【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「回復役を倒したら、やっぱりセルケトとケルベロスのほうが強いな」
「壊滅していますねえ」
兵隊が、ときには将さえも肉壁となって、何が何でも転生者を守ろうとしていたからな。
裏を返せば、転生者を撃破されることが、あの連中にとって一番まずいことだったんだろう。
そして、その予想は見事に的中していたらしい。
ソウルイーターの口の中に、大量のシャドウスネークを潜ませてから突っ込ませる。
慣れ親しんだ作戦を決行すると、敵は見事に麻痺してくれた。
やっぱり、この戦法は初見だと対処しにくいようだ。
「完全に動きを封じられたわけではないが、超位モンスターたちが転生者を討つ隙は作れたか」
回復役を倒せたら、あとは実力差でごり押せた。
やっぱり、超位モンスターたち強いな。
あれだけの数と戦い続けて疲れているかと思ったが、戦況が好転したら一気に敵を倒してくれた。
「超位モンスターたち相手にあれだけ立ち回れる、昆虫人と転生者の組み合わせって案外厄介だよなあ」
それだけの実力差を埋めるどころか、ともすれば優勢に戦っていたのだから、転生者の力を実に上手く活用している。
俺にも覚えがあるが、部隊を編成する際に有効な組み合わせを考えるのって、楽しそうだよなあ。
「まずは二組……と言いますか四組潰せましたが、次はどうするんですか?」
「そうですねえ。まだ何もわかっていないあっちの部隊は気になりますが、先にある程度能力がわかっているもう一方を潰します」
おそらく範囲内の仲間全員のスピードを強化する能力だ。
いまもクラーケンとハイドラが頑張ってくれているが、やはり翻弄され気味だな。
まあ、こういうときはスピードが関係ない手段を使えばいい。
それこそ、さっきみたいに動けなくするか、回避不能の広範囲攻撃が理想だな。
「ブレス……?」
「できるぞ!」
「さすがに、リピアネムを向かわせるのは……まだ、高火力の能力が残っていたら怖いし」
となると、復活が容易なドラゴンゾンビ?
さすがにウルラガも向かわせられないだろうからな。
「あ、あの~」
そう判断して、ドラゴンゾンビのほうを見ると、おずおずとロマーナが手を上げていた。
さすがに、ドラゴンゾンビを多用しすぎていて、負荷が高いか?
アンデッド軍の一員となり、先輩と後輩として仲良くやっているからなあ。
これ以上はやめてくれと懇願されてしまうのかもしれない。
「ドラゴンゾンビ先輩は、すでに戦い続けて消耗しています」
「やっぱりそうか」
「なので、私が行くのはどうでしょうか?」
「ロマーナが?」
広範囲の攻撃は、できなかったような気がするんだけど……。
それとも、こっそりとブレスが使えるように修行していたんだろうか。
「あの速度の集団相手に戦えそう?」
「やってみせます。それに私であれば、死んだところでエピクレシ様が復活させてくれますので」
「任せなさい。次はもう片方の腕をハイドラの首にしてあげましょうか?」
「いえ……それは勘弁していただけると」
「エピクレシ様。それ、趣味悪いですよ……」
一瞬、ちょっといいかもと思ったけれど、何も言わないでおこう。
ハイドラの首なら、いくらか切断されているから、いつでも提供できるんだけどなあ……。
「それじゃあ、念のため増強の湯に入ってから向かってもらえるか?」
「かしこまりました。それでは、出陣いたします」
ステータスだけ見れば、ロマーナもドラゴンゾンビも超位モンスターには劣る。
昆虫人の将と大体同じくらいだ。
だけど、モンスターたちとは戦い方も違うし、経験は断然上だからな。
別のアプローチとして、なんとかしてくれる可能性は大いにある。
◇
入浴後、ロマーナが昆虫人たちのもとへと向かう。
ピルカヤの視点を共有し、俺はマップを見ながら指示を出す。
