが、医者としてはせめて食事はとってもらいたいのだがね」
「料理長としてもだよ~」
働きすぎに見えるが、残業しねえからなあ。
そのへんがピルカヤの旦那との違いか。
ただ、あれって業務をぎゅっと圧縮して高速で処理しているように見えるから、やっぱり大変そうに見えるんだよなあ。
「まあ、作業が終われば彼は休んでくれるだろう。マギレマやピルカヤと違って」
「あはは~。やぶへび~」
ん? 今、ちらっとビッグボスの姿が見えた気がするんだが。
飯を食いに来たんじゃないのか? すぐに踵を返して行っちまったな……。
◇
「終わった」
忙しい時間は無限に続くわけではない。
山積みだったタスクも、一つ一つ片付けていけば平たくなって、最後には消えていく。
だから、なんか一気に気が抜けてしまった。
忙しさの反動というか、急にやることがなくなると、なんだか暇を持て余しさえする。
「フィオナ様ですか。どうしたんですか?」
「おや、よく私が忍び寄っているとわかりましたね」
「忍び寄るって……またなんか変なことをしようとしていたんですか?」
実際、足音もなく近づいてきたので、いたずらしようとした可能性が高いな……。
振り向いてみると、そこにはやはりフィオナ様が……なんか、鍋持ってるぞ。この魔族。
「忙しいとは聞きましたが、食事はちゃんととるべきですよ?」
「あ~……忘れていました」
後回しにしようと考えていたのではなく、本当に集中しすぎていた。
言われてみれば、なんだか腹が減っている。
「まったくもう。仕方がないので、魔王直々に用意してあげました。感謝するように」
「ありがとうございます。魔王様の手をわずらわせることになりまして」
「世話の焼ける宰相ですねえ」
マギレマさんから、鍋を預かって持ってきてくれたのかな?
フィオナ様の気遣いに甘えて、ここで食事をとらせてもらうことにしよう。
「マギレマさん、何を作ってくれたんですか?」
「ふっふっふ……」
「なんですか……。その相変わらずまったく似合っていない、かわいいだけの不敵な笑みは」
「魔王なんですけどねえ……。まあ、かわいいと言ったので許しましょう」
言わなくても許すだろうけどな。この方は。
「鍋の中身はガンボです」
「ガンモ?」
がんもどき……?
つまり、おでん?
「ガンボです。シーフードガンボ」
知らない名前の料理だ。
魔族特有のものだろうか? マギレマさん、ふだんは俺が知っている料理ばかりだから珍しいな。
「私が作りました」
「……」
「な、なんで黙るんですか!」
「いえ、性懲りもなくという言葉が出かかっていたので、飲み込んだまでです」
「結局出てますけどねぇ!」
だって、仕方がないじゃないか。
フィオナ様と鍋料理といったら、まだ俺とフィオナ様とプリミラの三人しかいないときに振舞ってもらった、ポトフを思い出すのだから。
あの時と違って、鍋を使っているから進歩したと考えるべきか……?
いや、でもあれすごい辛かったんだよなあ……。
「今度は辛くないですか?」
「食べてみるまでわかりません!」
「味見しましょうよ……」
しかも、今回は俺が知らない料理だし、いよいよ正解すらわからないぞ。
「どんな料理なんですか?」
「魚介類をたっぷり使って、とろとろで濃い味にしたスープです」
「濃すぎて舌が痺れないと良いですねえ」
「ふっ……私は日々成長しているのです。あのときのポトフと同じにしてもらっては困ります」
ガシャのときもそうだけど、自信だけはあるんだよなあ。
まあいい。それなら、辛口で審査してやろうじゃないか。
「俺の審査は厳しいですよ」
「良いでしょう。胃袋をつかんでやりますからね」
というわけで、二人揃って食事をとる。
味は……あれ? たしかにちょっと濃いけど、許容範囲内というか……。
「どうですか! あのときから、飛躍的な進歩じゃありませんか!?」
「まあ……美味しいですけど」
「ですよね~」
こちらに向けて、いつものドヤ顔を見せてくる。
まあ、たしかに料理が普通に上手になっていて驚いた。
だけど、その顔で全てが台無しになっている。
「その顔さえしなければ綺麗なのに……」
「この顔が好きなくせに」
「……」
言い返せない。
ころころ変わるこの表情に、俺は今日も黒星をつけることになりそうだ。
せめて、捨て台詞くらいは言っておこう。
「フィオナ様のくせに……」
「な、なにをぅ!? 私が近づいただけで、わかるほど私と一緒にいたいくせに!」
「あ、あれは……」
「あれは?」
「前に言ったダンジョンマップのアイコンでわかっただけですから……」
今日はロペスや時任たちが色々と頼みにきたから、手元だけで誰が来たかわかるようにマップを開きっぱなしだったし……。
だが、そんな俺の発言を聞いたフィオナ様は、またうざかわいい顔へと戻る。
「へ~……。そうなんですか~」
「な、なんですか?」
「私がきたときは、手元を見ていなかったはずなんですけどね~」
鋭いじゃないか。フィオナ様のくせに……。
「なんでわかったんですかね~?」
言えるはずがない。
いつも一緒にいるせいで、二日に一度一緒に寝ているせいで、なんとなく匂いでわかってしまったなんて……。