【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「転生者の力だけじゃないな」
「兵隊はこれまでどおり問題ないが、それらを率いる将が強い」
ディキティスの言うとおり、知性ある昆虫人が思っていた以上に強い。
たしかに兵隊よりも、ステータスは高いが、モンスターで倒せると思っていた。
しかし、しっかりと知性があるためか、見た目のステータスよりも厄介な相手になっている。
むしろ兵隊たちが、ステータスのわりに知性のせいで弱いのかもしれない。
「躊躇なく兵隊を囮や肉壁にするあたり、気は合いそうではあるけれど……」
「わかります」
「わかるなよなぁ……。お前らのところの族長やべえぞ」
「それで勝てるというのであれば、問題ないのでは」
「オーガ全体がやばかったかぁ……」
そんなオーガと戦っていた相手なだけあって、昆虫人も一筋縄ではいかないというわけだ。
今のところ罠とモンスターとアンデッドだけで対処を試みているが、このままだと突破されそうだな。
「超位モンスターを出動させるか」
「これで駄目なら、こっちも魔族兵か、十魔将か四天王まで出すことになりそうだな」
「いや、ディキティスたちもドリュたちも、この戦いには参戦させたくはない」
初っ端から、即死を使うような相手だ。
そいつらはすぐに倒せたものの、転生者はまだ残っている。
そいつらが、初見殺しみたいなことをしてこないとは限らない。
そのため、こちらの戦力を出すことを制限されてしまっている。
「うまく牽制されているな。これが狙いだというのであれば、昆虫人もなかなかしたたからしい」
ダスカロスが感心するほどに、相手はやり手みたいだ。
これが女王の命令だとしたら、さすがは一族を束ねる存在なだけある。
「ケルベロスとセルケトが準備できたみたいだな」
「ああ、いつでもいける」
ドラゴンゾンビで壊滅したことを考えると、十分な戦力のはず……。
しかし、その部隊とは違って、今進んでいる昆虫人たちは、堅実に油断なく戦っているのが不安要素か。
超位モンスターでも無理なら、いっそのことダンジョンを好きに進ませるのも選択のひとつなのかもしれない。
その場合、相手の狙いがわからないのが不気味だけどな……。
◇
「今度のやつらは、本当に統率がとれているな……」
ケルベロスとセルケトが同時に襲いかかる。
それを見た相手は混乱することもなく、淡々と兵隊を突っ込ませて被害を兵隊だけに留めた。
巨大な身体を振り回すように、長い尾を一回転させたセルケトの攻撃は、兵隊敵の将や転生者には届かない。
ケルベロスが飛びかかろうとするも、さすがにあの数の兵隊が団結すると無理やり押し込むこともできない。
「だけど、このまま兵隊を消耗するのなら、いずれは……」
そのハサミや牙は敵に届く。
そのはずだった。
「……兵隊が減っていない?」
「妙だな。一撃で倒せずとも、あの二匹の攻撃は十分な威力だったはずだ」
俺とディキティスの疑問に、ダスカロスが一つの答えを導き出した。
「兵隊が復活している」
今もケルベロスとセルケトに兵隊は倒され続けている。
死んでこそいないものの、すでに致命傷か戦闘不能のダメージは受けている。
しかし、ダスカロスの言葉どおり、そんな兵隊たちが徐々に復活しているのがわかった。
「……転生者が回復しているのか?」
ステータスを見るとわずかな変化が確認できた。
兵隊たちが復活するたびに、ほんの少しだけ転生者の魔力が減っている。
さっきの一撃必殺の転生者もだが、どの転生者も少しづつ魔力が減っているので見分けがつきにくい。
だけど、タイミングからするとケルベロスとセルケトが戦っている部隊の転生者が、回復をしているとみて間違いないだろう。
「火力の次は耐久か。だけど、さっきよりはマシなほうかもな」
無限に回復し続けるとしても、昆虫人たちをはるかに上回る実力ならば問題ない。
なんなら、回復すらできない火力でゴリ押しもできそうだ。
となると、十魔将か四天王を出せば解決する。
ただし、問題となるのが他の転生者の能力だ。
先に考えたように、一撃必殺系の四天王すら倒しかねない能力者がいた場合を考えると、簡単に送り出すこともできない。
「本当に厄介だな……」
こういうときは、ピルカヤかリグマを使いたいんだけどな。
分体なら、最悪死んでも問題ない。
もちろん、ウルラガやアナンタみたいな、特殊な分体を除いての話だが。
だけど、情報を持ち帰る能力者がいた場合は……。
昆虫人たちが何を考えているかわからないのが、ここでも判断を難しくする。
女王や将は、兵隊と違って知能がある。
そいつらが、四天王が健在と知ったら、他種族に情報を漏らさないか?
