【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「横取りしちゃう?」
「というわけにもいかないよなあ……。そもそも、目撃情報を出したくないから、モンスターを選ぼうとしているわけだし」
「だよねぇ。となると、規模や立地条件は悪くなるけれど、別の場所を選ぶしかないかぁ」
それを調べてきてくれているあたり、優秀で助かる。
俺たちは、目立たず別の場所のモンスターを狩ることで、他のレベル上げ集団とは出くわさないほうが良さそうだな。
「ちなみに、モンスターを倒していたのは人間だけか?」
「だけではないね。獣人とか海人族とか、まあ色々な種族って感じ」
「ということは、全てが同じ集団というわけではない。ということだな」
「だろうねぇ。まあ、みんな考えることは同じで、強くなるためにモンスターを倒すのは自然なのかもしれないねぇ」
人類は、何も宝だけを目当てにダンジョンに潜るわけではなく、手ごろなモンスターだらけのダンジョンも一定の需要がありそうだ。
かといって、ゴブリンダンジョンみたいに手加減しすぎると、レベル上げという目的では訪れないだろう。
罠がほとんどなくて、手ごろな強さのモンスターがあふれているダンジョンを作れば、案外新しい客層を増やせるかもしれないな……。
今はそちらまで手を出すとまた考えがぶれそうだし、覚えておくとしよう。
「なるほど、よくわかった。とりあえず、近くに人類がいないダンジョン作成候補を教えてくれ」
「うん。こことここと……」
辺境だな。だけど、そのほうがこっちにとっては都合が良い。
モンスターたちが栄えているのは、やはり人類が足を踏み入れにくい場所が多いということだ。
「ちなみに、その中に招きやすいモンスターとかっている?」
「う~ん……。ダスカロス~。ボクわかんな~い」
「では、それぞれのモンスターの名前を教えてくれ。わからなければ、特徴だけでも良い」
そうして、ダスカロスはピルカヤから各地のモンスターの情報を聞き出した。
さすがに地域がバラバラなだけあって、モンスターもうちに劣らず様々だな。
ゴブリンのように人間に近い姿の者、ヒポグリフのように動物に近い者、ファンタジーを彷彿させる幻獣みたいな者。
その中だと、やはり動物系が一番楽か? 誘い出すにしても、野生そのもののモンスターのほうが簡単そうだよな。
「いっそのこと、虫系のモンスターを狙うのも良いかもな。種族は違えど、昆虫人たちの対策に何か使えるかもしれないし」
「それなら、芋虫系のモンスターがたくさんいたはず……あれぇ?」
ピルカヤが、意識を移して向こうの様子を確認した。
しかし、彼は不思議そうに首をかしげている。
もしかして、場所を間違えたか? いや、ピルカヤに限ってその手の抜かりは無いはずだ。
「モンスターがいないねぇ」
「相談している間に移動でもしたか?」
「う~ん……。周りにもいないし、でも死体も無いんだよねぇ」
ダンジョンなら、死体は魔力に変換されるからわかる。
だけど、野外で死体が消えるということも無いだろう。
移動した。と見るのが自然ではある。
「ちょっと見てくる~」
そう言い残すと、ピルカヤは意識を完全に向こうへと移してしまったようだ。
取り残された俺たちは、とりあえず彼の帰還を待つことにした。
「どう思う? ピルカヤが場所を間違えるってことは、無いと思うんだけど」
「同感だ。であれば、大量のモンスターたちが忽然と消えたということになるな」
移動ではない。移動だけなら、ピルカヤが見つけ出していると思う。
何か別の外的要因があるのだろう。
「虫を餌とする大型のモンスターにでも食われたか?」
「なるほど……それならば、モンスターが消えたのも説明がつく」
それこそ、大きな鳥系のモンスターにでも襲われたなら、今回の事象にも説明がつく。