わりと複雑になってきたダンジョンも、そうすることですんなりと進むことができる。
さて、敵はもう目の前だ。
ロマーナは、どうやってあの昆虫人たちを攻略するつもりかな。
隣の部屋についた途端、ロマーナは一歩大きく踏み込みながら鎖になった腕を思いきり突き出した。
「さすがはロマーナさん! 完璧な奇襲です!」
風間が嬉しそうに声を上げた。
世良と原もその気持ちは同じなんだろうけど、どこか複雑そうな表情でもある。
きっと、別の女性を褒めていることが嫌なんだろうけど、それはそれとして自分たちもロマーナを尊敬しているので、何も言えないんだろうな。
隣の部屋から高速で射出された鎖の一撃は、見事に転生者を貫いた。
それは良いのだが……昆虫人たちのスピードは変化していない。
全員が攻撃が放たれた部屋へと猛スピードで殺到し、ロマーナはすぐに臨戦態勢へと入った。
「ハイドラとクラーケン。ロマーナを援護してくれ」
おそらく、仕留めた転生者はスピードアップのほうじゃなかったんだろうな。
まだ転生者は健在なので、そちらが本命だったということか。
さすがに、敵の速度についていくことは難しく、ロマーナも苦戦している。
なんとかするというのは、あの初手による奇襲で転生者を倒すということだったのか?
だとしたら、失敗した以上無理をせずに引き返してもらいたい。
しかし、ロマーナは敵の攻撃をなんとかさばいて立ち回っている。
逃げようという姿勢すら見せないのは、敵が多すぎて隙を晒したくないためか。
それとも、まだ彼女には何か秘策があるのか。
「ロマーナ。無理だと思ったら引き返してくれ」
答える余裕はなさそうだが、それだけは伝えておく。
彼女はいまも昆虫人たちの攻撃を対処しており、さばききれなかった攻撃が体に傷をつけていく。
だが、その表情は万策尽きた必死な様子というよりも、何か機をうかがっているかのようだった。
「さすがに、ハイドラとクラーケンの相手は残すか」
昆虫人たちも、全員がロマーナにかかりきりというわけではない。
二手にわかれ、ハイドラとクラーケンは相変わらず速度で翻弄される。
倒しきるつもりはなく、あくまでも時間稼ぎの足止めする分だけが残っているようだ。
おそらく、先にロマーナをしとめるほうが楽だと判断したんだろうな。
その証拠に、ロマーナのもとへ向かった昆虫人のほうが数が多い。
それも、転生者までもがそちらに向かっている。
目の前に最優先で討つべき敵がいるというのに、昆虫人が邪魔で手出しできないのがなんとも歯がゆい。
「周囲のモンスターは……駄目か。あの一撃必殺の転生者たちが暴れまわったせいで、残っていない」
今から向かわせても良いが、間に合うのか?
そう考えているうちに、ロマーナに妙な変化があった。
……なんか、魔力が急速に上昇していないか?
魔力量自体は変化していないけれど、内部にあった魔力が一気に放出されそうになっているというか……。
なんか、体光ってない? もしかして、ロマーナも第二形態が……。
「爆発したんだけど!?」
「じ、自爆しましたね……。もしかして、あの子の作戦ってこれですか?」
さすがのフィオナ様も驚いている。
そりゃあそうだ。まさか、自身を中心に魔力で大爆発するなんて……。
ロマーナって、そんな思い切りのいいやつだったのか。
……そういえば、敵だったときもわりとそんな感じだったか。
ノーライフキングに自爆とまではいかないが、似たような魔法攻撃を仕掛けていたっけ。
「あの子、エピクレシにアンデッド化されたことで、自爆をしやすくなったとか考えているんでしょうか……」
「もしかして、ロマーナもわりと脳筋なんですかねえ……」
いや、自爆までした功労者だし、あまり悪く言うのはやめておこう。
魔力によって一時的に塞がれていた視界が晴れたとき、その部屋にいた昆虫人も転生者も全滅していた。
やり方はちょっとあれだが、厄介な転生者は彼女のおかげで見事に撃破できたようだな。