迫害種だから、可能性は低いが、そこから勇者に話は漏れないか?
「結局のところ、情報を持ち帰られても問題ない戦力で、なんとかするしかないか」
セルケトとケルベロスが勝てば良いが、兵隊だけでなく将まで回復できるのであれば、持久戦の果てに敗北しかねない。
そして、そちらにばかり気をかけることもできなくなってきたようだ。
「あっちは、やけに速いな……。動きが、劣化版リピアネムみたいだ」
「それも、軍全体であの速度はなかなかの脅威ではある」
あちらはあちらで、何人かいるうち一人の転生者の魔力が、一定量減り続けている。
味方全体の速度を強化する能力か?
クラーケンとハイドラの、手数が多いコンビが相手をしているが、それでも攻撃を容易く回避されている。
逆に、首や足を次々と攻撃されてしまっているようだ。
「回復、速度上昇。わかっているのはそれだけ。あと何人が、同じように厄介な力があるかもわからない」
情報の取得だけを目的として、ダンジョンの踏破は許すべきか……?
「統率された部隊って、こんなにも厄介なんだな」
「ヨハンのときは、まだバラバラに攻めてきた分マシだったみたいだな」
それもこちらは転生者が複数。
部隊を強化しながら、上手く運用もできている。
全ての能力を明かすこともしないため、最悪を想定した場合、こちらの動きがかなり制限される。
「まあ、今わかっている情報だけでも、それなりにやりようはあるか」
全てとはいかないが、ある程度の傾向は理解した。
それらに対処すべく、俺はメニューから罠の起動を準備する。
駄目なら駄目で、素通りさせてしまうつもりだが、やれることはやっておくとするか……。
◇
「これほどのモンスターがいるとは……」
ケルベロス。セルケト。単独でも大きな脅威だというのに、それらが同時に襲いかかってくることの、なんと恐ろしいことか。
そして、これが転生者の力だとしたら、その力そのものも非常に厄介と言わざるを得ない。
「だが、そのぶんこちらの見返りも大きい」
この力を持つ転生者を配下に引き入れることができれば、私たちはより大きな力を得ることになるだろう。
「恐れず進め。相手がいかに強大といえ、私たちを打ち破ることは不可能だ」
辛抱と回復。周囲を強化する転生者の力により、私たちは不死の部隊となった。
辛抱により、あらゆる攻撃を受けても即死することはなく、回復により負った傷は瞬時に回復する。
そして、回復したことで、辛抱は再び効果を発揮する。
魔力が尽きない限り、私たちを倒すことなど不可能だ。
たとえ、ケルベロスやセルケトのような格上であろうとな。
「なんだ? ……いまさら、ソウルイーターごとき」
ソウルイーターも十分強力なモンスターではある。
だが、ケルベロスとセルケトを見た後では、どうにも劣って見えるのも事実。
増援がこれということは、敵もいよいよ打つ手がなくなったか。
「まずはソウルイーターから倒すぞ」
超位モンスターを倒すのは、どうしても時間がかかる。
そのため、兵隊たちにそう指示をした。
したのだが……。そうか、あの即死の転生者の部隊と同じか。
私たちも、結局は転生者の力に頼りすぎた。
油断した。それが全てだ。
「からだが……」
ソウルイーターの口内に何かがいる。
それがわかったときには、兵隊も私たちも動けなくなっていた。
守る者がいなくなった転生者は、そのままソウルイーターの口内に潜んだ蛇により、私たちと同じく身体を麻痺させられたようだ。
死ぬことはない。
転生者が健在である限り、私たちを打ち崩すことなどできない。
だが、こうして誰一人動けなくなった以上、モンスターたちは転生者から殺すだろう。
野生のモンスターならともかく、知恵あるモンスターたちは、そう判断するだろう。
……回復の転生者がケルベロスに食われた。
辛抱の転生者がセルケトの尾に貫かれた。
残る私たちは、動くこともできず、超位モンスターたちに蹂躙されるのを待つだけだった……。