レベル上げとして、別の種族に襲われた可能性も無くはないが、その場合死体までないのはおかしいからな。
そこで、ふと一つ思いついてしまったことがある。
「……捕食者の虫って、他の虫を食べたりするんだっけ?」
「……そのとおりだが。もしかして、虫同士で共食いをしたということか?」
「いや、昆虫人がレベル上げをしつつ食料として持ち去ったとかは……」
「……効率的ではあるな。自分たちの力を強化し、倒したモンスターで栄養も補給できる」
「だとしたら、これも俺たちが住処を追いやった結果になるのかなあ」
「不気味なのは、こちらへの動きが見えなくなったことだな。もしもレイの想像が当たっていた場合、水面下で力を蓄えていることになる」
そうなんだよなあ……。
レベル上げと食料調達。まるでこれから大規模な戦闘のために準備しているようじゃないか。
なんとなく言ってみたことではあるが、当たっていた場合一波乱ありそうだな。
「まあ、レベル上げも食糧の自給自足も、うちもやっていることだし、負けずに万全の体勢で挑みたいところだ」
昆虫人と言わず、いずれは全人類が相手になってもおかしくない。
やっぱり、レベル上げもダンジョンの難易度の向上も、資源や資金の調達も全部並行してやっていきたいよな。
◇
「ただいま~。モンスターの死体は見つからないけど、魔力の痕跡を追っていったら、見つけにくい大穴に続いていたよ」
「……当たっちゃったっぽいなあ」
「ああ。昆虫人の可能性が、いっそう高まったと言える」
「どういうこと?」
ピルカヤだけでなく、魔王軍で共有しておくべきかもしれないな。
そう判断したため、俺たちは一旦フィオナ様を含めて推測を共有することにした。
「ふむふむ……。昆虫人は、戦力を増強しようとしているのかもしれませんね」
「やっぱりそう思います?」
俺たちだって、いまだ昆虫人との決着はついていない。
こっちはひたすら兵隊を倒しただけであり、向こうの女王はおろか、知性ある部下たちの姿すら見ていない。
うちに来なくなった理由は、敵わないと判断したためか? それとも、情報は集め終えたためか?
モンスターを相手にしているのは、ダンジョンに挑めるだけの強化をするためか?
どれも推測の域は出ない。
「なら、俺たちも負けずに力をつけるのが良いですね」
「相手の出方がわかりませんし、そもそもうちが目的かすらわかりませんからねえ。いつもどおり。それが一番です」
地底で生活していることも似ていたが、水面下で戦力を増強したり、物資を集めたりと、ますますうちと似ている。
ぶつかりう合うとすれば、より効率よく入念な準備をしたほうの勝ちだな。
いつダンジョンに来ても良いように、やっぱりモンスター相手のレベリングダンジョンをさっさと作ってしまうとしよう。
「じゃあ、十魔将以上の者以外を配置するダンジョンを作ってしまいますね。そこで、少しでも経験を稼げたら、昆虫人どころか勇者との戦いのためにもなりますし」
「なんか、とんでもない期待を寄せられていますが……私たちが、本当にそこまで強くなれるのでしょうか」
「なれるかもしれないし、なれないかもしれない。だから、今はなれると思ってがんばろう」
「前向きな発言ですね……」
何事も試してみてからだ。
昆虫人の動きは少し気になるが、予定通りに事を進めてしまうとしよう。
◇
「……補充はできた?」
「ええ、モンスターの肉を補給したため、生産は順調です」
あのダンジョンに固執しすぎていたからね。
失う数も多いけれど、強化の幅もまた多い。
どうせ補充はできるから、ちょっと消耗しすぎてしまったかもしれない。
だけど、準備は進んでいる。
兵隊の質は向上した。減った分は増やした。ついでにレベルまで上げられた。
次は、本格的にとりにいこうかしら。
あのダンジョンのボスを、あのダンジョンの先にあるものを。
「頼んだわよ。そろそろ、本気で攻略しにいくから」
私の言葉に、部下は静かに頷いた。